そのさんじゅうご・登場! 古今無双のスーパーロボット! でこともなし!
どことも知れぬ遙か彼方。とある惑星。
その星の地表は、ほぼ全てが工場と化していた。そこで生産され続けているのは、無数の巨大な鋼鉄の塊。
その光景を眼下に納め、満足げに頷くものがある。
「素晴らしい。これだけの数をこの速度で生産できるとは……」
それは美しい女であった。だがその表情は傲慢な笑みを浮かべ、その瞳には憎悪が宿っている。
その隣に立つのは、擬人化した蜥蜴のような存在。
体の大半を機械化したそれもまた、黒々とした怨念を隠そうともせず、ぬたりと笑う。
「くく……我等が科学力を使えば造作もないことですよ」
女はかつて創世の女神と呼ばれたもの。サイボーグは言うまでもない、宇宙の帝王の座から蹴落とされたプリーザその人だ。
この二人がどういう経緯で出会ったのかは不明だが、共に太平の被害者である二人は意気投合。逆恨みによる憎悪を燃えたぎらせて盛り上がり、そして手を組んだのであった。
プリーザが方々に手を回してかき集めた科学技術。それを駆使して大量と言うのも馬鹿馬鹿しいほどに平気を量産可能なプラントを、惑星一つの表面を覆うほどにこれでもかと作り上げ、さらに元女神の力を持って多重次元の彼方に隠蔽した。気の遠くなるではすまない彼方から狙う先は――
「今度こそ! 天下 太平を討ち滅ぼし、我が悲願を叶える!」
まだ懲りてなかったらしい。いい加減関われば関わるほど酷い目に遭うと言うことが理解できそうなものだが、それができていらばわざわざこんな大仰なことはしない。
「くくく……確かに直接戦えば勝ち目はない。人を焚き付けてと言うのも論外。しかし、相手が無機質な機械であれば。そしてそれが無数に襲いくれば」
「しかもその発生源は多重次元の彼方。さしものの天下 太平も目の前に存在しないどころか世界の壁を幾重にも隔てた相手を殴ることなどできまい」
二人の忍び笑いは徐々に大きさを増し、やがてぐははははおほほほほと哄笑を上げ始める。高らかに響く笑い声をバックに、無数の鋼鉄はただただ鈍く光るのみであった。
それは唐突に始まった。
平穏であった華牡市の上空から、正しく降って湧いて出た無数の影。ずしんと重々しい音を降り立ったのは、黒々とした丸いボディに蛇腹の手足を持つ、50メートル級の巨大ロボであった。
ボディの上に半ば埋め込まれているかのような、ボウリング玉にも見える頭部がぐるりと動き、無造作に開けられた眼窩の奥で妖しい光がぶうんと宿る。
そしてそいつらは、進撃を開始した。
無数の巨大ロボはそれぞれがてんでばらばらに、無作為な破壊活動を行っていく。
その先に待ちかまえるのは、阿鼻叫喚の地獄絵図。
「ぎゃあああ!ほとんど無人と化してて手の付け所に悩んでいた再開発地区があああああ!♪」
「取り壊すにも色々面倒な利権とかが色々絡んで壊す方が金がかかる廃ビルがあああああ!♪」
「ああ! 面倒な(ピー)とか(ピー)とかがなんやかんや主張していた区画がああああ!♪」
…………多分に何か違う悲鳴じみた声が上がっていたが、とにかく市街地は容赦なく蹂躙されていく。
しかし、ただ黙って蹂躙されるような街ではない。
すくりとビルの上に立つ影。青き鎧を身に纏ったその男は、びしばしとポーズを取り大音声で呼ばわる。
「グラン飛鳥!!」
彼方で稲妻を轟かせる雷雲。それを割り降下してくるのは巨大な宇宙母艦。
「とうっ!」
鎧の男――ジャスティオンはビルの上から跳躍。母艦から放たれたトラクタービームがその身を捉え、艦内に収容する。
サイズに比して意外と狭いブリッジでは、すでに勇気がオペレーターとして動いている。モニター上のチェックを終え、彼女はジャスティオンに告げた。
「各部オールグリーン、いつでもいけます!」
「応っ! グラン飛鳥、チェンジインファイトモード!」
ポーズを伴ったジャスティオンの声に応え、グラン飛鳥が変形を始める。
複雑怪奇に形を変えたグラン飛鳥が大地に降り立つ。それは全高100メートルほどの歪な人型。
暴れ回るロボットどもの倍はあるグラン飛鳥が、緩慢にも見える動きで襲いかかった。
どがんぼこんと蹴り飛ばし殴り飛ばす。ロボどもはわりとあっさり蹴散らされるが。
「ちっ、かなり頑丈だな」
ジャスティオンは仮面の下で舌を打つ。どつかれたロボどもはごろごろ転がった後、大したダメージもない様子でむくりと起きあがる。外見はコミカルにも見えるが、かなりの強度と耐久性を持っているようだった。
