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そのじゅうよん・恋愛相談でこともなし!





その日、太平は非情に珍しいことに。

困っていた。


「ご無礼は承知! その上で相談に乗って頂きたく、伏してお願い申し上げます!」


見事な土下座。


この上ない土下座使いであるその男は、忍者のような覆面を被った、同級生であった。











自称甲賀流正当忍者高校生、篠備賀 透。

校内でも名の通った変態である彼が太平の元を訪れ頭を垂れたのは、わけがあった。


「デートのやりかたを教えてくれ、とな?」

「さよう」


旧校舎を改装し部活や同好会の部室棟となった通称部室長屋の一角、忍者同好会と看板が掲げられた部屋の中で、透はとてつもなく意外な頼み事をしてきた。

今の今まで透と直接関わってきたことのない太平も、彼の噂ぐらいは聞いている。が、話を聞いている分にはデートなんぞという単語と繋がるキャラクターではなさそうだったし、さらに太平に相談してくる理由も分からない。その疑問を素直にぶつけてみれば。


「いえその、それがしかなり前から文通している相手がおりましてな?」

「今時文通!?」


そこまで古風にするこたああるめえよと呆れる太平だが、透は真剣な様子で応えた。


「いやこれが馬鹿にした物ではござらん。手書きの字は気持ちや体調を明確に伝えまする。その上機密性はメールなどとは段違い。多少の不便もありまするが、密やかに連絡を取り合うには未だ有効な手段かと」

「……なるほどねえ」


意外に考えているんだと、太平はちょっと感心した。


「まあ何か不都合があれば、自爆などするよう仕掛けも施すのも容易ですしな」

「一瞬前の感心を返せこのやろう」


所詮は変態であった。まあそれはそれとして。


「色々はしょるが、そんで馬があってデート、という事態になったのは分かる。で、なんでオレが相談相手なわけよ」

「まず彼女あり、というところが大きゅうございましたな。その上でなにかあっても対処が可能となれば、これ以上頼りになる人間もありますまい」

「なにかって、なにがあるつーの恋愛相談で」


呆れたように言う太平だが、透は至極真剣な様子で訴える。


「あるのでございますよそれが。男女問わず、独り身を拗らせた者は恐ろしい存在でありましてな。もしもデートなどというものがバレてしまえば、それがしの身が危のうございます」

「いや待て」


何を言っているんだこいつはという感じの太平だが、透はマジである。


「冗談ではありませぬぞ? 単体でも恐ろしいというのにきゃつらが徒党を組めば……それがしぐわー! とかあばー! とかさよなら! とかいうさつばつ! な目に遭うこと必至」

「必至なんだ」

「必至にござる」


きっぱりと断言。太平は後頭部に汗を流すしかなかった。

太平は彼女持ちであるが、その関係で理不尽に絡まれたことは一度もない。(周りの女性陣? 最初ハナから眼中にない)

元々それほど知れ渡っていないと言うこともあるし、手を出したら死ぬよりつらい目に遭わされるということが確定しているのでさもありなん。ゆえに最低でも彼女との交際に関しては至極平穏であり、透の言うことが全く実感できないでいた。


「そういうわけですので、嫉妬に狂った独り身どもに察知されぬよう密やかにかつ満足のいくデートを行うためのアドバイスなどを頂ければ、と」

「そんな小器用なデートなんぞしたこたあねえよ。つーか密やかにつったらお前さんのほうがプロだろうが」

「きゃつらを舐めてはいけませぬ!」


どん、と凄い勢いで詰め寄る透。暑苦しいしキモいがそんなこと一向に構っちゃいない。


「きゃつらの執念、妄執。それはもう己を人外のものとする領域! 万全を期さねばどこからとも各情報を嗅ぎ付けゴキブリのごとくわき出てくるがきゃつらの生態! その上我が持てる全ての技術をもってしても仕留めるのは至難。なおかつ徒党を組みあの手この手で襲撃妨害嫌がらせで責め立てるその様はさながらゾンビか人型モンスター系パニックホラーのごとし! 正しく害悪! 正しく邪悪! 一瞬の油断も隙も見せてはならんのです!」


