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そのよんじゅういち・モテたくてモテたくてこともなし!






暗闇の中、突如ろうそくの明かりが一つ灯る。


「恋は疫病なり」


一つ一つ明かりは灯っていく。


「愛は死病なり」


灯りが照らす人影は、勿論三角頭巾を被っていて。


「慈しみは幻想」

「むつまじさは猛毒」


男達の声が唱和する。


「「「「「この世の全てのリア充に、災いあれ」」」」」


『リア充とかばーかばーかうんこ』と書かれた掛け軸の元、みなしごの会はいつもの定例会議を開こうとしていた。

していたのだが。


「……その、大分減ったね」


議長がぽつりと呟いた言葉。彼の言葉通り、ここ最近みなしごの会は会員が激減していた。まあ止めていったものたちには色々とそれぞれ事情があるのだが、詰まるところ根本の原因は一つしかないと、議長はそう考えている。


「天下 太平。あやつに関わってからか……」


全てがそこから狂っていった。いやおまえら最初から狂っているだろうというまともな言葉が耳に届けば、こいつらこんなことやってない。

ともかくこのままではみなしごの会はその存在を忘れ去られ、歴史という海の藻屑と化すであろう。藻屑ではなくどクズなのだが自覚のない彼らにとっては大問題だ。このままリア充に対する嫉妬の炎を消して良いのか。いや良くない。彼らの胸にはねじくれて方向性が間違った使命感の炎が渦巻いている。

だがどうすればいいのか。頭を付き合わせてうんうん唸ってみるが、そんなことで良いアイディアが浮かぶはずもなく、ただ脳が煮えていくだけだった。


下手の考え何とやら。馬鹿どもが煮えた頭を付き合わせ続けた結果、腐った脳が発酵し、なにやら恐ろしい化学変化が起こったようである。


「……こうなれば、残された手段は一つしかあるまい」


一つも何もよけいなことすんな。そんな当たり前の言葉が彼らの耳に届くはずもなく、行動は開始された。

されちゃったのだ。











「「「「「お願いします! 弟子にして下さい!」」」」」


太平の前で土下座(ゲザ)る馬鹿ども。普通の三角頭巾数人と赤い三角頭巾数人と禿頭全身金粉ショー十三人というこっゆい面子が勢揃いして土下座する光景は、まあ壮観なのかも知れなかったが。


「散れィ!」


あっという間に蹴散らかされる。普通だったらそこで終わりなのだが。


「そこを、そこをなんとかあ~」

「お願いします、お願いします」

「もうあなたしか頼る人がいないんですよォ」


ずたぼろになりながらも必至で縋り付いてくるみなしごの会一同。太平は片っ端からげしげしとヤクザキックを入れながら、叫ぶように言う。


「ええいうっとおしいわ! 第一貴様らがオレに弟子入りしてどうしよってんだ!」


その言葉に、あほうどもの動きが一瞬止まる。実の所こいつら、太平にこびへつらって味方になってしまえば酷い目に遭わされることもなくなるだろうと、割りと思いつきのノープランであった。

