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そのにじゅうに・『怪盗』乱麻でこともなし!





空からこぼれ落ちそうな月。夜の闇を微かに照らすの明かりの下、ビルの上を舞う影がある。


まるで翼が生えているかのように軽やかに飛ぶ。その人物は、黒いタキシードにシルクハット、おまけにマントを羽織り顔の上半分を覆う仮面を付けているという……控えめに言って、変質者であった。


「ははははははははははは……」


ビルの屋上を飛び跳ね駆け抜けながら、その人物は何が楽しいのか高笑いを上げている。マントが翼のごとく翻り――


「うるっせいぞどあほう!」

「へぶらっ!?」


怒声と共に飛来した石が直撃し、怪人物は吹っ飛ばされた。











「怪盗、ねえ……?」


休み時間。机の上に広げられた週刊誌の内容に、太平は呆れたような声を出した。


「最近このあたりに出没して、黒い噂のある金持ちや権力者の所から美術品とか不正の証拠とか色々盗み出すらしいよ?」


まひとの言葉に、ふーんと興味なさげな太平。実際特に興味もないしどうでもいい、そう考えていた。

まあ話を振ったまひとのほうも暇つぶし以上のものではなかったようで、気を悪くした様子もなく適当に話を続けている。


「今時予告状とか出したり犯行声明を新聞社に送ったりとか、古式ゆかしいというかなんというか。なんでも犯行声明で「我が芸術をご堪能頂けたであろうか」なんて格好つけてるって」

「正しく盗人猛々しいにもほどがあるな。なーにが芸術だか」


あきれ果てた様子で言う太平。その背後、少し離れた席でぴくりと反応した者が居たのだが、太平は気付かなかった。

そのまま話は続いている。


「所詮こそ泥じゃんよ。胸張って威張る要素がどこにあるってんだ」

「まあ自己顕示欲が見えまくってるよね。張り巡らされた警戒網を突破して仕事を成し遂げる技術は大したものだと思うけどね」

「実に技術の無駄遣いだな」


ぴく、と眉毛が動いた。


「そんだけの事が出来れば、もっと色々金儲けとか考えられるだろうさ。なにもこそ泥に身をやつすこともなかろうに」

「金儲けってところがたいへーちゃんらしいね。泥棒じゃなきゃいいってわけでもないけど」

「犯罪行為をするな、とは言わんさ。しょっちゅう人殴ってるオレの言う事じゃねえし。が、自分が被害を被ったわけでもないのに、わざわざ権力者敵に回すような真似してどうするってんだ。警察の皆さんだって迷惑だろうよ」

「楽しいからやってるんじゃないの? 悪漢どもを出し抜くスリルがたまらない、とか」

「どうせそこまでやるんだったら、目的の人物しこたまぶん殴ったほうがすっきりするだろうが」

「問題そこなんだ」


ひく、とこめかみが引きつく。


「大体名高い芸術品とか足がつくし、悪事の証拠なんざ叩きゃいくらでもでてくるわい。表沙汰に出来ない隠し財産を根こそぎとかの方がダメージでかいぞ?」

「発想が完全に犯罪者よりだよたいへーちゃん。……それはそれとして、今時タキシードにマントとか、この服装のセンスはどーなの」

「自信の現れのつもりなんだろうが、はっきり言って変質者にしか見えんな。格好良いと思っているんだったら頭がおかしい類だろ」


びき、と額にお怒りマークが浮かんだ。


「ま、正直どーでもいいんだが。オレが関わる要素なんぞ皆無だし」

「だよねー。向こうもわざわざ虎の尻尾踏みには来ないと思う」

「こそ泥野郎のほうもプライド(笑)があるだろうし、わざわざ一般庶民の家に盗みにゃ来ねえだろ」

「「「「「……一般庶民? え? 一般庶民?」」」」」

「なぜに皆でハモるか」


よーしOHANASIかすいませんごめんなさいといういつものやりとりが行われている傍らで――


だれかがぎしりと歯を噛み鳴らした。











「ついに、ついにきましたわね!」


ずは、と恋がポーズを決めるのは自宅のリビング。リビングと言っても一般的なご家庭のそれとは違う。所謂セレブでゴージャスな感じの、おめえ一体どんな悪い事して儲けやがったと言わんばかりの豪奢な部屋である。


「何か酷く言いがかりをつけられたような気がしますけど……ともかく我が鯉ヶ滝家に挑むとは、怪盗ミッドナイトとやらなかなかナメた真似をしてくれやがりますわね!」


ポーズを決めながら怒りと不快感を露わにすると言う器用な真似をこなす恋。その手には今し方執事セバスチャンから受け取った手紙のようなものがある。

それは今巷を騒がしている怪盗を名乗る怪人物、自称ミッドナイトからの予告状であった。実はこっそりとその動向をうかがっていた恋は、かなり興奮気味な様子である。


「調子に乗った怪盗気取りのお馬鹿さん、いつかは我が家に目をつけるだろうと思っていましたが……案の定でしたわね。この鯉ヶ滝、そこらの成り上がりと同じように見てもらっては困りますわ。大やけどで済むとは思わない事ね!」


