そのにじゅうはち・兄たちの挽歌でこともなし!
さて、これまであまり触れてこなかったが恵は中三、受験生である。しかし元々頭が良い上に勉強は真面目にするのでこの界隈ならどこでも合格できる。しかも狙っているのは魔屈三高だ、半分寝てても合格できるだろう。
そういうわけで、ゲーム内限定とは言え芸能活動したりなんやかんやする余裕がある。
たまには学校帰りに友達とダべったりもできちゃうわけだが。
「最近うちの兄貴がウザくてさー」
「うちのねーちゃんも酷いよ?」
「あんたらまだいいじゃない、うちなんて弟よ弟。どんだけ面倒か」
ダべっているうちに、話題は兄弟姉妹の事へと移ってきた。恵の友人たちは自分の兄弟姉妹に対して結構不満があるようだ。まあ表情を見ていると口で言うほど嫌ってはいないように見える。
で、当然ながら中の一人が恵に話を振ってきた。
「そういや恵ちゃんとこもお兄さんいたよね?」
「うん、うちは……普通かな?」
ちょっと考えて言う恵。ちなみに彼女はフォローしてるつもりも誤魔化してるつもりもない。本気でそう思っている様子だ。残念ながらどこがとツッコミを入れる人間はこの場にいなかった。
「え~、なんかないの? 妙に意地悪されるとか下着姿で家の中うろつくとか足が臭いとかベッドの下にエッチな本隠してあるとか」
「その辺はおかーさんがしっかりしてるから。むしろえっちい本見つかってへこへこ謝ってるのはおとーさんだし」
「お兄さん高校生だよね? だったらもうちょっとがさつなんじゃあ」
「おにいちゃん彼女さんと付き合うようになってから結構身の回りに気を遣ってるからね。普段から気をつけてないとぼろが出るからって」
「うちの兄貴に爪のあかでも煎じて飲ませてやりたい心意気だわ」
「うちのねーちゃんにもぜひ」
恵の言葉だけ聞いていると評判が高くなる。騙されるな少女たちよ、やつは斜め上の方向で最悪以下の存在だ。
などと枠外で筆者が訴えても中の人たちに届くわけがない。少女たちは興味を引かれたのか恵から話を聞き出す体勢に移った。
「もしかして恵ちゃん、どっちかってーとブラコン?」
「ん? そだねブラコンだと自分でも思うよ」
「おい堂々と宣いやがりましたよこの人」
「別に四六時中ひっついてるわけじゃないけどね。まあ最低でもお兄ちゃんクラスじゃないと恋愛的な食指は動かないかな?」
「聞いてると結構紳士っぽいけどどういうレベルなのよ」
「ん~……鬼神?」
「どういう方向性!?」
「源 頼光でも連れてこいっての?」
そんな表現では生ぬるいのだが、そのあたりはどうでもいい。とにもかくにも恵がブラコンだというのはすでに周知の事実だ。であればその逆は。天下 太平はシスコンなのか否か。
まあ聞くまでもない。
「仲は良いし優しいし、大切にしてくれるから多分シスコンの方だと思う。わたしになんかあったらメチャ怒るしね。鬼威ちゃんだとか兄鬼だとか呼ばれてるのは伊達じゃない」
「……なんか微妙に違うような気がせんでもない」
「いや大体合ってるべ?」
「最低でもうちらシスコンブラコンじゃなくてよかったと思う」
ううむと悩みながらそれぞれ意見を述べる少女たち。
だが、彼女らはまだ甘甘であった。
本当のシスコンというものは、常識の範疇外にあるということを、知らなかったのだから。
そいつらは、前触れもなく三高に現れた。
旋風が吹き付ける中、揃いの黒いローブに身を包んだそいつらは、堂々と正門から侵入してきた。普通であれば警備員とかから止められるのだろうが。
「ああ、またか」
なんかそんな感じでスルーされ、職員室に連絡が飛ぶ。そんで。
「2年D組の天下く~ん、天下 太平く~ん。お客様が来てるから対応しやがってくださ~い」
