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前後編だがいつも通り思いつきの行き当たりばったりすぺしゃる  テンプレ乙女ゲームものと組み合わせてこともなし! 後編





事情を耳にした神仏伏魔どもはいきり立った。

具体的にはヒャッハー状態になった。(一部)


呉越同舟、そんな言葉では生ぬるい状況が保健室の中では展開されている。


「くくく……儂の世界に手を出すとは良い度胸ぢゃ」


爛々と目を怪しく光らせた神。


「今回ばかりは同意やなあ、ウチのシマで妙なことやらかしよって」


壮絶な笑みを浮かべるルーシー。


「不覚なのです。この学園の中で何者かの暗躍を許すとは……」


悔しげに唇を噛む美佳。


「み、皆さん落ち着きましょうよ~」


あわあわと役に立ちそうにない聖霊。


背中に炎を背負った三人(?)はあわあわしてる聖霊を余所に、ぎぎんと視線を一方向に向けた。


「「「で、どういう事なのか説明してくれる!?」」のです」

「ちょっとまってボクじゃない今回」


話を振られた成螺は眉を寄せて反論する。


「ってか最近みんなボクに責任とかなんやかんや押しつけようとしてない? 話投げてない?」

「日頃の行いって言葉知ってる?」


そんな奴らの様子を見ていたまひとがぼそりと零した。成螺はなんか情けない顔になって彼に対しすがるように言う。


「そんなぁ~、ボク邪神としては大人しめで品行方正じゃないかぁ。ちょっと悪戯好きなだけで」


くねくねしながら宣う成螺に対して向けられる視線は、揃って冷たい。


「「「「「で、どの知り合いがやらかしたかとっとと吐いてくれる?」」」」のです」

「マジ全く信用されてない!?」


がびびんとショックを受けた様子の成螺だが、勿論演技だ。この程度で一々ショックを受けてたら邪神なんかやってられない。


「まあ本当に心当たりないんですけどね?」

「あ゛? お主らントコ以外儂らに察知されない(・・・・・・・・・)ようちょっかい出せる(・・・・・・・・・・)存在がいるとでも?」


彼らがいきり立っている理由がそれだ。乙女にかけられた洗脳というのも生ぬるい『焼き込み』、それは神々の域の達するほど強力で巧妙なものだったのだ。それが知らぬ間に仕込まれていた、その事実は神たちのプライドをいたく刺激したのであった。

そして、そう言うことが出来るような存在と言えば心当たりはまず成螺の同類――古き支配者どもだ。虎視眈々とこの世界を狙っている連中がついに手を出してきたのかと、神たちは警戒している。


しかしそれは成螺にさくっと否定された。


「あ~、ないない。ウチの上司完全大平君にビビり入ってるから手出ししないよう厳命してるし、それ聞かない跳ねっ返りがどうなってるか言うまでもないでしょ? 今更太平君の周りにどの面下げてちょっかい出せるやら」


やれやれと肩をすくめて頭を振る成螺の様子を見て、皆の後頭部に一筋の汗が流れる。なにをやらかしやがった、いやなにをやらかされ(・・・・・)やがった。怖くてとても想像したくないが。

もちろん成螺が嘘をついている可能性は大いにあった。それが巡り巡って自分が酷い目に遭うのがこの話のパターンだが、成螺はど変態のM気質なところがあるのでそれを狙っている可能性も否定できない。

が、疑心暗鬼に凝り固まっても仕方がない。内心で疑いながらも一応信じることにして、彼らは話を進めた。


「さてこのたわけの戯言はおいといてじゃ、ともかく何者かがちょっかいを出してきたことには違いない。まあ狙いは間違いなく彼じゃろう」


どことなく悔しげに神は言う。この世界の頂点とも言える自分を差し置いて太平にちょっかいをかけられるなど、屈辱の極みだ。しかしそうなってしまうのも嫌と言うほど理解できる。なにせここに集った面子が束になってかかってもどうにもならない相手だ。彼を征すればこの世界を征したも同然。自分たちなどは木っ端にしか感じられないだろう。

