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一回休みでごめんねすぺしゃる テンプレ乙女ゲームものと組み合わせてこともなし! (前編)





昼休み。太平は昼食を取るために学食へと赴いていた。

普段弁当を用意している彼がここにきたのはまあ、大したわけではない。以前諸事情(だいにじゅういちわ参照)により手に入れたAランチの食券、その最後の一枚を使うためだった。


毎日Aランチを頼むのではなく、少し間を空けて思い出したかのように使う。食券に期限がないからこそ出来る芸だ。しかしそうやって使っていた食券もこれが最後。太平は感慨にふけりながら食券をランチと交換する。

目玉焼きの乗ったハンバーグステーキ、具だくさんの豚汁、そして大盛りのご飯。孤独にグルメってる人も大喜びな一品だ。太平は内心舌なめずりし、逸る心を抑えながら席へと向かう。


幸せなのはそこまでだった。


「――貴様との婚約を破棄させてもらう!」


そりゃ太平だって浮かれていた。ちょっと周りに対して不注意が過ぎていたのは間違いない。

だからといって、いきなり目の前にずはっと伸ばされた腕を避けられたかどうかは別問題で。


「「「「「あ」」」」」


呆気にとられる数多の声。スローモーションのようにゆっくり流れる時間の中、弾き飛ばされたAランチがゆっくりと宙を舞い、そして。


がしゃんと床にぶちまけられた。


凍る学食内。しん、と静まりかえる中、太平はぎぎ、と軋んだ音を立てて無表情に右を見る。

顔立ちがちょいときつめの美少女が、怯えた表情でこちらを見ていた。


ぎぎ、と無表情に左を見る。

まず目に入るのは、ずはっと腕を伸ばした姿勢のまま硬直している美形。気の強そうと言うか俺様エアーを纏っているが、今は唖然と間の抜けた顔をさらしている。勿論その伸ばされた制服の腕はハンバーグステーキのソースで汚れていた。

その背後にはなんかメガネで腹黒そうな美形とマッチョで脳筋そうな美形とヤンキーっぽいチャラそうな美形と明らかに教師だろうお前と言った風情の美形とちょっとショタ入った双子の美形と完全にショタと、そしてそんな連中に囲まれたなんか脳味噌お花畑なエアーを漂わせる美少女が唖然と間の抜けた顔をさらしている。


鉛のような沈黙が暫く続き、そして。


どこからともなく地響きのような音が響き始め、なんか戦慄を呼ぶ音楽が流れ始める。


「なにこの冥王が覚醒しそうなBGM!?」


誰かが声を上げるが勿論それどころじゃない。ひ、と引きつった悲鳴が小さく上がり、そして表情が陰に隠れ赤い眼光を灯した太平が、大きく腕を振りかぶった。


マグニチュード10を超える衝撃と打撃音が、学食からしばらくの間響いていたという。











「で、お前ら何?」


俺様っぽい美形とその取り巻きらしい美形どもとおまけのお花畑っぽいのを纏めてしこたまぶん殴った後リノリウムの床に正座させて、その眼前でどっかりと椅子に腰掛けた太平が問いかけた。


「か、仮にも上級生に向かって……」

「あ゛?」

「いえなんでもありません……」


ボコボコに顔を腫らした俺様っぽいのが抗議の声を上げようとするが、太平の一睨みでしおしおと引っ込む。そりゃ自己中ぶりでも傍若無人ぶりでも戦闘能力でも太平に比肩できる人間なんぞなかなかいない。例え上級生だろうが何様であろうが凄まれたら抵抗できるものではなかった。


それはさておき。


「いいから名乗れや人のお楽しみをじゃましくさったゴミにも劣るくされ先輩さんよ」

「ぐぬうっ! き、貴様この俺を知らないと言うのか! 高貴なる血を引き日本に名だたる名家の嫡男であるこの俺、【芽院めいん 一色ひいろ】を!」

「知らん」


殴られた時よりもショックを受ける俺様っぽいの――一色。自分の家の権力を惜しみなく使い、なおかつその威光にひれ伏すような人間ばかりを相手にしてきた彼は、その威光が効かないどころか存在することすら知らない人間がいると言うことが、俄には信じられなかった。

まあそんな人間がなんで三高なんぞに通っているのかと言う疑問があるが今更だ。太平は鼻を鳴らして話を続ける。


「そんで、なんでまた人でごったがえってる昼の学食なんぞで騒動を起こしくださりやがったゴミにも劣る腐れ芽院先輩」

「いや騒動を起こしたのはむしろ貴様いえなんでもございません。我々はその、そこな悪女を断罪しようと義憤に駆られていましたわけで」

「は?」


何言ってんのこいつと、宇宙人を見るような目で一色を見る太平。そのまま彼が指し示す先に視線を移す。

そこには多くの気弱な生徒に混ざって、先程の美少女がへたり込んでぷるぷる震えている。確かにきつめの容貌で気が強そうではある。何か悪いことをしてもおかしくはないだろうが。


