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そのさんじゅうろく・ちいさなこいのめろでーでこともなし!






繁華街の一角。場末の飲み屋や怪しい店が建ち並ぶ、場末の盛り場。

呼び込みや酔っぱらい、その他諸々がらの悪そうな人間が行き来するそのあたりは、番田 長治のテリトリーだった。


…………………………って、君だれだっけ?


「「「ってめセミレギュラー忘れてんのかい!!」」」


おおそうだったそうだった番長だった。うんまあ至極どうでも良いこいつらの主張はおいといて、ともかく長治――番長は普段このあたりで屯っている。詳細は省くが家と折り合いが悪い彼は、不良と化したあたりからそう言った行動を取るようになった。大概が喧嘩を売ったり買ったりと、そう言った行動で代わり映えがない。本人としては己のテリトリーをパトロールしているとかそう言うつもりなのだろう。

そんなわけで、今日も今日とて彼は手下二人を引き連れて盛り場をうろうろしていた。


「最近このあたりも平和っすねー」

「不景気だからだろ。みんな余裕ねんじゃね?」

「……まあ、騒ぎがないのは良いことさ」


これも自分たちの日頃の行いの成果かと、内心自画自賛してる馬鹿三人。と、彼らの耳に微かな、しかし聞き捨てならない声が届く。


「……いや……」

「おと……し……」


か細い女性の声と、明らかに堅気でない数人の声。無駄に聴力の高い耳でそれを捕らえた三人は、あうんの呼吸で頷き合うと、声のする路地へと迷い無く飛び込んだ。


路地の奥では、行き止まりの壁に背を預けて振るえている制服姿の少女と、それを取り囲むいかにもチンピラといった風情の男たちの姿。番長たちはその光景だけで判断し、何の確認も取らずにチンピラたちに襲いかかった。


ま、当然チンピラたちは瞬時にぼろ雑巾と化したわけで。


「ちっ、折角平穏を満喫していたってのによ」


どの口で言うかと言う台詞をほざきながら、ぱんぱんと手をはたく番長。そして奥の壁で縮こまっていた少女に声をかける。


「おい、怪我ァねえか?」


別に気を遣ったわけではない。怪我の一つもしてたら面倒だというだけの話だ。問われた少女は暫く唖然としていたが、はたと我を取り戻し「は、はい……」とか細い声で応えた。


「そうか、このあたりは治安が悪いどころじゃねえ。とっとと帰るんだな」


そう言い放ち、番長はあっさりと背を向ける。危ないというのであれば安全なところまで送ってやればいいものを、この男全く気が利かない。

取り敢えず気に入らない奴をボコれば満足でその後のことなど考えていないし、少女のことなど気にも留めていなかった。故にあっさりと立ち去ったわけだが。


「………………すてき」


去っていく背中を見つめ、少女が何やらおっそろしいことを口にしたことに、番長は気付かなかった。

気付いてどうなるものでもなかったろうが。











「今日こそお前とォ、決着をつける時だァ!」


校門前で声を張り上げる番長。それに対して太平は胡乱げな視線を向けた。


「…………誰だっけ」

「てめえは毎日ツラ付き合わせてんだろうがっ!」


吠える番長。一々テンションの高い男である。いい加減血管の一本も切れるんじゃなかろうか。

それはそれとして「おおそうだった」と手を打つ太平。そんで。


次の瞬間には番長を思いっきり殴り飛ばしていた。


縦回転で吹っ飛ぶ番長。そしてそのまま校門横の塀に叩き付けられる。

そのままずるずると地面に倒れ込んだ番長を、太平はヤクザキックでさらに追撃――


「っ!」


しようとしたところで、飛来してきた何かを(・・・・・・・・・)はたき落とした(・・・・・・・)


凄い勢いで飛んできたそれは、かなり重い手応えである。一体何がとその正体を見てみれば。


「……鉈か」


なんか牛の首でも落とせそうなごっつい鉈であった。それがものの見事に刺さっている。


番長の頭に。


「お、親分!?」

「た、大将!?」


血を噴き出しながら白目剥いてびっくんびっくんしてる番長に慌てて駆け寄る手下二人。「「きゅ、救急車ー!!」」と騒いでる馬鹿二人を余所に、太平は鋭くあたりに視線を巡らす。


