第四十四話……国防のプロ!
「王室に入った時に思ったんだけど、前国王も前国王妃も、かなり若いよね? なのに、どうしてもう王位を継承したの?
当然、それに輪をかけて、サーズさんもビルさんも、若いわけだけど、事務方のトップになってる。ビルさんは、どうやって出世したの?
この辺の事情を知っておいた方が、テストを作る時に良いからさ」
ダイヤモンドの分割加工をすぐに終えた私達は、社会適合テストの問題を作るために、ビルさんと会議室に移動し、議論を始めた。
「いずれも私から説明できる。この世界の多くの国が、十六歳で成人することは知っているね? まず、前者だが、説明のために前国王、前国王妃を共に先代と呼ぶことにしようか。先代は現在、四十五歳だが、二十歳の時に先々代から王位を継承している。
当時は、単に先々代のご病気のため。王位継承後、先々代は医療の発達しているとされるノウズ地方に、一縷の望みを賭け、セントラルに内緒で早期に大移動。
現在、王妃ともにご存命だが、大昔からセントラルとノウズ間は、国境半封鎖で一方通行のため、そのままノウズにお住まいだ。
『王位継承は本来、統治能力の将来性によって継承されるべきである』という先代の方針から、誰もが認める王位に相応しい功績を示した先代ご子息ご息女が、その時点で継承することは、当時から決められていた。
王位継承戦とも言うべき競争は、ご子息ご息女が三人成人した時点で開始される。
先代が公務を果たせなくなるまでに、誰も功績を示せなかった場合は、普通に第一王子が継承する。
しかし、サーズの一線を画した才能は、幼少期にはすでに認められていたため、彼が王族の地位と権力を利用すれば、直ちに王位に就けることは想像に容易い。
ただ、その場合は幼すぎて、反発されたり、社会経験の乏しさから、彼が利用されたりする可能性が高く、国益に沿わない恐れがあるとして、自らが先代に提案して、あえてハンデを課した。
そして、偽の行方不明事件をでっち上げ、多忙な財務官僚の子どもが特別に職場に来ることを許されている、という形で身分を隠した。これも自らが立案し、実行に移した。
サーズはその時、八歳。明らかに天才だ。『真の天才』かどうかは分からないが。あとは、知っての通り」
「それを言うなら、ビルさんも天才でしょ」
「私は、少しズルをしただけだよ。サーズと私は二十六歳。私は、成人後すぐに防衛省に入ったが、すぐに当時のサルディアと知り合った。
新人一年目で海外赴任を希望。
それをしつこく言い続けて、勝手にしろと匙を投げられたのが、三年目。
その言葉通り、他国と勝手に交渉して、受け入れ国が見つかり、渡航したのが四年目。
実際に海外にいたのは半年だけだが、その国には、『守護神』と呼ばれる国防の専門家がいて、大いに参考にして帰国。
海外赴任すると基本的に出世が容易になるのは、あとで知った。と言うか、私が第一号だった。課長補佐に昇進後、さらに陛下への謁見も許されるようになった。事務方で陛下に謁見できる者は、他に存在しないにもかかわらずだ。
改革の第一歩として、まずは王家からということで、王家持続保護法の草案作成を始めとして、そこから手を広げて行くことにした。
その際、評価されなくては意味がないので、評価システムを徹底的に研究した。その改善提案も含めて。
そんな中、サルディアが忙しそうにしているのを少し手伝ったことがキッカケで、お互いの政策案や法律案を議論するようになった。
その才能と仕事ぶりから、彼が第三王子サーズ殿下ではないかと疑い、ほぼ確信したのもこの時。
しかし、彼を利用しようと思ったことは、一度たりともない。不敬だし、陛下の方針に則り、自分も一つ上の役職に相応しい者であろうとしたから。
ただ、なぜ彼がこんな所で燻っているのかと腹立たしくは思ったな。もちろん、怒りの対象は財務省だ。省庁間で階級数とその呼び名は異なるものの、下からしっかり数えると、この時の私との階級差は四つもあった。
彼と議論することで、縦割りだけではなく、水平的な思考が重要だと感じ、部や局、省を跨いだ提案をしていたら、順調に、時には異例に昇進した。七年目で局長。
次は国を跨ぐかと調子に乗るも、流石に若気の至りは控えようかと迷っていたところ、定期的に連絡を取り合っていた例の海外国から、『ビルは早くトップになってくれ。君でないと頼めない、進めたい懸案事項があるから。もう十分な仕事をしているだろ?』と、まさに驚きの、この上なく嬉しい推薦があり、それを中央政府に報告したら、その日に防衛事務次官に抜擢された。
外圧とまでは言わないが、こういう道もあるのかと思ったな。その時、サルディアをスピード昇進させる方法を思い付いたんだ。
当然、そのことも海外に事前報告している。本来、内定している人事情報は機密事項だが、国益を著しく損なう場合は、例外が認められているからね。