「それが学食とどういう関係がある。みんな昼飯という忙しくもまったりタイムな幸福を享受すべきこの神聖なる場所で」


どこまで学食というか昼飯を神聖視しているのか。ともかく太平は行おうとした行為ではなくTPOに関して問いただした。その語外にやるんならよそでやれやというエアーがばりばりと漂っている。

その問いに、一色はおずおずと答えた。


「それはその……衆人環視の中で彼女を罰することは我々の正義と合いを世に知らしめることになると……」

「だったら新宿ア●タ前あたりでやってろよなんでオレに迷惑かけてんだよこの脳腐れが。大体罰するとか言ってるが、そこのねえちゃんが何したって言うんだ」

「それは! 我が愛するこの【樋籠院ひろういん 乙女おとめ】に対する筆舌に尽くしがたいいじめの数々だ! 我々が介入しなかったら彼女は純潔すら危うく……くっ!」


何かを思い出したのか、怒りの表情で唇をかむ一色。

それに対して太平は、冷たい視線を向けこう言った。


「警察行けや」

「「「「「……え?」」」」」


唖然とした声を上げる関係者たち。太平は呆れ果てたといった様子で続ける。


「ほんとにいじめを何とかしたいと思ってるんなら、とことん話をでかくするのが一番だろうが。この状況じゃ教師が冷静な判断できそうにねえから校内で訴えるのもどうかと思うしな」


ぎらりとボコにした美形教師に視線を向ける。ここの教師はわりかしフランクというかアレなのが多いが、まさかこんな痴話喧嘩の当事者になるようなナニな人間がいるとは。

世も末だ、いや今更か。そんなことを思いつつ再び口を開く。


「教育関係に訴えるんなら県の教育委員会か文科省に直接だ。市クラスだと教育関係丸ごと腐ってる可能性がある。あとマスコミに情報を流しておけばいい。あいつら普段は鬱陶しいがこう言うときには役に立つ。ともかく情報を大々的に拡散し、下手人が下手に言い逃れ出来ない状況に持っていくべきだろう。最後に必要なのは裁判でとことん戦い抜き慰謝料をこれでもかとふっかける度胸と根性だ」

「「「「「(極論だああああ!?)」」」」」


間違ってはいないかも知れないが極端かつ徹底的すぎる。いじめのレベルにもよるけれど明らかにやりすぎでは無かろうか。

もっとも太平は、『ある前提条件』を元に言っている。それがなければ太平はこんな事を口にしてはいない。


と、未だ美形に囲まれ震えていたはずのボコられたお花畑――確か樋籠院とか言ったか――が、突如震えながらも勇気を振り絞ったかのような風情で立ち上がり、太平に向かって必死で訴え始めた。