ほぉ~っほっほっほっほとポーズを決めて高笑い。そんな彼女に向かって、恐る恐る語りかける人物がいた。


「あの、そのな恋、話に聞いた所によると、その怪盗とやらは悪逆非道なものたちを狙って反抗を繰り返すそうじゃないか。そこから考えると……パパ悪逆非道って見られてるんだけど」


恋の父、【鯉ヶこいがたき だい】。経済界や政界に多大なる影響を与える鯉ヶ滝家の頭首にふさわしい威風堂々とした偉丈夫であるが……娘には甘いのかなんなのか、妙に縮こまって下手であった。

そんな父に対し、恋は目を丸くして問うた。


「違いますの!?」

「違うよ!? 最低でもお天道様に顔向けできないようなことはやってないよ!?」

「だってお父様どう見ても悪逆非道って顔してますわ!」

「娘がダイレクトに酷い!?」


確かに大は強面で一見悪人であるが、別に悪い事しなくても金が寄ってくる『ほんまもん』である。むしろ性格的には善人よりであった。


「そっかあ……パパそんな風に見られてたんだあ……」


意気消沈する大。それを余所に恋は集った執事やメイドの集団に、矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「ともかく、まずは関係各所に連絡を。警備体制の見直しをいたしますから専門家を招集しなさい。その際、いえ全行程において『成り代わり』には十分注意を払うように。指紋、声紋は言うに及ばず、現状で考え得る全ての識別手段を用いなさい。一欠片の油断が相手につけいる隙を呼びます。心得るように。この戦、勝ちますわよ」

「「「「「御意」」」」」


一斉に恭しく頭を垂れる使用人の姿に、「頼もしいんだけど、後継者として有望なんだけど、なんかな~」などと大がぶつぶつ言っているが、勿論誰も聞いていない。

こうして対ミッドナイトのシフトを組み上げていく最中、一瞬だけ素に戻った恋は内心小首をかしげていた。


「(それにしても……何故当家に対する予告状に『彼』の名があるのかしら?)」










「はあ? 何でお前さんトコに泥棒来んのにオレが名指しで挑戦されなきゃならんわけよ?」

「ですわよ……ねえ?」


訝しげに問う太平に、戸惑った表情で首をかしげる恋。そう、鯉ヶ滝家に送りつけられた予告状には、なぜか太平に対する挑戦の意志が綴られていた。曰く悪漢に因果の巡りを与える存在は一人で十分、雌雄を決しようぞとかなんとかわけの分からない事がつらつらと書かれており、取り敢えず太平に挑もうという意志は見て取れたのだが……なんでそうなるのかが誰にも分からなかった。


太平に対して一方的に熱を上げている恋ではあるが、だからといって全てに対し盲目的になるわけではない。最低でも実家の事情に彼を巻き込まないだけの分別はある。正直がっかり来る事実だが、今のところ鯉ヶ滝『家』と太平を直接結びつけるものはなにもない。

そもそもが太平に挑戦という時点で気が狂っているとしか思えなかった。最低でも華牡市在住のまっとうな人間がやる行為ではない。ごく一部の例外はあるにしても、そいつら(主に番長とか)は確実におかしい輩だ。


「つまり結論的には、ミッドナイトというのは激烈に頭がおかしい部類の変態だということか。まあ今時怪盗とかほざいている時点で察せることだが」

「ひ、否定する要素が見あたりませんわ……」


ばっさりと吐き捨てる太平の言いざまに、さすがにちょっと気の毒かなと思う恋。ベクトルは違うが相手にされていないという気持ちはよく分かる。

こんな会話でも太平と話せてちょっと嬉しいと思う自分も大概だなあとか頭の隅で考えながら、恋はこほんと咳を一つ。


「ともかく、貴方には心当たりはないと言うことですね」

「当たり前だ。最低でもこそ泥と関わり合いになるような生活はしとらんわい」

「分かりました。件の怪盗気取りは当家で対処しますわ。ご安心なさって」


おや、と太平は眉を顰めた。なんか今回は随分と物わかりが良い。いつもならまたとんちんかんな事を言って太平の一言に撃墜されるのだが。

疑問を抱く彼の前で、恋はふん、と鼻を鳴らした。


「今回の件、本来挑まれたのは当家のはず。貴方の名前が出てくること自体がおかしいのです。つまりそれは、当家をないがしろにしたのと同様。なにしろダシにされただけということなのですから。まあ要するに……」


恋はにっ、と歯を剥く。


「わたくし、結構トサカにきてますのよ」


どうやら内心かなりご立腹であったようだ。その怒りが、いつもより真っ当な思考を彼女にもたらしているらしい。

いつもこうなら文句はないんだが。そう思いながら太平は「まあ頑張んな」と手をひらひらさせて適当に言う。それに対して「無論ですわ。吉報をお待ち下さいな」と凛々しくも頼もしく答える恋である。非常に珍しい光景に、クラスメイトたちは目を丸くしていた。