手こずるなこれは、そう考えているジャスティオン。と、そこで新たに現れる影。
町中なのになぜか地平の彼方から現れるのは、五体の獣。
鳳、虎、龍、亀、そして麒麟(ジラフじゃない方)。機械の体を持ちそれぞれが単色でカラーリングされたそれらは、精霊戦隊が駆るマシン。
赤き鳳の中で、レッドフレイムがポーズを付けつつ告げる。
「エレメンタルフォーメーション!」
その言葉を合図に、機械の獣たちが形を変え始めた。亀が二つに分離し両足に、麒麟が変形して腰と太股に。虎は胸部を形成して龍も二つに分かれ両腕となる。
そして最後に鳳が頭部となって合体。現れるのはカラフルな50メートル級の巨大ロボ。
「「「「「完成! グレートスプリガン!」」」」」
一体どういう構造になっているのか、一纏めになったコクピットで五人が唱和する。そしてグレートスプリガンはファイティングポーズを取る……まえにいきなり手近の敵ロボにヤクザキックを叩き込んだ。
「先手必勝! 今回は撮影じゃないし数も多いんだ、さくさくいくよ!」
「うふふなんかリーダーえらく生き生きしてて怖いんだけど」
よっぽど普段ストレスがたまっているのかそうなのか。メンバーはなんだか不憫な目でリーダーに生暖かい視線を向けていた。
ともかくヒーローたちが駆る巨大ロボがそろった。親子ほども大きさの違う二体は、背中合わせに敵の軍勢と相対する。
「油断するなよ。こいつら思った以上に頑丈だ」
「はっ、だったらボコりがいもあるってもんさ!」
軽口をたたき合い、二つの巨体は戦いを始めた。
パンチが、キックが、ビームが、ミサイルが、剣が、ブーメランが。無数の軍勢に叩き込まれていく。
流石に歴戦の強者たち。強靱な防御力、強度を持つ謎のロボットたちを、一つ一つ的確に叩き潰していく。完全に優位というわけではないが、十分な余裕があるように見えた。
とはいえ相手はまさに無数。油断も隙もできそうにはない。
「協会を通じて近隣のヒーローに援軍は頼んである。それが来れば形勢はマシになる……って?」
戦場と化した街の片隅で異変が起こる。唐突に、敵ロボが吹っ飛んだのだ。
縦横複雑に回転しながら吹っ飛びごろごろんと転がったロボの頭部は歪にひしゃげており、ぴくりとも動かない。どうやら完全に機能を停止しているようだ。
そしてロボたちの一部に動きがある。それぞれが好き勝手に破壊活動に従事していたりグラン飛鳥やグレートスプリガンに襲いかかったりしていたが、一部の連中がどこか一点に向かって移動を開始したのだ。
援軍はまだ訪れていない。であれば一体何が……と考えて、理由は一つしかないじゃないかと思いつく。
並の機動兵器でも相手取るのが難しいロボなんぞを、真っ向から殴り飛ばせるような人間が、この界隈には一人いる。っていうか一人しかいない。
ロボの一体が地表に向けて殴りかかる。その拳は大地に突き刺さりクレーターを穿つが、目標を捉えてはいなかった。その目標は――
叩き込まれた拳を飛び越え、そのまま腕を駆け上がる。
「おるあああああああああ!!」
拳を振り上げ、弾丸のような速度で一気に走り抜け、そして頭部に拳を叩き込む。
それだけで、巨大な鋼鉄の塊が傾いだ。
「もう一丁!」
見事なドロップキックによる追撃。それでとどめを刺されたロボの眼窩から光が消え、どおんと倒れ伏す。
その横に、危なげなくすたりと降り立つのは言うまでもない。
天下 太平その人だ。
「んったくどこのバカだこんながらくたの群れよこしたのは。見つけ出してしばき倒しちゃる」
完全にお怒りモード入っている彼が、ロボごときで食い止められるはずもない。ごきりと首を鳴らして、太平は次の獲物に向かって駆け出す。
次々と巨大ロボを打ち倒す太平。しかし彼の力を持ってしても鋼鉄の群れはまさに無数。その数は一向に減らないように見えた。
この状況を、打開できる存在はいないのか。
「ここにいるぜ!」
傍らのビルの屋上、太陽を背に立つ男のシルエット……の前で、上空から落下してくる影が二つ。
ずしんと音を響かせ着地、土煙の中重厚な気配を漂わせながら、そいつらは身を起こした。
「HAHAHAHAHA! 華牡市への『潜入』に成功した!」
「汝ら邪悪なり。我が慈愛の拳にて神の御許に送ってくれよう」
内側から張り裂けんばかりにスーツとカソックをぱっつんぱっつんに張らせたおっさんとじーさん。言うまでもなくマスク・ド・プレジデントと元某市国の長だ。
