第2話
枕を濡らして起きた朝。
ダラダラと登校の準備をしていると、インターホンが鳴った。朝からなんだよと思いつつ、食器洗い中の母に頼まれて玄関へ。
「おはようございます、玲くん」
そこには妖怪10000円女がいた。ショートの黒髪を揺らして、素知らぬ顔で挨拶してくる。
ここで会ったが100年目。まさか自ら出向いて来るとは、命が惜しくないのだろうか?
「10000円返せコラ」
「返しません」
「じゃあパンツ見せろ」
「わかりました」
「へ……?」
高校の制服に身を包む雪月が、スカートの端をゆっくりとめくる。
「これで、いいでしょうか……?」
純白のショーツが露わになっていた。フリルが付いていて、意外にも可愛い系。白くて健康的な太ももだって眩しすぎる。なんだ、女神か。
「も、もういいですよね……?」
「もうちょっと」
「うぅ…………」
俺はその場にしゃがんで、スカートの中の聖域をジッと凝視する。
すると平然とした様子だった彼女にも、羞恥心が存在するらしい。焦れた太ももからは汗が滲んでいた。視線を上げてみれば、頬は赤く染まっている。
「ちょっと玲〜? お客さん誰だった〜?」
「「————っ!?」」
やがて母が顔を出し、俺と雪月は同時にビクッとカラダを震わせる。
雪月が瞬時にスカートを下へ引っ張って、さようなら天国また逢う日まで。俺は股間の都合上立つことができず、首だけ向けて「だ、大丈夫大丈夫! 雪月だから!」と叫ぶのだった。
その後は成り行きのまま一緒に登校することに。
こんなのは小学生の頃の集団登校以来だろうか。そもそも女子が隣を歩いていることがドキドキした。
まぁ、会話ゼロの無言空間なんですけど。
「あ、あの……」
沈黙を破ったのは、まさかの雪月だった。
「やっぱり返しましょうか、10000円」
「え」
「解除要項は定めていませんが、今ならまだ、契約破棄しても構いませんよ?」
「…………………………??」
雪月はいったい何の話をしているんだ?
てっきり10000円の件はさっきのパンツで済んだものだと思っていた。
さすがの幼馴染も10000円を奪うことに罪悪感を抱いて、一夜明けた今朝は来てくれたのだと。
結果から言って俺は大満足である。あの光景には間違いなく10000円以上の価値があった。
しかしまだ、終わっていない、だと……!?
「するわけねぇだろ、破棄なんて」
「ほ、ほんとですか!?」
「もちろん。10000円分の対価はきっちり払ってもらうからな」
「は、はい……!」
なんかよくわからんが、そういうことにしておいた方がお得な気がする——!!
「よかったです……」
「あ? なんでおまえが喜ぶんだよ」
雪月からしたら破棄した方が……いや、それだと10000円は返却か。そんなにお金が必要なんだなぁ。泣けてくる。これからは貢ぐために金を貯めるのもアリかもしれない。
「嬉しいからです」
やっぱり、金か……。
「改めてありがとうございます、玲くん」
しかしこうも感謝されると気持ちよくなってくるな。悪くない気分だ。パパ活おじさんに俺はなる。
「私の一生を買ってくれて」
うんうん、どういたしまして。……ん? いっ、しょー?
ちょっと俺の頭では理解不能なので、聞かなかったことにした。