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武蔵と市  作者: KEN板屋
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告白

気を失ってしまった漣を武蔵が背負い忍びの里(隠し砦)を後にした、漣は華奢な躰付きだがそれでも十七の女性、背負って山道を歩くのは決して楽では無かったが武蔵にとっては誇らしくそして嬉しい重さだった、市が探し求めた人を今こうして背負っているのだから、それに (もし師匠を背負ったらこんな感じなんだろうな?) と今後訪れるかも判らない場面を想像すると思わず顔が綻んでしまう。


小太郎と花の元に戻ると顔を見るなり競う様に市と武蔵の胸に飛び込み大声で泣き出す、それは喜びと同時に緊張から解き放たれた魂の叫びでもあった。

昨日はあれほど気丈に振る舞っては居てもまだ十一と七つの子、どんなにか不安な想いで帰りを待ち続けたのかと思うと切なくなり何時(いつ)しか皆で抱き合って涙を流していた。


・・・・・・・


漣はあれから半日ほど眠った後に目を覚ますと開口一番に言ったのは、『お腹が()いた・・』だった。


何でもここ数日何も口にしていなかったとか? それでは気を失うのも無理はなかろう、幸いな事に忍びの里に大量の芋の備蓄があり五人が食べるのに充分な芋を拝借しそれを皆で焼いて食べる。

漣はまるで餓鬼(がき)の様に、っと言っては何だがガツガツと食べている様は滑稽でもあり愛らしくもあった、ただあまりの食べっぷりに市は少々心配そうな姉の顔になっている、小太郎と花は市と瓜二つの漣の姿には狐に()ままれた気分なのだろう、暫くは手にした芋を食うのも忘れて漣の様子に見入っていた。


食事を終へ一段落した頃には日も沈み小太郎と花は早々と床に着く、二人が寄り添っている姿、寝顔をこうして見れる "当たり前" にいつの間にか涙を流している事に武蔵は気づき、(さっきから泣いてばっかりだ、でも猪丸は飽きもせずに二人の寝顔をよく眺めてたな、ようやくその気持ちが判ったよ・・)

武蔵にとって小太郎と花は歳の離れた弟と妹でしか無かったし父親役は猪丸に任せっ切りだったが今日初めて親らしい愛情を感じ、(これからは俺がしっかり守ってやらないとな、でないと後で猪丸にドヤされる・・)


・・・・・・・


市、武蔵、漣の三人は焚火を囲みただぼんやりとゆれる炎を見つめ続けた、市と漣は互いに聞きたい事、話さなければならない事があまり多く何をどう切り出せばいいのか戸惑いを隠せなかったが【パチンッ!】と大きな音を立て(まき)()ぜたのを機に市がこれまでの旅の過程を淡々と語り出した。


武蔵との出会い、花の両親や小太郎の姉の事、東都での騒動や漣の家の前でトメさんに出会った事、そしてここへ至る途中で猪丸と言う大切な仲間を失った事を、漣はその一つ一つに静かに耳を傾け続けた、そして一頻(ひとしき)り伝え終えると、


『よかったら漣の事を聞かせてくれないか? ただ無理強いはしない、話せる範囲で構わないから』


『姉さんには全てを話しておきたい、漣の過ごして来た十年を・・』


それから漣は自身の事を語り出した、捨楽と言う人形師の元で慈しまれ幸せだった日々、養父から白虎と言うカラクリ人形を託された事、白虎に暴漢から救われた事、養父の墓前(ぼぜん)で足抜けした遊女、五六八と出会った事、白虎がお役人を傷付け都から逃げざる得なかった事、山での自給自足の生活や熊退治の一件、そして忍びに囚われ五六八が非業の死を遂げた事を。


