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第4話 ダメだこりゃ


 弟のユーリアスがキサラ姫をいじめて自殺に追い込んだ、という線は可能性が低そうだ。

 いじめるどころか興味すらないって雰囲気だったし。


 悪い意味での国粋主義者だから、外国人にはたぶん手を触れることもないんじゃないかな。

 もちろん外国嫌いがエスカレートした結果、彼の側近たちがひどいことをするって可能性は消し切れないから、監視は必要だ。


「となれば、アリエッタ姫でしょうか。我が主君」


 影のように追随しているトリアンジュが口を開いた。

 侍従武官だからね。どんなときでも基本的に彼女が一緒なのである。トイレだって個室の前に控えている。


 ただ、他人のいる前で口を開くことはないし、他の人も彼女の存在を気にしない。

 それが従者や侍従武官というもの。


 ユーリアスも、私の左後ろに立っていたトリアンジュに対して一瞥することすらなかった。


「エッタねぇ……ユーリ以上に興味なさそうなんだけどな……」


 妹の顔を思い浮かべる。

 政治にも軍事にも興味がなく、好きなものはちやほやされている自分っていうわがまま姫だ。


 父も母も、正直扱いに困っている。


 外交の手駒として外国に嫁がせるには浅慮……言葉を飾らずにいうと頭が悪すぎて、国内の事情をペラペラ喋ってしまいそうで無理。


 功績のあった家臣に下賜しようとしても、プライドが高すぎて肯んじないだろう。


 そもそも、王家や貴族の女というのは政治の道具なのだという自覚すらないと思う。


「そんな人が他国の姫君をいじめるかしら?」

「我が主君は、おおよそ妬心とは無縁な方ですから、理解ができないかと」


「というと?」

「小人閑居して不善を為すといいます」


 王家の姫を小人と言い切ってしまう。もうトリアンジュの忠誠は王家にはないということなのだろう。


 ともあれ、たしかにアリエッタは自分が一番でなければ気に食わないという為人だ。


 他の人が持っている宝石を自分が持っていないと気に入らない。

 他の人の服よりもゴージャスでハイセンスな服でないとお気に召さない。

 王都で流行しているものは絶対に手に入らないと気が済まない。


 こんなわがまま娘だから、キサラ姫が人気者になったらかなり面白くないだろう。

 嫌がらせくらいするかもしれない。


「でも、子供かよと言いたくなってしまうわね」

「女の世界などそんなものです、我が主君。女の敵は男ではなく、同じ女なものですよ」


 訳知り顔のトリアンジュであった。

 彼女の説明によれば、ユーリアスよりもアリエッタの方が危険らしい。


 男が女に対しておこなういじめは肉体的なもので、どぎつい例を出すと、犯すとかそういうことになる。


 逆に女が女に対しておこなうそれは精神的なもの。

 より陰湿で、心を追い詰めるようなものが多いそうだ。


 アリエッタが直接手を下さなくても、彼女の意を汲んだ取り巻きたちがいやがらせをする可能性は高いのだという。


「アンジュは妙に詳しいわね」

「経験済みですからね。幼年学校では、それはもう血みどろの足の引っ張り合いが繰り広げられましたから」


 貴婦人付きの侍女を養成する学校には下級貴族や騎士の娘が通っている。

 もちろん彼女ら全員が採用されるわけではない。


 むしろ一握りといって良いくらいの数しか宮中に上ることを許されないのだ。


 その座を射止めるために自分磨く、というのは理想の話。

 実際にはライバルを蹴落とすという方向に走るものらしい。


「かなしいかな、それが人間というものなのですよ。我が主君よ」

「アンジュもそうしたの?」

「ご想像にお任せします」


 謎めいた笑みを浮かべるトリアンジュだった。

 まあこいつは陰湿な手段で足を引っ張るというより、真正面から、大上段からばっさりと切り捨てそうだけどね。斬り捨て御免とか叫びながら。




「姉上! 男装格好いい!」


 アリエッタが駆け寄ってきた。

 先触れも出していない訪問だが、普通に歓迎されている。

 わがままではあるんだけど、けっして悪い娘ではないんだよな。


「初陣も終えて、名実ともに王国を支える将の一人になったからね。貴婦人みたいなひらひらした格好はできないわよ」


 誘われるままにテーブルにつく。

 それまで歓談していたアリエッタの友人(取り巻き)たちが、一礼して下がっていった。


 これは仕方がない。

 国王の長女と次女が話をするとき、同席を許されるというのはよほどの身分のものだけだ。


 あ、トリアンジュみたいな護衛とかは別ね。この人たちは後ろに控えていても頭数には入らない。


「アンリウから嫁いでくるキサラ姫についてどう思っているか、訊いて歩いていたの」

「どうっていうか、お兄様の婚約相手ですよね」


 こてんとかわいらしく小首をかしげる。

 けど、見逃さなかったよ。いま一瞬だけ瞳に嫌悪感を宿したね。


「会ったことも話したこともない相手をどう思うって訊かれても困るかもだけどね。相手はアンリウの姫だから、機嫌を損ねるのもまずいし、みんなの存念が知りたかったのよ」


「アンリウなんて北の蛮族じゃないですか。むしろリシャールの機嫌を取るために姫を送ってくるんですよね」


 馬鹿にしきった応えが返ってきた。


 え、ちょっと待って。

 マジで言ってんの? こいつ。


 世間知らずにもほどがあるよ?


 



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