第十九話……飴と鞭!
「……。お、俺は……」
「俺は⁉️」
「……」
「……」
少しの間、沈黙が続いたが、それまで黙っていたセレナが、それを破った。
「みかさんは本当にすごいですね。私からもよろしいでしょうか……。
たすく様は、私にやりたいことがあったら、一緒にやってくれるとおっしゃいました。
私のやりたいことは、『この先も一緒に笑い合いたい』です。
正直に申しますと、つい先程までのたすく様には、この先二度と、心から笑うことはないのではないかというほどの悲壮感と、それと同時に恐ろしさを、私は感じました。
みかさんがある程度緩和してくれたとは言え、被害者が受けた心と体の傷のことも、ずっと頭から離れないのでしょう。
会話はできていても、自らおっしゃる通り、感情が追い付いていませんでした。無表情で感謝の言葉を無理矢理紡いでも、意味はありません。
では、どうすれば笑えるのか。私の経験から言えば、『自分が納得して、一歩でも前に進むこと』だと思います。
たすく様は、私の母が襲われそうになってから、何一つ納得できずに、『ここ』まで来てしまった。しかし、それは前に進んでいるとは言えません。自分の『影』を後ろに置いてきてしまっているからです。今、自分がいる本当の位置は『そこ』なのに。
私もそうだったから分かるんです。その『影』も自分なのに、自分の背中がどんどん離れて行き、最終的にはどこか遠い所へ行ってしまう。そして、気付いた頃には死んでいるんです。肉体的にも精神的にも。
今ならまだ間に合う。でも、このまま行ったら、取り返しが付かないことになる。
だから、みかさんもあなたに発破をかけた。
みかさんも私も、『あなた』を諦めていない。
だとすれば、『自分』を諦めるなんて到底できるはずがない。なぜなら、諦めていない私達も助けてくださるはずだから。
そうですよね、『たすく様』?」
たすくは、セレナの言葉を俯きながら聞いていたが、最後に彼女から念を押されると、ピクッと反応し、直後、それ以上に大きな挙動で、深呼吸を始めた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」
「……」
「……」
私達がその後の様子を黙って見ていると、たすくは自分を覚醒させるかのように、深呼吸の際に伸ばした両手で自身の両頬をバンバンと二回叩いた。
「よし!」
「……」
「……」
「俺は本当に幸せ者だよ。俺を助けるために、飴と鞭を同時に用意してくれる素晴らしい賢明な仲間がいるんだから。まぁ、本来の飴と鞭の語源とは、全く違うんだけどな」
「誰が鞭なのよ、誰が」
「みかさん、自分で言ったらダメですよ」
「ありがとう、みか、セレナ。これは間違いなく、心からの感謝だ。
完全に自分を見失ってたな。絶大な力を急に得たことも影響するかもしれない。自分の力に溺れていたと言ってもいい。
大きな失敗をする前に気が付かせてくれたことにも感謝したいよ」
「私は思ったことを言っただけだよ。それで答えは?」
「……」
「とりあえず、コイツらは浮かせて運ぶことにしよう」
「いや、そこ⁉️」
「ふふふ、いいじゃないですか。大事な一歩です」
「ああ。俺はそんなことにも気付けないほど、前も周りも見えなくなっていたんだよ。
でも、二人のおかげで、ようやく見えた。
まず、コイツらを勾留することに変わりはないが、法律が施行された際には、しっかりと更正プログラムを適用したい。
その上で、反省が見られないようなら、処刑することになるだろう。
その時には、みかに協力してもらいたい。みかのスキルがあれば、心から反省しているかどうか分かるんじゃないか?」
「そうだね。分かると思う」
これは、たすくが悪魔になりかけたことから、本質が変化する場合があると思うからだ。
たすくのスキルによって、おそらく私の考えを読んだはずだから、そこにはもう気付いただろう。
「実際に死刑判決になるかどうかは、法案と裁判次第だが、罪人の更正の可能性と手段についてを極力入れ込みたい。そこは、関連法案になるかな。
もちろん、被害者やその家族の心情もあるから、それを反映させる手段も検討する必要がある。
『組織としての罪』も法案では考慮する。責任者が辞めただけで責任を取ったことにはしない。つまり、責任者の実刑や被害者への賠償、組織の解体も含むということだ。
何でもかんでも罪人救済思考、主義ということにはしない。基本的には、『目には目を歯には歯を』で行くが、全てが語源の通りではなく、医師による手術等の過失は別に考える。
この辺りは、勇者管理法を除く既存の法律と思想が同じかもしれないから、セレナの知識と意見を参考にしたい。
結局、前に言ったことを少し詳しく語っただけだが、これが『今の俺』らしさなんじゃないかな。汚れる覚悟はしたつもりだ。どうだろう?」
「いいよ、それで。違和感はないよ」
「はい。なんだか、たすく様がより魅力的になった気もします」
「……。成長したのかな……。現実を見て、自分の理想をどう位置付けるかを考えて……。いや、分からないな……。少なくとも、悪くはなってないと思う」
「まだ自信が持てないみたいだね。まぁ、それはしょうがないよ。それこそ、時間が教えてくれるんじゃない?」
「漫然と生きていても気が付かないと思うので、そこは気を付けたいですね。せっかく成長していても、それを活かす機会を失えば、いつ間にか退化してる恐れもありますから」
「そうだな。俺も自分を改めて改めるよ。まさに、『酔生夢死』になってもいけないからな」
「何それ」
「?」
「『たとえ才能があっても、誤った知識や見聞に惑わされて、酒に酔っているような、夢を見ているような状態のまま、無自覚に、無為に人生を過ごして死んでしまうことがある』から、気を付けろってこと」
「いや、それを知ってて、どうしてあんな状態になったの!」
「確かに……」
「それは、ごめんって! 『過ちて改めざる、是を過ちと謂う』だから、『過ちては則ち改むるに憚ること勿れ』をしただろ?」
「『論語』で畳み掛けるな!」
「よく分かりませんが、笑っておきますね」
「セレナ、『之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり』だぞ!」
「もうええわ!」
「あ、ありがとうございました!」
文字通り宙に浮いた化物達を他所に、漫才を知らないセレナの天才的な締めの挨拶の後、私達は笑い合った。
ラピスにも早くこのことを伝えたい。より強固になった私達の絆を。これから彼女も含めて、さらに強固になるであろうことを。
私達なら、この先も助け合って行けるから。
そして、必ず笑い合って行けるから。
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