「……こなれてきたなあ」
職員室からの放送に、複雑な表情をしたまひとが呟く。なんかあったら太平。もはや教職員ですらもそう言う感じで厄介ごとを太平に押しつけてくるようになってきた。教育者としての鼎の軽重を問いたい所だが、校長を筆頭としてそんなもん彼方に投げ飛ばしている。災害の前にプライドなどクソの役にも立たないのだ。ある意味正しい対処であった。
「面倒クセェが、対処しないと余計に面倒なことになるんだろうなあ」
心底嫌そうな顔をした太平が、重い腰を上げる。彼だって相手したくないが降りかかる火の粉は根本から消火しなければなるまい。バイオレンスな予感と気配を背負って、太平は来訪者のもとへと向かった。
なぜか校庭の真ん中に陣取り佇んで待つ不審者たち。現れた太平に向かって、先頭の人物が深々と頭を下げた。
「天下 太平殿ですな? お初にお目にかかる」
そうしてからそいつはローブのフードを後ろに払う。現れたのは意外と端整な顔立ちの男性であった。
「なんか妙にシリアスな空気?」
「油断すんな絶対なんかオチ待ってっから」
校舎の窓から野次馬してる生徒たちがひそひそと言葉を交わしているのを余所に、事態は進む。
不審者の代表らしい男は、至極真剣な表情でこう宣う。
「我々は【慈妹の騎士団】。至高の秘宝たる妹を慈しみ、護るため、その想いを力に変える技能を習得した異能者集団でございます」
やっぱりなんかわけの分からない連中であった。あ~あ残念イケメン系かあと、ちょっと期待してた女子の一部ががっくり肩を落とすがまあそれはそれとして。
「つまり要はすげえシスコンの集団ということか?」
「そ、その通りですがもうちょっとその、オブラートに包んで頂ければ……」
さくりと断言する太平に、やや引きつった笑顔で返すイケメン。太平相手に格好つけて相対しようとするのが間違っているのだが、初対面でそれに気づけるはずもない。
ともかくイケメンは気を取り直し、咳払いをして改めて太平に語りかける。
「わたくし、慈妹の騎士団の代表を務めます【小尾 椀】と申します。……早速ですが本題に入りましょう。我々は貴方をスカウトにまいりました」
「は? スカウト?」
「はい、貴方の持つ絶大な【妹力】、それを我等がため、いや、この世の全ての妹のため役立ててはもらえぬかと」
「ちょっと待て、なに妹力とか全く身に覚えがないんだけど」
訝しがる太平だが、代表のイケメン――小尾は、確信を持った表情と態度で言う。
「いいえ、貴方は自覚をされていないだけ。思い返して下さい、今まで貴方は数々の困難を打ち砕いてきましたが、それは人外の力を持ってしてもかなわぬ事が多かったはず。なぜそれを乗り越えられたのか、それは間違いなく未覚醒である妹力によるものなのです」
「なにいいいいいい!?」
小尾の言葉に反応したのは太平ではなく、野次馬ってた博士。彼は窓から飛び出し怒濤の勢いで駆けつけて反応するまもなくがしっと小尾の両肩を掴んでがっきうんがっくん揺さぶりながらまくし立てる。
「本当かねそれはだとすればそれは未知なる力新たなる世界の幕開けではないか素晴らしい!さあさっそくその妹力とやらを細大漏らさず隅から隅まで発揮し試させ説明し実験させて最終的に解剖させてくれまいか!なに人類の新たな未来のためだ君たちの尊い犠牲は三日くらいは忘れない……」
「てい」
ごきゃりと捻られる博士の首。気持ちは分からなくもないが、これでは話が進まない。かといって口で言っても聞きはしないだろう。仕方がないので実力行使である。これは正当な手段だよなと自己弁護しつつぽいっと博士をそこらに放って太平は向き直った。
