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侵入者(3)

 初戦を見事勝ち抜いた直人なおとだが勝ち抜いた余韻に浸る時間はなく急いで冒険者の死体にある小細工をして次の戦いに備え始める。


 そうこうしているとレイシスが慌てた様子で近づいてきた。


「直人様、来ました!まもなく接敵します!」

「了解」


 準備は万全とは言えないものの出来うる限りのことはした。


 先ほどのアルという名の冒険者一人でさえキツイというのに後二人、それも戦士であろう人物がいるということなのでこちらの作戦はいたってシンプル、相手の嫌がりそうなことをする。


「アル―――!!!無事かァ―――!!!」


 洞窟内ということもありよく響く声が聞こえた同時に相手と接敵する。


「なあっ!?」


 戦士の男が驚きの声を上げてその場に立ち尽くす。


「ベック、アルは―――って、うそ……」


 遅れてやってきた彼女もこちらの光景を見て絶句している。


 今直人らはアルと呼ばれた冒険者の死体を一体のゴブリンの肉盾として持たせている。


 相手の嫌がることそれは人質、仲間意識がなければ効果は薄く正に肉盾の役割しか果たすことはできないが今回はこちらの予想が当たったようだ。


「テメェ!!アルを放しやがれ!!」


 ベックと呼ばれた大男の冒険者がこの洞窟では振り回すには適さないであろう大剣を引き抜きこちらに構えて威嚇する。


「アル、ねえアル!?聞こえる!?お願い、返事をして!!」


 レーナが必死に捕まったアルへと呼びかけをするが一切の反応を示さない。


「くそっ!気絶しているのか!?とりあえずレーナ、アル救出を最優先に!俺が牽制するからお前は魔法でアルを助けてくれ!」

「りょ、了解!」


 大剣を前へ突き出しじりじりと直人たちへ詰め寄ろうとするベック、ただ直人らも近づかれたら終わりなのでゴブリンアーチャーに弓矢で牽制させる。


 お互いに近づくことのできない硬直状態、この隙に直人は相手のステータスを覗き見る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 名前:ベック=ジェフチャー Lv.27 種族:人間 年齢:31歳 職業:重戦士 

 状態:怒り、不快、困惑、焦り

 称号:アスワルド流術重戦士免許皆伝者、大剣使い、不動の護り手、ワームスレイヤー、B級冒険者


 HP(体力):53 MP(魔力) :6 STR(攻撃力):20

 DEF(防御力):60 INT(知力):13 DEX(器用):10

 AGI(素早さ):6 LUK(幸運):14


 スキル:不動金剛盾、絶対なる守りパーフェクト・プロテクト、カウンター、挑発、鉄鎧アイアンアーマー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【不動金剛盾:自身の防御力を三十秒間二倍に上げ、三十秒後その間に受けたダメージ分をターゲットを選択して選択した相手に防御力無視の固定ダメージを与える。その後24時間全ステータスは50%ダウンする。クールタイム:48時間】

絶対なる守りパーフェクト・プロテクト:五秒間どんな攻撃からも自信を守る結界を張る。クールタイム:24時間】

鉄鎧アイアンアーマー(パッシブ):敵と接敵時盾を装備している場合防御力が10%上昇する】


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 名前:レーナ=ユルム Lv.23 種族:人間 年齢:22歳 職業:魔法士 