まぁ、その懸案事項は、ほとんど片が付いていたから、それほど問題にならなかったのは幸いしたかな」
「全然ズルじゃないよ。立派な出世街道だよ」
「ありがとう。でも、それが疎まれていたことも事実だ。そんな人達に、自分から説明するのは面倒だから、しなかったけど。そこは、たすくと違うところかな」
「たすくも面倒がることはあるけど、大体何かの方法だからね。
あ、もう一ついい? 王族の結婚の話で、王族は他国の王族や貴族と結婚するものだと思ってたんだけど、先代もサーズさんも相手は平民だよね? それが普通なの?」
「貴族との結婚も当然あるけど、この大陸ではそうだよ。大陸と言っても、限りなく島なんだけど。それも海外に行って知ったことだな。私以外の人間は、ここを大陸だと思っている。ただ、ノウズ地方の存在を考えると、遥か昔に大陸だったことは否定できないかな。
まぁ、それはさておき。海外は、みかの言う通り。理由は、国内も他国間も領地争いが存在しないから。その点だけ見れば、好ましい社会と言える。みんな、洞窟攻略に必死だからね」
「なるほどね。食料自給率さえ高ければ、資源の奪い合いはないんだね。魔法もあって、多少は便利だから。宗教争いも今はないし」
「とは言え、問題は潜んでいる。それを避けるためには、たすく達がセントラルを変革しようとしていることは、あまり人々に知られたくない。
なぜなら、セントラルの体制が仮に崩壊寸前に迫っていると分かると、ノウズ地方が過去の汚名を晴らすために、一気にセントラルに攻め込む可能性がある。
そうなると、ノウズの優位は揺るがなくなり、ノウズに置き換わっただけのセントラル支配の歴史が繰り返される可能性もある。
前国王妃のお話しにもあった通り、ノウズ地方の冒険者のレベルは、相当高いと見て間違いない。どの時代でも、誰もが憧れを抱くほどに。
そんな彼らが戦争に参加すれば、大量の勇者を抱え込んでいるセントラルと言えど太刀打ちできないし、むしろ積年の恨みで、勇者が敵に回る恐れもある。
当然、我が国を始めとした各国も、その強さにひれ伏さなければいけなくなる」
「それで防衛戦略の見直しが優先って言ってたんだ……。じゃあ、私達はどうすればいいの? セントラルの変革が、世界のおせっかいになるってことだよね?
『自分の個人行動が戦争を引き起こすことになっても、国の責任なので気にする必要はない、○か✕か』が、○になっちゃって、社会不適合者じゃん!」
「お、良い問題だな! 流石、みか」
「ほら! 早速、社会不適合者が見つかった!」
「しかしビルさん、経路は『セントラルブリッジ』しかないので、問題はないんじゃないですか? それとも、別の経路が見つかっているとか?」
「いや、見つかっていない。だが、見つけられていないだけで、すでにあるかもしれない。セントラルブリッジが細くても、大量の戦力を一気に送り込むスキルがあるかもしれない。
そのような、起こり得る中で、ありとあらゆる選択肢を想定することが、国防には重要だ。
たとえ、たすくが私達の永遠の親友でも、ノウズとも親友になって、その板挟みで動けずに、たすくを抜きにした争いになることだってあり得る。
不老不死でもない限り、永遠に両者を止めておくことなんて、できないわけだから。
あるいは、たすくが全く別の親友を助けに行く状況になるとか」
「流石、国防のプロだね」
「私もまだまだでした……。勉強になります」
「ということで、たすく達がどうするべきかは、王室の時に話したことと、最初に言ったことを合わせるだけでいい。付け加えるなら、たすくがノウズを牽制してほしい。
つまり、『セントラルの変革をできるだけ周囲に悟られずに、セントラルに辿り着き、速やかに変革を行う。変革中および混乱中は、ノウズ地方を注意深く監視する』。これに尽きる」
「ありがとう、よく分かった。でも、ビルさん達も動く必要あるんじゃない? そうじゃないと、なんて言うか、外交的に時間の無駄になるって言うのかな」
「その通りだ。セントラルに対するサウズの具体的な戦略は、『奴隷輸出品と称した国民流出の完全停止、および第三者調査委員会の立ち上げ、および改善が見られるまでの国際条約に基づく全輸出品の縮小を主とした経済制裁』に概ねなると思う。この際、勇者管理組合支部によって集められたスキル所持者も解散させる。
もちろん、セントラルは激怒する。これが早すぎると、逆にサウズ地方に攻め込まれるので、たすく達がセントラルに到着したタイミングで、一方的に通告する。なので、連絡よろしく。
国民流出はすぐに停止するが、適当な理由を付けて時間を稼げばいい」
「あ、激怒と言えば、セントラルの第三王女がいるんだった……。アイツ、私達がセントラルに向かうこと知ってるよ。今、どこにいるんだろう?」
