戦後処理(2)
レイシスが告げたスキル、ダンジョン生成―――その言葉を聞いた瞬間、直人のステータス欄に新しくダンジョン生成スキルの表示とダンジョン生成スキルに関する説明が頭の中に流れ出した。
『存在レベルのレベルが上がったことを確認、スキル認識……―――確認、固有スキルダンジョン生成を獲得しました――スキル獲得に伴い派生固有スキルを獲得します』
『スキルダンジョン侵略……―――獲得』
『スキルダンジョン内創造……―――獲得』
『スキル魔物創造……―――獲得』
『スキル転換……―――失敗。スキル転換はプレイヤーのレベルが低すぎるためスキルの獲得に失敗しました。代案、確認……代案としてスキル魂付与を獲得……―――成功しました』
『プレイヤー直人のスキル欄に接続可能なスキルを確認……―――接続中……成功』
目の前に複数の半透明なウィンドウが出現し、獲得したスキルの説明などがズラズラと表示されていく。
【ダンジョン生成:スキル使用者が定めた地点を中心に半径二キロメートルをダンジョン化する。またダンジョンはスキル使用者の専用ツールDPを使用することで拡張することができる。ダンジョン化後ダンジョン内で生命の死、もしくはダンジョン内に他者の魔力が接触することによってDPは獲得する】
【ダンジョン侵略:ダンジョン生成の派生スキル――スキル使用者の半径一キロメートルのダンジョン化していない土地、もしくは他ダンジョン最深部でこのスキル使用後一日その場に留まることでその場を自身のダンジョンとなる】
【ダンジョン内創造:DPを消費してダンジョンに物体を創造することができる】
【魔物創造:DPを消費することで自我を持たない魔物を制作することができる。また魔物を合成して新たな魔物を創り出すことも可能】
【魂付与:自我のない魔物に対して自我を与えることができる。また魂の強化なども可能】
「大量にスキルを手に入れたんだが存在レベルが上がればこんなにスキルが手に入るものなのか?」
「はいです!なんならむしろ今回は少ない方ですよ!」
「これでか……」
スキルを見てもほぼ全てがダンジョン生成スキルに合うスキルだ。どれを見ても有用に使えるスキルだろう。
「直人様、さっそくスキル―――使ってみませんか?」
上目遣いで媚びるようにレイシスがお願いをするが直人は少し考える素振りを見せる。
「う~ん……なあレイシス聞きたいんだがさっきの冒険者連中はお前の誘導でここに来たんだろ?」
「え?あぁ……ㇲゥ―――……えっと……そうですぅ~」
目を泳がせながら両手を合わせてモジモジするレイシス、それに対し直人は怒るでもなくただ淡々と話を続ける。
「別に攻めてるわけじゃない。お前がここに誘導したから見つかっただけで実際はこの場所、結構見つかりにくい場所なんだよな?」
「あ、えっとそれははい!絶対とは言えませんが見つかる確率は低いはずですよ」
「だよな、まあだからスキルを使うのは後回しでもいいとは思うんだが……」
そう言うとレイシスはしょんぼりした顔を見せ明らかに落ち込む態度を見せる。
直人がスキルを使うのに躊躇いがあるのには理由がある。
全ての行動には必ず優先順位があると直人は考えている。今回のことに当て嵌めるとまず優先すべきは次の襲撃に備えることだ。
今現在直人の配下はゼロ、強いて言えばゴブリンチャンピオンの召喚石はあるがここでは召喚できないので存在していないのと変わらないだろう。
配下のいない今に襲撃を受ければあっさりと死んでしまうだろう。それは避けなければならない。
もしこの今の状態でダンジョン化を進めれば兵力の乏しい状況下で複数の敵を相手取ることになってしまう。
だからあまりスキルを使用したくはないんだが……。
そんな気持ちとは裏腹に直人の思考はレイシスを見ている内に変わりつつあった。
レイシスの無邪気にはしゃぐ子供のような表情、いつもころころと表情を変えたり落ち込んだりそんな彼女があからさまにしょんぼりした顔を見せているので何故だかついつい考えが甘くなってしまう。
「まあでも絶対ではないからな。使っているか」
