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猛特訓

夜。

唯と(よう)は、人気(ひとけ)のない公園にいた。汐音祭が行われたーー唯が天使になってしまった、あの公園である。


瑤は、二振りの剣を手に持っていた。

片方は、細身で片刃の刀。

もう片方は、見るからに重そうな大剣だ。


その大剣の方を唯に渡してきて、瑤は刀を抜いた。


「本当に、私がこれを使うの?」


唯は大剣を抱えてーーというか、大剣にしがみついて、そう言った。

瑤は、渋い顔をしながらも、はっきり頷いた。

「上司に現状を報告したら、それが送られてきたんだよ。お前の武器にって……使えるように見えないんだがな」

「見たまま、使えないと思う。本当に、なんでコレなのよ⁉︎」


腕の中の大剣を、呆れたように眺める。

刃の部分だけでも、唯の身長ほどはあるのだ。柄まで入れたら、2m近い。

天使として、怪力を持っていると考えても、身の丈以上の剣なんて、扱いにくいではないか。


瑤は何かを考えていたようだったが、何か思いついたのか、おもむろに唯の手を取った。

「え、ちょっと瑤? 何……」

「少し黙ってろ」

その後、何事かを呟いた。日本語とかけ離れた発音で、うまく聞き取れなかった。

数秒後、気がつくと、自分の体が天使の姿になっていた。どうやら、唯にかけてあった変身が解かれたらしい。

羽のはばたきに、少しよろめく。

「元の姿の方が、力を出しやすいからな。戻した。それに飛べば、長い武器も扱いやすくなるだろ?」

「あ、そっか! 飛んでれば、この剣も引きずらないし、勢いもつくもんね」

なるほど、合理的だと唯も思った。

だが、肝心なことが抜けている。

「私、飛べないんだけど……」

そう、唯はまだまだ飛行初心者なのである。

自分の思い通り飛ぶことが出来ないのに、空中戦なんて、どう考えても無茶だ。


しかし、瑤は苛立ったように一蹴した。

「知るか。飛べないなら、飛べるようになるんだな」

冷たいように聞こえるが、唯はぐっと詰まる。それしかないなら、そうするべきだ。

唯が生き残り、蓮を助けるには、瑤に従って戦う(すべ)を身につけるしかないのだから。


昼間、唯の手に手袋がくっついてしまった時に、瑤と話し合った。

決闘の呪いとは、呪いを受けた本人が、術者と戦うことを強制されるものらしい。勝者には景品を。敗者には死を。

決闘を受けなければ、呪いが作用して、死に至る。

しかもこの場合の景品は、どうやら蓮らしい。

悪魔の方が勝てば、蓮も恐らく喰われるだろう。

つまり、唯が勝てば唯も蓮も生き残れるが、唯が負ければ2人とも死ぬ。

瑤が代わりに戦えない以上、今から出来ることは、唯を鍛えて、悪魔と戦えるようにすることだけだ。


そのために、訓練することになったのだ。

やるしか、ない。


「羽の動きをイメージしろ。そのイメージのまま、背中の付け根を意識して、動かせ。ほら、やってみろ」

「こ、こう? 」

背中にある翼を頑張って意識する。恐る恐る、動かしていく。

「そのまま、そのままだんだん速くしてみろ。体が浮くようになるから」

瑤の声に、必死に従う。はばたきが速くなるにつれて、足にかかる力が減っていく。

「よし。じゃあ、一旦止めろ。走って勢いをつけて、踏み切る直前から今みたいにはばたけ」

「……うん!」

必死になって、瑤の言葉を実行する。

それだけが、唯の頭にはあった。


思い切りよく、地面を蹴って走り出した。

今まででは考えられないスピード。

公園の敷地をほとんど走り切ったくらいで、地面を蹴り飛ばし、斜め上に跳ぶ。同時に全力で翼を動かす。


「うわぁっ」

ふと、気がつくと飛んでいた。

ぐんぐん上昇する高度に、目眩がしそうだった。それと同じくらいの、高揚感を感じる。

夜空に、唯は飛んでいた。


「うまいぞ! こっちに来てみろよ、唯」

声がして、そっちを見ると瑤が飛んでいた。

体を傾け、瑤の側まで行く。

一度飛んでしまうと、どうすればいいのか手に取るように分かった。天使になったからなのだろうかと、唯は頭の片隅でそう思った。


「この調子なら、空中戦の稽古もすぐ出来そうだな。一回、地上に戻るぞ!」

「え、ちょっと待っ……ぎゃー!」

手を引かれての急降下に絶叫する。

ひょっとしたら、勝てるようになるかもしれない、と思いながら。

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