 状態:怒り、不快、困惑、焦り

 称号:アスワルド流術魔法士免許皆伝者、三属性魔法トリプルマジックの使いて、聖職者〈位階7位中位〉、B級冒険者


 HP(体力):20 MP(魔力) :35 STR(攻撃力):7

 DEF(防御力):14 INT(知力):26 DEX(器用):23

 AGI(素早さ):12 LUK(幸運):5


 スキル:魔力上昇マジックライズ解析アナライザ

 SAN値:30 好感度:なし 妊娠回数:0 弱点:鑑定不可

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

魔力上昇マジックライズ:自身の魔力を全回復し、五分間魔力の上限を20増やす。クールタイム:12時間】

解析アナライザ:魔物限定の解析スキル。種族、弱点、能力を見ることができる】


 なんでこうもステータスが全員高いんだ。


 それにスキル、気になるものをピックして見てみたが性能が違いすぎる。一つあれば逆転できそうなスキルが二つや三つとゴロゴロと持っている。


 予想はしていた。先程の冒険者のステータスやスキルは一人でこちらの戦力を上回っていた。その仲間なら二人も似たり寄ったりの強さだろうことは想像に難くなかった。


 こちらが勝つにはまず相手にスキルを発動させないこと、そして魔法士を先に仕留めることが重要だ。


 スキルを使わせない、これはまあ使われたら終わりだからなるべく肉壁を用いてスキルを使わせないように誘導する。そして魔法士を先に仕留めるこれが一番重要だ。


 こちらには遠距離武器を持つアーチャーが二人いるとはいえ能力差は多分投げ槍と鉄砲並みに火力に差が出るだろう。  


 それに魔法士の持つ解析アナライザスキル、あれでこちらの情報を見られるのはなるべく避けたい。


 だからまず後ろの魔法士を狙う。


 直人はレーナへと視線を向けるとスキルを発動する。


『スキル:魅惑の瞳』


「…………―――――ッ!!」


 それは一瞬の出来事、一匹の長身の魔物と目があった瞬間足腰の力がフッと抜け、その場にへたり込んでしまった。


「レーナ!?どうしたんだ!?」

「……」


 レーナの異常にすぐに気づいたベックが前方を気にしつつも後ろでへたり込むレーナへと声を掛けるが返事が返ってこない。

 

「クソッ……!!」


 レーナの様子を確認したいが目の前の()()()()()()()()()に牽制されうまく動けないでいる。


 それもそのはず直人はへたり込んだレーナを見た瞬間スキルが発動したのを確認したのちゴブリンに付かず離れずの距離を保ちながら牽制することを命じていた。


 正直スキルの魅惑の瞳が成功するかは賭けではあったが自分よりも遥かに格上のステータスを持っている敵であっても成功したことを見るにさすがAランクスキルと言われるだけはある。


 彼女がなぜへたり込んだのか、多分スキルの影響を受けたからなのだろうが今は正確なことはわからないため生き残れれば後日調べることにしよう。それよりも今が好機なのは間違いないだろう。


 あの大男の攻略が今回生き残れるかのターニングポイントになるだろう。


 さてどうするか……


「レイシス、ちょっといいか?」

「はいはいどうしましたか、直人様?」

「確かガチャで素材が落ちていただろう?あれを出してくれないか?」

「素材……あっ!」


 そう、素材。闇鍋ガチャで唯一の魔物素材グラスウルフの牙だ。


 グラスウルフ、それはゴブリンの王国に出てくる魔物の一種でゲーム内では中盤のステージの草原エリアでよく見かける魔物で群れを成さず基本単独行動を行っている孤高の狼だ。


 そしてこのグラスウルフが単独行動を主にしている理由は草原などの草木に同化し、獲物が近寄ってきたら相手に喰らいつき牙から出る毒で弱らせ殺す暗殺者のような生態をしているためだ。


 毒の効果は噛まれて五分後に死ぬという猛毒だ。ゲーム内では毒状態のエフェクトが出ていたためすぐに気づいて治療できていたがこの毒はゲーム内での文章設定では五分間経つまで毒に罹ったことに気づくことはなく五分経った瞬間に眠るように死ぬという能力にしていた。


 罹ったことに気づくことなくと書いてはいるがゲーム内ではそんな設定にすれば批判殺到しそうだったためゲーム内の魔物設定欄にだけそのように表記した。


 とりあえずゲーム内設定なんて少し現実離れしていても面白ければ大丈夫だろスタンスでいろいろな設定を盛り込んでいたためこのような現実世界ならぶっ壊れ能力を持ったモンスターがいくつも存在していた。


 まさか現実になるとは思わなかったがそれよりも今ここで重要なのが牙から出た毒の部分だ。


 そう、今回ガチャで手に入れたのはまさしくグラスウルフの牙、グラスウルフ本体から抜いてしまった牙にもたった一度だけだがグラスウルフの使っている毒を使用することができる。