「―――!!ええ!すぐしましょう!そうしましょう!」
グイグイと引っ張りながら急かすレイシス、ここで躊躇う理由もないのでとりあえずさっそくスキルを使ってみる。
「スキル発動――――ダンジョン生成」
言うとレイシスの声に似た機械音声が聞こえ、目の前にステータス画面とは違うダンジョン生成スキル専用の画面が現れた。
画面内はオンラインショップの画面のように色々なものが売っており、値段は全部DPを消費して購入できるようだ。ただほとんどにロックがかかっている。
また画面内にはマイページのようなものもありそこを押すと先ほど一緒に手に入った派生スキル欄とその下には気になる項目、【ただいまこの洞窟内をダンジョン化中】という説明事項とともにゲームのローディング画面のような%ゲージがゆっくりと100に向かって進んでいる。
「この%ゲージが100になったらこの場所がダンジョン化するのか」
「そうみたいですね。進み具合的には十秒で0.1%ですか100%になるにはあと三時間弱って感じですかね」
「スキルを発動してもすぐにはダンジョン化しないのか。結構使いづらいな」
「う~ん、そうですね。まあやることは沢山ありますからとりあえず他のことをしながら時間を潰してましょ!」
「まあそうだな」
ダンジョン生成スキルは時間がたたないと発動できないらしいのでとりあえず別のことをする。
まずはそのまま転がしていた冒険者連中の死体の処理だ。
直人は転がっている二人の死体から鎧や剣、着ている服に至るまで身ぐるみを剝ぎ取り肌着だけの状態にする。
「さてと、とりあえず二人の死体は身包みを剥いだし後は死体だな、これはそこの祭壇に載せればいいのか?」
「はい、それで大丈夫ですよ!捧げれば自動的に神聖ポイント、SPに変わるはずです」
「了解」
レイシスに言われるがまま二つの死体を祭壇に寝かせると一瞬にして死体が消失、次の瞬間にはまたあの機械音声が頭の中で聞こえ出す。
【供物を確認――――SPを5ポイント獲得しました。接続スキルを確認DPを10ポイント獲得しました】
「これは……どういうことだ?」
SP が手に入ったのはわかるがDPを獲得した理由がわからない。
いや心当たりはある。派生スキルを獲得していた時に接続できるスキルがあるとかどうか言っていた多分その時なのだろう。ただステータス画面にはこのスキルのことは載ってなかったはずだが……。
疑問に思っていたらレイシスが答えを教えてくれた。
「ああ~これはですね、■■■スキルと接続したからでしょうね、よかったですね直人様!」
「ごめん、なんて?」
「えっと■■■スキル……あ~プロテクトがかかっているんですね。すみません」
「プロテクト?」
レイシスがスキルの名前を言うとそのスキルを言っている時だけ音が無くなってしまう。そのせいでスキル名が聞き取れないでいる。
「はい、これは所謂レベル制限というやつですね。直人様の存在レベルが足りないせいでスキルの名前が聞き取れないんです。レベルを上げさえすれば聞き取れるようになりますよ」
「また存在レベルか……」
存在レベル、この世界においてはとても重要なシステムらしい。
「はい実は直人様自身が見えていないだけでいくつか獲得しているスキルがあります。それも存在レベルを上げることで見ることはできます」
「使うことはできるのか?」
「はい、ガチャだったりも出来ていたでしょ?あれも見えてないスキルになるんです」
「そうなのか……」
存在レベルの早急なレベル上げが必要らしい。
自身のスキルを把握することは生存率を大きく上げる、なのに知らないスキルがあるようじゃ話にならない。
「とりあえずはやっぱ存在レベルのレベル上げが優先かな」
「そうですね、綾香様のためにもさっそく上げていきましょ!」
「さっそく?」
レイシスはそう告げると洞窟の一番奥で口から涎を垂らしながら壁にもたれて虚ろにしている冒険者レーナの頭の上に乗る。
「ささ、さっそくレベル上げ――――しましょうか!」
レイシスの明るい笑顔がすごく嫌な予感がする……。