力説であった。太平は多少腰が引け気味になりつつも、問い返す。


「なんでそこまで断言できるほど詳しいの」

「あ、忍者の仕事で幾度かきゃつらとかち合いましてな」

「……仕事してんだ、忍者の」


深く考えるのは止めよう。太平は色々なものを棚上げにした。

とにもかくにも、だ。


「目立たないようにデートしたいってことなんだな? だったらよ」


言いながら太平は透の顔を真正面から指さす。


「その覆面、取ったら?」


篠備賀 透を篠備賀 透として認識させているのは、年がら年中被っているその覆面である。っていうか誰も素顔を把握していない。

だから覆面取ったら誰か分かんねーじゃんという太平の指摘に、なぜか透は狼狽する。


「い、いやこれはその、忍びとしてのアイデンティティというか、心のよりどころ的なシンボリックアイテムでありまして、これを脱ぐと言うことはすなわち引退宣言も同様でありお別れコンサートなどを開かねばならぬという事態に陥るわけでして……」

「うんわけわからんし」


言ってることは分からないが、とにかく覆面は取りたくないらしい。何が彼をそこまでさせるのか。どうせしょうもない理由だろうが。

はあ、と溜息を吐いて、太平はぽりぽりと頭を掻いた。


「ま、デートのプランを考えるぐらいはやってもいいけどな……多分周囲に丸分かりだぞその格好だと」

「無論、それなりの格好で参るつもりでありまするが」

「忍び装束とか言うんじゃねえだろうな」

「天下殿はサトリにござるか!?」


だめだこいつ、根本からたたき直さないとどうにもならねえ。

本腰を入れるつもりはなかったのだが、こいつは放っておくと大恥どころでは済まない。何とかしなくてはと言う気分にもなる。


珍しく他人のために動こうとする太平。

その行動が騒ぎを起こす元になるのは、最早運命だった。











ごうん、ごうんと空調の音が響く。

暗闇の中、歯車が噛み合う音が鳴り、不協和音を奏でた。

耳障りな音の中で、確かに声が響く。


「恋は疫病なり」


ぼう、と暗闇の中に明かりが点る。


「愛は死病なり」


次々に灯る明かり。浮かび上がるのは、三角頭巾にローブのような全身を覆う服を纏ったものたち。


「慈しみは幻想」

「むつまじさは猛毒」


言葉に感情はこもらない。いや、表面上はそうだというだけで、彼らが背負う気配はなにやらぐろぐろと怨念じみたものを感じさせる。

全ての明かりが灯されたその時、彼らの言葉は一つに重なった。


「「「「「この世の全てのリア充に、災いあれ」」」」」


『リア充に、御仏の慈悲は無用』と達筆な文字で書かれた掛け軸を背に、額の所に議長と書かれた覆面をした人物が、重々しく口を開いた。


「これより第257回【みなしごの会】定例会議を始める」


モテなさすぎてダークサイドに堕ちた独り身(みなしご)たち。それが徒党を組み、一つの組織となったものがみなしごの会である。

宣言を終えた議長は、ぐるりと集った面子を見回し言う。


「では各々の活動報告を聞かせてもらおうか」


その言葉に、次々と挙手して活動を報告するものたち。


「はいっ! 自分はリア充カップルの男のほうに偽ラブレターを送りつけ、それを女のほうにリークして修羅場を演出してみましたっ!」

「自分は別のカップルの女の携帯に浮気をほのめかすメールを送って破局に導きました」

「先月会員72号が試みたコラ映像にて浮気をでっち上げるという手段はそれなりの効果があるようです。ただし画像の出来によってその効果は左右されるようですが……」


最低な報告が次から次に上げられる。なんという無駄な努力……げふん、恐ろしい策略を巡らす集団なのであろうか。


そして、彼らの議題は新たなる『敵』についての事柄へと移る。