「で、妹力がなんだって?」
「いやその……いいのかなアレ? ……と、ともかくいままで貴方がなして来たことは、妹力によるものに相違ないと我々は判断しました。しかし未覚醒のままでありながら多大な影響力を持つその力は、危険でありましょう。我々と共に正しき力の使い方を学べば、真なる無双の力となって妹のために役立つことは相違ないかと」
気を取り直して太平に向かって語りかける小尾。太平の方はありありと、うさんくせーとでも言いたげな表情である。ムカついてないだけマシというレベルだが、見ている野次馬はいつ爆発するか気が気でない。
そして今度は太平が問い返す。
「で、結局あんたらどういう活動しているわけ?」
「それはむろん、己の妹を慈しみ護るために日々努力と精進を重ねております。影ながら妹を見守ったり表立っても妹を見守ったり妹に近づかんとする害虫を駆除したりそも近づかぬよう威嚇を怠らなかったりそもお兄ちゃん以外の男が妹に近づくことなど赦すまじ害虫殺すべし」
「おいなんか色々見失ってんぞ」
途中でなんか狂気を帯びたぐるぐる目になりかけた小尾にツッコミ入れる太平。小尾ははっと我を取り戻すと、こほんと咳払いして取り繕った。
「と、ともかく妹のために生き、妹のために死するのが我等の本懐。例えその行動が世間から認められずとも、妹本人からお兄ちゃんキモいと言われようとも、我等は己を貫く所存」
「肝心の妹から嫌われてんじゃねえかそれ」
「例え今は嫌われていようとも、いずれ分かり合える日が訪れましょう。その日までは妹の罵声をご褒美に……」
うんこいつら本気で駄目だ。太平を含む話を聞いていた全員がそう思った。
シスコン拗らせたとかそう言う問題ではない、どっか別の所で根本的にあかん系だ。どっちみちまともな人間じゃないのは最初から分かっていたことではあるが。
さてどうやって煙に巻いて帰らせるか、太平はもうそう言う方向に考えをシフトしている。最後というかいつもの手段でボコるというのはとりあえず置いておく。なんというか救いようのない馬鹿ではあるが、今のところ多大な迷惑をかけているわけではないので取り敢えず殴るのは勘弁しておこう。この先どうなるかは分からないけど。
熱心な勧誘を聞き流しながらそんなことを考えていると、小尾の話は熱を帯びたまま、なんか変な方向に向かっていった。
「……であるからして、妹のために生きる我々は清く! 正しくあらねばならない! 蔓延る誘惑に負けるなど言語道断! 純潔! すなわち童貞であることが絶対条件……」
「え? 童貞じゃないといかんの?」
「え?」
「「「「「え?」」」」」
「あ」
思わず反応して零した太平の言葉に、小尾だけでなく野次馬全員が声を上げ、太平がやべ、といった表情になる。
小尾はわなわなと身を震わせ、太平に言いつのる。
「童貞ではないともうされるのか!? 裏切った、裏切ったな!? 我々の純情な心を弄び裏切ったんだなああああ!!」
「人聞きの悪いことを言うなっ! その辺のプライベートなことは断固黙秘するっ!」
「やっちゃったって言ってるようなモンでしょおおおお! 貴方のやったことは! 我々に対してだけでなく妹に対しての裏切りでもある!」
「いや妹相手に操を立ててどーすんだ」
「それは無論! 妹が護るべき純潔に我々も殉ずるため!」
「お前らマジでキモいな!?」
「……くっ、交渉は決裂と言うことですかこのエセシスコンめ!」
「そう言うお前らこそ世のシスコンに謝れ! 絶対違う何かだぞそれ!」
ぎゃいぎゃい言い合う太平と小尾。小尾の仲間である騎士団とやらも身構え一触即発の状態だ。
ああ、これはいつものパターンだなと野次馬が諦観にも似た心境で事の推移を見守っていると、全く予想外の介入があった。