「気配も感じさせず正確な投擲……またぞろめんどくさい馬鹿が絡んできやがったのか」


下手人らしき姿を確認することが出来ず、また新手のアレでナニな人間が現れたのかと軽い頭痛を覚える太平。


そう、これが。

一連の騒動の始まりだった。











「てめえ!よくもやってくれやがったな!」


勢いよく教室に飛び込んで来るなり太平の元に歩み寄る番長。その頭にはいつもの学生帽の代わりのように包帯が巻き付けてある。


眼前に来てキレまくる彼に対し、太平は無言でその頭にチョップを叩き込んだ。


「ほぶれう゛ぁっ!?」


奇声を上げてぶっ倒れ、ぴゅーぴゅー血が吹く頭を押さえてのたうち回る番長。 そんな彼を冷たい目で見下ろして、太平はこう言った。


「事故だ許せ」

「それ謝ってる態度じゃねえだろ!」


がばりと身を起こしてツッコミ入れる番長だが、その顔面を容赦なく踏みつけ太平は主張した。


「そもそもてめえが校門前で待ちかまえてケンカ売らなきゃ起こらなかったことだろうがボケ。毎朝毎朝飽きもせず人の邪魔しやがってカス。口だけでも謝ってるだけましだと思えやクズ」


額にお怒りマークを浮かべてぐりぐりと番長の顔を踏みつける。何かまた新たなる面倒ごとの予感が、太平の機嫌を斜めに傾けていた。

そんで。


ぐりぐりぐり。


「…………」


ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「……………………」


ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「……………………………………あれ?」


無言で存分に番長の顔を踏みにじっていた太平は、疑問の声を上げ眉を寄せる。そしてきょろきょろと周囲に視線を巡らせた。


「っかしーなー。てっきりここでくると思ったんだが」

「どしたのさたいへーちゃん?」


まひとの問いに、太平は首を傾げながら応える。


「いやな、多分こいつの関係者か何かが下手人で、こいついたぶってたら攻撃が来るかと……」

「ああそういうこと。見込みはずれちゃったね」

「そだな、オレの勘も鈍ったか。しかしだとしたらなんだったんだありゃ」


ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「……いい加減解放してやんないと、死ぬんじゃね?」


正義が呆れたように言う。番長は顔面を踏みつけられた状態でびっくんびっくん痙攣していた。











翌日。


「昨日は世話になったなァ! たっぷりとお礼はさせてもらうぜェ!」


頭に包帯を巻いたままの番長が校門前で凄む。


勿論太平は殴った。


錐揉み状に回転し吹っ飛び、校門横の塀に叩き付けられる番長。そのままずるずると地面にへたり込む。

昨日の焼き直しのように、太平は追撃を行おうとして――


飛来してきた何かをはたき落とした。


「……今度はまさかりか」


要はごっつい斧系の得物である。普通は決して投げるものでないはずのそれは太平に叩き落とされ、深々と突き刺さっていた。


勿論番長の頭に。


「お、親分ー!」

「た、大将ー!」


駆け寄る手下どもに目もくれず、太平は周囲を警戒する。相変わらず怪しい気配はない。怪しすぎる気配は色々と山のようにあるが、それに紛れているのだろうか。


「……ふむ」











さらに教室。