五六八の話になると漣の声は震えとても苦しそうに見えたので思わず市は、『悲しい事、辛い事は話さなくてもいいんだぞ?』っと諭すが、

『うぅん、五六八さんの事は姉さんに知っていて欲しい、漣の大切な友達だから・・、姉さんや武蔵さんにとって猪丸さんがとても大切であった様に・・』


そして漣は再び語り出す、自分達の出生の秘密を、(ちち)五平の本当の名は龍尾で忍びの里の抜け忍であった事、腕に残された龍の彫物が何よりの証拠だと。

思い返してみれば父にそんな彫物があった気もするが漣に言われる迄はすっかり忘れていた、普段の父は腕に布を巻き彫物は目立たぬ様にしていたし父母との記憶は十年前のあの日を境にプッツリと途絶へそれからは生きるだけで精一杯の日々、過去の思い出と言えば辛く(にが)いものばかりで市もまた幼い頃の記憶は心の奥底に封印していたのだ。


『そうか、私には侍の血、忍びの血が流れていたのか・・、全く知らなかったよ・・』

『漣も最初は信じられませんでした、物心ついた時から(とと)は百姓でしたし村人からとても信頼されていたので、でも確かに(とと)の腕には忍びの(あかし)が残されていました、あの男、幻龍と同じ龍の彫物が・・』


『つまり父母(ちちはは)は口封じで殺されたのか?』


『今となっては真相は藪の中ですが恐らくそれも理由の一つかと、

・・・・、でもあの日、漣がこの手で毒を入れました、それは今もハッキリと覚えています・・、なのに苦しむ父母(ととかか)、そして姉さんが怖くて、どうしようもなくてその場から逃げる事しか出来ませんでした・・・・』


『あの幻龍とやらの呪詛に操られていたのだろう? 七つの子では(あらが)えないよ』

『それでも父母(ととかか)の命、そして姉さんから光を奪ってしまった・・・、ごめんなさい・・』


『辛かったな、漣・・、でも話してくれてありがとう、これで積年のわだかまりも()け前に踏み出せそうだ』


そう言い漣をそっと抱き寄せる、漣は市の胸の中でただ(むせ)び泣き続けた。


・・・・・・・


暫し間をおいて漣が落ち着くを見計らってから市が自身の贖罪(しょくざい)を語り出す。


『実は漣に謝らなければならない事があるんだ』

『姉さんがですか?』

『あぁ、先程も少し話したが東都で漣は咎人(とがびと)になっていてな、私はその時に漣を信じてやる事が出来なかった、優しかった漣は時と共に変わってしまい誰彼構わず傷付ける様になってしまったのかと・・、そんな漣に会うのが怖くて探すのを諦めようとしていたんだ・・』