「こんにちわボーイズ! そしてお休みボーイズ!」
「はぁああああああるぇええええええるぅううううううやぁあああああああ!!」
有無を言わさず片っ端からロボどもに襲いかかる二人。太平に負けず劣らずの勢いで駆逐していく。
その光景を、唖然とした様子で見やるしかない屋上の影――ブラさん。
「え~っと……」
所在なさげに状況を見下ろしていた彼は、なんか全てを諦めたような力無い笑顔を浮かべ、くるりと踵を返した。
「帰るか」
そのまま立ち去ろうとした彼の肩を、がしりと掴む手。
その主は振り返って確かめるまでもなかった。
「逃げんなや」
「ですよねー!」
お怒りオーラを纏った太平に逆らえるわけもなく、泣き笑いのブラさんはずるずると戦場にドナドナされていく。
こうして、歴戦(?)のヒーローたちに加え世界最高峰のなんか色々な意味でエラい人たちをも参戦することとなり、事態は収拾していく――
かに見えた。
「くくくく……無駄無駄。いくら倒そうと、こちらの生産速度はそれを上回る」
「大量生産こそが勝利の道。大艦巨砲主義など駆逐されていくと今こそ証明するとき」
何十もの次元の壁を隔てて地球の様子を見ている元女神とプリーザは勝利を確信した。
確かに太平たちの進撃は止まらないが、巨大ロボの生産はその速度を上回る。例え彼らと言えどその体力は無限ではない。いずれ力尽きる。
勝った! 第三部完! などとわけの分からぬ盛り上がりで狂ったように笑い声を上げる二人。
その声は惑星の空に高く高く響き渡っていた。
「……とかなんとか盛り上がってんだろーねー、多分」
高層マンションの屋上に居座り、眼窩の戦いを眺めながらぼそりと呟く者。
三高の女子制服を纏った美少年、まひとである。
彼は今回のこの騒ぎで、今のところ高みの見物を決め込んでいた。大体誰が何をしたのか予想はついていたし、手を出そうと思えばいくらでも出来る。しかし彼は敢えてそれを選択しない。
「いいのかい? このままだと流石に太平君もあぶないんじゃないかと思うよ?」
まひとの背後からかかる声。もちろん成螺だ。彼女は下の喧噪をつまみに一升瓶傾けて一杯やっている。
返すまひとはにっと笑って
「そんなことちっとも思ってないでしょ」
「まーねー。あの程度で何とか出来るようなら苦労はしないよねー」
あっさりと前言を翻す成螺。たかだか無数のロボ程度で太平がどうにか出来るはずはないと高を括っている。
それに。
「そろそろ、動き出す人がいるだろうしね」
まひとのにやにや笑いが深まる。
きりがない。流石の太平もそう感じてきていた。
一体一体は大したことはない(太平の感覚で)が、終わりが無いというのはちょっと来るものがある。どこのどいつがやらかしたのかは知らないが、いい加減イラつきも頂点に達しようとしている。
「下手人の心当たりは……ありすぎて分からないが、なに探れそうな存在とかはいる。ちょいと引きずり出して手伝わせよう」
ぎぬらと歯をむき出しにして笑む。三高の保健室でハゲじじいがびくりと身を震わせた。
新たな犠牲者が出るのか、といったところで太平の左腕、ごつい腕時計を兼ねた通信機から呼び出し音が響いた。
「なんすか先生、今取り込み中なんですけど!?」
「その件についてだが、流石の君も素手では埒があかなくなってきたところだろう。ということで、こんなこともあろうかと用意していた『得物』をよこそうと思うのだが」
ちょっと不機嫌に応えれば、帰ってくるのはドヤ顔してそうな博士の声。太平は眉を寄せる。
博士のことだ、どうせろくでもないものであろうが、この際使えるなら何でも良い。瞬時に太平は判断を下した。
「了解、とっととよこして下さい。それと保健室のじじい確保しといてもらえますか? 下手人探させるんで」
「必要ないと思うがね。まあやっておこう。……それではこの通信機がついた左腕を天高く掲げ、こう呼ぶのだ! 【テンカージェット】! と!」
「……え~?」
太平の目が点になった。点になりながらもまた一体ロボをはり倒す。
「……言わなきゃダメすか、それ」
「うむ、起動とセーフティにボイスコントロールを組み込んでいるからね! 魂のこもったシャウトであればあるほどスペックの上がる仕様だ!」
えへんと胸を張っている博士の姿が見えるようだった。恐らく彼の言っていることは本当で、それ以外のやり方ではスペックの発揮できない仕様になっているのだろう。その得物とやらは。
