第七十六話……公開処刑のエピローグ
残りの嘔吐箱も特等席も、処刑台の側に集められ、いよいよ全てを焼却処分する時間になった。日は完全に落ちているので、周囲の建物の灯りだけが今のところ頼りだ。
一番近い攻撃魔法役でも最低二十メートルは離れているだろうか。最初にそこまで離れる必要もないとは思うが、もしかすると魔法の練度を見せる意味もあるのかもしれない。
「それでは、焼却開始!」
ビルさんのかけ声で、二人の魔導兵士から炎魔法が放たれ、各処分品に火が燃え移るまで、常に炎が供給される状態が保たれている。
それぞれが発火する頃合いを見計らって、一人が炎魔法を中断し、風魔法に切り替えた。酸素を十分に送ることで火の勢いを増しているのだろう。それと同時に、周囲に軽い螺旋状の上昇気流を作り、火の粉と煙が広がらないようにしているようだ。
ガラガラと大きな音を立てて崩れ始める処刑台。すでにフォーリエの死体も、コンパクトな火災旋風で見えなくなっている。
さらに、もう一人の魔導兵士も風魔法に切り替え、さらにその外側に風の壁と天井を作り出すことで、万全を期したようだ。
「結構レベル高いことやってるんだね」
「セントラルとノウズ地方以外の国は、やはり魔法の練度が高いですね。スキル所持者が勇者で取られた分、戦力を増強するには、それが手っ取り早いですから。
研究自体は、実験体という名の奴隷を使えるので、セントラルの方が進んでいるようですが」
「その中でも処刑台に上がった魔導兵士は特に優秀だよ。有事でなくても、日々の鍛錬を欠かさない者達だ。殿下には及ばないが、物理学や化学の勉強もしている。彼らの次の役職にも期待していてほしい」
「どこで誰が見てるか分からないから、やっぱり真面目に物事に取り組むのは大事だな。もちろん、周りに優秀な人がいる前提だ」
「組織内で好きなことを仕事にできてるなら、モチベーションには影響しないのかもね。でも、それはそれで大変だって話も聞く。組織に関係なく、好きなことが上手く行かなくて挫折するみたいな話」
「絵を描くことが好きで、プロの画家になったものの、絵が売れずに生活できなくて、絵を描くこと自体が苦痛になって、筆を折った話は聞いたことがありますね」
「そういう者達も可能な限り救済できればいいとは考えている。せっかくの才能と時間を無駄にしないためだ。その場合は、補助金ではなく、創作物を評価する仕組みと広く知らせるための環境作りになるかな」
「有象無象が多くなると、目当ての物に辿り着かないから、そこも注意したいな。ニッチな作品の肩身が物理的に狭くなってしまう。俺のアプリがそうだったように。広告宣伝費を出す余裕なんてないんだから」
「私はどちらかと言うと、評価の方を重視してほしいかな。流行ってるだけのゴミみたいな物が多すぎなんだよ。作られた流行り、それに群がる女達、それを狙う男達、それを知らずに行く親子と情報弱者達。ハッキリ言ってバカだよね。
あとで考えてみたら、『そんなに良かったか?』って絶対思うのに。いや、そんなバカは何も考えないか。それを消費したこと自体が、『良い思い出』だもんね。
それを批判したら、『陽キャに嫉妬する陰キャは黙ってろ』だし。いや、『評価の話をしてるんだけど……』ってなるよね。不味いものを美味い美味いって言ってるバカ舌だよね。いや、情報だけを食べて、中身を食べた気になってるゾンビか。その方が幸せとも言えるけど」
「みかさんは、いつもハッキリ言っていますが……。と言うか、みかさんってどちらかと言うと陽キャですよね」
「是非、参考にさせてもらおう。それは人事の評価システムの改善にも繋がるからな。多数が良い評価を付けていても、派閥や人当たりに影響している可能性もあるという点で」
「ビルは真面目だなぁ。みかはただのツッコミ待ちなのに。まぁ、それはまさに、俺とみかが話していた個人調査書の話だな。
防衛省の評価システムを研究し尽くしたビルには釈迦に説法だし、前にも言っていたことだけど、予め基準や目標を設けて、全評価者と合意していれば、それほど問題にはならない。ただし、評価の場も透明性が担保されていなければならず、被評価者へのフィードバックも必要」
私達が話していると、早くも処刑台一式が跡形もなくなり、灰と炭化木片が風の空間内で舞い踊るようになっていた。