「わ、わたしのせいなんです! わたしが一色君たちと仲良くなったから、それを妬まれて! こんな、こんな事になるなんて、話を大きくするつもりなんか!」


その言葉に、美形どもは覿面に反応する。


「何を言う、お前の責任ではない! 全ては我が婚約者でありながら醜い嫉妬に狂ったあの女の責任だ!」

「その通り、君が心を病む必要はない。あの女狐の悪行は目に余るどころじゃないのだから」

「何があろうとお前を護る! そう約束したろう!」

「お前が自分を責めるこたァねェ! 悪いのはあの女だ!」

「生徒が困っているのであれば助けるのは教師の義務。君は黙って助けられればいいのだ」

「「姫のせいじゃないよ!!」」

「だ、だいじょうぶだよ! わるいことしたらちゃんとばつがくだるんだから!」


自身の苦痛をものともせず口々に少女――乙女を慰めようとする美形たち。

感動的(?)な光景だ。だが太平の前では無意味だ。


「そうかてめえのせいか」


がっ! という衝撃と共に、乙女の視界がふさがれる。そこから間髪入れずに激痛と浮遊感が彼女を襲った。


「あだだだだだだだだ!?」


アイアンクローをかけられて持ち上げられる。ただそれだけのことが地獄の責め苦のごとき激痛を乙女に与えていた。

瞬時に行われたいとも容易く行われるえげつない行為に、唖然としてじたばたする彼女を見やるしかなかった美形たちだが、はたと我を取り戻す。


「きさ……」


しかし彼らが行動を起こすより先に嵐が吹き荒れた。太平が乙女を掴み上げたまま、足だけで美形を全員叩き伏せたのだ。

床に伸びてぐが、と呻く一色の頭をぐりぐりと踏みつけながら、太平は口から火を吐きそうな不機嫌さで言葉を吐き出す。


「おめえらもおめえらだがな、婚約者のいるような男と不用意に仲良くする……のはおろか他の男ともへらへら愛想振りまいて仲良くしてりゃ周りからいい目で見られるわきゃねえだろうボケカスが。ましてや婚約者にしてみりゃ明らかに泥棒猫。そりゃいじめどころか刃傷沙汰に発展してもおかしかないわい。情状酌量の余地は十二分にあると思うがどーよコラ」


あぎぎゃぐべえと乙女の反応がヤバいものになってきているが一切合切気にせず、太平はぎしぎし締め上げながら言いつのる。まあ確かに正論だが乙女と美形どもがそれを聞き入れるかは別問題だ。それを理解しているのか、太平はぎいっと視線を変更した。

その先にはへたったまんまのきつめ美少女。「ひいっ!」とか声を上げて後ずさるが、当然太平は容赦しない。


「で、アンタはこの脳の代わりに綿菓子が詰まってるようなバカになにしたんだ?」


少女は怯えていた、これ以上ないほどに。そうでなくても本気でムカついている太平の前で虚偽の言葉を発することが出来る人間などそうそういない。

だからこそ、彼女が発した言葉に太平は眉を顰める。


「し、知らない私いじめなんかやってない! そもそもそのひと誰なのよ!?」


この状況で嘘が吐けたら女優どころか神々にすら詐欺を働けるだろう。太平は再びぎい、とバカどもに向き直り、そして最早泡を吹き始めている乙女を無造作に床へと叩き付けた。

床にクレーターを穿ってびっくんびっくんいってる彼女を尻目に、今度は一色の胸元掴んで引きずり上げ、凄んだ。


「おいこらてめ、証拠は?」

「う……あ?」


半ば気絶した状態から覚醒した一色は、朦朧とした様子で曖昧な返事を返す。まあ太平に効き方も唐突すぎて意味が理解できないと言う部分もある。太平はイラついた様子で一色を締め上げる。


「だからよ、あのねえちゃんがそこのバカいじめたって証拠はあるのかって聞いてんだよ」

「おぎぎ……そ、それは彼女が涙ながらに訴えた証言があるし……あの女に無茶苦茶にされた教科書や制服という物的証拠もある……」


苦しい息の中で訴える。しかし太平は益々イラついた様子だ。


「話にならねえな」


斬って捨てる。ムカつく相手が言っているという色眼鏡もあるが、それのどこが証拠になるのだと太平は思う。証言だけでは根拠が薄いどころではないし、物的証拠とやらも百歩譲って『いじめられた証拠』にはなっても『乙女が少女にいじめられた証拠』にはならない。物から指紋でも検出されていたならば話は別だが。


太平は舌を打ち、そうしては無造作にぱちんと指を鳴らした。

それに答えて太平の背後にしゅばっと現れる影が、二つ。


「「およびでございますか」」


一方は三高が誇る忍者男子高校生、篠備賀 透。もう一方は鯉ヶ滝 恋専属執事にしてSITUJI★隊筆頭、セバスチャン。

跪き頭を垂れた二人は瞬時に互いの存在に気付いた。


一瞬交わされる鋭い視線。そして。


「「おおっ!」」


がぎっ、と打ち込み合い組み合った。なんか知らんが互いをライバルだと認識したらしい。


「ああ、篠備賀のほうな」


太平がそう言った途端崩れ落ちorzるセバスチャン。そして勝者のガッツポーズを決める透。


「して、何用でございましょうか」


改めて跪く透に、太平は頼み事をする。


「すまねえけどこいつらが言ってるいじめとやらを調べてもらえねえか? 報酬は好きな丼物で」

「は、承知」


受け答えの後、透はしゅばっと姿を消す。彼を待つ間に太平はバカどもを学食の片隅に積み上げ、へたっていた少女を椅子に座らせた。

そうした彼女の前にどっかりと座り、問いかける。


「あんたの主張を聞こうか。なに悪いことしてなきゃ悪いようにはしない」

「わ、悪いことしてた場合は?」

「酷い」


これは嘘や誤魔化しなどできないなあと、少女は襟元を正した。


そして少女は語り出す。一色と同じく三年生である彼女の名は【雷張らいばる れい】、結構良いところのお嬢さんだった。まあ婚約者なんぞがいる時点でお察しではあるが、本人はあまり乗り気でなかったらしい。