瞬時に思考を巡らすあほうども。ぐるぐると考えたが良いアイディアなんか思いつくはずもなく、焦りのまま、一人がやけくそのような声を張り上げる。


「僕は……僕はモテたいんです!」


それは考え無しの言葉だった。

しかし魂からの本音であった。


まるで天啓のように、その言葉は男達の心に染みる。そして声を上げた一人の熱が伝播したかのように、男達は次々と懇願を始める。


「そうだ! 俺たちは……モテたいんだ!」

「我等が真の悲願! いまここに見出したり!」

「あなただけが、あなただけがたよりなんです!」


縋り付くあほうどもに、今度は困惑した表情を見せる太平。


「え……? オレ、モテないんだが?」

「「「「「え?」」」」」


時が止まった。

風が虚しく吹き流れていく。











「お前らオレの普段の暮らしを見てどこがモテているように見えるか。アレか、イベント目白押しでトラブルに好かれてるってか。なかなかとんち効いてんじゃねえかこの野郎」


なぜかあほうどもを地面に正座させ、その前で本人も正座しての説教大会が始まっていた。


「日々の生活に退屈してるのかも知れねえが、こんな生活はお奨めしねえぞ? 別にオレだって好きこのんでやってるわけじゃあ……」

「いやいやそう言う話じゃございませんので」


全力で脱線しようとする太平を留めようとするみなしごの会議長。


「だから、天下氏の周囲には結構な数の女の子がいらっさるではないですか。そのうちの何人かは明らかに天下氏を見ておられますが」


なんか妙な敬語で言う議長。太平はもの凄く冷めた目でこう返した。


「見られてんのと惚れられてんのは違うだろ。具体的に誰がどう見てるってんだ」

「例えば……鯉ヶ滝のご令嬢とか」


いきなりどストレートに本命の名を上げる議長。太平は何言ってんだこいつと言いたげな目つきで応える。


「あのな、アレがいくらわけ分からなくてとんちんかんな女でも、あんだけすげなく扱っといて惚れるとかありえねえだろ。よしんばそうだとしたら、とんでもなく頭がおかしい類の残念ぶりというかどMにもほどがるというか。むしろオレの方がどん引くわ」






「ああ! なんか盗聴していたお嬢が、急所に痛打を受けたかのごとく床でのたうち回ってますよ!?」






不憫な。議長は内心の涙を禁じ得なかったが、言ったところで聞き入れそうにもない目の前の男の様子に何かを諦めた。

その代わりと言ってはなんだが、即座に次の人名(?)を上げる。


「では、九尾嬢などは。彼女は明らかにあなたへの好意を口にしておられますが」


太平は、暫し考えてから応えた。


「……してたっけ!?」

「してたではないですか! ほら、例えば………………あれ?」


例を挙げようとしてはたと気付く。そういえば。

あの女、狙ってるとか攻略するとか言う言葉は使っていたような気がするが……。


「肝心な『好意をストレートに伝えるような言葉』を言ってない!?」


ずがしゃんとショックを受ける議長。朴念仁と言うよりは外宇宙探索船よりもぶっ飛んだ方向性の思考を持つ太平には、ストレートに好意を伝えなければ理解できないと言うかしようともしない。いくら遠回しにそれを匂わせても無駄だ。

他人の色恋沙汰を監察してぎぎぎと悔しがるのが習性であるみなしごの会面子は、『副作用』として人間関係や個人の指向などを読みとるのに長けている。普段は全く生かされないが。その彼らが改めて見てみると、玉藻などは無駄な方向で努力しているだけに過ぎなかった。


「ちなみにガチで好意を向けられてるとしたら?」

「アレも鯉ヶ滝と同じかそれ以上にすげなく扱ってるだろうが。好意を持ってるとしたらやっぱり頭のおかしい病院かカウンセラーにお世話にならなきゃいかん類のダメフォックスじゃねえか。もしかしたらエキノコックスで脳のあたりやられてんじゃねえの?」






「ああ! なんか式神使って盗聴してた玉藻ちゃんが、床で膝抱えて横倒しになってしくしく泣き出した!?」






無情である。鈍感と言うよりは最早冷徹とも言える太平の態度に戦慄を覚えざるをえない議長。これ以上聞くのはきっと無駄なのだろう。そう分かっていても、彼は問い続けずにはいられなかった。なんというか、藁にも縋る思いだったのかも知れない。


「えっと、それでは精霊戦隊の皆様は……」

「ありゃ仕事上の付き合いってだけだろ。どっちかてーと嫌々感溢れまくりじゃねえか。適当にすりゃいいのに律儀にオレの監視なんかしてっからああなる」

「眼鏡のお色気ボケ担当と学園女スパイの教師陣は……」

「眼鏡の方はオレの周りの森羅万象全部ひっくるめて面白がってるだけだろが。エージェントティーチャーはあれだ、あの死んだ魚のような目を向けられて好意抱いてるとか天地がひっくり返ってもありえねえわ。仕事でなきゃ地の果てまで逃げ出してるぞあの人」

