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進軍(2)

 フォルダ村、この村は今、この村の歴史上もっとも大きな転換点の真っ只中に立たされていた。


 半年前にこの村からさらに南下したところにある二つの村、ティーナ村とルエベンルモ村付近に大きなダンジョンらしき洞穴が出現した。


 ティーナ村とルエベンルモ村の住民は氾濫スタンピードを恐れこの村、フォルダ村へと続々と流れ小さな町と呼んで差し支えないほどに大きく発展した。


 さらにはダンジョンが見つかったことによりアスクル帝国で活動中の冒険者たちが一攫千金を求めてこの村に訪れたことによりフォルダ村は今までにないほどに急速に発展し、ダンジョン攻略の最前線基地としての地位を獲得した。


 防衛設備はまだまだだがこのまま発展し続ければいずれ他大陸にも脅かされることのない安全な大都市へと発展していくだろう、そうこの村の住人は考えていた。この日が来るまでは―――……。


「お~い、チャップ交代の時間だぞ~」


 そう言って物見やぐらの上に登ってきたのは体格のいい二十台ほどの色男、このフォルダ村でも一二を争うほどの女性人気を誇っており、D級ではあるが冒険者という肩書がさらにその人気に拍車をかけている。


 そんな彼、マクスに呼ばれた男は北門の物見やぐらで魔物の監視をしている少し小太りなチャップと呼ばれる人物で今も柵に腰を預けながら城壁の外を眺めて黄昏ていた。


「あ~マクス、もうそんな時間か」

「おいおい、なに黄昏てんだ?サボってんじゃねぇーぞ~」


 そう言ってマクスはチャップの対面の柵に同じく腰かけると下から持ってきたであろう水袋を手渡して来た。


「ありがとうマクス、それと別にサボってたわけじゃなくてだな」

「ハハッ、冗談だよ、冗談。こんな暇な仕事中に黄昏るなって方が無理だもんな~」

「まあそうだな。……いやさ、平和なもんだな~と思ってさ」

「ん~?」


 マクスは自分用に持ってきた水袋に口をつけた時にチャップに話を振られたため視線だけを向けて相槌を打つ。


「少し離れているとはいえ近くにダンジョンができたんだぜ?なのにダンジョンができた前よりも平和になってさ、ここまでこの町が発展して、嬉しいような寂しいような感じがしてさ……」

「チャップ……」


 なにかむずがゆい空気が流れ頬をかくマクス、それはチャップを同じようで気まずい空気を払うためか笑って場の空気を一変させる。


「は、ははっ!いや、なんかあれだな、変な空気にしちまったな……。―――そ、そうだ!交代、そう交代の時間をとっくに過ぎてんだったな!邪魔しちゃ悪いし俺先、降りるから!じゃ、じゃあが、頑張れよマクス!」

「お、おう!」


 慌てて梯子に足をかけ早々に下へと降りようとするチャップ、マクスもむずがゆい空気を払拭するため仕事に戻ろうと塀の外に目をやったとき異変に気付いた。


「ちょ、ちょっと待て、チャップ」

「な、なんだよマクス」


 変な空気にしてしまった恥ずかしさか早々に下に降りようとしていたところをいきなり呼び止められたためびっくりして声が裏返るチャップ、ただマクスはそんなこと気にも留めず辺りをきょろきょろ見渡している。


「どうしたんだ?」


 マクスの変わりようにチャップも先ほどの恥ずかしさを忘れ真剣な面持ちで梯子を上りやぐらに立つ。


「チャップ辺りを確認してみてくれ、何か違和感がないか?」

「違和感?そういわれてもな~」


 マクスに言われるがままチャップも辺りを見渡すが特に変わった個所はない、いたっていつも通りの風景だ。


「なんか違和感あるか?俺は特に感じないが……」

「いや、絶対に、絶対に何かおかしいんだ。……すまん、説明はできないんだが何かこう、森がざわついてるっていうか」

「森、か」


 マクスに言われチャップが森を覗き込む。


「んんっ―――?」


 何かが一瞬森の中で動いたようなそんな気がした。


「ど、どうしたんだ?」

「ん?あ~いや、なんか一瞬森の中で何かが動いたような気がしてな。ちょっとスキルを使ってみるわ」

「頼む」


 チャップは別に冒険者というわけではないが彼は特殊なスキルを持っていた。それは鷹の目(ホークアイ)と呼ばれるスキルで文字通り遠くの場所を見通すスキルを持ち合わせている。


 気のせいかもしれないが見張り役にとっては心配しすぎなくらいがちょうどいいためチャップは持ち前のスキル鷹の目(ホークアイ)を発動し、見えた気がした辺りに狙いを定めスキルを使用しようとしたその時だった。


「は?」


 スパンッ!と一瞬マクスの耳元で音が聞こえたかと思うと体を物見やぐらの柵から乗り出していたチャップがそのまま柵を乗り越え真っ逆さまに落ちていった。


「チャ、チャップッ――――!!??」


 落ちていくチャップを止めることはマクスにはできず地面からはグシャリという肉が潰れる嫌な音、ただその音は膝から崩れ落ちているマクスの耳には届いてはいなかった。


「チャ、チャップ……」


 目の前の友人を助けられなかったショックに放心状態のマクスであったがそんな彼を下から聞こえてきた住民らと思われる悲鳴が叩き起こす。


「――――ッ!」


 目が覚めて思い出す。落ちる一瞬見えたのはチャップの額に刺さった木の棒のようなもの、いや先端に羽のようなものが見えた、それは多分矢羽根だったのだろう。つまり矢が飛んできてチャップの額を打ち抜いた。それが示す答えとは……。


 それに気づき顔を上げたマクスの目の前に広がっていたのは平原を駆け抜けこちらに武器を構えて走っている緑色の魔物であった。


「―――ッ!」


 友人を救えなかった懺悔の時間も後悔に押し潰されそうな時間も、そして息を飲む時間すらマクスには残されていなかった。


 マクスは急いで物見やぐらの天井にある鐘をならし、大声で住民らに避難指示と現在の状況を事細かにかつ手短に説明する。


「敵襲!敵襲!!魔物の進行を確認!目標はこの村で数はおよそ百体以上!見たことのない造形の魔物です!戦える者は門前に戦えない者は中央の踊り場付近に集合、担当の指示を仰いでください!繰り返します!ただいまこの村に―――……」


 北門の見張り塔の鐘を合図に四方四か所にある鐘が村中に鳴り響く。


 いきなりの警報に村の住民は阿鼻叫喚、マクスの指示が届いていないのかいたるところから悲鳴が聞こえてくる。


 マクスがもう一度住民への非難を呼びかけるため声を張り上げようとした次の瞬間、北門のある大扉にけたたましい衝撃音が鳴り響いた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。評価の方はお任せいたしますので、よければもう一話見ていただければ幸いです。

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