「ぎぎぎぎぎ、上手いこと会話しやがってなのかしらん。妬ましい恨めしい……」


教室の扉から半分顔を覗かせて恨み言を口にしている狐と。


「………………っ!」


教室の端で、密かに鉛筆をへし折っている誰かを除いて。











予告された当日。

鯉ヶ滝家は厳戒態勢をしいていた。


十重二十重の防衛網。蟻の子一匹通さないような警備体制の上、近隣の警察署から選ばれた猛者が屋敷の周囲を警備している。その中にはこんな人もいた。


「……我が輩、交通課なのだがなあ……」


ぎんぎらぎん悪魔メイクのおっさん、泥門警部である。彼の他にも本来担当部署ではない警官たちが幾人も配され、皆首をかしげていた。

ともかくそんな人たちも加えた鉄壁の警備。これをくぐり抜けるのは不可能とまでは言わないが難しいであろう。そんな状態で正門のど真ん中に威風堂々腕組みして恋が立つ。通れるものなら通ってみせよ、そう言わんばかりだ。

その斜め後ろで、縮こまった大がここまでしなくともなあとかなんとかぐちぐち言ってたが、無論誰も聞いてない。


その様子を物陰から伺うものがある。


「(ふむ、警察の人員がいつもと違うようだが……さすがに何度も出し抜かれれば人員の見直しも考えるか……まずは軽く、ジャブの一つも入れよう)」


さあどこからでもかかってくるがよい、そう言わんばかりの恋だったが、現れたその姿に訝しげな表情にならざるを得ない。


「よう、やってんじゃねえか」


厳重な警備体制を気にした風もなくひょこひょこと現れたのは、なんと太平である。

警備のものたちはざわついた。なんで太平がここにと言う思いと、ああこいつならありかねないという思いが交錯する。動揺が走る中、こう言うとき一番動揺しそうな恋は、なぜか平然としたままにこやかに言葉を放つ。


「あら、どういう風の吹き回しですの? 突然現れるなんて」


それに対して太平は、ぽりぽりと頭をかきながら応える。


「なにバイトの帰りについででな。……それに、わざわざオレに挑戦状を叩き付けてきた相手だ、気になるモンだろ?」


確かに、と思わず納得してしまいそうな内容である。それを聞いた恋は「そうですの」とにこやかな表情のまま応えつつ――


懐からずぬりと巨大な拳銃を引き抜いて太平めがけてぶっ放した。


ぱあんぱあんと音が鳴り響き、太平は「おわ! おわわあ!?」と悲鳴を上げながら極至近距離の射撃を回避する。


「ななななな、なんばすっとね!?」


変な体勢でおかしな方言の言葉を放つ太平に、恋はにこやかながらも冷ややかと言う非常に珍しい対応でもって対応していた。


「は、馬脚を現しましたわね『偽物』さん?」

「「「「「なにい!?」」」」」


周囲の人間が驚く中、太平(どうやら偽物)は微かな動揺の気配を滲ませつつ反論を試みる。


「な、なにを根拠に」

「あの方が、このような些末ごとなど気にするはずがありませんわ。実際今日はバイトは休みのはずですもの。わざわざ気を遣ってわたくしのもとに現れるなどと、そんなことがあるはずが……あるはずが……」

「「「「「(マジ泣きだ!?)」」」」」


自分の台詞に自分で落ち込んで泣き出す恋の姿に、太平(多分偽)と周囲の人間はどん引きだ。

が、「それはいつものことだからよしとして!」と自分に言い聞かせるようにして瞬時に立ち直る。へたれなんだかタフなんだか。


「それにあの方であれば、撃った瞬間反撃で殴り返してくるでしょうし、例え当たったとしても5、6発は平気ですわよ!」

「んなわけがあるか!」


即座にツッコミが入るが、それを成したのは太平(偽らしい)のみ。他の人間はああ確かにと納得顔だ。

そして。


「なるほど……そう言うわけであれば容赦はいらんのである」


そう言って、泥門は背中からずぬりとショットガンを引き抜いた。さらに集っていた警官たちもそれに習いそれぞれの得物を取り出す。

管轄所属関係なく集められた警官たち。その共通点は犯罪者に容赦なく、すぐに実力行使に訴える始末書常連というところであった。


「ちょ、ま……」


ぱんぱんぱんぱんばしんどかんぱらたたたたずがががが!


太平(偽である)が悲鳴じみた制止の声を上げようとするが止まるはずもなく、容赦のない一斉射撃が襲いくる。矢も楯もたまらず逃げ出す太平(確定的に偽)を、「「「「「待てェル●~ン!」」」」」とか言いながらノリノリで銃ぶっ放しつつ追いかける警官ども。嵐のような騒音が徐々に遠ざかっていくのを見計らって、恋はふん、と鼻を鳴らした。


「天下 太平検定があれば一級間違いなしのわたくしに対して、あまりにも稚拙な愚策でしたわね」

「(我が娘ながらなにを拗らせているのか……)」


無意味に胸を張る恋の背後でかっくりと肩を落とす大。おかしいなあ教育はしっかりしてたはずなのになあと黄昏気味であった。

そんな大を余所に、恋は再び指示を飛ばす。


「警備状況の再チェックを。これが隙を作るための策である可能性がありますわ。各種コード、パス、合い言葉の変更を。やりすぎというものはありません、徹底させなさい」

「「「「「御意」」」」」


メイドや執事たちが迷い無く整然と行動を再開する。警官たちの警備が無くとも、その防衛網に隙などなさそうである。

彼方で銃声や破壊音と共に、おらまてやこそ泥がふはは死ね死ね死ね死ね死ねとっととお縄につくかでなければヘヴンへGOそろそろ年貢の収め時なのである! などという声が響いているが、それも徐々に遠ざかっていった。あれだけのキ印……もとい血気盛んな警官どもから逃げ回れるとは、言うだけのことはあるようだ。まあ目的を果たせなければ骨折り損のくたびれもうけでしかないのだが。


