10:田原城址迷宮 1
新豊橋駅に出た瞬間スマホが震え、俺は電話に出る。
改札を出ると相手が応答する。
「今いいか」
「はい」
「田原城址で迷宮発生。急行してくれ」
「勿論です」
「頼んだ。こっちから援軍は出す。だが、如何せん遠い。時間がかかる」
「はい。直ぐ向かわせていただきます」
通話を切ると振り返る。
「田原城址に行く」
「ぐげ」
「田原城かん。なんだん、迷宮化しただかん」
「うん。だで、直ぐ行かんといかん。ほれ急ぐに」
渥美線に向かい、切符を買って駅員にスタンプを押してもらい、待機している車両に入る。
「すっかすか」
「あたりめえだろうがよ。何時だと思ってんだ」
「しらん」
俺はスマホをつけて時間を確認する。
「何時だん」
「12時半」
「ふーん?渥美線こんなんで無事だかん」
家康の言葉に俺は呻く。
「死にかけだよ」
「え?」
「だから運賃が高い。だで嫌だけど、迷宮があるならいかんといかん」
「他はないだかん。馬とか」
「馬の方がかかるわ!!!軽車両扱いだぞ!!!なのに1馬力しかないでたいして速度もでん!!!」
「はっはーなさけなーにゃー」
「殴るぞ」
そう言うと通りかかりの乗務員に静かに言われる。
「喧嘩は外で」
「はい」
静かに座るが秀吉はきらきらした目で外を眺めている。
「あれはなんだん」
「車」
「あれは乗れんだかん」
「基地にあるに」
「基地にはいつ行くだん」
「田原城址の迷宮を閉じたら」
「ほうほう!!!いいねー」
「猿の身長で車で運転できるかにゃー」
「御屋形様を乗せて見せましょう!!!」
「無理だぞ。お前、小さいで」
「ふんがー!!!」
ポカポカと殴られつつ乗務員がすっと現れる。
「喧嘩は外で」
「あ、すみません」
秀吉の頭を掴んで座席に座らせると出発した。
◆
「田原駅、人おらんにゃー」
「田舎だでねー……。ここからは歩くに」
「車がいいにゃー」
「歩いて10分くらいだで、我慢しりん」
小走りに進むにつれ悲鳴が聞こえる。
「あー……溢れとる……家康」
「おう」
「行けるかん」
「行けるに」
「行ってこい」
鯉口を切る音が響き、家康が走り始める。
「ありゃトロールか」
「コボルトもおるにゃー……儂は行っちゃいかんのか」
「行きたいだったら行きゃいいじゃん」
「ふん。行くわ」
「おう」
サイクロプスも外に出てきている。
田原城城址はさほど人はいない。
だが周囲は街中だ。
戦いは抑え込む必要がある。
「田原城址の周りを一周してこりん。堀にそりゃ回れるでね」
岡田にそう言い先に進む。
「はっ!」
岡田は走って行き、俺は小走りに田原城址の門のところまで来る。
「ありゃ鵺かん」
P90で撃ちぬき、倒した死体を眺めていると後ろから殴られる。
サイクロプスだ。
バリアを張ってそれを阻止し、振り返って撃つ。前に、秀吉が短刀で首を落とす。
「油断大敵」
「はいはい」
「なんだん。助けやったのに、酷い奴だにゃー」
「はいはい」
「ぐぬうううう」
田原城址の中には迷宮の入り口がある。
なんでやねん。
「あるねー」
「あれが入口だかん」
「そうだに。はーやだねー……トロールにサイクロプス。A判定だらーね」
「そん判定は誰がするだん」
「んー……迷宮判定士が決めるで、俺あ知らんに」
「ほーん」
ちょっと待つと家康がこちらに来て、刀の血を払う。
「出来たに。戸田はおらんだかん」
「もうおらんね」
住んでいた戸田氏はとうにいない。だから城址なのだ。
「兄上様は?」
「あっち」
指さすと向こうから銃声が聞こえる。
それから、信長が歩いてくる。
「あっちはよさそうだね」
「二人でここ押さえといてくれるかん」
「うん。いいに」
「任せろ」
「岡田が来たら中入るでね」
「ん」
「俺は?」
「一緒に行くに」
「はーい」
岡田が少しして走って来て、ナイフを仕舞っていた。
「お待たせしました」
「ん、じゃ中入るでね」
「はい」
中は迷路、ではなく、真っ直ぐの道が続き、左右に小部屋があるタイプの迷宮だった。
「あー……最悪」
「ん?なんでですか?」
「このタイプの迷宮は後ろから襲われる可能性が高い。岡田、頼めるかん」
「はい。私が後ろを見ながら歩くんですよね」
「うんにゃ」
「うん?」
「警戒するだけでいいに」
「なんでですか?危険なんでしょう?」
「ああーねー」
先に進みながら説明する。
「ソナーがありゃ、背後からの奇襲は避けられる。だで、その奇襲をお前が抑える。いいかん」
「はい」
先に進むと案の定、後ろから扉が開く音がしてそこから溶岩の体の魔物。
「イフリート!!!岡田!!!逃げろ!!!」
「はひぃいい!!!」
イフリートは炎属性無効。打撃を与えようにも、手が焼ける。なら、英霊の剣は?