「文通か……よくも我等を謀ってくれたわ」

「さすがは忍、というところか。盲点ではあったな」

「以前も依頼とやらで我等の邪魔をしてくれましたが、此度はあからさまな敵対行為でしょう」

「討たねばなるまい。……だが問題が一つあるな」

「天下 太平、か」


その名が出た瞬間、室内の温度が一気に冷え込んだように感じられた。

しばらくの沈黙の後、再び会話が交わされる。だがその口調は先程のものより、重い。


「決して手を出してはならない存在。しかしアレに彼女などと言うものがいようとは……」

「明確な敵ではある。だがおいそれと手出しはできんな」

「それに助けを請うか。なかなかの策士と見える」

「天下 太平に気取られず、かのものを討つ。至難の業ではあるが……」

「その役目、まずは我等にお任せ願えませんでしょうか」


言葉が交わされる中、名乗りを上げたのは一つのグループ。

格好こそ周囲と同じものだが、内部から圧力をかけられたかのように膨れあがった様子から、相応の体格をしているように見受けられた。


「卿らか。よかろう、やってみたまえ」

「ありがたく。それでは早速赴くことにいたします。御免」


ばさりとローブを翻し、男たちは部屋を後にする。

残されたメンバーの一人が、議長にそうっと問いかけた。


「よろしいのですか、彼らに任せて」

「なに、彼らで片が付けばもうけものだ。構わんよ」


そう上手く行くとは思っていない口ぶりだ。議長は暗い笑みを浮かべ、ぎ、と椅子に体重を預ける。


「一応次なる手だてを用意しておかなければなるまいな。卿らの意見も聞こうか」


陰鬱な空気の中、独り身どもは陰湿な計画を編み続ける。

ここに、篠備賀 透包囲網は着々と構成されつつあった。果たしてその行く末は。











「ところでなぜ毎回空調設備とかボイラー室とか薄暗いところで会議が行われるのでしょうか?」

「雰囲気作りに決まっているだろう」(キリッ)











山積みにされた雑誌。

ファッションや定番デートコースの案内など、若者向けの情報誌ばかりであった。

古本屋でたたき売りにされていたものを太平が纏めて購入してきたのだ。安い分情報が一月から半年ほど古いが、そもそも時代錯誤の自称忍者にはこのくらいでよかろう。

それに片っ端から目を通し、むむむと唸る透。いくつかの雑誌に目を通した彼は、がっくりと肩を落とし言う。


「やはりどこを見ても覆面はファッションとして認められてはおりませんな」

「多分時代を遡ってもファッションとして認められてないんじゃね?」


太平は言うが、透は心外なというような態度で返す。


「ですが天下殿、江戸時代の身分の高いものの間では、密談や辻斬りを行うときに覆面をすることが流行っていたので……」

「そりゃ顔見られたらまずいからだろうが」


流行りじゃない、確実に。


「で、それ見た上でどうすんのさ。はっきり言って相手が一般人であったならどん引きじゃ済まねえぞその覆面」

「あ、その点についてはご心配なく。相手もまた忍びの者ですゆえ」

「そ、そーなんだ……」


こんな変人が二人も三人もいるのか。そしてデートするのか。太平の脳裏には覆面被った忍び装束の二人がきゃっきゃうふふと砂浜を走っている光景が浮かんだ。


「先に言っておきまするが、相手はわりと普通の格好ですぞ。かげろうお銀系の」

「かげろうお銀系がすでに普通じゃねえよ」


どっちにしろ変人である。更生するのはとてつもなく苦労しそうであった。

しかしまあ、相手も忍者だというのであれば話は早い。ファッションセンスとかも似たり寄ったりであろう。先に言ってくれればそんなに苦労しなかったんだがなァと内心ちょっと恨めしく思いながらも、太平は方向性を切り替えることにする。