それはいい、よくないがいい。問題は相手の正体、そしてそのの狙いがなんなのか、だ。


「接触を考えていた……にしてはお些末やなあ、天下君には色仕掛けとか通用せんし、ああいうタイプの人間は大嫌いやろう」

「です。操り人形としては不向きだと思うのです」


まずあの系統の人間は太平との接触に向いていないだろうと、ルーシーと美佳は考える。一途なところがある太平は二股三股など絶対に許容できない。事実ろくに会話もしないで乙女をボッコボコにしたところからもそれは十二分に理解できよう。

同様に監視とかそのあたりもありえない。あんな目立つことやっておいて監視とか無理だろう常識的に考えて。


となると。


「天下君に対してアクションを起こし、何らかの反応を見るというのは?」

「ありえる線だね。ただどういう反応が見たいのかはいまいち理解できないけど」


聖霊の言葉に頷くまひと。彼らはあの接触が偶発的なものだとは思っていない。仮にそうだとしても、それは太平に絡むほどの(・・・・・・・・)大きな運命の渦に(・・・・・・・・)巻き込まれた(・・・・・・)と言うこと。なにもないのであればそんなものに引き込まれはしない……と考えていた。

つまりは乙女に仕掛けを施したものは、至極面倒くさいか強力な力を持ちこの世界というか太平の周囲に害をなしそうな存在だと推測されるのである。そんな相手の考えなど予測するのは難しい。ましてや狙ってあのような接触を図ったのだとすれば、まず先に正気を疑うところからだろう。

人外の彼らを持ってしても想像がつかない相手。となるとやっぱりそれは限られてくるわけで。


「「「「「ホントに心当たり無い?」」」」です?」

「うわぁいボク泣いていい?」


しくしくと泣き真似をする成螺だが、はたと何かに気付いたようで即座に表情を変え、ぽんと手を打つ。


「そういや以前太平君を拉致した女神(笑)とかいたけど、ああいう類なんじゃない? 外の世界からの乱入者って感じで」

「元々お主らもそっち系統じゃろが。……しかし一理あるな」


成螺の言葉に顔を顰める神。確かに余所の世界の神々やそれに類する存在であれば、自分たちを上回る力を持つものだっているだろうし、自分たちには理解できないとんちんかん……もとい異質な思考をもつものもいるだろう。確かにそう言われれば可能性は高いように思われる。


「……そういうことであれば、我の目すらかいくぐって来るのも道理。あるいは何らかの手段で外部から直接彼女の心に干渉したと言う可能性もあります。人の心は一つの世界、その中まで我は干渉できませんから」


真面目な、精霊の王としてふさわしい表情で冷静に聖霊が言う。彼女の言葉はすなわち今回の相手は自分を出し抜くほどの能力があると俊唆している。それを否定出来るものは誰もいない。


「ではまずいかな手段を持って『この娘』の精神に干渉したか、だね。ちょっとばかり脳に直接聞く(・・・・・・)必要があるかもだけど」


少しだけ魔皇らしい気配を滲み出したまひとが、感情のこもっていない目で部屋の隅を見やり右手を胸にあたりに挙げる。その甲には複雑な魔法陣じみたものが燐光を放って浮かび上がった。


視線の先には縛り上げられ猿轡を噛まされた乙女が涙目でぶるぶる震えていた。なんかどう見ても悪の組織に拉致されたヒロイン系の絵柄だ。


「大丈夫大丈夫いたくはないから。いたくは」

「……精神が崩壊する系ちゃうか?」

「まあそういうこともあったりなかったり?」

「いやそれはダメなのです。さすがにその系はまずいのですよ」

「まあいいんじゃないかとボクは思うなあ。こんだけの面子いたら精神のリビルトとか楽勝だし?」

「「「「「この機に乗じてこの娘使徒とかにする気じゃなかろうな」」」」です」

「ぎく」


交わされる微妙に物騒な会話。

それを聞かされている乙女はただ恐怖に震えるしかなかった。











「ま、待っていたぞ天下 太平!」


僅かに震える虚勢を張った声がかけられ、太平は振り返る。


ひとがごった返す学食の中央、周囲の生徒が関わりたくねーといった様子で避けるそいつらは、一色を中心とする頭の中身が残念なイケメンども。「あ゛」とか不機嫌な声を上げる太平にびびくんと反応するが、引く様子はないようだ。

