第七十一話……黒い霧が!
一気に緊張感が増し、セレナも念のために剣に手をかけている。
どうやら、ラピスとプレアにもこの霧は見えないらしく、少なくともモンスターではないことが分かった。
「そろそろだと思うけど……いや、こっちに来る!」
「好都合だ!」
黒い霧は、たすくを目掛けてものすごい速さで迫ってきたが、おせっかいスキルにより、私達の前方三メートルほどでその動きを止められている。
「このまま包むぞ!」
「ダメ! 上に逃げた! 間に合わなかったみたい!」
「じゃあ、俺達も上に行く!」
「わ……!」
たすくは私を浮かせて、一緒に上空へ飛んだ。
「同じ高さになった! あ、洞窟Aの方に行っちゃう!」
「防ぐ!」
「今度は泉の方!」
「大丈夫だ。もう包囲したと思う。大きさが分からないから、かなり大雑把だけど」
たすくの言う通り、黒い霧はぐるりと包囲陣の中を一周して、行き場を失ったことを理解したようだ。黒い霧には意志がある……?
「もしかして、あの霧……あっ!」
「な、何だ⁉️ 俺にも見えるようになったぞ!」
それもそのはず、黒い霧は次第に物体化し、何かを形成しつつあった。
「あれは……ドラゴン⁉️ また⁉️」
「でも、でかすぎる……。体積で言えば、シルバードラゴンの四倍以上あるぞ……。やっぱり、モンスターだよな? 普通に呼べば、『ブラックドラゴン』か。もうパーティー全員ここに上げる!
観覧者のみんなは、まだ動かないでくれ! 大丈夫だ、俺が完全に抑えている!」
「皆の者、殿下のおっしゃる通りに! 殿下のお力を信じるのだ!」
たすくは、セレナ、ラピス、プレアを浮かせて、ここまで移動させた。
また、サーズさんの命令もあって、観覧者の動きに混乱は見られない。
「あれは、モンスターでいいんだよな?」
「そうだよ。でも見たことないなぁ。当たり前だけど」
「わしも見たことないのぅ。できれば、戦う前に話をしたいのじゃが」
「何か垂れてますね。毒……でしょうか……」
「良かったね、完全包囲してて。あれが観覧者にかかったら大変なことになってたよ」
ドラゴンを形成しつつある『モノ』から垂れた毒は、たすくが作り出した空間の床に落ち、そのまま宙に浮いている形だ。
「毒と言えば、セントラルだけど……。流石に関係ないか……? ラピス、強さは分かるか? みかも、アイツのスキルが見えたら教えてほしい」
「うーん……。まだ形もオーラも不完全みたいだからね……。そろそろ分かるかな?
あ、結構強いね。私と同じぐらいかも。毒がある分、そのまま戦ったら向こうが完全に有利だね。魔法で工夫して、相手よりも賢ければ勝てるかもって感じかな」
「えぇ……。普通に考えたら、ヤバいじゃん……。おせっかいスキルがなかったら、全滅してた可能性もあるってことだよね……。それどころか、世界がヤバかったね……。
スキルは持ってないみたい。毒はスキルに入らないってことかな。元々の性質なんだろうね。たすくの見ている姿と私の見ている姿も同じだと思う」
「ということは、今の状態が『完全』であると……⁉️」
セレナが言い終わる前に、ドラゴンが黒炎とでも言うべき、毒が混じった黒と赤の炎を私達に向かって吐き出した。
しかし、おせっかいスキルによって無効化され、何もかも無事だった。
「セレナの言う通り、この腐ってるような状態が『完全』だってことか……。『ブラックドラゴン』改め、ロッテン……いや、『バッドヴェノムドラゴン』ってところか。とりあえず、話してみよう。
おい、お前! 俺の言葉は分かるか? 分かったら攻撃はしないでくれ! 無駄な戦いはしたくない!」
「わしからも頼む! もし、苦しんでおるのなら、わしらが助ける! お主は助かるのじゃ!」
たすくとプレアの言葉も虚しく、ドラゴンは私達に向かって再び黒炎を吐いたり、体当たりをしようとしたりと、聞く耳を持たない。
「考えてることも分からないな……。本能なのか……? みかも聞こえないか?」
「うん、何も。最初は意志があると思ったんだけどね。ラピス達は?」
二人は同時に首を横に振った。
「やるしかないか……」
「たすく様、私がやりましょうか? 分かりやすく倒した方が、地上の人達も安心しやすいかと」
「そうだな……。よし、セレナ頼む。アイツからのあらゆる攻撃は無効化するから心配ない」
「では、私を一定速度で射出していただければ、一撃で仕留めます」
「分かった。剣の切れ味もマシマシにしておく」
「ありがとうございます」
そして、セレナが構え、準備が整った。観覧者も固唾を飲んで見守っているようだ。
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