「一度ならず二度までもふざけた真似を……」


扉を蹴破らんとするような勢いで現れた番長を、投げっぱなしノーザンライトスープレックスで沈める太平。そこからげしげしとヤクザキックを入れまくる。

そうしながらも太平は、周囲に警戒を怠らなかった。

怠らなかったが。


「(何の反応も無し、か……)」











さらに翌日、翌々日も同じような状況で同じようなことが起こる。

飛んできたのは木挽き鋸と蔦切り鎌。


当然狙ったかのように番長の頭に刺さった。











「……とまあここまでの状況を鑑みるだに、下手人はうちの生徒じゃねえな」


太平はそう結論づける。

集められたいつもの面子は、ああそうなんだと言わんばかりの様子で太平の行動を眺めている。その中の一人、風紀委員長が眼鏡を押し上げながら言った。


「まあそれはいいんだが……そろそろ天に召されないかね、彼」


視線の先では、複雑怪奇な関節技を番長にかけている太平の姿。番長は白目をむいて泡を吹いている。


「オレもそう思うんだがな。なかなか召されねえんだよこいつ」

「ちょっと待てなんかヤる気満々!?」

「あんだけ樵道具が刺さってぴんぴんしてんだ。もうちょっといけるいける」

「いやそう言う問題じゃなくて」

「次はチェーンソーあたりがくると見た」

「話ずれてるずれてる」

「まあそう言う冗談はさておいてだ」


太平は番長をそこらに放ると、すぴ、と人差し指を立てて言う。


「ともかく放っておいてもこいつの怪我が増えるだけだからかまわねっちゃかまわねえんだが、万一回りに飛び火したらかなわん。そろそろ下手人引きずり出そうと思うから手伝え」


殴るの止めればすむ話じゃあ。みなそう思ったが、そうすれば番長が調子に乗るのは決定的に明らかなので黙っておく。


「そうなるとそれがしの出番でござろうか」


実は地味に活躍の場が増えて内心喜んでいる透が、得たりとばかりに腰を上げる。まあ実際彼が適任だろうから誰も止めない。

太平はうんうん頷いて告げた。


「それじゃあ頼むわ。オレに気付かれないように背後取ってオレに気付かれないようにごっつい得物を正確に投擲してオレに気付かれないように撤退する、よく考えたら結構ヤバげな相手で命の保証なんかこれっぽっちもないが、頑張ってくれ」

「いやまってそれ聞いてない」


覆面の下で青ざめる透だが、吐いた唾は飲み込めない。気にするそぶりもなく、太平は報酬を呈示した。


「おっちゃんの店でチャーシュー麺大盛り半チャーハンセット一ヶ月おごりでどうよ」

「い、命かけるには安すぎる報酬ではござらんか!? しかしたしかに魅力的ではあるうむむ」

「餃子唐揚げもつけるぞ?」

「そう言う問題ではござらんがすごくやる気になってる自分がいるのも確か!」


結局透もかなり安上がりな人間だと思う。

まあこいつならなんとかするんじゃね? と他の連中は投げやりだ。実際透がヘマを打つのは、滅多なことではあり得ないと言える。問題は斜め上方向に酷い者(・・・・・・・・・)(具体例・キレた某エージェントティーチャーとか)を相手取った場合後れを取る可能性があるということだが。で多分そう言った方向性の相手だと思うが。


逃げるくらいは出来るだろう、多分。完全に他人事の愉快な仲間たち。

そんな彼らの様子を、教室の扉を少し空けた隙間から、滂沱の涙を流しつつハンカチ噛んでくきー、とでも言いたげな顔で見ているセバスチャンの姿があったが、勿論無視されていた。