めんどくせーという内心を隠す様子もなく、太平は彼らと対峙した。


「で、何用よ」

「う、そ、その、あれだ、貴様に聞きたいことがある!」


ビビりながらも高圧的な態度を崩さない一色。もうこれはそう言う生き物なのだろう、太平はやる気なさげに返す。


「金なら貸さん」

「「「「「なぜそうなるっ!?」」」」」


斜め上の発言に反射的なツッコミ入れる一色たち。しかし太平にとってはそう外れたことでもない。


「だってあんたら、雷張先輩から色々訴えられてんだろ? どんだけふっかけられたのかは知らないけど、慰謝料だけで相当いくんじゃねえか?」


そのあたりは何となく耳にしている。まあ他人事なので知ったこっちゃなかったが。

ぐ、と一瞬言葉に詰まる一色だったが、気力を振り絞って声を張り上げる。


「それは今関係ない! 俺が言いたいのはそう言うことではなく、我が愛しき心の君、樋籠院 乙女の処遇についてだ!」

「なぜそれをオレに聞くか」


彼女の身柄は神たちに投げている。なんか自分の関わる問題じゃなさそうだし、正直関わり合いになりたくない。

しかしそんな太平の心情こそ知ったこっちゃない一色は、なおも食い下がる。


「貴様が彼女を拉致した事は分かっているぞこの卑劣漢! 一体彼女をどこに連れ去った!」

「保健室だが何か」


拉致したとは人聞きの悪いと思ったが、どうせ言っても不毛なことになりそうなのは目に見えていたので事実だけを言う。最低でも嘘は言っていない。

が、一色は納得しないようで。


「嘘をつくな! 貴様が雷張 麗と共謀し彼女を確保して何かを企んでいるのだろう! この俺の目は誤魔化されんぞ!」

「誤魔化されまくってんじゃねえか」


なんだこいつはと異星人を見るような目になる太平。どこをどうなったらそういう発想になるのか。足がくがくしてちびりそうになりながら言うことでもなかろうに。


太平は溜息を吐いて、拳を固めた。


「右斜め四十五度くらいからぶん殴ったら直るかな」

「ぼぼぼぼぼ、暴力に屈すると思ったら大間違いだ!」


取り巻きがひん、とか泣きそうな様子になり、一色の震えも生まれたての子鹿かってくらい足下おぼつかないものになりつつある。それでも彼は虚勢を張った。


「俺が本気を出せば、貴様の鞄の中をうまい棒でぱんぱんにすることだって出来るんだぞ!? いいかうまい棒でだ!」

「それ千円もあったらおつりくるだろうよ。つかなんでうまい棒か」


虚勢ですらなかった。もう一色本人も何を言っているのか分からないのかも知れない。

ここまできたら言葉を交わすのも億劫だ黙らそう。そう考えた太平が巻き起こすいつも通りのバイオレンスな嵐が吹き荒れようとしたその時である。


「お待ちなさい!」


ずばあんと学食のスライドドアが開かれ、姿を現したものは。


「この場は預かりますわ! このっ!」


ずばっ!


「鯉っ!」


以下略。


「またぞんざいに扱われていませんこと!?」


ずがびんとショックを受けるのは恋。だから貴様尺を取るんだっつの。

ともかく派手に登場した彼女は、どういうわけだか太平と一色太刀の間に割って入ってきた。


「財界の端っことはいえ曲がりなりにも名家の流れを引く殿方が見苦しいことこの上ありませんわね! その腐った性根、この鯉ヶ滝 恋が矯正して差し上げますからそこに直りなさい!」

「だんだんキャラクターがおかしな方向に突っ走ってるわね恋様」


気勢を上げる恋の背後からひょっこりと顔を出したのは麗だ。態度を見ている限りどうにも恋と知り合いであるようだが。


「あ、家の関係で付き合いがあるのよ。もっともウチとかこのバカ丸出しとかは下請けもいいところだけど」

「そんな麗様、ご自分を卑下なさってはなりません。この愚かな男はともかく雷張家が存在しなければ鯉ヶ滝は成り立ちませんわ」


なんとなく力関係は分かった。まあ一般市民から見ればどの家も天の星だ。そんな連中がほいほい公立校に通うなよとか思うがそれはさておいて。


「き、貴様ら! 共謀し立場と権力にものを言わせて我々を圧し我が愛しき秘宝に害をなす気なのだろう! 天が許してもいつかそれは大いなる災いとなって貴様らの身に返ってくることとなろう!」