「天使と悪魔……」

「あのあほの子姉妹も仕事以上の感情はねえだろうさ。あれで好意があるんだとしたらむしろ怖いわ。どこにぶっ飛んでいくか分からない的な意味で」

「い、妹さんとか」

「おまえは家族に向ける親愛と恋愛感情の区別が付かないほど拗らせてる馬鹿か」

「まひとちゃん――」

「ち●こ生えてる時点で論外だたわけ」


けんもほろろである。まあ確かに、挙げた面子を考えてみれば嫌々太平の周りにいる人間も少なくないし、見てたら恋愛感情が生じる方がおかしい。

だがそれでも、よりどりみどりの女性が周囲に屯っている事には違いない。議長以下みなしごの会面子は、世の不条理に悔し涙を流す。


「なぜ、なぜこんなんで周りに女性が充満しているのか」

「何が違う。俺たちと何が違う!」

「近年の格差社会の影響がこんなところまで……」


肩をがくりと落として悲痛な雰囲気を醸し出すあほうども。そんな彼らの姿に、太平は溜息混じりで言い放つ。


「そんなん人妬んで足引っ張るようなことばっかやってっからモテねえんだろが。第一その格好で女の子寄ってくると思ってんの? 普通の格好しろや」


ど正論であった。

しかし、あほうどもにとっては雷に打たれたような衝撃であった。


がばりと顔を上げてなぜか太平を見据えるみなしごの会ども。上から下までじろじろと観察され、怖気が奔る太平。

ややあって。


「「「「「これだああああああ!!」」」」」


天に向かって咆吼するみなしごの会ご一同。

その理由は、後日知れる。











ぽかん。その光景を見た皆の反応を端的に書けばこうなる。


全く統一性のないイケメンや普通や顔面偏差値が不自由なのやハゲの集団。それはいい。

全員申し合わせたかのようなちょっと着崩した制服姿。それもいい。

しかしなぜ全員がガラの悪いチンピラ風味に周囲を睨め付け威嚇しつつ歩いているのか。それが分からない。


「ざっけんなこらー! すっぞこらー!」

「まずは殴ってかんがえるうううう!!」

「これでいけるのけ!? おれモテるのけ!?」


声だけ聞いていると、どうやらみなしごの会会員どもらしい。しかし学芸会でももちっと演技してる。一体何のつもりなんだか。


「普通の格好しろって言ったはずだが……あいつらん中じゃあれが普通なのか」


頭が痛いという態度で呻くように言う太平。その横で半眼になったまひとが、ぼそりと呟くように言った。


「あれってさあ、もしかするとたいへーちゃんの真似なんじゃない?」


びき、と太平が凍り付いた。その状態でぎぎぎ、と軋みつつあほどもを見やる。


馬鹿以外の何者でもなかった。


ふたたびぎぎぎと向き直り、そして。


「オレ端から見るとあんな風に見えんの!?」


泣きそうな声で吠えた。気持ちは分かる。

まひとは溜息を吐いて肩をすくめた。


「イメージって、大切だよね」


がっくりと肩を落とす太平。そんな彼を余所に。


「「「「「番長だー! 襲えー!」」」」」

「うおっ!? なんだてめえら!?」


あほどもは砂糖に群がる蟻のように番長へと殺到する。

勿論片っ端から吹っ飛ばされていったのは言うまでもない。











「「「「「モテるどころか各所から怒られました」」」」」

「当たり前だ馬鹿野郎」


再びの正座説教大会である。太平の額にもお怒りマークが燦然と輝き、ぼろぼろのみなしごの会ご一同様はがくぶるしていた。


「大体なんでオレの真似なの。ナニか、新手の嫌がらせか。ってかお前らの目にはオレはあんな風に見えてんのか。肖像権の侵害と名誉毀損で訴えんぞコラ」

「いやいやいやあれはこう、あなたのモテっぷりをリスペクトしようとした結果でして決して貶めようとかそう言う意図はありませんで。多少ディフォルメした感はありますが」


必至で言い訳する議長。素顔は案外イケメンだというのに何をどう拗らせてこうなったんだか。


「だからモテとらんと言うに」

「最低でも彼女がおられるでしょうが」

「そんなんそこらで石投げたら数人に一人は当たるわい。そういうのはモテてるって言わないの」

「ならば! ならばせめてどういったいきさつで彼女と出会い付き合うようになったのか、そこらへんを説明ぷりーず!」

「……出会いとな?」


吠えたくる議長が放った言葉に、太平がぴくりと反応する。あ、これなんかあかんやつやと、まひとは一歩下がって逃げ出す準備を調えた。


「そーかそーか聞きたいか。よしならば細大漏らさず最初から最後までとくと語ってやるから耳かっぽじって傾聴しやがれ」

「え? あの、あれ?」


なんか異様な雰囲気を発し始めた太平の様子に、もしかしてヤバいもの踏んづけたかと嫌な予感を覚えるみなしごの会の皆さん。地雷とかじゃない、もっと別のおぞましいなにかだ多分。