「そもそもが親の口約束レベルの話だったし、第一私あの男嫌いなのよ」

「なんでまた……って大体分かるが」

「でしょ? 見ての通り後先考えないバカなのよ。まあ成績は悪くないけどトップ集団に食い込めるかどうかってレベルだし、性格は俺様自己中高飛車。はっきり言って結婚したらまず間違いなく精神的DVかますタイプよね。ってかなんかかんかこっちに突っかかってくるんですでに鬱陶しいわ。家の繋がりがなかったら即縁を切ってたわよ。もうこうなったから縁切り一直線間違いなしだけど。超清々するわね」


表情と態度からして実際蛇蝎のごとく忌み嫌っているようだ。なんか一山いくらっぽく積み上げられているバカ集団の一部がびくんびくんいってるような気がするが放っておこう。

ともかく一色バカ関係でいじめなんぞするはずがないと、麗はそう訴える。


「むしろのしつけて差し上げたい。心の底からそう思う」

「ほぉ~」


吐き捨てるように言う麗。そして太平は。

びきびきと額に青筋を浮かべお怒りモードであった。


「あんたの話を信じるならば、だ。この男は婚約者であるあんたをないがしろにした挙げ句浮気。そんでもって綿菓子脳の訴えを真に受けて難癖&婚約破棄をぶちかまそうとしてオレの楽しみを邪魔しくさったわけだな?」

「まったくもってその通りね。このバカの戯れ言に比べればAランチのほうが万倍は価値があるわ。むしろ金払えってレベルね実際慰謝料請求するけど」

「ついでに名誉毀損も……」

「お待たせしました天下殿」

「お、早いな」


再びしゅばっと現れた透が差し出してくる資料を手に取り目を通していく。

しばらくの後顔を上げれば、お怒りマークが増していた。


無言で資料を麗に手渡す。それに目を通していくうちに柳眉が逆立っていく彼女を尻目に太平は立ち上がるとつかつかバカどもの元に歩み寄り、その中からむんずと乙女の首根っこを掴み引き上げた。

気を失ったままの乙女を数回ビンタ。「ひぎゅう」とか呻きながら何とか覚醒した彼女に向かって、太平は凄む。


「なあ、今報告を見たけど、こっちの先輩はおろかお前さんがいじめを受けてる様子なんざ欠片もないって内容だったんだがな? どういうことだろうな一体」

「そ、それは何かの間違い……」

「生憎と調べたのは篠備賀 透、人格はともかくガチの忍者だ。誇りにかけても虚偽の報告なんぞするか」


わりと太平の透に対する信頼度は高い。むしろこの言葉に透の方が驚いた、そこまで信頼度高くなるようなことしたっけかと。

まあ初対面で印象悪い女よりも『友人』のほうを信用するってだけであるが。


「どっちかってーと周囲から関わり合いになりたくないってどん引きされてんじゃねーか。言動がイタくて」

「なんで……こんな展開、あたし知らない……」

「おら呆けてんじゃねえぞ目ェさませや」


ぶつぶつと虚ろな目で何かを呟き始めた乙女に再びビンタ。現実逃避なんぞ許すはずもない。


「ちが、違うのお! あたし、こんな事になるはずじゃ! なんでよお!」


ついに泣きわめき始める乙女。その程度で太平は容赦しない。ごがんと拳固とたたき落として強引に黙らせる。


「あ゛? 何考えてたんだか知らないがてめえの都合に合わせて世の中が動くわきゃねえだろう。因果応報自業自得、やったことやった分が丸々自分に帰ってくるようになってんだよ」


虚飾に塗り固められた砂上の楼閣なんぞ崩れ去って当然。太平は乙女がいじめられたと嘘をつき麗を填めようとしたのだろうと半ば確信していた。

そういう人間はだいっきらいな男である。徹底的に叩き潰すAランチの恨みも込めてと決意を新たにした。食い物の恨みは末代まで祟るのだ。


「で、てめえ何考えてこんなことやらかしやがった。場合によっては出るとこ出るぞ」

「そうね最低でも慰謝料請求の対象にはなるわねそこのバカどもともども」


太平の尻馬に乗ってうんうん頷く麗。学食でいきなり始まった糾弾に唖然としていたり太平の行動に怯えたりしていた彼女だが、本来強かな女性らしい。太平が絡んでこないでもなんとかしたんじゃなかろうか。