夜の暗闇と眩い炎、その中の白と黒とのコントラストで、不思議な気分になる。
「あっという間だな。あれだと、骨も灰になって見分けが付かなくなってるな。風魔法効果が大きい。火災積雲も起きない」
「でも、火葬だと骨は普通残るよね?」
「あれは、温度と時間を調節してるからな。最近は千二百度程度ですぐに火葬できるみたいだけど、それまでは八百度程度で二時間以上かけて焼いてたんだ。遺骨を綺麗に残すために。それ以上の温度と時間だと簡単に崩れる」
「へぇー、詳しいね」
「火葬場が併設された葬儀場でバイトしようかと思って調べたことがあるんだけど、よく考えたら、悲しんでる人達に葬儀場のバイトが元気を出すように言っても、怒られるだけかなと思って、やめたんだよな」
「バイト代稼ぎじゃなくてそれが目的だったんだ……。流石のおせっかいもそこまで行ったらヤバかったね」
「予定を少し変更するか……。殿下、説明を皆にしたいので、音声の伝搬をお願いできますか?」
それからビルさんが、優秀な魔導兵士のおかげで、骨をハンマーで砕く必要がなくなったことと、残った灰を一箇所に集めて、丸ごと最終処分場に移送することにしたと観覧者に説明した。
全員が中心の炎を見守る中、次第にその範囲が狭まって行き、ついには燃料がなくなり、微かな火も消えた。
「これにて焼却処分を完了とし、公開処刑の次第を全て終了した! 観覧者においては、最も外側の者から、押し合わずにゆっくり散開するように! それ以外の者は待機! こちらでタイミングを測る!」
「俺が足元を軽く照らすよ。暗いと危ないからな」
そうして、およそ二十分ほどかけて、私達以外の観覧者は全員解散した。
その間、灰が飛び散らないように、魔導兵士が水魔法で湿らせ、土魔法で一箇所に泥を集めて、ゴミ処理業者がそれを回収していた。
「さて、私達も城に戻ろうか。そのまま王室に行って、リズのことを陛下に報告した上で、リズから話を聞こう」
「ビルさん、全然家に帰れないね。今日も泊まりでしょ?」
「仕方がないさ。ただ、この状況が続くようなら、城に家族を呼ぼうとは思っている。まぁ、続くだろうな」
「『亭主元気で留守が良い』なんて言うけど、ビルさんの場合は当てはまらないだろうね。愛妻家っぽいし」
「そんな諺も家庭も聞いたことがないな。そちらの世界だけじゃないか?」
「世界って言うか、国かな?」
「昔、そういうキャッチコピーのコマーシャルがあったんだよ。でも、実際にそう思う人も多かった。夫は金だけ持って来てくれればいいってな。家で一番偉い夫の世話を焼く必要があったから。
今はニュアンスが微妙に変わってきてるんだよな。拝金主義の金目的で、結婚という名の寄生をしてる人も少なくないから」
「たすくも私と同じで結構言うじゃん!」
「俺はみかの発言を否定はしてないよ。それを否定するのは現実を見ていない証拠だ。事実なのに隠す、あやふやにする、言葉遊びをする奴らは何とかすべきとも思っている。
『売春』『疑似恋愛』『援助交際』『出会い系』『パパ活』がそれを助長した良い例、いや悪い例だろうな。無意味すぎる。それなら、売春を全面的に認めた方がまだ健全だよ。性を売るのは人間社会の基本、原始とも言えるんだから」
「綺麗事を言わないと、民衆から支持されないからだろうな。民衆がそれを先導しているなら、法の抜け道を探しているだけ。そのいずれも、陛下や私からすれば国民に対して不誠実だ。当然、理想と綺麗事も違う。
陛下と私は国家の理想を掲げた。もし、私達が綺麗事を言っていたら、この公開処刑を『平和実現法』、国家持続方針を『世界平和実現方針』などと称していただろう。
おっと、私は綺麗事を言わないから、下手な例になってしまったかな?」
「ふふふっ、そうだね。それに関しては、私も良い例が思い付かないかな」
「いずれにしても、真実を正直な気持ちで話す方が、信頼を得られるんだと分かったな。それで俺もみんなから褒められたし、みかも好かれてるし、俺もみんなのことが好きだし。まぁ、ここにいるみんながみんな良い人だからだろうけど」
私達はみんな、『うんうん』と頷き、感慨に耽りながら、馬車に乗り込んだ。
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