しかし逃げられない。なんか雰囲気に押されたというのもあるし、物理的に足がしびれて即座に動けなかったからだ


そして、戦慄するあほうどもの前で。


太平の『惚気話』が全力全開で炸裂した。











「というわけでだなあ……聞いてっかお前ら」


語るだけ語った太平が視線を前に向けると、そこは屍の山であった。


「……あれ?」


あれ、じゃない。なんて残酷な男だ。見ろみなしごの会の連中、倒れ伏して血とか砂とか吐きながらびくんびくんいってんじゃないか。


「なんだまだ半分くらいなのに、五体倒置で感動するとか早すぎるぞ」


まだ半分もあるのか。いやそんなことはどうでもよろしい。ともかく死屍累々となってるあほうどもを前に、どうしたもんかと考える太平。


「……ここまで感動してくれたっつーんなら、そうだな、オレと彼女のメモリームービーの上映会なんぞを……」

「「「「「すんませんまぢ勘弁して下さい」」」」」


即座に起きあがって太平に許しを請うあほうども。どうやらさらなる悲劇は回避されそうである。


「いやその、幸せなお話しはもうおなか一杯ですので、できれば別方向でなんとかなりませんでしょうか」

「なんだ良いところだったのに。……まあいい。で、具体的にどうするか考えてんのか」


懇願していた議長は、太平の言葉に暫く考える。その末に出てきた言葉は。


「せめて外観だけでも、モテる風にならないでしょうか?」

「だから普通の格好をしろと……ああ、普通の格好が分からないのか」


ふむと顎に手を当て考える太平。ややあって。


「よし、服屋いこうか」

「「「「「ええっ!?」」」」」


太平の提案に、なぜだか驚愕の声を上げ狼狽えるみなしごの会ご一同。なにがどうしたと眉を顰めた太平は、疑問を口に出した。


「何をそんなに驚く」

「そ、その~、ぼく服屋とか行ったことなくて……」

「じ、自分も……」

「俺もっす」


おずおずと告白するあほうども。そこまでと読めなかった太平の目は点だ。


「……いままで私服とかどーしてたの」

「お、お母さんが買ってきてくれたものを適当に……」

「じ、自分も……」

「俺もっす」

「こんな基本的なところからあかんとは思わなかった……」


高校生にもなってなんなのこいつら。太平はついに頭を抱える。

と、はたとあることに気付いて問うてみた。


「もしかしてあの三角頭巾も!?」

「「「「「あ、あれは手縫いです」」」」」

「妙なところで高性能だなおい」


こいつら確実に人生の方向性を間違えている。その力を平和と協調に使えばうんぬんかんぬん、などという考えを即座に捨てて、太平は有無を言わさぬ様子であほどもに命ずる。


「ともかく財布の中身確認してオレについてこい。逃げたらあとで酷い目に遭わす」


本当に酷い目に遭わされることが分かっているあほうどもに、逃げるという選択はなかった。

しかしながら、これだけは確認しておかなければならない。議長はおずおずと太平に問うた。


「あ、あの~、財布の中身が心許ないというか、限りなくゼロに等しい場合は、どうすれば……?」


その問いに、太平はにい、と満面の恐ろしい笑顔を浮かべる。


「オレがトイチで貸し付けるに決まってんだろ」











さて、戦々恐々とするみなしごの会ご一同を引き連れて太平が訪れたのは。


「ユ●クロ……ですか」


かの有名な言うほど安くない服屋である。太平は全員を睨め付け言う。


「じゃ、各々店員さんに似合うのいっちょたのんますとお願いして軽くコーディネートしてもらえ」