「もし、すでにサウズを出ているなら、『偽勇者の処分に成功した。死体はこちらで保管している。そちらに送るから待っていてほしい』と、セントラルにいち早く報告すればいい。それを確認するまで、セントラルは迂闊に動くことができない。
まだ出ていないなら、たすく達はそれまで城に待機だな。
マリアン殿下の所在は全ての門兵に聞けば、すぐに分かる」
「ありがとう。とりあえず、安心した」
「ビル、俺からもいいか? 社会適合テストのことなんだけど、そこにモンスターとの共存の可能性に関する問題も入れたい。ただし、判定には影響ないものとして」
「た、たすくぅ……好きじゃぁぁ……」
「たすくがよければかまわない。確かに一石二鳥だからな。
大丈夫だよ、プレア。忘れてないから。プレアには、事前調査として、『モンスター向け』の社会適合テストを配布してほしいと考えていたんだ。
そのテストで、人間に対する認識を始め、モンスターの思考が分かる。そうすれば、お互いが歩み寄るための足掛かりとなる。
単なるアンケートよりも、ずっと正確に理解できることも良い点だ。色々応用ができて、良いシステムだよ」
「ただし、解答者に十分な時間があって、必ず全問、真面目に解答してくれる場合に限るけどね。自分に利益がなかったら、そう簡単には勉強にもテストにも向き合ってくれないよ」
「拒否した時の罰則を作るのはどうなんだ? それも結果が歪むか?」
「歪むだろうね。良い子ちゃんにならないと、罰を受けるかもって思っちゃうから。たとえ、いくらそうじゃないと言ってもさ。
それだけ、国家や組織を信じられない人がいるってことでもある。私だってそうだったよ。困った時は自助って言って、間違ってはいないんだけど、非情で無能の神と同じく、何もしてくれないこともあるんだから。ましてや、これまで目に見えてきた腐敗国家なら尚更。
つまり、何も考えずに実施して、いくらテストで好成績の人でも、実際の社会では、その通りにしてくれない可能性が高い。
『人を殺してはいけない』と答えた人が、簡単に人を殺すかもってことね。このテスト、って言うかシステムは、実施者からすれば、思ってるよりもずっと難しいよ。実施するのは簡単、でも成功させるのは難しいってこと」
「ビル、俺はこの社会適合テストを『効果測定』とも言ったな? 俺達の世界では、乗り物の運転免許を取得する際に、この効果測定を必ず受けるんだ。これが一定以上の点数でないと、再測定となり、いつまで経っても免許を取得できない。正確には、本番の学科試験に進めないってことなんだけど、そこは省略するとして……。
無免許で公道を走るのは、もちろん犯罪だ。
免許を取得しても、法律に則った運転をしなければ、もちろん犯罪。回数や程度によって、免許取り消し。通報されずに犯罪にならなくても、危険な運転をすれば事故に遭い、最終的に自分が損をする。過失割合も存在するから、ほとんどの場合で損をするんだ。
ビルならもう分かったと思うが、つまり、このシステムや政策を成功させるためには、勉強内容やテストの問題だけでなく、良い成績だと何が嬉しいのか、それを実践すると何が嬉しいのか、何が困るのかを明らかにして、それらも完全に理解させる必要がある。当然、法律の整備も必要だ」
「なるほどな。今回のフォーリエ殿下の公開処刑は、特別に何もしなくても、その条件が揃っているから成り立つのか。
良い成績であれば、殺されることなく釈放され、実践すれば、たすくの側にいられて愛され、破った時には、嫌われるか殺される。誰かが理解させなくても、勝手にそう信じ込んでいるから、やる気になっていると」
「そう。たすくからは、愛されるとも嫌われるとも言ってないんだけど、実際の運用では、そこをお互いに規則化して、たすくがフォーリエの信頼を得ないといけなかった。じゃないと、彼女は実践する義務も動機もないからね。
逆にこのままだと、無駄な勉強をさせられたと、フォーリエから訴えられるのは確実。
しかし、たすくは『そんなこと言っていない! 証拠を出せ! 釈放されただけでもありがたく思え!』と言って、彼女は証拠品を出せないから負ける。
そして、たすくのことを恨み続け、いつか牙を剥く。
その時、たすくは一体どうするのか!」
「勝手にシナリオが出来上がってるんだけど……」
「ふふっ。ありがとう、二人とも。特に、国家や組織を信じられない人がいるというのは、盲点になる所だった。
私は、国民であれば国家を愛し、国家のために生きることが当たり前と思っていたからな。愛国心を育てることも重要と言えるか。いやしかし、それも同じ問題を孕んでいるか……。
いずれしても、理解したよ。まずは、模範解答のための方針の草案から決めて行こう。それを陛下に確認してもらってから、問題作成に入る」
「面白かった!」「つまらん……」
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