第百十七話……法律のコツ!
「ここからここまでが陛下と私が作成した法律だ。政策は反対側の同じ位置」
次の日、朝食を食べた私達は、セントラルでの法案作成の参考にするため、ビルさんと一緒に城の法政閲覧室に来ていた。いつものようにユアさんもいる。
そして、ビルさんからはちょっとした講義を受けることになっていた。
「痒い所に手が届く法案作成のコツとしては、まず具体的な対象と状況を明らかにし、立法目的も明確にすること。馬車の道路交通法を例に挙げようか。
『馬車が何も考えずに道路を走ると、なんとなく危ない気がする』という直観から、法律を作りたいと思ったとする。この場合、当然のことだが、誰が危ないのかを考えなければいけない。
危ないのは歩行者だけではない。並列する馬車、対向の馬車、両馬車の御者、両馬車の乗客がいる。
さらに、歩行者の中でも、横断者、並行者、対向者、立ち止まっている者もいる。
そう考えると、立法目的は『全道路利用者の安全を確保するため』と一般化できる。
なぜ一般化する必要があるのかと言うと、そこから逆に具体化できることもあるから。この場合、『まず、道路そのものが安全でなければいけないよね』『道路の安全基準を明確にする必要があるよね』『道路整備も考えないといけないよね』という考えが容易に出てくる。
それを関連法案にするか一本化するかどうかは、その時の立法組織の状況にもよる」
「なるほどなぁ。俺達が社会適合テストや資格試験の問題を作った時以上の想定が必要なんだな」
「あれで結構自信ついたと思ったけど、法律となるとやっぱり考えること多いね」
「例の続きを話すと、それぞれがどういう立場なのかも洗い出す。例えば乗客なら、平民、貴族、王族に分かれるし、それが国民なのか外国人なのか、勤務中なのかそうでないのか、だとしたら特命なのかどうか、精神が不安定だったり、自殺願望があったりしたらどうか、前科があるのか、意図があったのか等々。
馬車の大きさや重さにも違いはあるだろう」
「あー、特命は思い付かなかったかもしれないな。でも、セレナがマリアンの特命だったことを思い出せば行けたか」
「外交特権は私達の国でもあったからね。外交官の車が事故を起こした時に有耶無耶になるっていう」
「まぁ、一人では思い付かないことでも、みんなでアイデアを出し合えば、自ずと法の隙間は埋まっていくものだよ。私だって当時のサルディアがいなければ、抜け道を防げなかったことなど何度もあったから。
それに関連して、まだ続きがある。次は、あえて悪党の立場で考える。歩行者を轢くことを恐れずに馬車を走らせたり、御者や他の乗客を脅したり、抗議のために馬車の前に立ちはだかったりした場合だな」
「ビルは、やっぱり面白いなぁ。抗議活動者を悪と断じるなんて」
「その場合は、私もビルさんと同意見だね。だって、相手の善意と良心と立場を平気で利用してるんだもん。正真正銘のクズだよ」
「その通り。ただし、抗議ルートが確保されていることが前提だ。つまり、先程挙げた特定の対象者の権利を著しく損なってはいけないということだな。
バランスを考える必要もあるし、その権利を意図的に侵害した場合は、その程度により罰則が決められるべきだろう。
もちろん、軽すぎても重すぎてもダメだが、どちらかと言えば、悪党を演じている自分がされたら嫌な罰則にした方が良い。
すると、悪党を捕まえる必要があるから、捕まえる人の体制や対応を法律化した方が良いかもしれないし、捕まえられる側の扱いや手続きも法律化した方が良いかもしれない、というようにどんどん具体化できる。
政策も同じ考え方で、『なんとなく景気が悪いなぁ』から始まって経済政策や社会保障政策を具体化する。法律化するかどうかは、その時々による」
「他に注意点があれば、全部聞いておきたいな」
「用語の定義をしっかりすることかな。例えば、歩行者とはどういう存在を指すのか。道路の中央を我が物顔で歩いていても歩行者なのかとか、その場で作業しているのは歩行者なのかとか。
今ならモンスターも含まれるから、そこも注意だ。
もちろん、他の法律と整合性を取らないといけないのも注意。他の法律では、ペットは飼い主の所有物であったのに、交通事故に遭った時だけ、急に家族の一員として扱われることになってはいけない。
その場合、どちらかの法律を変えて合わせる必要がある。『俺が考えた法律ではそうなってるんだよ!』というのは、国民には分かりづらいからだ。わざと犯罪者を生み出していることと同義と言ってもいい」
「わざと犯罪者を、か。改めて大切な意識だな」
「前に話した『誘拐』もそうだよね。変なイメージを持たせないようにしないと。特にメディア」
「場合によっては、表現規制に踏み出してもいいと思う。我が国でも、最重要である国家持続方針や公開処刑状況を歪めて広めた場合には、比較的重い罰則を与える検討をしている。
もちろん、どの程度なら『歪み』に相当するのかの基準は明確にしなければいけない」
「そうだな。ありがとう、ビル。よく分かった」
「ねぇ、勇者管理法もこの部屋にあるんじゃない? だって国際法なんだから、全ての国が文書を持ってないとおかしいでしょ。そしたら、ここで修正案を考えて行ける」
「あるにはある。ただ、勇者管理法は拡大解釈されていることも多いんだ。そして、知っての通り、セントラルが独断で違反者を処分できる。
えーと……これだな」
ビルさんが部屋の奥に行き、棚の一番下の端から薄い木箱のような物を、私達がいる広い机の所に持って来た。
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