こうして『緒戦』は鯉ヶ滝家に軍配が上がった。まあ当然と言えば当然である。そこいらの真っ当な悪い金持ちと同じように考えていけないのだから。


だが、これで終わるなどと言うことが、あろうはずもなかった。











「「はあ? また予告状が届いたあ?」」


恋からの相談に、太平とまひとは揃ってすっとんきょうな声を上げた。

相談を持ちかけた恋は笑顔。しかしその額には青筋が浮かび上がっている。どうにも相当お怒りのようだ。


「尻尾を巻いて逃げ出したこそ泥風情がハエのごとくぶんぶかと……うざったいったらありませんわ」

「ありゃ、恋ちゃん結構キレてるんだ」

「キレてませんわよ? わたくしをキレさせたら大したものですわ」

「なぜそこで芸人ネタか」


ともかくイラついていることは確かだ。なんでそこまで不機嫌なのかと尋ねてみたらば。


「だって、わたくしここ最近こそ泥対策でまともに寝てませんのよ? 睡眠不足は美容の大敵だというのに。その上お休み前のわくわく(太平とのラブラブ)妄想タイムを台無しにされては、腹も立とうと言うものではありませんか!」

「なんか途中で気になる単語が出てきたのはスルーするとして……対策とか専門家の人に任せておけばいいんじゃないの?」


まひとの意見に、恋は何を言っているんだこいつとでも言いたげな表情で応えた。


「挑戦を受けたのはこのわたくし、鯉ヶ滝 恋ですのよ!? 有象無象ですらないお天道様に逆らって日陰でこそこそ犯罪行為を犯すようなゴミにも劣る正しく泥のごとき存在とは言え、挑まれたのであれば全力で叩き潰すのが我が流儀。そこに手抜かりや手加減などあってはならぬことでしょう?」

「やっぱり斜め上方向に全力全開だと思う」


むふんと胸を張る恋。ぼそりと言うまひとも肩をすくめる太平も呆れ顔だ。

そんな彼らから少し離れたところで。

なんか全身から障気のようなものを放つ者が居るのだが、無論三人とも気付いていない。


「ともかく、性懲りもなく挑んで来るというのであれば、再び叩き潰すのみですが……どういうわけだかまた貴方への挑戦状をかねているようでして」

「……だからなんでなんだよ」

「わたくしに聞かれましても……」


不機嫌に眉を顰める太平に、これまた困ったように眉を寄せる恋。前回の有り様と言い、どうにも怪盗は太平を敵視し巻き込む気満々のようだ。

一体全体なんでそのような無謀というのも生やさしい発想に至るのか。周囲の人間にはまるで理解が出来ない。太平を巻き込むなど、いつ爆発するか分からない爆弾を懐に抱えて生活するよりも危険なことではないだろうか。


ま、もっとも自身に実害がなければ関わろうとしないのが太平なわけで。


「正直オレが関わらなきゃならん理由がねえな。そっちでなんとかしてくれや」

「無論ですわ。二度と鯉ヶ滝に楯突かぬようきっちりとぶち抜いてごらんにいれましょう」

「ぶち抜くって、何をどうする気なのか……」


完全に潰す気の恋だが、怪盗とやらが太平に変装して訪れたと言うことを告げない程度には理性が残っていた。もしそれを告げてしまえば肖像権の侵害じゃねえかとか主張しながら太平が絡んでくることは間違いない。そうなれば事件はさくっと解決するかも知れないが、これは基本的に自分に売られた喧嘩だと恋は思っていた。ゆえに決着は自分の手でつけると堅く心に誓っている。


頑固ではあるが、怪盗の立場で考えたら実にありがたい話というか首の皮一枚で命拾いをしている状況だった。それを知ってか知らずか、太平たちの背後の誰かはぐしゃりと消しゴムを握りつぶしていた。


そして。


「うぬぎぎぎ……またしても楽しそうに会話しやがってなのかしらん……」


教室の入り口で体を半分隠しながら血涙を流して歯ぎしりする狐が一匹。

別に太平と恋は楽しげに話しているわけではないのだが、玉藻フィルターを通してみるとそう見えるらしい。


羨ましくて恨めしいが、無理矢理会話に加わって空気の読めない女だと思われたくもない。最早色々と手遅れだとは思うのだが、それはそれこれはこれだ。

どうしてくれよう。数多の国を結果的に滅亡に導いたピンク色の脳細胞がフル回転。積み重ねたろくでもない経験を元に、斜め向こうにぶっ飛んだ思考を奔らせる。


そして出た結論は。


「……邪魔しちゃるのかしらん。一人だけいい目を見るなんて絶対に赦さないのかしらん」


なんでそのような結論が出るのか、玉藻以外には誰にも分からない。


こうして、ただでさえ何がしたいんだかさっぱりな怪盗騒ぎに新たな火種が投入された。

事態はどちらに向かっていくのか分からない。


まあ大体いつものことなどで気にするだけ無駄なのだが。











そんで、再び予告日当日。

またしても鉄壁の防御陣。そしてその中央に威風堂々と立つ恋。……とその傍らで居心地悪そうにしている大。


前回と変わらぬ布陣のように見えるが、その実見えにくい所で様々な変更、改善などが図られている。前回はまともに侵入される前に終わったが、例え屋敷に足を踏み入れることが叶ったとしても警備システムはがらりと状況を変えている。過去の情報は欠片も役に立つまい。

