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武蔵と市  作者: KEN板屋
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(最終話) 新たな旅路へ

市と漣が再開したあの日から全国を旅して周った、根城の無い放浪の旅は時にしんどくもあったが支え合へ励まし合える五人の仲間となら苦労は五分の一、喜びは五倍と成りとどのつまりは楽しい旅だ、そんな楽しい日々は光陰矢の如く過ぎ去り十年もの年月(としつき)が流れていた。

市と漣は二十七歳、武蔵は三十六歳、そして小太郎は二十一歳の立派な青年に、花は十七歳の美しい女性へと成長を遂げた、今日はその小太郎と花が祝言を挙げる目出度き日、五人だけの(ささ)やかな(うたげ)ではあるが皆の笑顔が絶える事はなく幸せに満ち溢れていた。


『おめでとう、成長した小太郎と花の姿を見れないのが心残りだよ』

『おめでとうございます、小太郎くん、花ちゃん、漣も嬉しいです、それに花ちゃんとっても綺麗だよ!』

〘えへっ、美人な漣ちゃんにそう言われるとなんか照れるね、でもありがとう!〙

「あの鼻垂れの花がこんなべっぴんに成るとはなぁ~、でもいずれ二人はこうなるとは思ったが何時(いつ)からそんな仲になったんだ? 割と最近まで気づかなかったぞ」

〔兄貴ぃ~、そんな()()ずかしい事を言わせないでくれよ、でもおいらが(めと)るのは花しかいないって〕

〘惚れた腫れたじゃ無くて小太郎はずっと(そば)に居たしこれからもずっと傍に居るのが自然なんじゃないかなって〙

〔えっ、そうなの?! おいらは花に惚れて一緒に成るんだぜ?〕

花の頬は瞬時にポッと赤く染まり〘もうっ、照れ臭いからに決まってるでしょ! 花だって小太郎が好きだからお嫁になるの!!〙


その様子をニヤニヤしながら武蔵は「見せ付けてくれるねぇ、ご両人!!」っと合いの手を入れた。


〔ところで市姉さんと兄貴はいつ夫婦(めおと)に成るんだい?〕

「俺と師匠は一緒に居られればそれだけでいいんだよ、ねぇ師匠?」

『私に足る(おとこ)に成るのを十年待ち続けて居るがこれがなかなかでな・・』

「師匠は直ぐに話の腰を折る・・」


『武蔵さん、しっかりしないと姉さんに愛想尽かされても知りませんよ!』

これには一同大笑い、武蔵はもはや顔芸となった苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「っで、今後の生活はどうするんだ?」