「くく、おろかよな小尾 椀。所詮己の欲望を綺麗事で誤魔化す貴様らが受け入れられぬのは物の道理よ」
突如発せられた声と共に、校門から現れる影。
威風堂々と歩むその人物は、黒ずくめの鎧のようなフルプロテクターのボディースーツにフェイスマスクとヘルメットをつけマントを纏った、非常に暑そうな姿の人物である。ふしゅこーふしゅこーと呼吸音を鳴らすその人物を見て、小尾は戦慄を隠さぬ態度と表情で声を上げた。
「シスコンの暗黒卿! 【蛇諏 米太】! やはり貴様か!」
「おいなんかまた変なのが現れたぞ」
半眼になって零す太平だが、目の前の変人どもは聞いていない。
黒ずくめ――蛇諏とやらを騎士団が取り囲み、小尾が糾弾するかのように吠える。
「妹力の暗黒面にその身を委ねた愚か者が! 天下殿を取り込みに来たか!」
「左様。彼の力は貴様らごときでは導けんわ。我等が元こそが彼にはふさわしい」
「彼の力を暗黒面に引きずり込めば、大いなる災いを招くことになる! それが分かっているのか!」
「それを乗りこなしてこその妹力マスターではないか。天地を裂く災いを秘めた力とて、恐るるに足りんわ」
「……えらい言われようなんですが」
人を南海トラフみたく言いやがってと太平は不満顔だが、大体当たってるなァと野次馬は揃って頷いている。
とにもかくにも小尾たちと蛇諏は敵対しているらしいというのは分かる。しかし見ている分にはどっちもどっちの変態でしかない。何が違うのか素人目にはさっぱりだ。
だから太平は聞いてみる。
「で、なんなのよあの黒いの」
緊迫の空気を漂わせたまま、小尾は応えた。
「あの男は妹力を己の欲望のまま使う外道。……かつては我が友でしたが、妹力の暗黒面に魅入られ、今はあのざま」
「ふ、道を踏み外したなどと人聞きの悪い。人として真なる道に目覚めたのよ」
聞いていたのか、蛇諏が会話に割り込んでくる。元々が大変な変態である小尾から外道と言われる人間だ。一体どんだけ酷いのか。
興味本位というわけではないが、とりあえず聞いてみる。
「その真なる道ってなにさ」
答えは間髪入れず迷い無く。
「無論、己の欲望のまま妹を性的な目線で愛でることよ」
「犯罪じゃねえかっ!」
「何を言うか。実際に手を出していなければ犯罪にはならん! ただ可能な限り四六時中舐めるような目線で見つめたり匂いを嗅いだり妹の出したゴミを漁ったりする程度だ。むしろ手を出さない寸止めの感覚がこうなんというか良い感じでもどかしくも切なく我に力を与えてくれるわ」
「最悪だこいつ」
「挙げ句にキモい死ねつら見せんななどと言われたからこの格好よ。しかし妹の罵声すら我にとっては快楽。喜んで灼熱地獄に身を捧げようではないか」
「あ、暑いは暑いのか」
もうアレだ、斜め下に最悪であった。
絶対こいつシスコンとは別のおぞましい何かだ。太平はそう確信する。そんな彼の様子に構わず、蛇諏は両手を広げ太平に語りかける。
「どうだ天下 太平。我が元で真なる妹道を極めようではないか。その身に宿した欲望を解き放つのだ」
「いやお断りだよ妹を性的な目で見ねえよ!」
「いやよいやよも好きのうちよ。その妹力からすれば一目瞭然、貴公の妹に対する欲望はまさに天をも貫くほどのものに相違ない。さあ、我が手を取り共に欲望の海に溺れようぞ」
「ぜってーやだ! 大体オレ彼女いるっつーの!」
「欺瞞だな」
「てめーの都合の良いように考えんな!」
よし殴る。太平はそう決め腕まくり。しかしそれを小尾が制した。
「お待ちを。奴は我等が宿敵、ここはお任せ下さい」
そう言って小尾は向き直り、蛇諏と相対する。