「逆にあれだ、忍者的に格好いいファッションとかのほうがいいんじゃねえかって気がするぞ? デートのコースとかもそっち向きで」


太平の提案に、またも透はうむむと考え込む。


「太秦か日光になりますなあ……日帰りはちときついやも」

「色々な意味で飛んだなオイ。確かに近場で忍者が満足しそうなところとか知らないけどよ」


どっちにしろ、面倒くさそうな感じであった。太平はふうっと天を仰ぐ。


「……少し休んだ方がよさげですな。ジュースでも買ってまいりましょう」

「ああ、ん……」


ごそりとズボンのポケットを漁り財布を取り出そうとする太平だったが、それを透が止めた。


「いやいや、無理を押しつけたのはこちら。せめてものお礼というわけでもありませぬが、ここは一つおごらせてもらえぬでしょうか」

「良いのか? 悪いな。じゃあ緑茶頼むわ」


心得ましたと部室を出て、備え付けの自販機の元に向かう透。

自販機に硬貨を投入しようとしたその手が、ぴたりと止まった。


「何者かっ!」


一瞬でその場を飛び退き構える。

透の視線の先、廊下にわだかまる影、影、影。

三角頭巾にローブの男たち。彼らは一斉にローブを脱ぎ去った。

現れるのは。


「「「「「ふんっ! ふんっ!」」」」」


無駄に自己主張する筋肉!


見事なスキンヘッド!


なぜか全身に塗りたくられている金粉!


気合いの入った呼気と共にポージングを決め、彼らは声を揃えて名乗りを上げる。


「「「「「我等! みなしごの会鉄人十三人衆!」」」」」


有無も言わさず間髪も入れず、先端でポーズを決めていた男が吠えた。


「リア充は許されないっ! やっちまえええええええ!!」


咆吼と共に、男たちは透に襲いかかった!

殴る蹴る椅子を使う踊る組み体操をする。傍若無人の嵐が蹂躙の限りを尽くした。


やがて嵐が収まる。肩で息をしながらも満足げな表情で男たちが見下ろせば。


「なっ! これは変わり身っ!」


いかにもな丸太であった。してやられたと、男たちは透の姿を求め周囲に視線を走らせる。その時、確かに丸太から注意が削がれた。


無論大爆発。


男たちは為す術もなく吹っ飛ばされた。


「様子見、と言ったところか。以外にやるようではあったが、しかし」


しゅたり、と天井から降り立った透が眼差しを鋭くしたまま断言する。


「貴殿らは忍者を侮っ(ナメ)たっ!」


無駄に格好良かった。だが。


「「「「「てめ篠備賀今度はなにやりやがったああああ!!」」」」」

「あ、その、今回はそれがしではなくちょっと話を聞いてええええええ!」


長屋の部室から飛び出した他同好会の連中から、即座に袋だたきにあった。











「………………なにしてんの」

「い、一慨にそれがしばかりのせいではないと思うのですが」


ガーゼや絆創膏をあちこちに貼り付けた透の姿を見て、太平は溜息を吐いた。


「普段の行いって、大切だよな?」

「貴殿がそれを言われるか」


どっちもどっちというか、太平の日常のほうがかなり酷い。

その事実を棚上げにして、太平は話を切り替えた。


「とにかく、マジで独り身の集団から狙われてるみたいだな」

「事情を知るところとなったのでしょう。これより襲撃が多発するものかと」

「よし、ちょっと探し出して潰してくるか」

「難しゅうございましょう。きゃつらは拠点を次々と変えている様子。それがしも追い切れませなんだ」

「忍者から逃げるってどんだけだよ……」


こういうパターンは襲撃が恒例化するんだよなあと、自身の経験を鑑みて唸る太平。何で世の中にはこうも無駄なことに全力を尽くすあほが多いのか。番長とか。

根を断たねば終わらない話だが、このような連中は頑固な汚れよりもしぶといのが常である。しかも変態である透が辟易するような変態だ、生半可な対処では懲りることなど無いであろう。正直太平も関わり合いになりたくない。関わり合いになりたくはないが。