〔二人で話し合ったんだけどさ、皆との旅は楽しかったけどこれからは花と二人だけの生活を始める事にしたよ〕

『そうか・・、やはり離れるのか、淋しくなるな・・』

「師匠、無理もないっすよ、こんな生活じゃ秘め事もままならないし、かと言って目の前でイチャコラされちゃ(かな)わんけど!」

花は顔を真っ赤にし〘ムサシのそうゆうとこホント嫌い、イィーーーーーダァ!!〙


『下品だぞ、武蔵』

『そうですよ武蔵さん!』

「チッ、また俺が悪者かよぉ~」


〘・・、でも市ちゃんとムサシには感謝している、十年前助けてくれなかったら今頃どうなっていたか、小太郎とも出会えなかったし、本当にありがとう〙

〔おいらだって救われた、盗人(ぬすっと)だったおいらを仲間にしてくれて旅を通して色々な事も教わった、最高の姉貴と兄貴だよ、もちろん漣姉さんもね!〕


『いいんだよ、ただ猪丸に見せてやりたかったな、二人の晴れの姿を・・』

そう市が呟くと一瞬静まり返る、ほんの数ヶ月ではあったが小太郎と花を我が子の様に接し二人も真っ先に懐いたのは猪丸だった、この門出の日を誰よりも喜んだに違いない。


「でも猪丸の事だから相当焼き餅を妬いたんじゃ無いか?」

『愛娘を愛息子に盗られたって感じかもしれんな』

〔でもおっちゃんに見て欲しかったな、今の花の姿を・・〕

〘うん、花もししまる大好きだった、最初に貰った竹トンボ今でも大切に持ってるよ!〙

「猪丸はどこかで二人の事を見守ってるよ、だから小太郎! 花を泣かせたりひもじい思いをさせたら猪丸が枕元に出るからな、覚悟しろよ!!」

〔おいらにはおっちゃん仕込みのこの弓がある、花に惨めな思いはさせない!〕

〘花だって小太郎におんぶに抱っこじゃないよ、二人で力を合わせて幸せになるんだから!〙


『その言葉を聞いて安心したよ、っで何時(いつ)から二人での生活を始める?』

〔今日この場で皆とはお別れするよ!〕

「えっ?! それは随分と急な話だな、祝言を挙げたばかりだぞ?」

〘実は小太郎と話して決めてたの、皆の事が大好きだから、だから二人だけで生きて行く決心が揺るがない為にも今日がいいんじゃないかなって〙


武蔵は腕を組みしたり顔で「そうだよなぁ~、一刻も早く二人っ切りに成りたいよなぁ~」

〘ムサシのバァ~~カッ!!〙

『武蔵っ!!』

『武蔵さん!』

「はぃはぃ()るうございました、じゃあ達者で暮らすんだぞ、またどこかで会えるといいな!」

『小太郎、花の事をよろしく頼む、そして花は焦らない事、まだ十七なんだ、小太郎に甘えながら時間を掛けて良き妻に成ればいい』

『小太郎くん、花ちゃん、くれぐれも躰には気をつけて』


〔うん!!〕

〘はいっ!〙


そして二人は別の道へと歩み出した、小太郎と花は十年も共に過ごした家族も同然の間柄、別れが淋しくないと言ったら嘘になるだろう、だが淋しさ以上に清々しくそして誇らしい気持ちで一杯だった、ついこの間まで子供だと思っていた二人がこうして自分の足で歩み始めたのだから、(たくま)しく成長した二人の姿を互いに見えなくなるまで大きく手を振り続けた。


・・・・・・・


「もうすっかり見えなくなりましたよ、師匠」

『そうか・・』

『とってもお似合いの二人でしたね、きっと笑顔の絶えない夫婦(めおと)になります』

「じゃあウチらも行くとしますか?」

『待って下さい、武蔵さん、姉さん、漣もお別れしようと思います』

「えっ?! どう言う事です、 三人で旅を続けるんじゃなかったの?」

『私はそんな気がしてたよ、漣』


『実は数年前から考えていた事なんです、このままじゃいけないなって、でも今の生活が楽しくてついつい甘えちゃった・・』

「いいじゃないですか? 楽しいならずっと甘えて下さいよ、俺は漣さんを邪魔に思った事なんて一度もありません、むしろ頼りにしていたのに・・」

『ありがとう武蔵さん、でも二人に邪魔とか迷惑が理由じゃ無いんです・・、姉さんとは七つの時に生き別れて十年、そしてその空白を埋める様に十年一緒に過ごせました、でもこれから十年は自分だけの人生を生きてみようかなって、姉さんと武蔵さんの仲睦まじい姿、そして小太郎くんと花ちゃんの祝言を見て漣も決心が固まりました』

『私と武蔵はただの腐れ縁だ』

「師匠ぉ~そりゃないよぉ~・・」


『二人はお似合いだと思いますよ、それに漣だって女です、姉さんや花ちゃんの様に愛されたいし愛したい、出来れば母にだって成りたい、ちょっと行き遅れちゃったけどまだ二十七だし諦めるには早いですよねっ!』