「……えっと、何を言ってますのこの男」


正しくお前は何を言っているんだという表情になった恋が言う。彼女だけでなく太平や野次馬もそういった表情になっていたが、麗だけは呆れ果てたと言った顔で深々と溜息を吐く。


「アンタねえ、その『ボクちゃん悪くない全部他人のせい』っていう現実逃避やめなさいよみっともない。だから長男なのに後継から外されんのよ」

「あん? どういうことだ?」


太平に問われて麗は説明を始める。

以前から一色は何かテンパるようなことがあると責任逃れと現実逃避が重なってすっとんきょうな発想に至ることがあったという。例えば今回の場合。


俺は何もしていない、だから悪くない。

       ↓

もちろん俺が信じた乙女が悪いはずもない。

       ↓

であれば悪いのは他の連中。

       ↓

だが具体的な証拠はなにもない。

       ↓

証拠の隠蔽!? おのれ卑怯者どもが!

       ↓

正義の名の下に真実を明らかにし罪を追求してくれる!


という三段論法もびっくりなワープ理論にて彼は行動していたらしい。ここまでバカだといっそ清々しいと言って良いかも知れない。いや清々しくもなんともないが。

そしてこのわけのわからん発想が故に家長として不適切と判断され、後継からは除外されてしまったという。幸いにしてそれなりに有能な人間が他にいたために、芽院家としては大した問題にされていなかった。


太平が、恋が、野次馬が。一色の一党以外の全員が深々と溜息を吐く。その視線に浮かぶのは哀れみと見下し。

同じ色を瞳に浮かべた麗が、裁判の判決を言い渡すかのように告げる。


「恐らくは卒業後家から勘当するとか言われたからこのような行動に出たんでしょうけど、今更何をやっても無駄よ。それどころか見当違いの正義を振りかざして暴走するなんて男が下がる一方ね。価値がゼロどころかマイナスなってることに気付いてないのってか目をそらしてるでしょ。私怨と妙な敵愾心抱いて天下君につっかかったんでしょうけど、この人とあなたじゃ天と地ほども価値が違うわ」

「な、なに!? 俺がそこの暴力しか取り柄のない男より価値がないだと!?」


怯えを忘れ激昂する一色だが、さくりと恋に返される。


「当然ですわね。何しろ彼の個人資産は芽院家の総資産を(・・・・・・・・)上回っていますもの(・・・・・・・・・)

「「「「「………………はいぃ!?」」」」」


一色とその取り巻きだけでなく、野次馬ってた周囲の人間も目を丸くする。太平はというと。


「……そんなに儲けてたか? ってか勝手にバラすなや」


てな感じで渋い顔している。


何しろ前々からあちこち殴り込みに行くついでに金銭財産かっぱいで来ていた上に、それを信頼できる人間を通じマネーロンダリングを兼ねて海外の利率の良い銀行に預けたり投資に突っこんだりしていたら、あれよあれよと言う間に膨れあがったわけだ。そこいらの投資家よりはよっぽど金持っている。


「……そういえば、ウチが後援している孤児とか福祉の施設に匿名で誰かさんが寄付してたわよね」

「まあ、マネーロンダリングの一環だとか言いながら見返りなしでどかんと寄付する姿が目に浮かぶようですわね」

「人の好感度上げてどうする褒め殺す気か」


太平からしてみれば本気でヤバそうな金を処分するのに好都合だったからなのだが、変なところで評価が上がるものである。ってかなんでこいつら知っているか。

むふんとドヤ顔で恋の背後に控えるセバスチャンの姿を見て、なんか色々と諦めた太平であった。


まあそれはそれとして。


「こ、こんな……こんな男より俺が下……無価値……マイナス……」


魂が抜けたような様子でがっくりと膝をつく一色。彼は決して無能ではないが、性格と相手が悪かったとしか言いようがない。諦めて取り巻き共々新たな人生を歩んでもらいたいものだが正直どうでもいいので適当に頑張ったらいいんじゃないかな。