「秀吉、いけるかん」
「誰に物を言っとるか。いける」
「よし、いけ」
聚楽左文字を抜き叫ぶ。
「聚楽左文字!」
ぴっと首が刎ねられ、イフリートはたたらを踏むが、それだけ。
つまるところ……
「戻れ、秀吉」
「だが……」
「お前の戦い方じゃ、倒せんに」
「確かに。じゃ、ご主人様の戦い方を見させてもらおうかにゃ」
ぼこぼこと頭が復活したイフリートはこちらをじろりと睨む。
そして、炎を吐いた。
俺はシールドを張りそれをいなすと炎が止んだ。
「【サイレント】」
きんと音が響きイフリートをずたずたにした。
「ん、無理か」
「ん?」
「音で切り裂いても復活する。んじゃあ、もう一歩」
復活しつつあるその体に音波を叩きつける。
瞬間、イフリートは体が塩に変わりどさっと塩が出来る。
「ふーん?強いにゃー、おみゃーは」
「当たり前。でも、イフリートクラスが出てくると、この先不安で」
「誰だ!!!」
向こうから誰かがやって来る。
「太閤殿下?」
「?」
現れたのは幸薄そうな美青年。
片手に刀を下げ、こちらをぼんやりと見る。
「だ……あ!!!大谷吉継かん!!!おみゃー、ひとりで大丈夫かにゃ!?石田三成はどうした!」
「殿下、いえ、あー……実は召喚者を殺して迷宮内を彷徨っていたのですが、魔力不足で。三成はこの先にいます」
「なんだん」
「仲間だにゃ!!!助ける」
「俺が?」
「む」
「頼む態度ってものがあるだろ」
「む」
「貴様、太閤殿下に向かって」
すっと秀吉は頭を下げようとする。
俺はその頭を掴みぽんと肩を叩く。
「分かった分かったで、そこまで大切なら、行くに」
「あり、がとう」
「太閤殿下」
「いいにゃ。俺の大切な部下。お前たちがどんな気持ちで関が原を戦ったかと思うと、俺だって、胸が締め付けられる」
「申し訳、ございません」
「謝るな。お前も、三成も俺の部下。大切なのは当然だ」
先に進むと小部屋に横たわる、赤髪の美青年。
「魔力不足か」
「ぐ、う?刑部か?」
「うん。三成、このお方が、契約してくれるそうだ」
「あ、あれ!?殿下!?」
ぎょっとした様子の三成は横たわる体を必死に起こそうとするが無理そうだ。
「さきに契約」
俺は三成に手を差し伸べた。
握られた手は痛みが走り、俺はまた花弁が追加されたと察した。
次に吉継に手を向ける。
直ぐに握られた手にまた痛みが走る。
「これでましかん」
「魔力欠乏症は直接、魔力を注入するしかないにゃ」
「え?」
「えー粘膜接触か、血を与えるか」
「……」
男とキスは嫌です。
俺は岡田に手を差し出す。
「手、切って」
「はい」
ナイフでサクッと手を切ってもらい、三成の口に血を滴らせる。
「うお?!」
次は吉継。
「うわ」
その反応は何だよ。
「いいか?魔力は十分か」
「はい。ありがとうございます」
すっと立ち上がった三成は痩身の長躯であり、細長い印象を受ける。
「神経質そう」
「……聞かなかったことにします」
俺たちは先を目指した。