「とにかく今回のデートをまず乗り切る事を考えるか。一人になるとヤバそうだ、常に二人以上で行動するとしよう」

「は? その、天下殿が?」

「オレひとりが付きっきりてわけにゃあいかねえからな。まひとやマサにも協力を仰ぐとするさ」

「は、はあ……」


この御仁、もしかしてすごくお人好しなんじゃ無かろうか。意外とも言える太平の一面に、戸惑う透であった。

普段がアレでナニだから分かりにくいが、大体その通りである。自身に迷惑や被害を及ぼさない相手に対して太平はわりと寛大であった。特に今回の場合、本人に非がないのに酷い目に遭うという状況が、同情と共感を誘ったのであろう。


こうして太平の全面協力の下、透君デート大作戦が発動したのであった。

無論無駄に騒ぎが大きくなることは決定事項である。











「やはり天下 太平の庇護下に入ったか」

「いかがなさいますか? さすがに彼を敵に回すのは……」

「それだけは断じて避けねばならん。しかし、彼とて24時間四六時中目標に張り付いているわけにもいくまいよ」

「……隙を見て波状に襲撃をかける、と」

「やつに心休まる時間などやらぬ。我等が怨念の深さ、見せつけてくれるわ。……総員、修羅を魅せろ」

「「「「「承知!」」」」」











「そういうわけで僕らが呼ばれたのはわかるけど……」


太平の呼び出しに応じたまひとは、戸惑いの視線を向ける。

視線の先には。


「なにか問題でもあるのかね?」


誰が呼んだか風紀委員長。隣にはちゃっかり副委員長の姿もある。


「問題以前になんでアンタが来るんだよ。男女交際がどうのこうのと言うつもりか?」

「いや、健全なる男女交際大いに結構」


太平の言葉に意外とも思える返事を返す委員長。彼は眼鏡を指で押し上げつつ語りを続けた。


「男女問わず交友関係が広がると言うことは人生を豊かにする。さらに色恋であれば人生の機微を多く学べるだろう。加減をわきまえるのであれば、むしろどんどんやりたまえと言ったところだね」


そこまで言った委員長の眼鏡が、ぎらりと光る。


「しかし、それを妬んで妨害や嫌がらせをするのはいただけない。実に無意味で不健康で非建設的だ。風紀委員長としても個人としても見逃すわけにはいかないな」

「ぶっちゃけこれ以上変人が横行するのは御免被りたいというのが本音なんですが」

「その通りだが人の本音を勝手に代弁するのはやめたまえ」


まあそんなこったろうと.予想はしていたが。この御仁も自ら地雷原に突っこむの好きだなああと、半ば呆れ気味で参加を黙認する太平。枯れ木も山のにぎわいというわけではないが、味方は多いに越したことはない。


