漣は何処へ その二
~~~⦅あっ! そうそう、お役人が斬られた後に女が二人、いや三人っ言ってたかな? とにかく人が逃げるのを見たって人が居てね、それが漣ちゃんとその遊女かは分らないけどあの西の山の方だったとか?⦆~~~
東都で出会ったトメの言葉を頼りに西の山奥へと分け入った市たち一行、しかし探し求める漣は今や咎人、人気を避け身を潜めているに違い無い、これはただの人探しとは違う、百万の都から一人を探し出すより困難なものと成るかもしれない。
「猪丸よ、山に逃げ込んだ人を探す方法なんてあるのか?」
[まぁそんなに都合のいい方法は無いが取り敢えず高く見晴らしの良い処へ行く、手っ取り早く言えば山の頂上だな]
「それで?」
[火を使ってくれれば煙が上るだろ? それを目星に凡その居場所を探る]
「なるほどなぁ~、でもそんなに上手いこと行くのか?」
[まず行かんだろう、追われる身なら立ち上る煙に身の危険を感じるはず、そこに考えが及ばないとしたら相当迂闊だな]
「では無理筋じゃないか、その作戦・・」
[だが食い物を焼くにも暖を取るにも火は使いたいよな? 特にこれからの時期は寒くも成るし、 武蔵よ、もしお前が同じ立場ならどうする?]
「そうだなぁ・・、まぁ暗くなるまでは待つかもな、夜の方が煙は目立たん」
[つまりそいつを見つけてやろうって魂胆だ、どこまで上手く行くかは判らんが当てずっぽうで探し廻るより効率が良いし体力も温存出来る、何せ人探しは根気と忍耐だからな、特に小太郎は目が良いから頼りにしてるぞ!]
〔任してよ、おいらがきっと見つけるよ!!〕
〘花だって目がいいんだよ!〙
『皆が居てくれて心強いよ、盲の私ならどうする事も出来なかった・・』
[ただ口で言うほど簡単では無い、夜は視界が限られるしそもそもこの山に隠れて居るのかどうかも判らないからな]
「居ると信じて探そうぜ!!」
[そうだな、まずはこの山の天辺を目指す、花はしんどくなったら言えよ、背負子に乗せてやる!]
〘うん、でも大丈夫、花は登れるよ!〙
すると小太郎が〔一緒に頑張ろうぜ! ほらっ〕と手を差し出すと花はその手をしっかりと掴む、二人はこの数ヶ月で見違えるほど逞しくなった、小太郎と花の成長は猪丸にとってこの上ない喜びではあるが背負子の軽さが妙に淋しく感じる。
・・・・・・・
「ハァ、ハァ、ハァ、あぁ~~っ、着いたぁ~・・、結構しんどかったなぁ~大丈夫かぁ猪丸? 今にも死にそうな顔をしてるぞっ!!」
猪丸は頂上に着くなり仰向けに倒れ込むと息も絶え絶えに、
[ゼェ・・、ゼェ・・、わしはもう三十五だぞっ!! ゼェ・・]
「ハハッ歳のせいにするな! 弓侍は戦で走らず楽してたせいだろ! 自業自得って奴だよ!! それに比べ小太郎と花はまだまだイケそうだな!!」
〔おいら全然平気だよ! でもおっちゃんバテてるなぁ~〕
〘ししまる~、元気出してぇ~〙
[ゼェ・・花ぁぁ~っ! 次はわしを背負ってくれ~!!]
〘やだぁ~~ししまる重いもん!〙
『猪丸、辛い想いをさせてすまないな・・』
[いいって事よ、ゼェ・、元はわしから頼んだ仲間入りだ、ゼェ・・、それに何だかんだで結構楽しいぜ!]
『楽しい?』
[あぁ楽しくなかったら気楽なマタギをやってるよ、やっぱ語り合える仲間が居て同じもん喰って肩寄せ合って寝て、そして同じ目的に向かって旅をする、そんな日々は格別だな!!]