仕方がない。太平は深々と溜息を吐いてから、気を取り直してずば、と左腕を掲げると、やけくそ気味に叫んだ。
「テンカあああああああああ、ジェえええええええええット!」
左腕の通信機が、まばゆい光を放つ。
それに応えるのは、彼方の三高校舎。時計台のついた本館、それを真っ二つに割るように光の筋が奔った。そして、重々しくメカメカしい音が響き、実際に本館が二つに割れスライドしていく。
〈メインゲート、オープン。カタパルト展開〉
女性を模した電子音声が告げるとおり、本館の跡地に射出孔らしきものが開き、カタパルトレールが伸びる。
暗闇の底で、タービン音が高まっていく。カタパルトレールに次々と灯りが灯った。
〈システムオールグリーン。テンカージェット、発進〉
轟音を立てて飛び立つもの。それはあっという間に天空へと至る。
太平が視界の端できらんと輝くものを確認した次の瞬間、地表ぎりぎりまで飛び込んできたそれに体をかっさらわれた。
「どおお!? ……な、なんつー乱暴な」
無理くり収容された太平は、体勢を正してシートに座り直す。見れば太平をかっさらったのは、前進翼をもつ戦闘機っぽい機体。どうやらオートコントロールされているらしく、勝手に華牡市上空を旋回している。
コクピットの様相がどっかで見たような感じだな~とか考えていると、再び通信機から博士の声が響いた。
「よし、上手く乗れたようだね。……それではいよいよ本番だ、この通信機の本体を外し、コンソールに装着しながらシャウトるのだ! 『エントリー、ダイテンカー!』と!」
「うんまあその、大体予想してましたが。……やんないとダメですよねそうですよね」
何かを色々と諦めた太平は素直に通信機の本体を捻って外す。そして咆吼しながらそれをコンソールの中央に叩き込むようにしてはめ込んだ。
「エントリィいいいいいいい、ダイテンカー!」
途端にコンソール全体が輝きを増す。そして機体は垂直に上昇、雲を突き抜けたところで停止し尻から自由落下を始める。
自由落下しながら、機体は変形していった。
主翼の基部が後方に展開、膝から主翼を生やしたような形で両脚を形成。機首が左右二つに割れ、カナード翼を角飾りにした肩と両腕を形成する。コクピットが胴体に収容されせり上がってきたエンジンブロックがそれを覆い、バックパックとなる。そして鎧武者を模したような頭部が生えて、変形は完了した。
同時に着地。重々しい音を響かせて大地に降り立った25メートルほどのロボ――
に向かって、周囲の敵ロボががしゃりと装甲を展開し、内装されていた無数のミサイルをこれでもかと叩き込む。
過剰なまでの爆発が、市街地のど真ん中にキノコ雲を発生させる。
「やった! やったぞ! 天下 太平を討ち取った!」
「おほほほほほほ! 大・勝・利!」
元帝王と元女神は手を取り合って喝采を上げる。
「などと上手くいくとか思っているのかね!」
「うわびっくりしたいつの間に!?」
何の脈絡も前振りもなく隣で腕組みして立っていた博士の存在に、流石のまひとも驚いた。
「観客の傍にいなければ解説が出来ないではないか。それはそれとして、あの程度でどうにかなるものかよ」
ふ、と格好付けて笑う博士。
「あの機体は、私が持つ全ての技術と妄想と机上の空論を叩き込んだもの!」
「ちょっと待って、なんか今聞き捨てならない単語が混じっていたような気がするんだけど、アレまともに動くの!?」
「普通は動かないだろうな絶対に」
「おいィィ!?」
まひとの渾身のツッコミに、しかし博士は動じない。
「確かにあの機体、試作段階はおろか構想段階かつ勘だけで組み上げたシステムとかをこれでもかと押し込みテストもまともにしていない。動かないどころかいつ爆発してもおかしくない代物だ。自爆装置とかは別の問題として」
ぎぬらんと、博士の眼鏡が光る。
「だが、それを天下君が扱うと成れば話は違う。彼は困難であればあるほど実力だか強運だかよく分からない力で『最善』を導き出す。つまりあの機体の全ての問題点が、無くなるどころか逆転し最大限に優位点として働くことになるのだ!」
爆煙の中、ぎんっ、と輝くモニターアイ。
今まで太平の能力を調べてきたものは数多あるが、その力を最大限に引き出そうと考えた者は松戸 博士ただ一人。彼が産み出したのはがらくたどころか人類史上最大レベルの危険物にして、完全無欠に天下 太平専用である天上天下古今無双の機動兵器!
