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運命  作者: 葉っぱ
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「新しくこのフロアに住むことになりました。長田一(おさだはじめ)と申します。よろしくお願いします。」

「お、礼儀が正しくていいね、俺はフロアリーダーの樋口葉一(ひぐちよういち)、よろしくな。この施設の説明は聞いたのかい?」

「はい、聞きました。貢献度みたいなやつですよね。」

「ああ、そうだね。でもアレ、あんまり気にしなくていいと思うよ。俺1年くらいいるけど、まだレベル1だし。なにがポイントなのか未だにわかりやしねー。」

「1年もいるんですね。」

「俺は短い方だと思うぜ。聞いた感じだと多くの人は5年とか10年とか言ってたなぁ。しかし、アイツらはまともに数字数えられるのかわからん連中だからね、ホントかどうかは知らないがね。」

「そんな人達がいるのに、樋口さんがフロアリーダーなんですね。それにまだ若そうなのに。」

「まーね、成り行きでね。それに、リーダーだといろいろ自由にできて都合がいいんだよ。自分から希望したのさ。」

「都合がいいんですか?」

「まー、それはこっちの話さ。それにさ、やっぱここに来る人はとんでもねー人ばっかでさ、用はならず者の集まりさ。アイツらのスローペースな人生になんて合わせてらんないね。君もなにかやらかして住まいを求めてここへ来たんだろ?」

「実はそうなんです。寝床と食事があるって聞いたから。」

「そーだろう。たしかにここの寝床と食事は悪くないぜ。君は何しちゃったんだい?」

「殺人未遂です。樋口さんはなにかしちゃったんですか?」

「未遂ってことは殺さなかったのか。もしくは殺せなかったのかな?その感じだと殺さなかったんだろうなぁ。俺は、詐欺だよ。」

「あぁ。何だか納得しました。」

「どういうことだ?まーいいさ。とりあえず今日は自分の部屋で休みなよ。明日の朝またみんなに自己紹介してもらうからな。うちのフロアは起床自由、ただし8時半には集合してもらうからなー、じゃ、また明日。」

「はい、また明日。おやすみなさい。」


部屋には簡易的なベットと机が用意してあった。

想像していたよりも豪華な待遇に驚いた。

風呂とトイレは共有のようで、トイレはフロアごと、風呂は1階に大浴場が設置されていた。

部屋は内側から鍵をかけられて警備も悪くなかったが、窓はなかった。

20時になると「20時です。会員のみなさんは特定のフロアには入らないようにお願いいたします。本日もおつかれさまでした。」という良心的なアナウンスがなされた。

はっきりいってこんな生活をしてもいいのだろうかと疑問に思ったし、同時にどんな薬を飲まされるのだろうかと明日からのことを心配した。

この日はなにもないから早めに眠ることにした。


翌日、7時には目を覚ましていた。慣れない環境になったせいか、しっかりと眠ることができなかったからだ。

1時間ほどは自室で暇を潰して、身支度を整えるためにフロアに出ていくと、樋口に遭遇した。


「おはようございます。樋口さん、お早いですね。」

「ああ、まぁね。君こそ早いじゃないか。」

「ええ、あんまり眠れなくて。」

「ところでさ、君、いくつ?」

「24です。」

「いいね、俺も24。タメ口でいいよ。」

「いやいや、とんでもない。リーダーさんにタメ口だなんて。」

「気にしなくていいんだけどなー。」


歳の近いもの同士ワイワイしていると同フロアから「うるせぇ、殺すぞ。」と怒鳴られた。


「ほらな、こんな調子さ。あくまでもここはならず者の集まりさ。殺すとか言ってたなぁー。語彙力の低さがよく分かるぜ。でもさ、俺はあんたらには期待してんだぜ。じゃ、俺いくわ、朝礼で会おうな。」


9時丁度に朝礼は始まった。


「6月11日、金曜日。朝礼を行います。誓いの言葉を唱和します。私たちは今日も幸福です。」

「私たちは今日も幸福です」

「今日は昨日よりも幸福になる」

「今日は昨日よりも幸福になる」

「明日は今日よりも幸福になる」

「明日は今日よりと幸福になる」

「日々の幸福のためにこの身の全てを捧げます」

「日々の幸福のためにこの身の全てを捧げます」


「黙祷」


………

………



「薬品投与を始める。本日の薬品を配布する。フロアリーダーがフロアメイト分取りに来るように。」


「ほら、これはあんたの分だ。」といって樋口は薬品を渡してきた。

「あ、ありがとうございます。」

吸入薬だった。

思い切って吸入薬を吸った。

今のところとくにおかしな様子はないが、少々怖い気持ちになった。


「投薬確認、フロアリーダーが確認するように。」


「みんなー,吸ったなー。」

とほかのリーダーと比べて比較的適当な確認を樋口が行った。


「本日も喜んで業務に育みたまえ。以上解散。」


「樋口リーダー!今日も幸せになるためにやってやりましょう!」

「俺、最近まじで幸せっす。ここに来てからっす。」

「やるぞぉーーー!」

とフロアメイトの大多数が樋口にやる気に満ち溢れていることをアピールした。

やる気に満ち溢れたフロアメイトを横目に

樋口が「まぁ、適当にな。」と言っていた。


朝礼が終わってからは何だか様子がおかしい。

アリーナ全体がやる気に満ち溢れている。

どこからも「幸福のために。」や「幸せだ。」と言った言葉が呟かれている。それは「幸福」どころかむしろ不気味な印象を持たざるを得ない。

幸福の研究成果が相当なものなのか。あるいは先程の薬にそのような成分が入っていたのか。

要因はわからないが、とにかくアリーナ全体が「幸福ムード」に包まれていた。


はっきり言って狂っていると思った。

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