「貴様との因縁、ここでけりをつける」
「くく、よかろう。やってみるがいい」
小尾以下騎士団の連中が、一斉に蛇諏に向かって手をかざす。風が唸り、そして不可視の衝撃波が放たれる。
それは四方から蛇諏を押しつぶすかのように叩き付けられた。一発、二発。黙って耐えている蛇諏だが、そのマスクの下では笑みの気配があった。
「この程度か、温いわっ!」
ど、と蛇諏の身から全方位に向かって衝撃波が放たれた。それは小尾以外の騎士たちをあっさりと吹き飛ばす。
爆心地とも思える有り様になった校庭の中央、黒々としたオーラを立ち上らせた蛇諏は嗤う。
「これが、これが暗黒の妹力よ! 貴様らのような軟弱な妹力とはひと味もふた味も違うわ!」
げははははと哄笑する蛇諏に対して口惜しげに顔を歪める小尾。
「くっ、調子に乗るな! 皆の者、己の妹力を高めるのだっ!」
小尾がそして吹き飛ばされてもなお闘志を失わぬ騎士たちが立ち直り、己の力を振り絞らんと念ずる。
そしてくわっ、と目を見開き、咆吼しながら次々に衝撃波を放った。
「はにかむ笑顔がかわいい妹力っ!」
「おにいちゃ~んと甘えた声を上げる妹力っ!」
「潤んだ目で見上げておねだりする妹力っ!」
「照れながら手を繋いでくる妹力っ!」
「恥ずかしがりながらも抱きついてくる妹力っ!」
「元気がないとき黙ってとなりに座ってくれる妹力っ!」
妹力とは意志の力である。つまり強く思い込むことでその力は倍増する。例えそれが『妄想』であっても。
どっちにしろ最低な連中だった。
だがその敵は、それを上回る最低っぷりを見せつける。衝撃波の集中攻撃を受け、なおも揺るがぬ蛇諏は、ぬたりと嗤う気配を漂わせてから獣のごとく咆吼した。
「怖い夢を見たから一緒に寝て? と布団に潜り込んでくる妹力っ!」
「「「「「ぐふわァっ!?」」」」」
放たれた反撃の衝撃波は、一撃で騎士たちを叩き伏せた。這々の体で、それでも何とか立ち上がった騎士団に対し、蛇諏はさらなる追い打ちをかける。
「突発的に着替え中の場面に出会ってしまったby下着姿の妹力っ!」
「がっ……はっ!」
「「「「「留宇九ううううう!!」」」」」
ついに騎士の一人が倒れ伏す。はなぢをまき散らしながら。
小尾は歯ぎしりをしながらも、なお諦めを見せない。
「まだだ! 妄想戦で埒があかないのであれば、接近戦でかたをつけるっ!」
騎士たちは一斉に懐から何かを引き抜いた。それはマグライトのようにも見えたが、もちろんそんな物ではなかった。それを一閃すれば、先端から光の刃が伸びる。
【妹力セイバー】。妹力を高密度のエネルギー剣として発現させる武器である。どういう仕組みなのかよく分からないが、ともかく妹力マスターの武器であるそれを構え、騎士たちは一斉に躍りかかった。
純潔なシスコンであることを示す……らしい青白い光を放つ刃が襲いくるが、やはり蛇諏は動じない。マントを翻して彼は己の得物を引き抜く。
それは妹力の暗黒面に引き込まれたことを示す……らしい赤黒い光を放つ妹力セイバーが『二刀』。両手の剣にて全てを受け止め、弾き飛ばす。たたらを踏んで後退した騎士たちに向かって、蛇諏はマントをたなびかせながら斬りかかった。
たちまち始まる剣戟の嵐。斬り結びながらも、同時に小尾と蛇諏は激しく論戦をも交わす。
「無駄無駄無駄無駄ァ! 妄想の中ですら妹の肌さえも想像できぬ貴様らに、この我が倒せるものかよ!」
「色欲で濁った妄想など、ただ力あるだけの無秩序な物に過ぎん! そんなものに負けるわけにはいかんのだ!」
「は、口だけならなんとでも言えるわ! 妹相手によこしまな妄想、一瞬たりとも抱いたことはないなどとは言わせぬ! 例えば水着姿とかっ!」