「名付けて【鬼神特攻! ダイテンカー!!】」
轟、と疾風が爆煙を吹き飛ばすと同時に、全く無傷の機体――ダイテンカーが姿を現す。同時にばきゃきんっ、っと力強くタイトルが画面に現れた。
「なるほど、どっかで見たことあると思ったら、先生から押しつけられたゲームか……」
テストプレイとかなんかの名目で博士から押しつけられていたロボゲーの数々。そのコントローラや画面との共通点がありすぎるコンソールの様子に、太平は頷いた。要するに、これを操縦させんがためにああいうゲームを押しつけたのだろう。こんなこともあろうかと言いたいがためにここまでするんだなあと、妙な関心をする太平。
まあともかく動かし方は分かると安心していたところに、敵ロボの一体が殴りかかってくる。ボーリング玉のような拳は狙い違わずダイテンカーの顔面に叩き込まれる――
寸前で、びたりと止まった。
頭部に命中する直前で、ダイテンカーの左手に真っ向から捉えられたのであった。押しても引いてもびくともしないどころか、ぎぎぎと音を立てながらゆっくりと押し返される拳の向こうで、モニターアイがぎいん、と光る。
「温いな。……殴るってェのはこうやるんだよ」
ぎゅいいいん、とダイテンカーの右手首から先が回転を始めた。激情のまま、太平はコントロールスティックにコマンドを叩き込みつつ吠える。
「ハードペインっっっ、ナックルゥァ!!」
ずどごん、と打ち出された拳がロボの脇腹に叩き込まれた。 そのまま回転と勢いを止めない拳は、敵ロボごとぶん回りながら飛翔する。
凄い勢いで回転する拳(と敵ロボ)は続いて襲いかかろうとしていたロボを、さらに後ろのロボを、さらに……と次々巻き込んでいく。最終的に数十体のロボが巻き込まれ回転しながら天高く押し上げられて。
ぶち抜かれた。
大爆発。それを尻目に戻ってきた拳を受け止めるダイテンカー。勿論そこでは終わらない。
「ついでに蹴るってのはこういうのを言う!」
どん、と大地を蹴り高々と飛翔。本当に誇称抜きで天高くいたり、きらんとした光になってから一気に急降下。その勢いに重力制御やなんかで威力を何乗にもして蹴りつける。
「アンガーライドォ、キックゥァア!!」
一体二体三体四体沢山。一気に一直線に百体くらいの敵ロボをぶち抜いて地面を盛大に抉りつつ降り立つ。勿論大爆発だ。
だがたかだか百数十体を始末した程度。敵はまだまだ限りなく湧いて出る。
そんな相手に対し、太平はオートでレティクルがロックしていくのを確認し、必殺技コマンドを叩き込んだ。
「コード解放! 焔獄よ、怒りの日より来たれ! インフェルノ・オブ・ディレスイレ!!」
ダイテンカーの胸部、両肩、腰部の装甲が展開し、無数の砲口が姿を現す。そこから一斉に吐き出されるのは熱線。それらは炎の濁流となって、まるで大蛇のように敵の軍団へと襲いかかる。
空間を湾曲したり圧縮したりして目標のみを焼き尽くす連装熱線砲。それは太陽の熱をも越える威力で叩き込まれた。
濁流に呑み込まれた砂山のように、次々と溶解し崩れ去る敵ロボ。地上に送り込まれたその大半が一気に消滅したが、まだまだロボは空間の裂け目を通って送り込まれてくる。
「……そこか」
太平の勘とダイテンカーのセンサーが空間の裂け目を捉える。本能的に『その先』に本命がいると悟った太平は、ゲージが溜まったのを確認して超必殺技のコマンドを入力。
両膝の主翼だったものが切り離され組み合わさる。現れるのは両刃の大剣。
それを目にしたまひとが博士に問う。
「あの剣は?」
「あれは使用者の持つ意志、精神波を増幅する機能しかない剣。だが天下君が使えば、その意志を極限まで増幅し物理的どころか概念をも越えるレベルの影響力を発揮する!」