「「「「「え!?」」」」」


太平の言葉に対し、一斉に戦くあほうども。


「なんでそこで躊躇するか」

「だってその、いきなり店員に話しかけるとかちょっとハードル高くございませんこと!?」


心なしか内股になった議長が訴えるが、もちろんそんなことで太平は容赦しない。


「そりゃ人間誰しも初めてのことってのはあらぁな。とっとと行って慣れてこい」


片っ端から首根っこ掴んでぽいぽいと店に放り込む。しかしまあ、放り込んだら放り込んだで。


「あのそのあのそのあの!?」

「ににににににあ、にあ、にゃー!!」

「すんませんほんとすんません生きていてすんません」


勝手に阿鼻叫喚の地獄絵図を作ってた。こいつら買い物もまともに出来ないのか。

だが、ユ●クロの店員さん達はプロであった。どん引きしそうな心を笑顔の奥に押し込んで、宥め賺して持ち上げ煽て、てきぱきとあほうどもに服を押しつけていく。


結果。


「……可も不可もなく、ごく普通の格好ですな」

「だからそれでいいんだよ」


鏡の前に立つ議長。町中を歩いていて特に違和感のない、真っ当な人間には見える。元は悪くないので黙ってれば一種のキチ(ピー)だとは分からないだろう。

他の連中も大概似たり寄ったりである。顔面偏差値が低めの連中だって、身の丈に合う落ち着いた格好をすれば特におかしいとは思われないものだ。


しかしなんだか微妙に納得いってない感じである。普通に見えるのは良いが、モテるようには見えないからだろう。それが分かっていたのか、太平はある方向を指さして言った。


「確かに格好良く見せようと思えば出来ないことはないだろうがな、格好良くて似合ってるのとモテるのとは別問題だ。あれ(・・)を見ろ」

「「「「「ふん! やあ! なぜ我々はこの格好なのか、説明して頂きたい!」」」」」


指した先には……えっと、奇人変人十三人衆だったか。そいつらがびしばしとポーズ決めている。それはいつものことだが、格好が問題だった。


袈裟である。リアル坊主である。


確かに異様なまでに似合っているし、ひょっとしたら行くところ行ったらモテるかもしれなかったがこれはない。


「いや本当おかしくないのがおかしいくらい似合ってるなお前ら。つか今更ながらなんで袈裟なんてあるのか」

「あ、今和服のセールやってまして」

「確かに和服は和服だが」


いつの間にか傍らに控えていた店員と言葉を交わす。何かが大幅におかしいがまあ今更だ、深くツッコまないでおこうと太平は思考を切り替えた。


「まあともかくだ、普通が一番と言うことは理解して頂けたかと思う」

「酷く納得はいきませんが普通が無難だと言うことは理解致しました」


比較対象が悪すぎるような気がするがいっても仕方がない。議長以下は一応の理解を示した。

そして十三人の坊主もまともな格好となり、事態は次の段階に進む。


「それでその、こっからモテるためにはどうしたら?」

「慌てるな。なんか自信満々にリア充への道を指南できるとかほざいているのがいるから、そいつに指導してもらえ」











で、待ちかまえていたのは。


「わしがおまえらのコーチを受け持つことになったー、皇 まひとじゃー」


地面に突き立てた竹刀に両手を置き肩にジャージを引っかけた、ブルマ体操着の男の娘。妙に芝居がかってかつ棒読みで、彼はぽかんとしてるあほうどもに向かって宣う。


「おまえらみたいな身の程知らずなモンがモテようなんぞと百年早いがー、わしの厳しい指南を受ければたちどころにリア充となる事が出来るー。おまえらー、リア充になりたいかー!?」