「俺も楽しいぜ! それに早く漣さんを見つけて師匠の喜ぶ顔が見たいよ!」
『行く末に名誉もお宝も無縁のこんな旅に、お前達はどこまでもお人好しだな・・、感謝し切れないよ』
「何言ってるんですかっ! 師匠の笑顔が俺にとっての最高の宝です!!!」
【シーーーーーーーン・・・】
[ガァ! ハッハッハァーーーーーッ!! 上手い事を言おうとするな! 聞かされる方が小っ恥ずかしいわ!!!]
一同大笑いの中、武蔵は顔を真っ赤にし苦虫を噛み潰した様な顔をするしかない。
・・・・・・・
「さぁ苦労して頂上まで来たんだ、こうしてても手持ち無沙汰だし様子見がてら偵察と行こうぜ!」
[あぁそうだな、小太郎来いや! 特等席から見せてやるよ!!]
〔あいよっ!〕っと小太郎は猪丸に肩に乗ると、
〘アッずるぅ~い! 花も肩車して欲しい!!〙
「花は俺がしてやるよ!」
〘ムサシよりししまるがいいのにぃ~・・〙っと言いつつも花は渋々武蔵の肩に乗った、
『猪丸にお株を奪われた様だな』
「もう大夫前からですよ・・」
[さぁしっかり見ろよ小太郎、些細な変化も見逃さずに報告するんだ!]
「花も頑張れよ、先に手柄を挙げて小太郎を出し抜いてやれっ!」
子供はこうして競わせてやると俄然やる気を出す、二人とも我先に何かを見つけてやろうと目を皿の様にして周囲を見渡すがそう都合良く事が運ぶ分けも無く。
〔おっちゃん、何も見当たらないなぁ・・〕
[最初っから上手く行きっこない、人探しってぇのは根気よく地道にやるしかないんだ、それに本番は日が暮れてから・・]
〔アッ、おっちゃん静かにっ〕
そう言うと小太郎は両耳に手を当て何かに聞き耳を立てる、武蔵の上の花も何かに集中していた。
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〔おっちゃん鉄砲の音だ! 三・四発は鳴った、あの谷の方角だよ、間違いない!!〕
〘花にも聞こえた! バンバンって!!〙
「そんな音したか? 猪丸よ・・」
[いゃ、わしにはサッパリ、でも子供の方が耳が良いからな]
『私にも確かに聞こえた、少なくても三発、音が重なってた気もするから実際はもっと多いかも?』
「師匠も聞いたのなら間違いないな、しかしこんな山奥で戦でも無いだろうし鉄砲マタギが集団で狩りでもしているのかな?」
[それは無いな、マタギは集団で狩りをするのを嫌うんだ]
「そうなのか?」
[あぁ、獣は警戒心が強いからな、大人数で行動すると気取られて上手く行かないんだ、それに仲間を撃っちまう危険もあれば獲物の分け前だって減る、だから狩りをする時は大抵一人、もしくわ気心の知れた相方と二人だ]
「そうか、鉄砲の音はかなり短い間隔で鳴ったんですよね、師匠?」
『ほんの少しの間だから三~四人かそれ以上は確実に居たはずだ』
「どうするよ猪丸、調べてみるか? 苦労してここまで登ったのにあの谷だと相当下る事になるが」
[う~む・・、何か嫌な予感がするな]
『私もだ、あの音を聞いてから胸の騒めきが治まらないよ・・・』
「じゃあ行ってみましょう、ここでじっとしているだけじゃ何も判らないし」
[そうだな、ただ今日はよそう、もう直暗くなるし月明かりで山を下りるのは危険だ、それにわしはバテ気味だよ・・]
『判った、山の事は猪丸に任せるよ、今日はここで休み明日日の出と共に発とう』
(この胸騒ぎが杞憂だといいのだが・・、無事で居てくれよ、漣)




