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蹂躙(2)

「ギャアア!!」


 ゴブリンたちの鳴き声、そして聞こえる住民たちの悲鳴、中央広場はいま戦場と化していた。


「ミミ!広範囲攻撃は打てるか!?」

「無理!!こいつら確実に私を狙ってきている!詠唱する隙すら与えてくれないわ!」

「くそっ!」


 今武器を持ち戦っている兵士は約二十人、それに対しゴブリンは百以上で囲っているため一人当たり五体以上のゴブリンの相手を強いられている。


 そのためいくら相手が弱い魔物だといっても数で圧倒されてしまい何人もの村人の犠牲者が出始めている。


 唯一の救いは魔法を使う魔物がミミが事前に発動していた魔法、魔力障壁(マジックシールド)の影響で魔法を打ってはこないということだろう。


「くそっ!ミミ!何秒稼げば大技を打てる!?」

「……一分、一分間私を守り通せる!?」

「この状況下で一分か……酷なことを言うな~!!」


 倒しても倒してもひっきりなしに攻めてくるゴブリンに対し手を止められないマクスたち、今の円陣を崩せば空いた隙からゴブリンたちがなだれ込んでくるのは目に見えていた。


 ただミミが打つ魔法がこの状況を打開できる唯一の策であることもまたマクスは気づいていた。


 選択の時間は刻一刻と迫っている。


 ゴブリンたちの攻撃をあしらうとマクスは深呼吸しとうとう決断する。


「後ろにいる野郎ども!!!」

『――――ッ!!!』


 その声は戦場に、いや村中に響き渡るほどの声を上げたマクスは後ろを振り返らぬまま言葉を伝える。


「一分だ!一分間ミミを死ぬ気で守れ!!そうすれば勝てる!!」


 あげた声は村人だけでなく戦っている兵士たちにも、また自分自身にも言い聞かせるかのように強く想いを乗せる。


「死にたくはないだろう、痛い思いはしたくはないだろう、俺も同じだ……ただ考えろ!もしこいつらの魔の手が自身の家族、愛する人を友を仲間を傷つけようと辱めようとする光景を!!俺は嫌だ!!そんなことがあっていいはずがないだろう!!」

「そ、そうだ!」

「当たり前だ!」

「家族をあんなブッサイクな魔物なんかに辱められたくない!!」


 後ろでただ震えていただけの村人たちがマクスの声を聴いて立ち上がり声を上げる。


「なら守れ!盾となれ!!死ぬ気で、いや!死んででもミミの盾となって家族を親しい人たちをその身で守れ!これは勝ち戦だ!たった一分を稼ぐことで未来につながるんだ!!立ち上がれここが命の使いどころだ!!!」

「「おおおぉぉぉっ――――!!!!!!」」


 マクスの鼓舞に年寄りや年配の男といった村人たちが我こそはとミミの前に立ち壁を成す。


 ただそれをミミ本人が黙って聞くはずもなかった。


「ま、待ってみんな!どうしてみんなを肉壁みたいなことをさせようとしているの!?みんなを守るためにここまで後退したのにこれじゃあ何の意味があるっていうのよ!!」


 少女の激昂ただそれを聞き入れるものはその場には誰もなかった。


「ミミ!俺たちが死んでも守るから頑張ってくれ!!」

「ミミちゃん、おばさんが絶対に守るからね!」

「ほっほっほ、こういうのは老い先短い老人らがやるものだからな~……。だから若いのは黙ってみておれ。ミミちゃん、後は頼んだよ」


 各々がミミへと声を伝え前を向く。もう後ろを振り返るつもりはないと言いたげなように。


「どうして、ねえどうしてなのよ!」

「ミミ!これが最善の唯一生存確率が高い手段なんだ!!だから早く詠唱を始めてくれ!!」

「でも!!」

「ミミ!!!」

「うぅうう――――……!!」


 マクスの声を聞き涙を殺して詠唱を開始するミミ、肉壁となるため前に立った村人たちの目には覚悟の光が淀っていた。


「よしお前たち、ここが正念場だ!死んでも守れ!!」

「「おう!!」」


 村人たちが肉壁となることでゴブリンたちの数の暴力に対抗し始める村人陣営、それに気づいた直人なおとは唯一の生き残りである切り札をここで切る。


「グォオオオオォォォッ!!!!!」

「な!?まだ生きていたのかあのオーガ!!」


 投入したのはもしものために後ろに配置していたガチャ産のゴブリンチャンピオン、そのおかげもありミミの魔術地雷爆撃ウル・バーストを免れ今この戦場に立たせることができた。


 その姿を見た村人たちは顔を真っ青にさせ足を震わせている。


 それもそのはずゴブリンは子供くらいの大きさに対しゴブリンチャンピオンは三メートルを超すほどの巨体にはち切れんばかりの丈夫な筋肉、そしてその身の丈にぴったりな巨大な棍棒を携えており素人目にもわかるほどの凄まじい殺気を飛ばしているためだ。


 それに気づいたマクスは震える足を自身の剣の(つか)(がしら)で何度も叩いて震えを抑え、止まったところで自分が前に出ることによってゴブリンチャンピオンの注意を引こうとする。