『でも姉さんはこうして漣を見つけてくれました』

『私じゃない、そこに居る(おとこ)、武蔵だけが漣の事を信じ続けたんだ』


~~~「師匠、漣さんを探しましょう、きっと何かの間違えだ、俺は漣さんの事を何も知らないけど漣さんを信じたい、だって師匠の妹がそんな悪人なわけありません」~~~


『私は信じてやれなかった、姉として恥ずかしいよ』

『気にしないで姉さん、あの一件は事実あった事だから・・・・、

でもそうだったのですね武蔵さん、漣を信じてくれてありがとう』

「まぁそんな感じだったのかなぁ~? でもあの時は師匠と旅を続けたくて必死だったから漣さんの人となりは割とどうでも良かったんですよねっ!!

アハハハハッ・・・・あれっ?!」


普段はあまり感情を表に出さない市だがこの時ばかりは眉間に深い(しわ)を寄せ憤慨し、

『そうだったのか! 武蔵!!』


「あっ、いゃ違います! 漣さんはもちろん信じてましたよ! でも師匠と旅を続けたい気持ちがちょっと上ってだけで!!」


『お前って奴はホントいい加減だな! あの(とき)少しでも感動した私が馬鹿だったよ!!』

「えぇぇーーーーっ、いいじゃないですか! こうして漣さんと会えたんだし! 結果良ければ全て良しでしょ!!」

『ゔっ・・・確かに、旅を続けられたのは事実だからな・・、しかし釈然とせんし無性に腹が立つ!!』


『ふふっ、でも先ほどから気になってたのですけど・・、姉さんと武蔵さんてどう言ったご関係ですか?』


「婚約者です!」

『婚約などしていない!!』

「考えるって言ったでしょ!!」

『まだ考えてる最中だよ!!!』

「これからも一生つきまといますよ!!!」

『漣にちょっかい出したら叩き斬るからな!!!!』

「出しませんよ!! 俺は好きなのは師匠だけなんだから!!!!」

『ぐっ、・・・・』

市は顔を真っ赤にしてそれ以上返す言葉は無かった。



『お二人は面白いですね、とてもお似合いです』

『漣! 変な勘繰りをするなっ! 私と武蔵はそんな仲じゃ無い!! 』

『はいはい判りました、人の恋路の邪魔はしません、馬に蹴られる前にこの話は止めにしましょう』

『だから違うと言ってるだろう!!』


「いいえ、違いません!!」


『・・・・』


・・・・・・・


朝日が昇る、また新たな一日の始まりだ、でも今日見る朝日は格別の輝きに見えた、一抹の不安も無く希望に満ちた朝日なのだから。

市、武蔵、小太郎、花、晴々とした四人とは裏腹に漣は心に期すものがあったのだろう、出立の支度をしていた時にどこか思い詰めた表情で粛々と話り出した。


『姉さん、皆さん、ここでお別れです、せっかく会えた姉さんと別れるのは辛いけど漣は都では咎人(とがびと)、もし捕まれば命は無くこのまま逃げ隠れを続けるしかありません、そんな漣と一緒に居ては姉さんや武蔵さん、小太郎くん、花ちゃんに迷惑を掛けるでしょう、ですからここで・・』


『ふっ、馬鹿馬鹿しい』

「そうですよ漣さん! 俺達は漣さんを探し求めて遠路はるばる来たんです、正直辛い別れもありました、だからこそ意志を無駄にしない為にもここで "さようなら" 何て(ゆる)しませんからねっ!!」

〔漣姉ちゃん、おいらの弓は凄いんだぜ、おっちゃんの一番弟子なんだから! 漣姉ちゃんくらいおいらの弓で食わせてやるよ!!〕

〘花も一緒にいたい、市ちゃんと漣ちゃん、お姉ちゃんが二人になったらすっごく嬉しい!!〙


「漣さん、どうせ俺達は根無し草なんだ、風の吹くまま気の向くままほとぼりが冷めるのを待ちましょう! それが五年でも十年でもいいじゃないですか! 苦楽を共にするこの仲間とならきっと愉快な旅に成りますよ!!」


『そう言う事だ漣、だからさっきの話しは聞かなかった事にする、悪く思うな』


『・・・・、姉さん・・、みんな・・、漣はこのまま一緒に居ても()いのですね?』


『あたり前だ』

「ようこそ、市様一行へ!!」

〔へへっ、美人な漣姉ちゃんの為ならおいらガンバっちゃうよ!!〕っとデレて頭を掻く小太郎に、

【ボカッ!!】

〔痛っ! 何すんだよっ!! 花!〕

〘わかんない、何かケリたくなった〙

〔えぇっ?! なんだよそれ? まぁいいや、花と喧嘩するとおっちゃんに叱られるからな・・〕

〘漣ちゃんこれからよろしくね!〙


『みんな・・、ありがとう・・・、漣は幸せです・・・・』


武蔵は【パチンッ!!】と勢いよく柏手を打ち、


「はいっ! 湿っぽいのはもう終わり、昨日もその前も散々泣いたからいい加減泣き疲れちゃって、今日からは笑顔で行きましょう!!」


全員声を揃へ、

【 賛成ーーーーーーーー!!!!!!!! 】


次回最終話です、約四ヶ月に渡る長丁場?でしたが完走目前でホッとしています、市たちの旅の結末を見届けて下さい。

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