「ふぐおっ!」
「養田! おのれよくもっ!」
「ふはははは、所詮は男の性を捨て切れぬ! 欲望に忠実な者こそ勝利を掴むのよ!」
「愚かな! 一時の欲望に身を委ねてしまえば後はずるずると落ちていくだけ! いずれ淫行という名の禁忌に手を出し身の破滅を呼ぶぞ!」
「それを堪えられない者が! 妹力の真なるマスターになれるわけがなかろうが!」
格好いいことを言い合っているように聞こえるが、実際中身は最低だ。
どっちにしろ戦いは蛇諏有利に進んでいるようだ。二刀流をもってして、多対一の人数差をものともせず騎士団を圧倒している。
騎士たちは一人、また一人と倒れていく。主に蛇諏の言葉により妄想を掻き立てられはなぢを噴出したことによって。
唖然と見やっている太平は、オレいらねえんじゃないか? と漠然と思っていた。と、その足下に倒れ伏した騎士が零したセイバーが転がり込んでくる。
何となくそれを拾い、スイッチを入れてみる。すると。
「うおっ!?」
ぼ、っとガスバーナーのような音を立てて、冗談抜きで天に届くかと思われるほどの巨大な白銀の色を持つ光の刃が発生した。
「「は!?」」
鍔迫り合いしていた小尾と蛇諏はそれに気付いて素っ頓狂な声を上げる。妹力セイバーがあのような刃を発生させるなど見たことも聞いたこともない。唖然として動きを止めた二人を見て、太平はにっ、と笑った。
「まあいいや、そろそろこの馬鹿騒ぎ、終わりにするにゃあ丁度良いだろ」
そう言ってセイバーをバットのように構える。
「ちいとは己を顧みろやこのど変態どもっ!!」
振り抜く。
爆発のような衝撃波が生じ、馬鹿どもは纏めて吹っ飛ばされた。
んで、その後どうなったのかと言うと。
「導師太平! 我々をお導き下さい!」
「お願いいたしまする導師太平!」
「ええいなつくな崇めるな!」
なぜか太平に心酔し教えを請おうとする騎士たちと暗黒卿の姿があった。
圧倒的な太平の力を目の当たりにし、未覚醒どころか妹力を極めきったと判断したらしい。
その様子を見ていた博士は、呆れたように言う。
「連中の力、あくまでESPのレベルまで高まった妄想力であって、天下君の力とは別物なのだよなあ……」
だったらなんでセイバーが発動したのか疑問が残るが、太平だから仕方がない。隣で様子を見ていたまひとも、やや呆れた様子で言う。
「ちゃっかり調べたんだ。……それはそれとして妄想であんだけのことが出来るってのは凄いような凄くないような」
「ある意味凄まじいと言えるかも知れんね。あの様子だと、もしかしたら姉力だとかショタ力だとかBL力だとかいうものも存在するやもしれない。人類は可能性に満ちているなあ」
「知りとうなかったそんな可能性」
そんな言葉を交わす二人の視線の先で。
「「「「「どうか! 導師!」」」」」
「真人間になってから出直してこいやァ!」
馬鹿が太平に殴り飛ばされていた。
「「「「「で、童貞じゃないのどうなの」」」」」
「黙秘権を行使するっ!」
家の中で一番暑いのがパソコン部屋という地獄。
皆様大丈夫ですか緋松です。
シスコンの暗黒卿。この言葉を思いついてしまったのが運の尽き。こんな話をでっち上げてしまう羽目に。なんでこんな言葉を思いついた俺。謎です。
妹ネタだから恵の出番が多いと思ったか? 残 念 だ っ た な。一部の方には大変申し訳なく思いますが私は謝らない。絡むとなんか酷いことになりそうだし。
あと太平君に非童貞疑惑が持ち上がりましたが、そこらへんはご想像にお任せします。まあ彼も若い男ということですよ。(遠い目)
そんなこんなで今回はこの辺で。
皆様熱中症には十分お気をつけをと言いながら自分が倒れそう。