すなわち斬ると言う意志を肥大化させ、具現化する剣。それは全ての物質はおろか時間も空間も、概念をも斬り捨てる無双の刃。
森羅万象総じて斬る、その剣の名は。
「名付けて【斬全剣】! やってしまえ!」
高く掲げられた剣から間欠泉のように光が放たれる。それは正しく天を貫く勢い。
「えちょっとアレヤバくない?」
「次元の壁を、壁を閉じなきゃ!」
プリーザと元女神が危機に気付いたときにはすでに遅い。無数のロボを巻き込みつつ、閉じられようとした空間に閃光の刃は叩き込まれた。
「ぜえりゃああああああああああ!!」
それは幾重もの次元の壁を、無限の距離を、一気に真っ向からぶった切っていく。
そして。
「「のおおおおおおおおおおおおお!!」」
抱きしめ合って悲鳴を上げるプリーザと元女神を飲み込み、二人が工場要塞化した惑星を真っ二つにした。
たちまち起こる極大爆発。天を埋め尽くすそれを背景に、ダイテンカーは大剣を振った。
「斬全剣、界滅の太刀!」
どどんとエフェクト文字が画面一杯に広がる。それと同時に、残っていたロボはどういう理屈か次々と機能停止に陥る。
完全無欠の大勝利。逃げまどっていたり災害救助活動に従事していたりする人たちは、唖然とその光景を見つめ、やがてゆっくりと事態が収拾したことに気付いたのか次々と歓声を上げ始めた。
やがて街を埋め尽くすような歓声が響き渡り、そんな光景をがっくりと肩を落としたグラン飛鳥とグレートスプリガンが見やっている。
「こんなことになるんじゃないかと思っていたけど……」
「ついにメカ戦の場まで奪われちゃった……」
がっかりとした正義と綾火の声。
「HAHAHAHAHAHA! 事件が解決したようでなによりじゃないか!」
「これも神の思し召しっちゅううヤツやのお」
「…………いやうん、いいんですけどね? いいんだけどね?」
満足そうに笑うおっさんじいさんに、心底精神的に疲れたブラさん。
とにもかくにも。
こうして華牡市を襲った侵略の魔の手は叩き潰された。
しかし、いつまた懲りない復讐者が現れるとも限らない。だが華牡市に降り立った新たなる守護神は、いかなる力にも屈しない!
戦え今回は本当に戦ったぞ太平。
戦え、鬼神特攻ダイテンカー!
なお、酷い被害を受けた華牡市街だが、幸いなことに怪我人は出たものの死者は一人も出なかった。
勿論被害は天文学的な数値になったが、主に被害があったのは前述の通りなんやかんやと問題のあった区画と、なぜか後ろ暗い企業や後ろ暗い組織や後ろ暗い人間が所有していたりする土地建物ばかりが被害に遭っていたため、逆になんか色々とすっきりしたらしい。そして後に匿名で誰かさんから多額の投資と寄付が行われ、あっという間に復興したようだ。
あと敵ロボの残骸とかはあちこちにうっぱらわれて、いい金になった。
「で、いつの間にうちの校舎魔改造しやがった?」
「いやそのあのですね、こんなこともあろうかと……」
「戻せや」
鼻のお通じが悪い。
耳鼻科はどこだ緋松です。
えー、今回の話はアレです、日常ものや学園もののアニメでやたら気合いの入っているロボ回、あの雰囲気を目指してみました。
でも、基本ロボ乗ってもやってること変わらねえ。つーかロボいらねえ。鬼に金棒とか何とかに刃物とかいうより酷いなんかが爆誕してしまったような気がしますが私は謝らない。
なお今回出撃から変形のあたりまでは『悪を立つ剣』を、戦闘シーンは『剣・魂・一・擲』をBGMにすると良いかも知れません。
では今回はこの辺で。てんふぉーてんてん。
 