もちろん、狙う方だってそんなことは百も承知だ。


「ふっ……なかなかの布陣。それでこそ、出し抜きがいがあるというもの」


鯉ヶ滝家を見下ろす建物、その屋根の上でひとりごちるのは、タキシードにシルクハット、そしてマントに顔半分仮面という姿の変態……怪盗ミッドナイトその人である。

前回とは趣向を変え、今回は堂々と己自身の姿を現し鯉ヶ滝家へ挑むのであろうか。本気で盗みにはいるつもりがあるのか数時間ほど問いただしてみたい。


とにもかくにも準備は整ったようである。服装を確認し、名乗り上げたときに現場から見れば丁度背後に月の位置が来ると位置関係を確かめ、行動に移るべくマントを翻した。

そして声高らかに――


「ふはは「お~ほっほっほ! なのかしらん!」


放とうとした会心の哄笑は、それを上回る大音量の高笑いにかき消された。

ポーズを決めたまま硬直するミッドナイトをよそに、「何者かっ!」という誰何の声が挙がって視線が一斉に全く別な方向に向く。

そこに、鯉ヶ滝邸近所の電柱の上に立つのは。


蜂蜜色の髪に狐耳、ふんわり九尾!


メリハリのついた肢体を纏うは、妙に露出度の高いかろうじてスカートのようなものがついたボンテージ調の衣装プラスニーハイブーツ!


そして! 正体隠す気ねえだろってくらいの色々まるっとお見通しな目元だけを覆い隠す派手メガネもといマスク!


確かに王道ではあるがその実色々間違っているだろうお前ってな格好をしたその人物は、ずばばんっ! とポーズを取って名乗りを上げる。


「愛と勇気と嫉妬と妬みとあれやそれやこう、もやもやっとしたなんかそんな感じの気分の使者! 怪傑フォクシーレディここに推参っ! なのかしらんっ!」

「お帰り下さい出口はあちらですわよ」

「あ、こりゃどうも……ってちがーうのかしらん!」


ぞんざいな恋の対応に律儀なリアクションを返してから、たま……もとい自称フォクシーレディは、ずびしと指を突きつける。


「この事件、妾が預かるのかしらん! 世間知らずのお嬢様は部屋に籠もってがくぶる震えてるがいいのかしらん!」

「いきなりやってきて何寝言をほざいてやがりますのこの駄狐。人の喧嘩に首をつっこむとかお節介にもほどがあるどころの騒ぎじゃありませんわね」

「お節介? ふ、この妾がそんな高尚な動機で動くと思っていたのかしらん?」

「だったらなんのつもりですのこれは」

「ただのやっかみかしらん!」

「最悪ですわね!?」


周りの状況置いてけぼりでぎゃいぎゃい口論する二人。しかしぽかんとしているのは大だけで、周囲の人間はなんだいつものことかとばかりにスルーしている。実に頼りがいのある話であった。

そして。


「……見せ場が……俺の見せ場が……」


マントを翻したポーズのまま固まっていたミッドナイトが、唖然とした様子で言う。

また狙ったようなタイミングで乱入されたものだ。いや実際狙っていたのかも知れないと思われるだろうがあのあんぽんたんだ、単なる偶然である可能性が非常に高い。


ともかく出鼻はくじかれ見せ場はなんかぐっだぐだだ、いまさら格好つけたところで意味はない。いい面の皮であるが悲劇はここで終わらなかった。


「うん、気の毒と思わないでもないが、それはそれこれはこれであるな」


突如かけられる声に、ミッドナイトはびくりと硬直する。そこからぎぎぎと軋んだ機械のように振り返ってみれば。


はい、ぎんぎらぎんのおっさんを筆頭とする重武装のおまわりさん御一行でした。


呆れたような様子の泥門警部は、若干同情的な視線を向けながらもがしゃこんとショットガンをポンプする。


「では久々に……お前を牢名主にしてやる!」

「「「「「往生せいやああああ!!」」」」」

「またこれかあああああ!!」


脱兎のごとく屋根づたいに逃げるミッドナイト。容赦なく銃器をぶっ放しながらそれを追う警官ども。

遠ざかっていく騒動と、未だしょうもない口論を続ける高性能なあんぽんたん二人を余所に、鯉ヶ滝家の家人たちはただ黙々と己の職務を果たしていた。


彼らは正にプロである。

ただ単にもう慣れてしまっただけともいうが。











「……で、またまた性懲りもなく予告状が届いて、その上貴方がご指名されていますのよ」

「もうガンスルーでいいんじゃねえか?」


何とも言えない、呆れたような困ったような苦々しい表情の恋。受け答えする太平もあきれ果てた様子だ。

さすがに三度目ともなると、正直ウザい。そう言った内心を全く隠そうともしない二人である。

かてて加えて。


「ふ、挑まれたのであれば受けて立つのが風車の理論なのかしらん」

「「おめえじゃねえ座ってろ」」


やたらと格好をつけてあほなことをほざく玉藻に、揃ってツッコミが飛ぶ。何もしていないのになんでこんなに自信満々なのかこの女。つか正体隠しているつもりじゃなかったのか。


