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計画から2か月がたったころには、ここでの生活に慣れてきてしまった。
慣れてきただけではなくて、実はそんなに悪くないのではないかという錯覚を起こしていた。
樋口とはとても仲良くなった。彼の諜報員としての話はとても面白かった。諜報員の仕事や、やりがい、大変なことなどを聞かせてくれた。諜報員の友人などいないから貴重だったのだ。この頃には、ここを出たらどこへ行こうかをよく話し合うようになった。
そして、粋花とも仲良くなれた。部屋番号を教えてくれたあの日から粋花の部屋へ毎晩通っているのだ。
彼女と話すことは本当に楽しかった。粋花は自分の身の上話を楽しそうに聞いてくれた。それに、何よりも、この場所では数少ない狂人ではない人間であることがよかった。いや、ある意味彼女は狂人なのかもしれない。彼女は周りの人間が少しだけ様子のおかしい人だという認識はあったものの、おかしくなっているのだとは思っていない様子だった。そのため彼女は周囲の空幸せに馴染めずに悩んでいるらしい。長く話すうちにわかったが、彼女はどんな人やものに対しても「まぁ、そういうモノもありますよね。」と言ったスタンスで理解をすすめるのだ。そんなに彼女は俺にとってはとても輝いて見えた。
俺は彼女の事をすっかり好きになってしまっていた。
樋口は大切な友人、粋花は好きな人。
複雑な心境を隠しきれなかった。
俺と樋口は徐々に貢献度レベルを下げた。もうそろそろ貢献度がマイナス3になってしまいそうな気がする。
そうすると彼女に会えなくなるのだと思うと寂しい気持ちが芽生えてきた。
翌週の月曜日
毎週月曜日の朝礼では貢献度レベルの上下が発表される。
その日に俺と樋口は遂に貢献度レベルがマイナス3になった。
このまま行けば明日には殺害が執行される。
その瞬間、俺たちは外に出られるのだと思うと気が安らいだが、俺はひそかに、もう粋花と会えなくなるのだと思うと淋しく思った。
「樋口さん、やったね。」
「まぁね。計画通りさ。でもまだ気は抜いちゃいけないね。」
「もちろん。」
俺たちの元には「※重要 明日、25時地下1階フロアに集合するように。」という手紙が配られた。
俺たちは意気揚々と執行の日を待った。