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その晩、俺は周囲のことをいつもよりも気にしながら樋口の部屋へ向かった。
「まずな、一旦話を整理してみるな?ここは幸福研究会という名前の洗脳施設だ。俺たちは普段から洗脳されるように薬を飲まされている。そして、俺たちが普段行っている作業はその薬作る作業だ。ここまでいいな?」
「おう。」
「そして、ここの会の目的はだな、この麻薬の売買にあるんだぜ。実はここで作られた薬は大手企業に高値で売ってるんだ。よくやるよなー。」
「さすが諜報員。いろいろ知ってるんだな。」
「そして、俺たちはそろそろここを脱出するってことよ。」
「ああ。」
「じゃあさ、どうやって脱出するのかを説明してやろう。まずさ、ここの3階、怪しいと思ったことはないか?」
「ある。めっちゃ怪しいよね。貢献度が上がると入れるんでしょう?」
「そうそう、実はあれの評価基準はさ、薬の効きやすさなんだよ。薬がよく効いていると判断されればレベルが上がるのさ。逆にあんまり聞いてないとマイナスにされていく。実際はもっと他にも評価観点があるらしいがね。そしてさ、レベルが3のやつらは、完全に洗脳しきった奴らだから、あそこに行くと人体解剖されちまうんだぜ。正常なやつの脳みそとどう違うのかが比較されるみたいなんだ。じゃあ、逆にマイナスのやつはどうなるかって言うとな、マイナス3の人たちはもう洗脳が効かないと判断された人たちだ。その人たちはシンプルに殺される。ベルトコンベア作業に、たまに紫の石があっただろ?あれ、毒薬なんだよ。」
「じゃあ一体どこから脱出するの?」
「ええと、そうだな。結論から言うと、俺たちはこれから薬が効かなくなったように見せかけて貢献度マイナス3になって殺されるように仕向けるんだ。そこからなんとか殺されずに外に出るって感じかな。」
「だってさ、毒でやられるんじゃないの?息でも止めとくの?」
「いや、毒薬は錠剤だよ。」
「じゃあ尚更どうしようもないじゃん!」
「あんたよ、いつも焦ってるけど、こっちだって説明の順番があるんだから最後まで聞けよ。次からは最後まで説明を止めないからよーく聞けよ。質問は最後だ。いいか?」
「お、おう。」
「あの毒薬は飲んでからすぐに身体を回って、比較的すぐに息絶えるんだとよ。補足だけど、これは安楽死ように研究されているものだから痛くないようになってるらしいぜ。実際に死んだことはないからわかんないだがね。それでな、これを見てくれ、この錠剤は俺の持ってきた毒薬さ。この毒薬は人体にとっては極小数のダメージは与えるんだ。だからこの錠剤を飲んだあと1日か2日くらいは身体から倦怠感が抜けないだろうなぁ。でもこれを飲んでおけばほかの毒薬の効力を無効化できるんだよ。そして、俺はこの薬を2つもっているわけだ。つまりな、俺たちは今から毎朝服薬している吸入薬の効果がなくなったように演技をし続けて、貢献度がマイナス3になるようにしむける。そしていざ殺されるってときに、俺の持ってきたこの毒薬を先に飲めば、あいつらから飲まされる毒薬で死なずにすむってことさ。その後はどうなるのか詳しくわかってないけどさ、外に出てさえしまえば俺たちの勝ちだろ?あとはアイツらを倒して逃げるんだよ。まー、勝ち筋は80パーセントってところかな?あんたと一緒だから70パーセントくらいか?」
「俺と一緒にいると可能性が下がるんだな。」
「そうだね。俺は毎日体を鍛えているし、もともとスパイとして育てられてきたからね。」
「じゃあ、どうして俺の事を連れて行ってくれるんだい?」
「気に入ったからかな?あとは昔色々あってな。」
「昔いろいろ?」
「それはまた今度。」
「わかったよ。それに納得した。今日からガンガン会員を罵っていこう。」
「いや、それはダメだ。徐々に効果が薄れたようにしなければいけない。」
「なぜ?」
「俺たちはあくまでも、薬が効かなくなってきた人たちを演じるんだよ。もともと薬に効果がなかったなんて知られたら警戒されるだろ?いいか?俺たちは、薬を飲みすぎて徐々に薬の効果が減ってきたんだよ。だから、俺たちがこの計画を実行する機関は3ヶ月程度だろうなぁ。」
樋口の計画はとても緻密なものだったし、さすがスパイだと思った。また、3ヶ月後にはここを出られるんだと思うと、大きな高揚感が得られた。