「ただ邪魔しにきただけなのに図々しいにもほどがありますわね!? 駄狐猛々しいとはこのことですわ!」

「この妾の存在に畏れを抱いた賊の逐電ぶりが分からないとは人生損してるのかしらん! ってか何適当な言葉勝手に作ってるのかしらん!?」

「問題ありませんわ。出資している出版社の辞書に次の版から載せますから」

「権力の無駄遣いだ!?」


ぎゃいぎゃいと無意味な騒ぎが続く。その光景を教室の隅で密かに観察しているものがあった。

目立たない、地味なメガネの少年。意識されて放置されているのではなく、完全に空気に溶け込んで意識を向けられない。そんな感じの少年だった。

その空気を自ら作り出しているなどと、誰が予想できるであろうか。

そんな目立たない学生を演じている(・・・・・)少年は、内心憤りまくっていた。


「(調子にのりやがってクソどもがっ!)」


この少年、名を【海藤かいとう 真也しんや】という。多分皆さん気付いていると思われるが、怪盗ミッドナイトの正体であった。


彼は代々裏で(自称)義賊を営んでいる家系の出である。幼少から盗みの技を仕込まれ、今ではどこにだしても恥ずかしくない一人前の盗人だ。

その出自と受けた教育のおかげで、彼は歪んだ正義感とプライドを心に秘めている。悪人の暗部を白日の下に曝し、その財を恵まれぬ民に分け与えることこそが己の使命だと信じて疑わない。その彼が、一方的にライバル視しているのが太平であった。


横暴にして凶暴。数々の悪人を成敗しその財を奪っておきながら民に分け与えることなど思いつきもしない外道。


……実に酷いいいざまであるが、実際ほぼ事実なのがまたたちが悪い。そんな太平に対し、真也は常に憤っていた。盗賊としてのプライドも美学もないと。

プライドとか美学とかいう以前に太平は盗賊よりももっとおぞましい何かなのだがまあそれはいいとして。ともかく真也はいずれ太平をぎゃふん(死語)と言わせなければならないというねじ曲がった使命感を抱き続けていたのだ。


……決して盗みの後上機嫌に立ち去っていたところに太平から喰らった顔面ストーンストライクを受けてギャグ墜ちしたことを恨んでいるわけではない。ないったらない。


しかしだからといって直接太平を敵に回すほど愚かではない。いやもう十分にあほだろうという真っ当な意見は取り敢えずおいておくとして、ならばどうしようかと彼は常々機会を伺っていた。

結果、以前から目をつけていた鯉ヶ滝家に狙いを定めると同時に、太平を挑発するという行動に出た。もし太平がそれに乗ってくるならば、決して直接対決などせずに出し抜いて窃盗を果たす。乗ってこないのであれば友人を助けぬ臆病者卑怯者と悪評を広めることが出来る。

同時に裏で黒い噂が流れている鯉ヶ滝の暗部をさらけ出し、裁きを受けさせる。一石二鳥の考えだと、彼は自画自賛していた。


が、結果はごらんの通り。仕事は上手くいかず、太平たちには好き放題言われてストレスは溜まっていく一方。真也のプライドはずたずたである。


「(だが……まだだ)」


真也の目は、まだ光を失っていなかった。

彼には勝算がまだ残っていたからだ。代々盗賊の血筋は伊達ではない。


またぞろ斜め上の方向に努力するあほの存在が明らかになったわけだが、どのみちオチはしょうもないことなので多勢に影響は出ない。


それが運命というものだ。











で、またまた予告日当日。


「……来ませんわね」


最早定番の布陣。その中央で腕組みし、いらいらしながら人差し指をとんとんと動かしている恋が呟いた。


予告時刻はとうの昔に過ぎている。だが前回までと違い、ミッドナイト(真也)はその姿を現していなかった。すでに誰かに姿を変え、屋敷に侵入していると言うことも考慮に入れて先程から再確認を繰り返していたが、未だに怪しいところは確認されず動きらしい動きもない。だがこの状況が相手の策と言うことも考えられる。焦らし苛立ちを煽り思考能力を低下させる。そういった計略でないという保証はない。