 この牙をあの大男に刺し込み五分耐えることができればこちらの勝ちが確定する。


 ちなみにだがこの戦い方はゲーム内にも存在しており、グラスウルフの牙を投げることで敵モブを毒状態にするという感じの戦略を立てたりしていた。


「さて、やるか」


 直人は右手にグラスウルフの牙を装備し、左手に最後のゴブリン召喚石を抱えて一歩前進する。


 やることは一つ、先ほどアルという名の冒険者にやった時と同様、召喚石の割れたときの光を目つぶしに、生じた一瞬の隙を牙で攻撃するというものだ。


『ゴブリンたちよ、命令だ。光を合図に一斉攻撃しろ』


 直人は召喚石をベックの顔目掛けて投げつける。


「なにを………?うぐあぁぁッ―――――!!!」


 ベックは石を防ぐことはしなかった。


 もともとフルフェイスマスクを装備していたため石を投げつけられてもけがをすることはないと考えていたためだ。むしろ一瞬でもこの人数差で目を離すことが怖かったためあえてゴブリン召喚石をマスクで受けた。それが失敗だった。


 接触した瞬間割れた召喚石は眩い光を放ちベックの目をつぶすと同時に顔にずっしりとした重みが乗っかる。


 割れた石からゴブリンが現れベックの顔に張り付いたのだ。


『今だ!総員攻撃!』


 直人の合図と同時に攻撃を開始するゴブリンたち、直人もゆっくりとゴブリンたちの影に潜んで確実に攻撃を入れられるタイミングを伺う。


「うぐっ――――ああああああああ!俺はB級冒険者ベック=ジェフチャー様だあああぁぁ!!舐めるなよ、魔物どもおおおぉぉぉ!!!」


 顔に張り付いたゴブリンを片腕で剥ぎ取るとそれを地面に叩きつける。


 叩きつけられたゴブリンは地面に小さなクレーターを作り見るも無残な肉片へと変わり果ててしまった。


「俺はこんなところで終わる人間じゃないんだ!!スキル発動!!不動金剛盾!挑発!カウンター!!!」


 能力発動と同時にゴブリンアーチャーの一体に真っ赤なドクロマークがアーチャーの頭上に出現する。


 多分不動金剛盾のターゲティングスキルの影響だろう。


 受けたダメージ分を固定ダメージとして返す能力、多分だが目が見えなく、ターゲットを選択できなかったためランダムな相手が選ばれたのだろう。


 こちらがターゲットになっていないのであればこのまま敵の懐まで潜りこむ。


 直人はグラスウルフの牙をナイフを持つように構えるとベックの鎧が装備されていない首元目掛けて突きたてる。


「ぐッ―――!?……ッてえなぁ!!」

「ガッ……!?」


 直人は初めて持つ武器であったにも関わらず熟練者顔負けの綺麗な刺突を決めて見せたがベックの発動したカウンタースキルによるものだろう、牙を刺した瞬間、待っていたとばかりにベックの持つ大剣が弧を描きながら直人の胸元を一刀のもと切り飛ばす。


 後方のガチャ台のテーブルまで弾き飛ばされてしまった直人は背中と頭部に強い衝撃が襲い、軽く意識を飛ばしてしまう。


「……ぅぅ……ぁ……――――」

「―――ッ!!直人様!!」


 直人の窮地に光の速さで飛んでいくレイシス。


「直人様しっかりしてください!!お気を確かに!私の声は聞こえますか!!」


 レイシスは声掛けをしつつもうつ伏せに倒れ込んだ直人を一体のゴブリンアーチャーと共に仰向けにすると傷口の治癒を試みる。


「あなたをこんなところで死なせたりしません!お願いですから目を覚ましてください!!」


 必死の懇願、涙で滲む視界を右腕で拭い死に物狂いで傷口に治癒魔法をかけ続ける。


 元々直人の運がよかったのか傷口はそこまで深く達しておらず神聖力のほとんどを失ったレイシスであっても十分に治療できるほどだった。


「よし!止血もしたし傷口も塞がったわ。アーチャー、あなたはあの冒険者から時間を稼いでください!もうすぐ毒の効果が発動するはずです。それまでなんとしても耐え忍んでください」