「今日こそ……」


太平は殴り飛ばした。


コマのように回転しながら吹っ飛ぶ番長。またもや校門横の塀に叩き付けられ、崩れ落ちる番長。

そして太平は追撃を行おうとして――


飛来した何かを叩き落とす。

が、それを確認した途端、太平の目が見開かれた。


「高枝切りばさみ、だと?」


番長の頭に深々と突き刺さっているのは、TVの通販でおなじみの商品。今買えばさらにもう一本ついてくるお買い得品だ。

太平の眦が、鋭く睨み付けるようなものに変わる。


「あれを樵の道具だと言い張るつもりか。邪道な」


そう言う問題ではない。第一高枝切りばさみをつかう樵がいてもいいじゃないか。確かに微妙に使いにくいが。

まあそれはさておいて。


「お、親分~!」

「た、大将~!」


慌てて番長に駆け寄る手下二人を尻目に、太平は気配を探る。

案の定、よく知った気配が遠ざかっていくのを察知し頷く。


「さて、尻尾でも掴めれば御の字だが」











高速で屋根の上をかける影。

張り切って本領発揮中の透君である。


「……さっさと切り上げなければ遅刻、ということに相成ろうな。『身代わりくん』もいつまでごまかせるやら」


己の制服と覆面を付けて席に座らせているなんきょ……げふん身代わりくんのことを思い浮かべて、透は足を速める。


追跡している相手の姿は確認できない。その上僅かに漏れ出す気配は、透をして意識を集中させねば追うことができないほどに、見事な穏業である。


「天下殿すらも欺けるはずよ。明らかに素人ではない、何者か」


太平の予測によると番長の関係者ではないか、とのことだったが……。


「かの人物の人脈に、あのような存在はなかった。それがしに手抜かりがあったと思いたくはないが」


個人的な趣味で(・・・・・・・)三高に所属する人間の情報を網羅している透であるが、その彼にも知り得ない存在。最低でも三高部外者であることは確かだ。しかしそうなると、一体どんな関連があるのか。足を速めながらも思考を巡らせて――


「っ!」


咄嗟にその場を飛び退く。疾走していた透の足下、そこを狙って一斉に何かが投擲されたのだ。

どなた様のお宅とも知れない屋根瓦。そこに突き刺さっていたのは。


「剪定鋏!?」


良く磨き上げられたそれらは深々と突き刺さっている。そもそも投擲武器でも刺突武器でもない剪定鋏がバターナイフのように瓦に突き刺さる時点で明らかにおかしい。ただの変人ではない。


改めて着地した透の視界に捕らえられる影。手に手に得物を携え構えるそいつらは。


「…………え~っと?」


透が困惑するのも無理はない。相対している数人の男たちは、作業着にニッカボッカ、地下足袋という、どう見てもガラの悪い土方のあんちゃんとしか思えない。覆面のつもりか手ぬぐいで口元を覆っているが、コンビニ強盗でもやらかす気か、といった風情であった。

手に携えている得物が鋸や木槌である。一見近場の屋根の修理を受け持った工務店の連中かとも思えるが、なるほどうまいこと偽装するものだと透は得心する。


「一見武器に見えない得物にその風情。かなり年季の入った暗部工作員ウェットワーカーとお見受けする」


男たちは応えない。ただ得物を構え直し、音もなく透へと襲いかかる。何者かは分からない、が確実に己の追跡を妨害するものだと透は判断した。


「であればやるしかあるまいな!」


透は両手を左右に振り抜いた。その先には、いつのまにやらくないが握られている。

その目にやる気をみなぎらせて、透は屋根の上を駆け出した。











「いやはや、天下殿の真似をしようなどとは、やはり浅はかでござった」


結構ぼろぼろになった様相で頭を掻く透。

彼の足下には、これまたずたぼろになったあんちゃんたち。どうやら一戦やらかした挙げ句、全員を捕らえてきたらしい。


「で、こいつらが下手人なわけ?」


全く何も動ずることなく太平が問うが、透は頭を振った。


「いえ。ですがこやつら下手人の追跡をしていたそれがしを妨害致しました。しかも結構な手練れ。無関係ではありますまい」


なるほどな、と太平は頷く。そこでまひとが太平に問うた。


「番長に面通しして知り合いかどうか確認したら?」


その問いに太平は肩をすくめる。


「無駄だろ、多分アレはこいつらの知り合いじゃない。だから……」


そこから無造作に、あんちゃんずの一人の頭をむんずと掴み吊り上げた。


「いつまでも気絶したふりなんかしてないで、とっととゲロったほうがいいぞ?」


つり上げられた男は白目をむいていたが、太平に語りかけられて僅かにびくんと振るえた。にい、と太平は三日月の笑みを浮かべる。











もういい加減飽きてきたが、翌日。


「きょ……」


何も知らないと言うか気付いてもない番長が何かをほざこうとする。そして間髪入れず太平が間合いを詰める。

そこまではこれまでと同じだった。


太平は思いっきり振りかぶった手で――


殴りつけずに番長の胸元を掴んだ。


「「「え?」」」


番長と手下どもが間抜けな声を上げると同時に。


「おるああああああああ!!」


太平は見事な一本背負いで番長を投げ飛ばした。


「どおおおお!?」


困惑の悲鳴を上げながら宙を舞う番長。その巨躯は太平の背後――道路を隔てた向かい側の住宅街が一角へと、一直線に飛んだ。


「どぶらげちょわ!?」

「うきゃひい!?」


ゴミステーションの影に叩き込まれる番長。そして上がる悲鳴が二つ。


二つ?