そう言うわけで、警備を担当しているものたちは一切の油断をしていなかった。そのことが分かっているから、逆に恋は苛立つことが出来ている。


まあ彼女が苛立っているのはそれだけが原因じゃないのだけれど。


「ふ……この妾の存在に恐れをなしたのかしらん」

「ええもうそれでいいですからとっとと帰っていただけませんかしら」


近場の電信柱の上で、無意味に自信満々の痴女もとい駄狐が胸を張ってほざき、恋はいらいらしたままでぞんざいに吐き捨てた。

そう、妙な対抗意識を燃やした玉藻は再びフォクシーレディとなり恋たちの前に姿を現したのであった。もうなにがやりたいんだか、自分でも分かっていないのではなかろうか。

そして彼女はぞんざいな扱いにかちんときたか、恋に食って掛かる。


「なんなのかしらんその態度は! この妾の威光にむせび泣きつつ感謝の意を表明するのが凡人の有り様というものではないのかしらん!」

「ぶっちゃけ邪魔以外の何者でもない癖になんでここまで上から目線ですのこの駄狐」

「邪魔しに来たのだから当然のことなのかしらん!」

「マジ最悪ですわね!? こそ泥より先にこのあほ狐を成敗するのが先のような気がしてきましたわ」

「はっ、この傾国傾城が権化である妾に勝てるとでも思っているのかしらん?」

「ふん、どうせ権力者にすり寄って空気読まずに贅沢した挙げ句追放されるか寝所潰すかした穀潰しでしょうに」

「ぎく。……ってそそそそそんなことはないのかしらん! とんでもない風評被害なのかしらん!」


ぎゃいぎゃいと言い合う高性能なあんぽんたん二人を余所に、警備を担当するものたちはあくまで己の職務に忠実であった。

やはりプロである。


そんななかにあって、泥門警部はしかしとまなじり鋭く考える。


「(あのこそ泥がそう簡単に諦めるとは思えんのである。であればやはりなにやら策が……)」


もちろん、その懸念は大当たりしていた。











そういうわけで、怪盗ミッドナイトこと真也の現状であるが。


「ふ、まさかこのような進入経路を使うとは思っていまい」


格好つけた言い回しの台詞が暗い部屋に響く。そしてかたかたと壁に取り付けられた空調の蓋が外れ、にゅるりとタキシードの怪人物が現れ床に降り立つ。


彼が侵入口として選んだのは屋敷に張り巡らされた換気経路――ではない。電気配線や配管などを通すために生じた壁の隙間。そこに潜り込んで目的の部屋に達したのだ。

無論一日やそこらの短期間で出来るわけがない。実は最初の予告状を出す以前、数ヶ月前から屋敷近くの地下水路より穴を掘り、屋敷の地下から壁の隙間を狙ってアプローチしていたのであった。

前回までに二度警備陣の前に姿を現したのは外に注意を引くためのフェイント。本命はこのように予想外の経路から潜り込むこと。まあ本気で苛ついたり本気でとっつかまるか撃ち殺されるかしそうであったり色々あったが、果たしてその目論見はほぼ達成されたと言っていい。


あとは――


「さて、まずは鯉ヶ滝の悪事、さらけ出して貰おうか」


真也ミッドナイトがまず忍び込んだのは、鯉ヶ滝邸の書庫。彼はそこに保管されているであろう悪事の証拠をまず入手するつもりであった。


実の所、鯉ヶ滝家の関わった事業その他に関してはすでに調べ上げている。そこでは不正や後ろ暗い悪事の証拠などは見つからなかった。しかし依然として鯉ヶ滝に関する噂は留まるところを知らない。火のないところに煙は立たず。必ず何か悪事を働いていると真也は確信していた。

であるならば、周子は手元に保管して漏れ出さないようにしているだろう。長年の勘からそう当たりをつけて、そのような資料があるであろう書庫にまず潜り込んだのであった。


だがしかし。


「……むう、当てが外れたか?」


怪しいところをあらかた調べ回ったが、隠し帳簿も裏帳簿もその他悪事の証拠も見つからない。ここではなかったかと眉を顰め他の目当てを思い浮かべる。


しかし実際幾ら探しても無駄だ。鯉ヶ滝家はそもそも基本なんにも悪いことをしなくてもお金が入ってくる一族である。代々続いた名家であり、そこに仕えるものたちも吟味され選抜されたものばかりで、無意味な悪事など働くはずもなかった。つまり悪事の証拠などあるはずもない。


まあ時々お嬢さんがはっちゃけて手下に国内じゃ使っちゃいけない獲物を使わせたり自分で使ったりするが、この界隈じゃ悪事どころか単なるやんちゃレベルの扱いである。それはそれとして、なんでまた後ろ暗い噂が流れていたのかと言うと。


「へっくしょん」

「あらお父様、風邪ですの?」


大体悪人面の現当主のせいだったり。


結局火のないところに立った煙に惑わされまくってる真也だったが、本当の悲劇はここから始まった。


書庫には証拠はないと見切りをつけ、であれば書斎の類かと考えながら気配を消し出口に向かおうとしたところで。


同じように気配を消して屋敷内を不定期に見回っていたメイドさんが、唐突に出口のドアを開けた。


突然のことに思考が停止し、固まる二人。一瞬の後に反応したのはメイドさんが先だった。

彼女は突然のことにパニックになったのか、いやいやと首を振りつつ絶叫する。


「いやああああああああ! ちィかあああああああん!!」

「ちょ、ちが……」

「「「「「痴漢だとおおおおおお!!」」」」」


真也がきちんと否定する前に、メイドさんの悲鳴を聞きつけた同僚たちが手に手に獲物を持って駆けつける。そして真也の姿を確認した。


「おのれただのこそ泥だと思っていたら、か弱き乙女に乱暴狼藉を働く卑劣漢であったとは! 我等鯉ヶ滝家使用人衆の誇りにかけて、貴様のような悪逆非道な輩を見過ごすわけにはいかん! 成敗してくれるからそこへ直れ!!」