「ギギッ!」


 レイシスの命令を聞いたゴブリンアーチャーはすぐに弓を携えてベックの足止めへと向かっていった。


 ゴブリンアーチャーに命令を出し少ししてピクリと右腕が動きゆっくりと直人の瞳が動き出す。


「……ぅう」

「―――!!直人様、大丈夫ですか!?」

「ぅん?レイシス?」

「はい!はい!レイシスです!よかった、目を覚ましてくれて!」


 頭を打った衝撃のせいか思考に霧がかかり上手く状況が呑み込めないでいる直人、そんな彼を霧の世界から現実へと引き戻したのはベックの雄叫びだった。


「ウオオオオォォォッ―――――!!!」


 ベックの耳を割るような雄叫びおかげで頭の中の霧が晴れ今現在、戦闘中であることを思い出す。


 急いでベックへ視線を向ける直人、その瞳に映る目の前の現状はとても悲惨なものだった。


「うそ、だろ?」


 目の前に立っているのはただ一人、ゼーハーと荒い息を吐きながら体中やその周辺いたるところを真っ赤な血で汚し、片手にゴブリンの頭部を持つベックがこちらを睨みつけながら立ちつくしていた。


「なあ!?」

「ふぅ……ふぅ……――――」

「レ、レイシス!今何分経った!?」


 ベックの視力はすでに戻っており、圧倒的なまでのステータスの暴力によりゴブリンを虐殺していた。


 直人が気絶していた時間はほんの数十秒だろう。


 だからまだ毒がめぐるには時間が足りていないはず。


「直人様、あと一分、あと一分です!どうにかしてあと一分耐えてください!耐えさえすればこちらの勝利です!」

「一分……」


 傷口はすでにレイシスのおかげで塞がっているとはいえ、流れた血までは取り戻せないらしい。


 無理矢理体を起こして立ち上がるがうまく足に力が入らず、壁にもたれる形で立ち上がる。


「ふぅ……ふぅ……ふぅ……!」

「―――?」


 息を荒らげ立ちつくすベック、ただその場に立ちこちらを睨みつけているだけでこちらに近づいてこない。


 こちらは満身創痍なのだからもし今攻撃されれば即死するだろうことは明白だった、ただ満身創痍の具合で言えば向こうも同じらしい。


 よく見るとベックの足元に無数の矢やナイフが突き刺さり、多くの血が流れ続けている。


 ゴブリンもただ虐殺されただけではないようだ。


 レイシスの出した命令に忠実に従い、時間を稼いでくれたらしい。ベックの持ち武器である大剣や兜などが無くなっている。


 動くつもりが無いようであればこちらの勝ちが確定するがやはりそう簡単にはいかないらしい。


「ふぅ――――んんっ!!」


 静まり返った洞窟の中にベックの雄叫びが木霊し、地響きを起こしながら一歩一歩こちらに足を進めて来る。


 ベックの踏みつけた地面には小さなクレーターが出来ておりとんでもない力で地面を踏みつけているのがよくわかる。


 一歩また一歩と鬼の形相でこちらに近づいてくるベック、そしてとうとうベックは直人の目の前へとたどり着いた。


「ふぅ……お疲れ様、よくその傷でここまでたどり着いたものだ。それだけの執念がお前にあるのはよくわかった、ただこちらにも負けられない理由があるんだ。だから……お前を糧に俺は生きる―――ゆっくり休め異世界の戦士」


 トンっと軽く目の前の冒険者の胸元を押すと何の抵抗もなくゆっくりと倒れ込む。


「ふぅ……五分、なんとか――――なんとか勝てたな」


 ちょうどベックが直人の目の前に立った瞬間、レイシスの言った一分が経過し、グラスウルフの牙の毒がベックの全身をめぐったようだった。


 最後までこちらから目を離すことなく、また死んでからも目を見開きこちらを睨み続けるベックの瞳を閉じ、両手を合わせる直人。


 こうして直人の初戦は圧倒的なまでの格上戦にもかかわらず被害7体のゴブリンだけというほぼ完全勝利という形で幕を下ろすのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。評価の方はお任せいたしますので、よければもう一話見ていただければ幸いです。

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