周囲の生徒たちが疑問符を浮かべるとほぼ同時に。


「「「「「今だ! 確保おおおおお!!」」」」」


咆吼と共にあちこちから現れた土方っぽいにいちゃんたちが、一斉に番長の方へと殺到した。











時間は戻る。


「代々暗殺技術を継承する一族?」


観念したか、あんちゃんたちは自分たちの正体をこう主張した。


「へ、へえ。今じゃそっち系の仕事はほとんどやっとりゃせんですが、技術うでを磨くのは怠っておらんでして」


顔出しは勘弁と手ぬぐい覆面したまま、あんちゃんたちのリーダー格は応える。ともかくこいつらの正体は分かった。色々と納得できない面はあるが、それはよしとしよう。問題は。


「で、なんでそんな連中がオレの命を狙うわけよ」

「いやいやいや! あれはうちらの総意ではありゃせんでして! ちょっとまあややこしくて深い事情が! 決して【華牡のシヴァ】天下様と事を構えるつもりじゃありゃせんでして!」

「なんかまた変な二つ名増えてるし」


ぶんぶか頭を振って必至で否定するあんちゃん。太平の雷名は裏社会にすら轟いていたようだ。透と敵対したのは、あくまで牽制のためだったと彼らは主張する。

まあそんなことはどうでも良い。一体どういうことだと凄んでみれば、あんちゃんはなんか情けない表情になってこう言う。


「じつはあれは……家出したうちの【お嬢】の暴走でして……」











というわけで、投降したあんちゃんずの協力の下、投げ飛ばされた番長に潰され捕獲され2-Dに連行されたた人物がこちらである。


「………………ふかくっ!」


口惜しそうに唇を噛む、小柄で地味だがよく見れば可愛いタイプの少女。三つ編みのその風貌には似合わない、射殺すような目で太平を睨み付けている。どうやら近所の中学校の生徒らしい。

あんちゃんたちの話によると、この少女、家業(裏)の教育に反発し、家出を敢行したのだという。で、家人たちにさんざんっぱら追い回され、ついこの間捕獲の一歩手前にまで追いつめたのだが。


「そこの白目剥いてるでっかい御仁が勘違いして、うちら一蹴されてしまいやして」

「おい情けねえぞ暗殺者」

「そりゃもう、うちら不意打ちするのは得意ですけどされるのは不得手ですんで」

「威張るとこじゃねえだろそこ」


それはさておきそこからなんで太平を狙うに至るのか。

問うてみても応えるかどうかと思っていた太平だが、少女は睨み付けながらもこう返す。


「…………ばんちょうさん…………いぢめた…………」

「…………は?」


目を丸くする太平。すかさずあんちゃんずリーダーがフォロー(?)に入る。


「そのですね、どうやらお嬢、件の不意打ちの時、そこの御仁に一目惚れしてしまったようでして」

「…………これに?」


いやうんまあその、人の趣味というのはそれぞれで自由だが、よりにもよってアレかい。こうなんていうか、目か頭かその両方かに何らかの不都合があるんじゃなかろうかこの娘。