「それで、当の篠備賀君はどこだね?」


委員長の問いに、太平は応えた。


「ああ、マサと一緒に便所行ってる」


で、トイレである。

どじゃーと水が流れる音が響き、個室から覆面の男が出てきた。

その途端、入り口から窓から天井から、赤い三角頭巾とローブと纏った集団が現れる。そして。


「「「「「まさかの時のリア充弾劾裁判!」」」」」

「我等が武器は二つ!」

「嫉妬!」

「憎悪!」

「憤怒!」

「……三つ!」


どこかで見たようなコントを繰り広げる集団は、覆面を取り囲み、孔雀の羽やローストチキンなどの得物を取り出す。


「「「「「開廷! 前略中略省略判決私刑っ!」」」」」


覆面は溜息を吐くような仕草をすると、呟くように言った。


「……接着」


爆発が校舎を揺るがし、頭巾どもが吹っ飛ぶ。

目を回している頭巾たちを見下ろして、青い鎧の男(・・・・・)は肩を落とした。


「この程度のことに引っかかんなよ……」


言うまでもなくジャスティオンこと正義だ。連れだってトイレに入るおり、もしかしてと覆面をつけてみたのだが、あっさり引っかかる程度の馬鹿だったらしい。


「よく見れば結構体格も違うのですがなあ……」


隣の個室から出てきた透が呆れた声で言う。確かに同じ覆面被ったら一瞬分からないだろうが、背丈も制服の着こなしも違うというのに。


「ま、次からは引っかからないと思うけどな」

「さすがにそこまで間抜けではありますまい」


上手くすればいい手だったかも知れないのに、もったいないことをしたなあと肩をすくめる二人だった。

ともかくこれで、透が一人になったときは確実に襲撃が起こるだろうというのは分かった。これより先は片時も油断が出来ないと言うことだ。


「とは言っても実際は不可能に近いと思うが。四六時中誰かが傍にいる状況を作り出すというのは」


眼鏡を押し上げながら委員長は意見を述べる。部室に戻ってきた透たちから話を聞き、善後策を練る太平たちであるが。


「家とかまではどうにもならないしな。寝食共にとか考えたくもねえ」

「あ、僕やるやる、ぜひとも!」

「……まあこのあほみたいな特殊な例はあるが。油断すると逆に食われそうだが性的な意味で」


まひとにみしみしアイアンクローをかけながら、しみじみ言う太平。たしかにまひとなら嫌がらず風呂だろうが布団の中だろうが突撃するだろうが、別な意味で危険すぎる。


どうしたもんかなと考え込む野郎ども。と、そこに。


「話は聞かせてもらいましたわ!」


しぱたーんと部室のドアを開けて飛び込んできたのは、だれあろう恋ヶ滝 恋。また盗聴でもしていたのかと、思わず生暖かい視線を向ける太平たち。

野郎どもの視線の意味に気付いたふうもなく、恋はずはずはっとポーズを決めながらこう宣った。


「義を見てせざるはなんとやら。ましてや乙女の最優先重要事項たる初デートを邪魔しようなどと、天が許してもこの恋ヶ滝 恋が許しませんわ! ここはひとつどかーんと力を貸そうではありませんか! 具体的にはSITUJI★隊を!」


言うと同時にずば、と恋の背後に現れる執事の群れ。「むっ、で、できる……っ!」と忍者が一人で戦慄しているが、構わず恋はどやあっと胸を張る。

太平はじと目になって口を開いた。


「その人らが無駄に高性能なのは知ってるがね。……そんで、何が目的だ」

「な、なんのことでしょうかわたくしは純粋に好意で人助けを……」

「アンタが純粋に好意で人助けしたことなんかあったか?」


びびくんっと分かりやすい反応をする恋。だらだらと背中に汗を流す彼女は、しばし硬直しつつ懊悩してから、おずおずと太平に言った。


「え、ええっと、その……じつはちょっと、お願いがありまして……」


で。


こぽこぽと忍者研究会部室備え付けのポットからお湯が注がれる。

ティーバックで入れた安物の紅茶を差し出して、太平はぶっきらぼうとも取れる態度で言い放つ。


「ほれ、ご希望どおりに一緒に茶してやる。これでいいな」

「(ちがうんです! そうじゃないんです!)」


だばーっと滝のような涙を流しながら、それでも恋は紙コップの紅茶を受け取らざるを得なかった。

清水の舞台から飛び降りるような覚悟で、太平をお茶に誘ってみたらばこの反応。あんまりにもあんまりである。しかしせめて学食とかと訴えたらば、太平はきっとこう返す。「あ? 下手なところ連れて行ったら彼女に誤解されるだろうが」と。

で、酷いとか迫ったらキレる。そこから完全に敵扱いだ。それが分かるから恋は文句も言えなかった。

不憫すぎると、集った連中+執事たちは涙を禁じ得ない。


とにもかくにも、なんか酷いがなし崩し的に恋とSITUJI★隊の協力は得られることとなった。

ここに、嫉妬に狂った馬鹿どもと、太平に率いられたスーパー問題児軍団との戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。