野次馬たちも終わったみたいだしあとはどーでもいいやといった風情で三々五々と散り始める。と、その中から太平たちに向かって一歩踏み出す人間がいた。


「あ、あの、お話は終わったかな……?」


おずおずと問うてくるその人物――メガネ三つ編みの上級生であろう女性に対し、太平は首をかしげて見せた。











どんどこどんどこどんどこどんどこ。


勇ましく太鼓の音が鳴り響き。


「「「「「うー、やー! うー、やー!」」」」」


篝火が焚かれる中、三等身くらいのちっこい子供のような何かが円を描いて踊り狂う。


「もー! がー!」


その中央では床に描かれた魔法陣っぽい何かの上で、縛り上げられた乙女が泣きながら猿轡越しに必死で何かを訴えかけている。


「………………なんぞこれ」


保健室の扉を開けた太平が、思わずそう零しても致し方ない光景であった。


そんな彼に語りかけてくるのは成螺。ベースこそいつものスーツ姿であるが、頭にはネイティブアメリカンが付けるような羽根飾り。そして腰蓑といった風体だ。


「や、太平君どしたの?」

「その前になんすかそのプライドかなぐり捨てた格好」

「プライドは投げ捨てるものと葉隠でも書いてあってね?」

「……まあいいですが」


どうせまたしょうもない理由だ、聞いたオレがバカだったと思考を切り替える。


「いえね、ちょいとそこのアレな先輩がおかしくなった理由に心当たりがあるって人がいて……」

「「「「「なんだとぉう!?」」」」」


太平の台詞に部屋の中の人外どもが覿面に反応して殺到する。見れば全員成螺に負けず劣らずのみょうちきりんな格好だ。


「ってまひと、お前ここで何してんの」

「あ、いやそのあはははは、なんかノリで巻き込まれちゃって」


巫女服を纏ったまひとは汗だくになりながら笑って誤魔化す。その背後で周囲に余計なこと言うなと殺気を飛ばす器用な真似をやってのけている。


「そんなことはどうでもいいわい、その話確かなんじゃろうな!?」


僧衣に袈裟がけの神が血走った目で迫る。こいつもなかなかプライドない格好だがそれどころではなかった。

何しろ今の今まで乙女を調べてなんの手がかりも得られなかったのである。周囲に神々どころか普通(?)の人外系の影すら見られない。散々手を尽くし挙げ句の果てがこのらんちき騒ぎなのだが、もはやほとんどやけくそで意地だけがテンションを保っていた。

それがいつものごとくさくりと解決手段の手がかりを持ってこられて腹ただしいやら情けないやら。だがここまで来れば白黒はっきり付けなければ気が済まない。まさにプライドを投げ捨てて彼らは太平の話に縋る。


