第二十四話……せめてまともな人間に
「…………結局、私はスキルがなくて勇者になれなかった。でも、ならなくて良かった。この三人と出会えたから。
みんな、勇者には絶対なっちゃダメだよ。勇者は世捨て人、生きてても死んでても誰も気にしてくれない存在なんだから」
「セ、セレナ⁉️ それを言っては……」
「いいんだよ、もう。世界が変わるんだから。たすく様と私達で変えるんだから」
「で、でも……」
「お母さん、本当です。俺達が絶対に変えます。時間差はあるから、大っぴらには言わない方が良いと思うけど」
「だから、私達は明日、すぐに旅立つ。最短で行くかどうかは……たすく様、いかがいたしますか?」
「…………」
「他の場所でも勇者管理組合支部が悪さをしているかもしれない。流石に遠回りはしないけど、寄れる所は寄っていきたいな」
「あの……それと関係があるかは分かりませんが、スキル所持者と、その他に未成年の子どもがいる保護者は広場に集まるように村長から言われて、村長も誰かから指示されたみたいで、もしかして、それが支部の人なんでしょうか? 私があの場にいたのはそういう事情があってのことなんです」
「なるほどね。それはその通りだと思う。支部のリーダーから村長に命令したんだろうね。じゃあ、支部の人間はここに来たばかりだったんだ」
「北から順番に回ってきたから、この村は被害が出る前だったか。とは言え、他では被害が間違いなく出ているはずだ。
それと同時に、連行するにしても、その都度セントラルに送っていては、馬車がいくらあっても足りないはずだ。
一度どこかに、ある程度集めてから、まとめて大きめの馬車で送るんじゃないか? そうなると、もう手遅れの人達はいるかもしれないが、まだ助けられる人達もいるかもしれない」
「たすく様の仮説が正しいとすれば、そのどこかはサウズ首都ではないでしょうか。このサザエ村からも近いですよ。それほど遠回りにもなりません」
「よし。明日、アイツらにそれを確認してから、そこに向かうことにしよう」
「か、かっこいいー」
見ると、弟達がたすくとセレナのやり取りを前に、羨望の眼差しをしていた。
「みんな、勇者になるなとは言ったけど、心までなるなとは言ってないからね。そして、頭は賢者になろうね」
「うん! 僕、勇者になる!」
「俺が先になるんだぞ!」
「いや、一番早いのは長男の俺だろ!」
「本当に分かったのかな……」
話が一段落したところで、私からセレナに小声で話しかけた。
「セレナ、村ぐるみの処刑の件はどうするの?」
「はい、今から話します……。あの……お母さん、旅立つ前に話しておきたいことがあるんだけど、いいかな? これは、弟達の教育に関わる大切なことだから。
お母さんもお父さんも、悪いことをしたら牢屋に入れられるっていつも言ってたけど、嘘だよね? 成人は一度目の注意の後、二度目で処刑されることを知ってて嘘を言ってたよね?」
「…………。村長から聞いたの?」
「そうだよ」
「それは……村長が全責任を負うって言ってたから……」
やはり、非責任者はそう考えるのか。
これまで化物を見てきて、何となく想像できることがある。私から化物の姿に見えるかどうかは、罪悪感を自身で認識する度合いに反比例するのではないかということだ。
それが罪になるかは問わず、そのことに罪悪感を覚え、その罪を背負う覚悟ができれば、人間の姿に限りなく近くなり、『罪? 何それ? 私は悪くないんだけど』と思えば、よりグロテスクな化物になるとか。
それが全てではないかもしれないが、少なからず影響を与えていることは間違いない。
悪魔はどうなんだろう。『私は悪くない』どころか、『私は世界のために素晴らしいことをしているのだ』と強く信じ込むといったところだろうか。
「それはそうだろうね。でも、それは免罪符にならないんだよ。嘘をついていいことにならないんだよ。
現実を知らない子どもを、虚構で塗り固められた世界に引き摺り込んでるだけ。理想と現実のギャップが大きければ大きいほど、それを知った時の歪みに耐え切れず、自身が歪んでしまうことだってある。
私が自殺を図ろうとした時のように」
「えっ……⁉️」
「もちろん、理由はそれだけじゃないけど……。でも、キッカケには十分なり得るんだよ。この三人に助けてもらったのは運が良かっただけ。
じゃあ、嘘をつかなければいいのかというと、それも違う。結局、罪の意識から逃げてるだけなんだよ。『私のせいじゃない』『村が悪いんだ』『社会が悪いんだ』って。
