表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/29

蹂躙(1)

「いや~壮観ですね~~見渡す限りの死体に瓦礫、上がる炎に聞こえる悲鳴!んん~~心地いいです!!」

「前から思っていたけどお前って結構悪趣味だよな……実は邪神だと言われても俺は信じるぞ」

「ひ、ひどいですよ直人なおと様!!確かに周りの神たちからはそのようなことを言われたりしたことはありますが他の神に比べればマシな方ですよ!!」

「これでマシなら神には邪神しかいないらしい」

「も~~直人様たら!!」


 レイシスと軽い痴話げんかをしながら直人は村へと侵入を果たす。周りはレイシスの言った通りの有様だ。


 入ってすぐには魔術瓶で死んだであろう者たちの死体が転がり奥の方では至る所から煙が上がっている。


「それにしても攻撃を止めてよろしかったのですか?あのまま攻めても削り切れたと思うのですが……」

「ん?ああまあ別にそれでもよかったんだけどな、ただこっちを先に仕留めておきたかったからな」


 そう言って直人が眺める先には今にも死んでしまいそうな瀕死の重傷を負いうめき声をあげている冒険者たちが横たわっている。


「多分大丈夫だとは思うが、念を入れといて損はないだろ?」

「そうですけど……」

「それに村人たちを誰一人として逃がさないというサブ目標もあるからな」

「ど、どういうことですか?」

「村人たちは今ほぼ全員が中央の広場へと逃げ込んでいるらしい、なんでかわかるか

?」


 周りにいるゴブリンたちに指示を飛ばしながらレイシスへと質問する。


 ゴブリンたちは指示を聞くとすぐに行動に移し、片っ端から横たわる死体へと尖ったナイフを振り下ろしていく。


「う~んと、そうですね……。考えられるのはやはり村人のリーダーらしく人物がそう指示したから、だと思うのですが―――違いますかね?」

「まあ半分正解だ。答えは簡単、人間共は村はすでに魔物の大群に囲まれている、そう判断したんだ」

「あっ!もしかして森の中でわざと見つかるように行軍したのはそのためだったんですね!」

「ああ。まああとはゴブリンたちに持たせた火炎瓶による火の手の影響上中央に避難するしかなかったってのもあるだろうがな」


 いたるところで火の手が上がっているがそれは唯一の脱出口である四つの門付近で燃え広がっている。


 そのせいもあり北門付近にいる直人の体温も徐々に上がっており体のあちこちから汗がにじみ出ている。


「ふぅー……火を放つ行為はこちらの行動にも影響を及ぼす諸刃の剣でもあるからこの死体を片づけたらさっさとこの村を壊滅させるか」

「はい!」


 そうして直人たちは門前の村人たちを皆殺し後、ゴブリンたちに死体の回収を命令しゴブリンチャンピオン四体を連れ中央へと足を運んだ。


 そう時間もかからず目的地に到着した直人たちの目に最初に映った光景は戦えない村人たちを背に丸い円陣を組んだ男たち、それとその集団を囲むようにナイフを突き立て牽制しているゴブリンたちの姿だった。


「しっかりと命令通り牽制してるようで安心したよ。――――ああ、マジシャンも合流したみたいだな。さてと、それじゃあ蹂躙を始めますか」


 直人が右腕を上げ、それを振り下ろす、それを合図に攻撃を開始する。その手筈はすべてのゴブリンたちには伝達済みのため直人は大半のゴブリンたちが合流したのを確認し後、合図を送るため右腕を挙げたその時だった。


「今だミミ!十二時の方向、距離六百、数五、確実に仕留めろよ!」

「わかってる!爆ぜろっ!魔術地雷爆撃(ウル・バースト)!!!」

「なっ!?」


 直人の足元付近にゴブリンチャンピオン三体と直人がすっぽりと収まるほどの大きさの紫色に光る魔法陣が展開され、それは凄まじい光をあげる。


『ゴブリンチャンピオン、命令だ!俺を弾き飛ばせ!!』


 魔法陣が見えた瞬間、直人は一瞬焦りはしたがすぐに冷静さを取り戻し思考を巡らせた。


 レイシスの言っていた常に冷静さを保つことができる、その言葉は正しかったようだ。一瞬の焦りも無かったかのようにスッと消え、どう行動したらいいのかを次のまばたきの時には思考していた。