「あ、あれ? なんか僕も問題児扱い!?」

「人間あきらめが肝心だと思います委員長」











そこからの戦いは、断片的にしか伝わっていない。だが、かいつまんで摘出した僅かな情報でも、激しい戦いであったと知れる。






「リア充はいねーがー! 彼女が出来そうで調子こいてるリア充はいねーがー!」

「SITUJI★隊総員武器使用自由(ウェポンズフリー)! よーく狙って吹っ飛ばせ!」

「いつのまにたいへーちゃんが指揮とってんだろ……」



「さて、小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でがたがた震えながら命乞いする心の準備はOK?」

「なんか世界が違うのきたああああ!?」



「人生は噛みしめて噛みしめて……ってなんで噛まないの!?」

「いや噛むわけねえだろうが」



「さて、あんたらに恨みはないがこれも浮き世の義理ってやつでね」

「先輩! お手伝いします!」

「貴様もかー! ちょっと鈍感な正義のヒーロー気取りかああああ!!」

「うお!? いきなり戦闘能力が上がった!?」



ででーん、篠備賀、アウト~。


「そんなもので素直におしおき受けるはずはなかろう!」

「ば、ばかな! 今のを聞いたものなら嫌が応にも尻を出さずにはいられぬはず!」

「馬鹿はおまえらだろ」



「いいかげんにしたまえ! そんなことをしても君たちがモテるようになるわけではないだろう!」

「貴様にいいいいい! 傍に常に眼鏡っ娘美少女侍らせている貴様に分かるものかああああ!」

「あ、私まだ彼女じゃありませんよ? どっちかってーと愛と勇気と反逆の雌奴隷? 的な?」

「君もややこしいこと言うな!」



「あの~、布団の横で直立不動のまま待機されると、非常に寝にくいのですが……」

「わたくしは、あくまで執事でございますから」

「答えになっておらんのですがなあ……」



「我等の武器は三つ!」

「嫉妬!」

「憤怒!」

「憎悪!」

「怨念!」

「……四つ!」

「懲りろよ一回やられたら」






……激しい戦いだったのである。無駄に馬鹿馬鹿しい方向で。











そして、疲労困憊となった太平は、教室でべたりと机に倒れ伏した。


「しつこいだろうとは思ってたけど、ここまでかよ。……無駄に体力使わせやがって」


連日の襲撃と、騒ぎまくる馬鹿を収めるため奔走した太平が疲れるのも仕方がない。彼はまだましで、風紀委員長なんかはツッコミすぎて酸欠でぶったおれた。相当の悪戦苦闘であったことが伺える。

これが太平本人が狙われていたならばまだ結果は違っただろうが(多分みなしごの会はもっと酷い目に遭ってる)生憎と半分他人事であるために彼の猛威も振るわないようだ。


「この調子だとデート当日はどうなるんだよまったく……」


その情熱を余所に向けりゃあもっと色々出来るだろうがと、やや憤慨する太平である。今になって透が言っていたことを実感したようだ。

しかしどうしたものだろう。襲撃は容易く迎撃できるが、ちょっとした隙を狙っては行われるそれは神経を疲労させる。デート中にそんなことされたらもう無茶苦茶、フラれる可能性は大きくそうなれば馬鹿どもの思うつぼだ。そうなっては意味がない。