「そりゃ漣さんは美人だから幾らで良縁はあるだろうけどせっかく姉さんと会えたのにまた離れ離れなんて淋しくは無いんですか?」

『いいんだよ武蔵、漣の言う通り離れていた十年は埋められた、それに姉妹は遅かれ早かれ別々の道を歩むものだ、漣が自分の人生を幸せに過ごすのが一番だよ』

『ありがとう、姉さん・・』


「それじゃ漣さんはこれから()(あて)はあるのですか?」

『西の京に行きます、実はもう一つやりたい事があってそれが人形作りなんです』

「人形作り?」

『はいっ! 漣は養父(とと)の人形も作っている姿も大好きでした、でも義父(とと)に人形作りを教わる事はもう叶いません・・、西の京は人形作りが盛んで良い職人が多く居ると聞きます、どなたかに弟子入りして一から人形作りを学びたい、女でしかも二十七からどこまでやれるのか不安もあるけど挑戦したいのです!』


『凄いな漣は、母親に人形師の夢か』

『姉さん、漣は欲張りな()なんですよ! 二兎を追ってどちらも叶わぬ夢に成るかも知れないけどやらずに後悔だけはしたく無いの 』

「漣さんならきっと良き母、そして腕利きの人形師に成れますよ!」

『とにかくやれるだけやってみる、だから漣もここでお別れです!』


しかしその言葉に市と武蔵は声を揃えて、

『えっ?!』

「えっ?!」


「お別れって漣さん一人で西の京まで行くつもりですか? ここからだと結構ありますよ」

『女の一人旅なんて危険だ、邪魔だと言われ様が西の京までは付き添うからな』


『・・・、そうだよね、何か気持ちが先走しっちゃって、やっぱり歳のせいか少し焦ってるのかも?』そう言ってペロッと舌を出しお道化て見せた、かつて五六八がそう見せた様に。


『はぁ~っ、先が思いやられるよ、漣』

『では改めまして、市姉さん、武蔵さん、西の京まで共に歩んで頂けますか?』


『当然だ!!』

「任せて下さい! じゃあ仕切り直して行くとしますか、目指すは西の京、さぁ出発だ!!」



~ 武蔵と市  完 ~



「武蔵と市」の物語りはこれで完結となります、最後までお付き合い頂きありがとうございました。

本作はあらすじにて「戦国時代劇ファンタジー」を謳っておりますがファンタジー的な要素と言えば白虎と言う高度なカラクリ人形(ロボット)程度でしょう、魔法や超能力はありません、モノノケも出て来なければ巨悪に立ち向い世界に平和をもたらす話でも無い、本作を端的に言うなら生き別れた双子の姉妹が再開する迄のとても小さな物語です。


しかし物語は小さくとも人間ドラマに重きを置いて魅力的なキャラクターが描ければそれは充分面白い作品になるのではないかと思い書き始めました、しかし実際に書いてみるとイメージの言語化がこれほど難しいとは・・、最終話に至っても小説と言うより舞台の台本の様な構成なのはこれが私の限界です、未熟な故に思い通りにならなかった部分も多い作品ですがそれでも自分では気に入ってますし登場人物たちと同じ目線、同じ気持ちで旅する事が出来たのが楽しく途中で投げ出そうとは一度も思いませんでした、ただ五六八と猪丸の死だけは書いていて辛かったし正直言うと「書きたくないな」と思ったのも事実、せめて猪丸だけでも生かす方向を模索したのですが上手く行かず当初のシナリオに準ずる為にもこの最終話「新たな旅路へ」を先に書き逃れ様も無い状況にしてから二十六話「遺言」以降を書いた次第です。


本作は今後も加筆修正を加え少しでも良き物になる様に工夫を続けますがストーリーの本筋や結末を変える変更はしません、今の形が気に入っているので。

次回作は全くの白紙ですがこうして誰でも作品を発表する場が与えられている事に感謝し、またお目に掛かる機会あればその節はよろしくお願い致します。


(追伸)

成長した小太郎と花の短編小噺を書いてます、12/1にお出しする予定なのでよろしければご覧下さい。

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