「いやまって話を聞いて……」


勿論聞いてくれるはずがない。


ばんばんばんぱらたたたたたどかどかどか! と問答無用の攻撃が雨霰と叩き込まれる。「もおやだああああ!」と真也は泣きながら逃げ回るがその心情を汲んでくれるものなど誰もいない。


それどころか。


「なにい! あのこそ泥こそ泥では飽きたらずレイパーとして覚醒しただとお!」

「いやそれどころかようぢょに向かってぐへへおいちゃんにおぢょうちゃんの宝物をみせておくれよとかやらかしたらしいぞ!」

「おのれあわよくばあのマントの下で全裸となりほうれみてごらんとしゃれこむ気か!」


風評被害が熱い。


鯉ヶ滝使用人衆に加え警官の皆さんも参加しさらに激しさを増す一方の攻撃と流言。逃げるのに必死な真也には、それを止める手だてなどなかった。

争乱の中、怪盗ミッドナイトが放つ魂の叫びが夜空に響く。


「なんで、なんでこうなるんだああああああ!?」


なんでもなにも、自業自得だと思う。











そんで。


「まったく、こそ泥を隠れ蓑に性犯罪を繰り返す外道だったとは! 不愉快きわまりない話ですわ!」

「本当にそうなのかしらん! 性犯罪者は(ピー)切り取ってしまうべきなのかしらん!」

「うわマジか最低だな」


ぷりぷり怒りながら(大分歪んだ)事の顛末を太平にぶちまけている恋と玉藻。彼女らが話を広げるまでもなく鯉ヶ滝家や警察関係に対して行われたマスコミの取材から、今回の話はあっという間に広まった。

新聞や雑誌の紙面には、『ミッドナイトだけに深夜の御乱交!』とか『怪盗の皮を被ったけだものっ!』などの文字が躍り、おもしろおかしくないことないこと(・・・・・・・・)が書きつづられている。


もはや世間はミッドナイトを怪盗を隠れ蓑にした性犯罪者と見ている。冤罪もいいところであるが、一度そう言うレッテルが貼られてしまえばそれを晴らすのは難しい。ミッドナイトのファンというか擁護派もいるにはいたが、今回のことであっさりと手の平を返し非難し始めたものがほとんどだった。


「俺も男だから色々とあるのは分かるが、性犯罪に走るのはいかんだろう。犯罪とかなんとか言う以前に人間としての尊厳がないわ。野生動物だって発情期以外は盛らない程度の分別はあるというのに」

「それ分別の問題じゃないと思う。……まあ僕もえっちいのは大好きで大好物ですけど、最低限合意がないのはだめだよね~。あくまでプレイの範囲ですまさないと」

「女性としても、いやさそうでなくとも許し難い存在ですわ! 関係機関と協力し徹底的に罪を洗い出して弾劾しなければ!」

「ついったーやらいんで拡散しておくのかしらんついでに動画もうpしとくのかしらん!」


言いたい放題であった。汚名返上など夢また夢。最早怪盗ミッドナイトの名声名誉が挽回されることなどないだろう。


そして肝心のミッドナイト――真也であるが。


「……ちがうの……ちがうのお~……」


机に突っ伏し魘されるように呟きながら滝のような涙を流していた。


心が折れたどころではない。プライドから何から粉々にされ、立ち直る気力など欠片も残っていなかった。無論太平たちの言葉は耳に届いているが、それにより怒りを掻き立てられるどころかただひたすらに落ち込んでいくだけである。

もうどうすることも出来ない。こそ泥以下の変質者と見なされた自分の弁明など、誰も聞いてはくれないだろう事は嫌でも理解できた。犯罪者と見なされるのはむしろ誇らしくも思っていた真也だが、変質者扱いはとてつもなくこたえたらしい。


そんな彼の様子は、それでも身に付いた技術の性で気配を消しまくっているため、誰にも気付かれることはなかった。











こうして、世間を騒がせた怪盗ミッドナイトの名は地に落ち、その活動は休止に追い込まれる。


だが、彼が最後の悪漢ピカロとは限らない。犯罪行為に浪漫を求める人として駄目な方向にこじらせた人間はまだまだ多く存在するのだ。


戦え太平。負けるな太平。


今回何もしていないことなど気にせず鉄拳を振るうのだ!











「(内閣調査室ウチにスカウトしようかとおもっていたけど、やんなくてよかった)」

↑実は正体知ってた副担任。













明けまして遅いよ!

大変申し訳ない緋松です。


はいそんなわけでして怪盗もの。しかし主人公がほとんど絡まないとはどういうことだ。まあ絡んだ瞬間終わるんですが。実のところ太平君にライバルっぽいキャラをって考えてたんですけど、その事実に気付いてダメじゃんと。で、結果このような形に。


しかしあれですな、同じピカレスクものでもルパンやコブラは好感が持てるのに、なんでキッドはボコりたくなるんだろう。緋松の精神が歪んでいるからでしょうか? イケメン死すべし慈悲はない。(そこか)


そんなこんなで色々とスタートダッシュから遅れましたが、今年もよろしくお願いしたすまする。

でわー。



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