つまり襲撃自体を行わせないようにしなければならないのだが、完全な壊滅が事実上不可能に近い以上、ほぼ無理だと断定して良いだろう。


どうしたものか。悩む太平であったが、そこにまひとが声をかけてくる。


「たいへーちゃん、今ちょっと良いアイディアが浮かんだんだけど」

「……実に嫌な予感がするが、一応言ってみろ」


太平の予感は的中する。だが。

なんでかそのアイディアは透に受け入れられ、採用され実行に移されることとなった。











ついに訪れたデート当日。

みなしごの会幹部たちは、混乱していた。


「ばかな! 篠備賀 透の姿が消えた、だと!?」


そう、その日、透は姿を見せなかった。まるで雲霞のようにかき消えたのである。

みなしごの会はその総力を挙げて彼を捜したが、探し出すことは出来なかった。太秦や日光にまで捜索の手を広げたにもかかわらず。

デートを中止したり日程を変更したりするのであればまだ分かる。だが姿が確認できないとはどういう事だ。例え忍者といえどもその痕跡を完全に消すなど不可能なはずだ。


「天下 太平か!? あの男、何をした……」


ぎしりと幹部たちの歯が噛みしめられる。

だが嫉妬と怨念に狂った彼らに諦めるという選択肢はない。無駄という概念を忘れ去ったのか、彼らは空回りのまま奔走し続けた。











で、実際どういう事なのかと言えば。


「……確かに、奴らの目はごまかせたかも知れないけどなあ……」


ばしゃばしゃと眩しいカメラのフラッシュが焚かれる光景を見て、『黒魔術を使いそうな黒ずくめにバンダナ』という姿をした太平がげんなりと呟いた。


「ふふん、僕の目に狂いはなかったと証明されたね」


太平の隣で、『金持ちの跡取りで高性能だがなぜか女子校に放り込まれた女装男子』のごとき格好をしたまひとがえへんと胸を張る。

彼らがいるのは某イベント会場。ぶっちゃけコスプレイヤーが集う濃い催しである。そして、彼らの視線の先では。


ちょっとえっちい、くのいちらしき格好をした二人の美女(・・・・・)が、カメラ小僧たちの前でポーズを決めていた。


その光景をじと目で見ながら、太平は深々と溜息を吐く。


「覆面取るのはダメで、女装はOK(・・・・・)っていうヤツの判断基準が分からねえぞオレぁ。相手も良く承諾したな」

「むしろノリノリだったね。本人たちが満足してたらいいんじゃない?」


それでいいのか、本当に良いのか。太平は頭痛すら覚え始めていた。


「で、マサや委員長はどこいった」

「マサちゃんはあっちのほうでヒーローショーと撮影会やってる。委員長はアッー! 系の同人誌を公費で買いあさろうとしてる副委員長を止めてた」

「……いいけどな、いいんだけどさ」


なんかもう、凄く疲れた。疲労困憊も重なって萎えかけている太平には、最早どっちが透なのか(・・・・・・・・)問う気力すらなかった。











こうして、デート大作戦はある意味大成功を収めた。この後女装にハマってまひととコスメやファッションについて熱く語り合う覆面忍者男子が爆誕したが、些細な問題である。


だが、嫉妬に狂うみなしごの会は滅んだわけではない。この世にカップルが存在する以上、彼らもまた現れるのだ。

戦え太平! 負けるな太平! 世のカップルの命運は、君の肩に掛かっている!


……無論本人の意志ガン無視なのは言うまでもない。











「おそくてよ、ひろみ!」

「ひろみって誰だよ」

「滅茶苦茶ハマッてるよこの人」












カピバラを飼いてえ。

まずは温泉がいるな緋松です。


というわけで忘れられたキャラクター救済企画。もう取り返しのつかない所までいっちゃいましたがいいじゃん理解ある彼女出来て。決して私怨によるものではありません。信じれ。


忍者と恋愛。なんでこんな組み合わせになったのか自分でも分かりかねます。ゴーストが囁いたとしか言いようが。(無責任)ですがなんか異様に筆の乗りが良かったんですよ今回。もしかしたら自分はおかしな集団が好みなのかも知れません。チンドン屋とかいたら間違いなく後ついて行くでしょうし。子供か。


そんなこんなで今回もぐっだぐだでした。次回も多分ぐっだぐだだと思います。諦めましょう自分はすでに諦めました。

でわそういうことで、ばいばいぶ~。


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