太平ならずとも皆そう思ったが、人の思いまではどうすることも出来ない。微妙な空気の中、太平は鼻を鳴らして言う。


「百歩、いや、相当数譲りまくってそれはいい。だがいじめとは人聞きが悪いな、どっちかつーとオレがいじめられてるつーの」

「「「「「ゑ゛!?」」」」」


少女含めたその場の全員が、変な声出した。

太平は憤慨して力説する。


「ああ゛? よく考えてみろやてめえら。わけのわからん難癖付けてほとんど毎朝校門前で待ちかまえて喧嘩ふっかけてきて、口で話しても理解しないからボコって撃退するしかなかろうが。しかも殴っても殴っても翌日には何の反省もなく復帰する鳥頭ときている。ここまでくると嫌がらせ以上の粘着かつはた迷惑。しかもオレ個人に集中。さらにヤツ不良オレ一般人。これがいじめじゃなくてなんだというんだ」


言われてみれば確かにそうかも知れないが、なにかがどこかが大幅に間違っていると皆思った。


「一方的な反撃というか殲滅してる時点でいじめとは違う気が……」

「そう言う事実を指摘するんじゃねえ俺らも巻き込まれんだろが」


端っこでこそこそやってる委員長と正義もいるが無視される方向で。


「大体なんなのお前。文句あるなら不意打ちの一撃かまして逃げ出すような真似しないで、正々堂々と真正面から言いにくればいいじゃねえか」


その言葉に、ふたたびあんちゃんリーダーからのフォローが。


「ああ、お嬢かなりのコミュ障でして。そんでうちは基本一撃離脱をモットーとしとりゃすんで、それを忠実に守ってたんではないかと」

「戦果くらい確認しろや」


なんかもう、色々とダメだった。太平は溜息を吐いて諦めたようにこう言う。


「そんなにこれが殴られんの嫌だったら、オレに絡むのおまえが止めてやれや」


その言葉に、少女は目を見開く。


あ、なんかフラグ立った。何となくみんなそう思った。











そんでどうなったかというと。


「ええいてめえいいかげん離れろ!」

「くんかくんかくんかくんかくんかくんか」


翌日から少女が番長へ物理的にまとわりつき始めた。


構えとじゃれついている子犬――というよりは発情した室内犬のごとき様相である。顔はほぼ無表情に近いが紅潮しており、目の色がヤバい。

そしてここで番長の意外な弱点である。この男、実は女子供に手を上げられない。この一点に限っては太平より好人物と言えよう。それ以外は全くダメだが。ともかくまとわりついてくる少女を力業で振りほどくこともできなさそうだ。何とか怪我させないように引き剥がそうとするが、少女はスッポン並の吸着力で食らいついている。


「なんだってんだよコイツァ!? 貴様らー! のんびり見てねえで助けやがれー!」


無論みんな遠巻きに生暖かい目で見守っている。太平などはうんうん頷いて満足そうだ。


「一時はどうなることかと思ったが、良い足枷になった。これで暫くは平穏になるな」

「……え~なんてーか、割れ鍋に綴じ蓋? 的な?」

「むしろ臭いものに蓋じゃねえのコレ」

「それよりも暗殺裏家業とか結構聞き捨てならない言葉があったような」

「今更でござろう。どのみちこの界隈では無力なものにすぎぬでしょうからな」


後ろの方でまひとを筆頭としたいつもの面子がひそひそ話しているが、だからといってなにがどうなるものでもない。世界はいつでも諸行無常だ。


「やめろはなせベルトを外すなズボンに潜り込もうとするなあああああ!!」

「あ、兄貴ィィィィィィィィ!!」

「た、大将ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


番長と手下どもの声が、虚しく大空に響き渡っていた。











「ところでなんで得物が樵道具なんだよ」

「あ、うちら表向きの家業が造園業なもんで。怪しまれずに持ち歩けますし」







鼻が通るのおおおおおすっきりするのおおおお。

漢方薬って凄い。緋松です。


そろそろ筆者が存在自体を忘れかけていた番長の恋愛話……のつもりだったんですが、なんだこれは。どっからでてきたの暗殺業とか。ノリと勢いだけでものを書いているとこういうことが時に起こるということですね。いつもじゃないか。

しかもヒロインの名前考えてすらいないことに今気付いた。どんだけぞんざいなのか自分。まあいいや番長だし(無責任)


そんなこんなで今回はこの辺で失礼をば。

あうふう゛ぃーたせーえん。

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