「いやオレぁ知らないけど、取り敢えず話聞いてみたら?」


そう言って太平は、後ろに控えていたメガネ三つ編みを押し出した。

おどおどしていたメガネ三つ編みは保険室内の光景に唖然とするが、それに構わず揃ってミニスカメイドコスを身に纏ったルーシーと美佳に詰め寄られる。


「さあ、どういうことだかとっとと吐いてもらおうやないかい!」

「この場で虚偽を成すことは重大なる罪と心得るのです!」

「え? あの、えっと?」

「二人とも落ち着いて下さい。まずは話を聞いてみないと」


そう言いつつ割ってはいる聖霊が一番落ち着いていない。

なぜかビキニアーマーにドクロの被り物、そして鬼面を模した盾に石槍を手にして顔には奇天烈なペイントだ。一体どこのアマゾネスか。


「あ、調査に必要な精霊を行使するのにはそれなりに必要な格好をしないといけないので」

「一体どんな精霊だとかあの三等身のちっこいの精霊だったんかとかツッコミどころ満載だがそれはいいとして」


ほれ、と太平がメガネ三つ編みを促すと、彼女は戸惑ったまま口を開く。


「あ、あの……樋籠院さんはどちらに……って乙女ちゃん!?」


縛り上げられている乙女に駆け寄り猿轡を解く。口だけ解放された乙女は。


「あなたは……え? あれ? あたし? え? ええ!?」


メガネさん(仮)を認識した途端、なぜか困惑したような声を上げる乙女。その様子を見て神は目を見開く。


「バカな……我々でもどうにも出来なかった洗脳が、解けかけているだと……?」


その言葉に驚愕する人外ども。その視線は一斉にメガネさん(仮)へと向けられた。

そして。


どんどこどんどこどんどこどんどこ。


「「「「「うー、やー! うー、やー!」」」」」

「「「「「さあ、洗いざらい吐いてもらおうか!」」」」」

「話しますから変な儀式を始めるのは止めてェ!」


危うく生け贄にされかけたところで太平の鉄拳制裁が冴え渡り、解放されたメガネさん(仮)は困惑している乙女の隣で語り始めた。


曰く、彼女は乙女とオタ友だったらしい。二年生までは共にオタ道を爆進していたのだが、三年に上がってから乙女が情緒不安定になってきたという。


「まあ受験とか人間関係とか色々です。元々思いこみの激しいところがあったから一度悩み出すと際限なく落ち込んで行っちゃって……」


一時はノイローゼに近い状態になり、登校拒否寸前まで行ったそうだ。メガネさん(仮)もそれなりに手は尽くしたが所詮素人、あっという間に打つ手もなくなる。

そこで彼女は自棄になったようにある手段に訴えた。


「えーっとまあその、こうやって五円玉を糸でぶら下げてぶーらぶらと目の前で振って……」

「………………あ、なんか思い出してきた」


冗談みたいな話だが、そんな胡散臭い催眠術もどきで乙女はあっさりと暗示にかかったという。その内容は……『乙女ゲーム』。


「正確にはこの世界が乙女ゲームみたいなものだと思えば気楽になるよ~、ってな感じでちょっと考え方が変わる切っ掛けになればと思ったんですが……なぜか暴走してガチでヒロインの真似事始めちゃうしイケメンだけどアレな人たちと絡み出すしもうどうしたもんかと~」

「いえあの……正直すまんかった」

「いやおかしいじゃろ、マジおかしいじゃろ」


滂沱の涙を流すメガネさん(仮)に対して、やっと正気を取り戻したか平謝りする乙女。そんな状況で神はツッコミ入れた。


「いくら思いこみが激しいと言ったところで、ただの似非催眠術程度で我々にも解けないほどの洗脳にかかるはずがないじゃろが! もっと深遠で巧妙な何者かの魔の手が……」

「んン~?」


冴え渡るツッコミの背後で、訝しげに目を細める成螺。

そのまま彼女はひょいとメガネさん(仮)の前に移動し、その顔――主にメガネ越しの瞳をしげしげと覗き込む。


「あ、あの? なんでしょうか?」


その疑問には応えず、成螺はひょいっとメガネさん(仮)のメガネを外す。「あ」と言う声と共に現れたのは、以外と整った素顔。困惑するその顔にキスでもせんばかりに接近して成螺は観察を続けた。


ややあって、彼女はひょいと振り返りこともなげに言う。


「この子、【魔眼】持ちだわ。しかも神代レベルの」


魔眼。なんか強力な暗示をかけたり石化させたり死の線が見えちゃったりする結構凄い能力である。

が、素人には分からないしそもそもモブな人間がその能力を持っているなど誰が予想するか。伏線もないのに。


静まりかえる保健室。ややあって。


「「「「「はああああ!?」」」」」


悲鳴のような声が校舎を揺るがした。


「そんなんもってて気付かんはずがいや自己申請というか自覚無かったらたしかに儂でも気付かないけど!」

「伏線とか全くなしでこういう展開とか卑怯ちゃうん!?」

「な、納得がいかないのです! あまりにも唐突すぎるのです!」

「ふ……不覚。完全に見落としてたよ……」

「皆さん落ち着いて! ほらひっひっひふー、ひっひっふー」


パニックになったり落ち込んだりと騒ぎ立てる人外ども。その様子を見て青ざめたメガネさん(仮)は、恐る恐る成螺に問うた。


「あ、あの、今の話の流れからすると、もしかして私ってなんだか凄い力を持っていたりいなかったりするんでしょうか?」

「うん、ボク含めたこの連中に詐欺働いて騙くらかす程度には」


さくりと、しかし実はとんでもないことを宣言されたメガネさん(仮)はびきりと硬直し――


突如盛大に泣きわめき始めた。


「いいいいいいいやあああああああああ! この界隈で変な力持ってるって確実に頭のおかしい人や事件に絡まれるって事じゃないですかあああああああ! そんなフラグいらねえええええええええ!!」