それはともかく太平につるし上げられている乙女だが、なにか自棄になったかのようにわめき散らし出す。


「なによ! なんでこんなことするのよ何が目的よ! どうせあんたらも『転生者』なんでしょお!?」

「「は?」」


乙女の台詞に目を丸くして、思わず顔を見合わせる太平と麗。当然ながら彼女の台詞に心当たりなどない。


「え? てんせい? なに言ってんのお前?」

「しらばっくれんじゃないわよ! あんたらだって神様に転生させてもらったんでしょこの世界に! 乙女ゲームの世界に(・・・・・・・・・)!」


ああなるほど、電波か。麗を含む一般人はなんだか生暖かい目でそう言った判断を下す。前々からイタい言動が多かった女だ、自分の脳内設定に酔っぱらった挙げ句ついにやらかしやがったのか。皆そう言う判断を下す。


が、太平は眉を顰める。

自慢にもなんにもならないが、彼には心当たりがあった。











「で、こいつに見覚えある?」

「いきなりバイオレンスな出だしじゃのう」


突如現れ眼前の床にボッコボコにされた女子生徒を放り投げる太平。突然のことにそれでも慌てず騒がず保険医神は面倒くさそうな表情となる。


とりあえず騒ぐ乙女を殴り回して黙らせ、心当たりである神の元へと足を運んできたのであった。ただの電波であれば二度とバカなことを言い出さないようにとことんまでぶん殴ってやるだけだが、万が一にも彼女の戯れ言に『真実』が含まれていた場合面倒なことになりそうな予感がしたのだ。

しかし神が絡んでいるとか下手人だとか思っていない。一応殴り合いの果て(と言う名の一方的な暴力)によって和解(と言う名の全面降伏)した相手だ。無意味に敵対するような行為を行わないだろうというくらいの信用はしている。が、曲がりなりにも神様だ。何らかの事情を知っている可能性があった。


果たして、乙女を彼に診察させてみたらば。


「転生者などではないぞこの娘。肉体も魂も、間違いなくこの世界この時代産じゃよ」


きっぱりと断言された。

取り敢えず怪我を治療されてから問診などを受けた乙女はショックを受けているようだ。


「で、出鱈目を適当に言わないで! あたし確かに神様に会って能力ボーナスもらってからこの世界にっ!」

「客観的に見れば自分の言動のほうが奇天烈だと分かりそうなモンじゃがなあ。まあそれはさておいて……」


ぶわ、と神から放たれるプレッシャーが増大する。


「お主が遭遇した神様とやらは、これくいらいのことはできたんかの?」


心臓を、いや魂を鷲掴みにされたような圧力に、「ぎひい」と呻いて引きつる乙女。なんだこれは、なんだこの目の前の存在は。生まれてこの方味わったことのない感覚に、魂が萎縮している。これほど強大で恐ろしい物が存在するのかと、乙女という存在に刻まれる。

本能的に悟った。この存在は嘘をつかない、いや嘘をつく必要がない(・・・・・・・・・)。そういった存在ものだ。自分は、こんなちっぽけで矮小な自分は。ぐずぐずと、底なし沼のように心が沈み込んでいく。


意気消沈というか茫然自失というか、とにかく大人しくなった乙女を見て、太平はぽつりと言う。


「大人げねえなじーさん」

「お主に言われたくはない台詞じゃなそれは。まあ余計に騒ぎ立てることはなさそうじゃからよしとするさ」


ふん、と鼻を鳴らす神。太平もまた、溜息を吐く。


「結局あれか、電波女の思いこみによる騒動だったと」

「いや、そうとも言えんぞい」


神の言葉に眉を寄せる太平。その表情はまだなにかあるのかと非常に面倒くさそうだ。

そんな太平の様子を意にも介さず、神は椅子の背もたれに体重を預けながらすぴっと乙女を指し示してこう言った。


「この娘、何者かに(・・・・)転生したという記憶を(・・・・・・・・・・)植え付けられておる(・・・・・・・・・)


ただの乙女ゲーム断罪物かと思いきや、風雲急を告げる展開が!?

一体いかなるオチが待っているのか、後編に続くっ!











「さて、一方的な婚約破棄及び名誉毀損その他諸々に対する慰謝料とかそのあたりの話をしましょうか?」

「「「「「(ガクガクブルブル)」」」」」












やっと心が平穏を取り戻したけど時折どぎゃーとか叫びだしたい日々。

人生色々緋松です。


さて色々事情があって一月ほどギャグに手が出せなかったわけですが、その分を取り戻すべく? 今回は前後編。つっても多分いつもと変わりないと思います。今更ながら乙女ゲーム断罪と絡めてみましたが、さてさて何やら雲行きがおかしなことに。一体どういう事になるんでしょうか。


まあ大体いつものようにぐだぐだだろうと思った方、あたりだと思います。


ではそろそろおいとま。

じゃいあんとさらばっ!

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