「「「「「お、おお~」」」」」

「こえがちいさいー!」

「「「「「お、おおーっ!!」」」」」


なんだかよく分からないが逆らったらろくなことにならないと、本能で悟ったみなしごの会ご一同は、戸惑いながらもまひとの言葉に従う。

従いはするが、これだけは聞いておかねばなるまい。議長はおずおずと疑問を口にした。


「で、その~、本当にモテるようになるんでしょうか?」

「モテるとは言わないけれど、僕結構女の子と仲良しだよ? ほら証拠証拠」


素に戻ったまひとが、スマホの画像データを見せる。天使と女子会したときの写真とか、成螺と一緒に撮った写真とかだが、確かに女性と一緒に映っている事には違いない。それなりに信用は増した。


「というわけでー、これからお前らを鍛えるー! 全力でいくからついてこいー!」

「「「「「いえっさー!!」」」」」


やる気をみなぎらせて拳を掲げるみなしごの会ご一同。

そして彼らは地獄に足を踏み入れた。


「背筋は真っ直ぐ! 歩きはがに股にならない!」

「へらへら笑わない! 笑うときには目元を緩めて軽く微笑む!」

「女子の前で猥談禁止! やるんなら周囲に気を配って聞かれないところで!」

「服は洗うだけじゃなく、しわにも気を払う! ワイシャツアイロンがけ300回!」

「体臭にも注意! 腋臭は皮膚科に逝ってこい!」


咆吼と共に竹刀が奔る。ガチでスパルタの特訓であった。

今回まひとはわりとみなしごの会に同情的である。とはいっても全面的に賛同するというわけでもないが、ただ勢いだけにしても今の自分から脱却したいというその心意気は買う。だからちょっとだけ手を貸してやろうと、そういう気になったのだ。


問題はまひとの『ちょっとだけ』が、常人にとってベリーハードを越えたルナティックレベルであったというところだろう。


豚のような悲鳴が、しばらくの間響き続けた。











で、どうなったのかと言えば。


「もお諦めたああああああ!!」

「こんなに苦しいのであれば! こんなに辛いのであれば! 愛などいらぬ!」

「リア充とか、リア充とか! ばかあああああああ!!」


三角頭巾被った馬鹿どもが再臨していた。しかも涙とか鼻水とかまき散らしながらでかなり見苦しい。


「元の木阿弥じゃねえか」

「あっれェ!?」


半眼になった太平の横で、まひとは真剣に首を傾げていた。

彼に他意はない。ちょっと真面目にスパルタしただけで。もっともそれを常人がどう受け取るかは考慮の範囲外であったが。


「ううむ、最近の若いのは根性ないなあ」

「まあ、根性あったらあんなことしてないわな」


渋面を作る二人は、早々に匙を放り投げた。






こうして、更生の魔の手からみなしごの会は逃れることが出来た。

しかし、リア充の脅威はこれで終わったわけではない。


戦え、みなしごの会。負けるな、みなしごの会。


もう基本形から最終形まで全力全開で負け犬だろうという真っ当な意見からは目を反らし、己の道を邁進するのだ!











「んじゃ貸した金、利子付けてきっちりと返してもらおうか?」

「「「「「り、リボ払いではダメですか!?」」」」」












おいどう収拾つけるんだよ鉄血。

まさか三期とか劇場版とかやるんじゃなかろうな緋松です。


今回はちょくちょく出てくるあいつらにスポットを当ててみました。作中ではこんな扱いではありますが、筆者こいつらが大好きです。もういぢりまわしがいがあることあること。馬鹿な子ほど可愛いとはこのことですかね。(違)


さてこの次は一体誰が犠牲者になるのかならないのか。それともあっと言う展開が待っているのか。乞うご期待しても多分いつも通りぐだぐだだと思います。

では今回はこの辺で。


まんずまんずごきげんやっしゃ。

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