魂の叫びであった。


「なんとかならないんですかねえ! なんとかなりませんかねえ! なんとかしやがりくださりやがりゃあああああああ!!」

「うにゃあああ!! ぶんぶか揺らしながら魔眼使うのやめてなんか酔うううう!?」


発狂して成螺をつるし上げ迫るメガネさん(仮)。


「ちょ、ちょっと落ち着いて一体どうなってんの!?」


完全に洗脳が解けたらしく困惑しながらもメガネさん(仮)を止めようとする乙女。


結局ぐだぐだである。


「…………どーすんの、これ」


太平の声が喧噪やまぬ保健室の端っこに、こっそりと響いた。











最終的に、メガネさん(仮)の魔眼が厳重に封印されると言うことで話は付いた。


「ん~、勿体ないなあ。その能力ちからを使えば面白おかしい人生が送れるのに」

「面白おかしいと書いて艱難辛苦って読む人生でしょうが! 全力でお断りします!」


あくまで自分はモブでいいと主張するメガネさん(仮)の意志は固かった。

なお最後まで(仮)だったのは名前出したら準レギュラーとかにされちゃうじゃないですかという主張からだが、残念なことに彼女は某委員長と副委員長という存在を忘れている。まあそのなんだ、頑張って欲しい。


で、事が終わった後の人外どもは成螺抜かして全員真っ白に燃え尽きていた。


「なんじゃろうなあこの徒労感……まさに大山鳴動して鼠一匹じゃなあ……」

「はっはっは、ボクらの界隈じゃよくあることじゃないかしょうもないオチなんて」


もちろん成螺の言葉なんぞなんの慰めにもならない。

例え超越者と言えど、話の都合という大いなる運命の流れには逆らえないと、改めて身に染みたようであった。


でまあ乙女はというと、あたしはしょうきにもどった後、迷惑かけた各方面に土下座行脚と相成ったようだ。

元々思いこみが激しいだけで根は善良なものだったようだ。今回のことですっかり悩みやなんやは吹っ飛んだようで、心を入れ替えて受験とかに挑んでいるようである。


一色とその取り巻き? まあ生きてるんじゃね? (投げやり)


ともかく、今回の事件で神々は思い知った。そして一般生徒たちも。

たとえモブであろうと一瞬の油断も出来ないと。


忘れるなかれ。モブであろうが一発キャラであろうが、美味しいと思ったら引っ張り出されるのだと。レギュラー昇格という地獄はいつでも口を開いて待ちかまえているのだと。


次は……アナタノバンカモシレマセンヨ?


「「「「「いいいいいいいいやあああああああああ!!」」」」」


↑モブ生徒魂の叫び。











「おとーさん最近出番無いなー。つまんないなー」


↑太平に金を預けられてあほみたいに資産増やした人。












規定量越えたらここまでデータ通信の速度が遅くなるとはおもわんかったわ!

でももう1ランク上は高い緋松です。


はいスペシャルと言いながらいつもと内容は変わっていない後編にして今年最後の投稿です。うんいつも通りの酷いオチだ。竜頭蛇尾とか羊頭狗肉とかが緋松大好きなのでしょうか。今年も最後までこんなんです。多分来年もこんなんでしょう。


しかしどうやって乙女ゲームをしっちゃかめっちゃかにするかだけを考えて話作ったらごらんのありさまだよ。天下世界にぶっこんだらなんでもこうなるというだけなのかもしれませんが。もう少しこうなんというか、芸風の幅が欲しいと思います。


それではこの投稿が今年最後の更新となります。皆様今年もお世話になりました。

また来年もこの作品に目を通して頂けたら幸いです。


それでは、よいお年を。

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