「こいオーガ!!お前の相手はこの俺だ!!」

「グオォッ―――!!!!!」


 注意を引くことには何とか成功した。


 マクスが声を上げて前に出るとゴブリンチャンピオンは待っていたと言わんばかりにミミたちには目もくれずマクスの目の前に立ちはだかる。


「うおおぉぉぉっ!!!」


 相手は巨体、露出させた筋肉が物語っている通り、力勝負ではマクスに勝ち目はないだろう。だからマクスは相手の機動力を奪うためゴブリンチャンピオンの懐へと潜り込み相手の足の腱を狙って剣を振るう。


 マクスはスライディングでゴブリンチャンピオンの懐へと潜り込むとそのまま股の下を通って足の腱へと剣を伸ばす。


「かったッ―――!?」


 ただ確かに当てることには成功したがその攻撃は掠った程度のものでありゴブリンチャンピオンには全く影響を及ぼしはしなかった。


 さらには滑り込んだ先に待ち構えていたのか一匹のゴブリンが立っておりその対処で数秒を取られてしまう。


「くそっ!邪魔だ!……―――ッ!!」


 戦場での数秒の遅れは死に直結する。振り返るとすでにこちらに振り返っていたゴブリンチャンピオンが振り上げられた棍棒をマクスへと振り下ろしていた場面だった。


 慌てて鉄剣で受けるマクス、何とか防ぐことに成功するもゴブリンチャンピオンの力押しと無理に体勢を変えた反動で地面に片膝をつかされる。


「マクス!!」

「ミミちゃん詠唱を止めたらだめだよ!あんたの旦那さんを信じてやりな!!」


 膝をついているもののゴブリンチャンピオンとの力勝負は拮抗しており、うまくふんばっている。


 通常、いつものマクスであれば体格差もあるゴブリンチャンピオンの攻撃を真正面から受けきることはできなかっただろう。


 ただこの時のマクスは拮抗できていた。


 神はいたずらに微笑むとはよく言ったものだろう。物語であれば主人公がピンチに覚醒するそんな話が今現在進行形でマクスに訪れていた。


【マクス・エルハスはスキル英雄覇気を獲得しました】


 その獲得通知はマクスには聞こえてはいなかったが体の奥底から力が沸き立つような感覚をマクスは静かに感じていた。


「うおおおおおおおぉぉぉっ!!!」

「ミミちゃん!」

「うん!もう大丈夫!!猛き轟雷は歴史を刻む、願いを憂い願いを想う。雷雨が災いを呼び、我が敵を喰らう―――!!」


 ミミの詠唱、それに気づいたゴブリンたちも詠唱を止めさせるため猛攻がさらに激しさをます。


「ミミが末文を読み始めた!あと少しだ!!踏ん張れお前ら!!」

「「おおっ!!」」

「舞え、踊れ、巫女のように。刻んだ歴史を繰り返せ!!我が贄喰らいて敵を葬る!!」


 目の前で親しい人たちが死んでいく。


 昨日まで笑いあっていた門兵のゴザップさん、いつもおいしいパンをくれた宿屋のハンおばさん、私の知らない知識を補ってくれたランおじいさん、そして……―――マクス……。


 彼らがその身を賭して繋いでくれたこの道を絶対に無駄にはしない!!


「目覚めよ雷光、閃光のごとく!!」


 ミミの目の前に大きな魔法陣が出現する。それは雷で形状を保っているのかビリビリと火花をあげている。


「―――よし、みんな!!詠唱が終わった!!私から離れて!!」


 その言葉を合図にマクスを置いて戦っていた村人たちがミミの後ろへと避難する。


「マクス!耐えてよ!!」

「あ、安心しろ!!お前の魔法は喰らい慣れてる!!構わずぶちかませ!!」

「ふふっ!マクス帰ったら覚えておきなさいよ!!穿て!!雷雨壊(ライトニンズ・ブレ)――――」


 飛び道具を放つとき、適当に放つよりも狙いを定めて放つほうが当てやすいのは想像できるだろう。それは魔法も同じだ。


 だからこの時この一世一代大魔法を外さないため狙いである直人を()()必要があった。狙いは親玉一点狙い。


 確かに普通の魔物であればそれで終わっていただろう。


 ただそれはこの場面、この相手にとっては最悪の悪手だった。


 直人と目があった瞬間、ドクンッ!とミミの胸が弾み、貯めていた魔力が霧散する。


「あっ……」


 カランコロンと音を鳴らしてミミの手から握りしめていたはずの杖が地面へと捨てられる。


「なっ!ミミ!?」

「どうしたんだ!?」


 後ろに引いた村人たちが声を上げてミミに駆け寄るが揺すられても肩を叩かれてもミミが反応を示すことはなかった。ただ一点敵の首領を見つめへたり込んでしまった。


 魅惑の瞳、そんなスキルを魔物が有しているなど知りうるはずもないミミはもう直人の術中にはまり込んでしまっていた。


「ど、どうすれば!?」

「と、とりあえずミミを守れ!そうすればまだ……!!」


 村人たちが声を上げ最後の希望に(すが)る思いでミミを守ろうとするが先ほどまで出せていた力は後ろに希望という光があったことによる蛮勇、その光を失った村人たちではもう先ほどのような死に物狂いの連携など取れるはずもなかった。


 ミミを失った村人たちの抵抗は虚しく、その後行われたものは戦いと呼ぶには一方的な蹂躙だった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。評価の方はお任せいたしますので、よければもう一話見ていただければ幸いです。

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