見て見ぬふりをするのも、立派な罪なのに。
法律で罰せられないものは、罪じゃないと言う人もいる。それはその通りだよ。
だから、自分の正義と誇りを高く持つ人ほど、罪悪感を覚えやすい。けど、素晴らしい人だと思う。私もそうでありたいと思って生きてきた。
ハッキリ言って、この村の成人に素晴らしい人はいない。でも、なんだかんだで優しい人はたくさんいる。
なぜなら、私が村の人に同じ質問をして、全く罪の意識がなかったら、『それがどうかした?』と言うような『化物』になっているはずだから。
お父さん、お母さん、完璧な人間であれとは言わないけど、せめて私達にとっては、まともな『人間』ではあってよ……。
誠実で、正義感があって、責任感がある大人が、私達のお父さんとお母さんであってほしいんだよ……」
「セレナ……。う……うぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
セレナの母親の涙を皮切りに、父親も目を潤ませ、セレナ自身も涙を流した。
そして、その涙に浄化されるように、両親の姿が徐々に人間の姿に変化していった。
本来、罪でないことを自身の罪と認めさせることは、とても難しいはずだ。しかし、村長もセレナの両親も、それを認め、受け入れた。
セレナの人徳があってのことか、元々良い人達なのか、そのいずれも当てはまるのかは分からないが、とにかく心配事はなくなったようで良かった。
「セレナのご両親には、その責任……ではないですが、協力してほしいことがあるんですが、いいですか? 村長さんと一緒に、他の村人達に今のような話をして、みんなを目覚めさせてほしいんです。
仮に、セントラルから勇者管理法に抵触した罪を罰するために刺客が放たれたとしても、俺達が未然に防ぎます。
万が一、刺客がこの村に到達して、問い詰められたら、第一セントラル領国第二王女に命令されたと言って誤魔化してください。
もちろん、できないことを無理にする必要はありません。意識改革の一歩になれば良いなという気持ちです」
「わ、分かりました。やってみます。あの……どうか、セレナの身を守ってあげてください!」
「はい、それももちろんです。必ず、これからもみんなで笑い合えるようにする。セレナとも約束したことです。
そのための意識改革でもあります。そうじゃないと、罪を償えず、一生心から笑うこともできないので」
たすくがニコリと笑うと、セレナの両親を始め、みんなも微笑んだ。
「話は以上です」
「改めてありがとうございました。これから夕食を作りますので、しばしお待ちください」
「あ、そう言えば、お風呂とかどうしてるの? 夕食後は歯も磨きたいんだけど」
異世界での生活レベルがどの程度か知るためにも、私はセレナに質問した。
「魔法を使える家庭は、木の板で作った浴槽に、水と火の魔法をそれぞれ使ってお湯を作り、注ぎ込みます。
水魔法を精度高く扱える家庭は、お風呂ではなく、裸になった体の周囲で水を回転させたりもします。石鹸もありますが、あまり使いませんね。
髪は別途、桶の湯で手洗いします。
歯ブラシは、お二人から見れば、お粗末なものですが……。お母さん、ウチに余ってる?」
「残念ながら、余ってないんだよねぇ。買うしかないけど、もう雑貨屋は閉まってるから」
「すみません、みかさん……」
「全然、謝ることじゃないよ。まぁ、今日は口を濯ぐぐらいで我慢するしかないか……」
「俺の力を使って何とかできないかな?」
「いや、できるかもしれないけど、怖すぎるからヤダ。歯垢と一緒に歯が全部抜けそう。口の中をじっくり見せるのもイヤ」
「酷い言われようだ……。なら、自分でやってみるか……いや、待てよ。水を口に含んで、その水を丁寧に動かせば、比較的安全か」
「それ、口を濯ぐのと何が違うのさ」
「口の中で細かい水鉄砲を歯に当てるようにすれば、濯ぐだけよりは良いはずだ。自動反射にすれば、より効率的か」
「じゃあ、その時に笑わせるか……」
「いや、吹かせる意味ある⁉️」
私達の会話で、みんなが笑った。後に、水を含んだたすくを私が笑わせ、またみんなが笑った。
セレナの家族の温かみを感じることもでき、私達は心身ともに癒された。
「面白かった!」「つまらん……」
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