 魔術地雷爆撃(ウル・バースト)とは指定した範囲一帯を大爆破させる魔法だ。


 発動までに相当の時間を要するがその代わり威力は保証されておりこの世界での言わば戦車砲や爆撃機器、地雷のような役割を果たす魔法だ。


 発動後、すぐに発動し爆破するためこの状況はほぼ詰んでいた。


 ただ唯一の活路があるとすればそれは近くに護衛としてゴブリンチャンピオンを連れていたこと、彼らに命令し爆破範囲外まではじき出してもらう、それが直人の出したこの場を切り抜ける唯一の手段だった。


「ガアァァッ!!」


 近くにいたゴブリンチャンピオンがその直人の命令を聞き、横にある民家へと直人を弾き飛ばす。


 その瞬間、ゴブリンチャンピオンのいる地面が発光し、大爆発を起こした。


「ギギャアアァァアァッ――――!!!」


 爆風は横にいたゴブリンたちをも巻き込み北門へと続く道一帯を消し飛ばす。

 

「や、やったか!?」


 爆風で発生した煙が辺り一帯を包む中、この魔法を発動した魔術師へ指示を飛ばしていた護衛の男、マクスが声をあげる。


「はあっ……はあっ……はあっ……や、っててもらはないと困るわよ」


 息を切らしながらもポーションを飲んで魔力を回復している魔術師の少女も祈る思いで煙を晴れるのを待つ。


「それでミミ、リーダー個体らしき魔物は殺れたと思うか?」

「わからない、けど確かに()()()仕留めた感覚はあったわ」

「そうか、お前たち警戒は怠るなよ!煙が晴れてからが正念場だ!」

『おう!!』


 村人たちが眺める中、煙はゆっくりと晴れていく、そうして目の前に現れたものは黒尽くめ、いや炭化したゴブリンチャンピオン三体の死体だった。


 それを見た村人の一人が声をあげる。


「や、やった……やったぞ!ミミさんがあの巨大な魔物をやっつけたんだ!」


 その発言を皮切りに中央に固まっていた村人たちが勝鬨をあげるが如く叫び始める。


 ただその討伐した本人と数名の冒険者たちは違和感を覚えていた。


「確かに魔物は仕留めた、なのになぜこいつらは囲いを辞めない」


 通常この世界では魔物は基本群れを成す場合リーダー個体と呼ばれる王を選定する。


 そしてそのリーダー個体を討伐した場合、頭を失った魔物たちはどんなに規模が大きかろうと統率を失い、散り散りに逃げるかもしくはどういう原理かはわからないが生きていてもリーダー個体とともに消滅する。それが原則だった。


「もしかして仕留めそこなったか!?」

「まさか!?あの爆破の中心にいたのよ!?」

「だがこいつらは依然俺たちを囲ったままだ!もしかしてリーダー個体は別にいた?」

「ありえなくはないと思うけどじゃあそのリーダー個体はどこにいるのよ!?ふつう指示出しのできる近く、もしくは先頭にいるものでしょ?」


 冒険者たちが言い争っている声は勝鬨をあげて喜ぶ村人たちにも聞こえていたらしくまだ終わっていないのかと不安な瞳を冒険者たちへ向けてくる。


 このままでは士気も下がると踏んだマクスはとりあえず周りの冒険者たちに声をかけ残りの残党駆除を促すために声を上げようとしたその時だった。


「ここで俺たちが戸惑えば不安な気持ちが村人たちにも向く、それよりもまずは今の士気の高さを生かして少しでも多く魔物どもを殺すべきだ!みな剣を取れ!戦える者は残りの残党処理を始め――――――」

「――――ああっ!痛ってえなくそっ!」


 爆破の衝撃で崩れたと思われた家の残骸の中から一匹の魔物、直人が這い出てくる。


『――――ッ!!』


 そこに居た誰もが固唾を飲んだ。


 ゴブリンチャンピオンよりも細く、武器も持っていない直人は村人目線からは弱そうに見えた。ただ異様な気配を、ゴブリンチャンピオンにはない不気味な気配を漂わせていた。


「はぁー……」


 マクスは、いや村人たちは息を吐く直人から目を離せないでいた。


 そんな彼ら/(マクス)と直人の目が合う。その目を見た誰もがそれを人間のような目だと考えたその時だった。


『全軍――――蹂躙せよ!!』


 はっきりと彼らには聞こえた自分たちと()()()()。ありえなかった、今まで魔物が人の言葉を話すなど聞いたこともなかったからだ。


 その声に、姿に、驚き聞こえた意味にその場にいた人間たちは理解するのに遅れをとる。


 彼らが理性を取り戻したとき、それは四方八方から来るゴブリンたちの足音が地鳴りを響かせて突撃してきた時だった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。評価の方はお任せいたしますので、よければもう一話見ていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