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武蔵と市  作者: KEN板屋
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隠し砦

~ 囚われた漣と五六八 ~


忍びと称する三人の男、一人が案内役として先頭を歩き漣と五六八と白虎を間に挟む形で他の二人は少し距離を置き後ろから付いて来る、男達はあれからは何かを指図する訳でも無く黙々と獣道を歩き続けた、もちろん彼らの里に向けてだ。

男達は "逃げられっこ無い" と高を括っている(ふし)があり漣と五六八は身の自由を奪われる事も無ければ話をしても気にふする素振りすら無い、さながら幼子の子守りの様な緩慢さ、漣の中で (白虎の力を借りればこの窮地を脱する事が出来るのかも?) っと考えなかった訳では無い、だが熊の頭を一太刀で落としたあの力、それを無闇に使うなど躊躇(ためら)わざる得なかった、この者達にもその身に何かあれば悲しむ人が居るのだから。


〖シノビっ言ってたね、あたいシノビって知らないんだけど漣ちゃんは?〗

『偵察や暗殺など影の仕事を(にな)うお侍だと義父(とと)から聞きました、隠密(おんみつ)行動に()けていて漣や五六八さんが気づけなかったのは無理もありません・・』

〖だから忍びか・・、そんなお侍が居るんだ〗

『でも()の当たりにしたのは漣も初めてです』

〖そんな奴らに捕まったあたいらはどうなるんだろうねぇ・・〗

『判りません、ただ(みやこ)からの追手じゃ無かったのは唯一の救いかも、連れ戻されたら万事休すでしたから』


〖・・・、そうだね、でもあんまり期待しない方がいいよ、囚われた女の末路なんて大方決まってるからさ〗

『それも覚悟しています、でも最後まで諦めたくない』

〖強いね、漣ちゃんは・・、もし何かあってもさ、あたいが身代りになって漣ちゃんを守るよ〗

『五六八さん・・』

〖いいんだよ、あたいが足抜けしたのが間違いだった、大人しく身請けに行ってさへすれば・・、今さら悔やんでも遅いけど本当にゴメンね、せめて最期(さいご)はお姉さんらしい事をさせてよ〗

『そんなの漣は嬉しくない、それより二人が助かる方法を探しましょう、いざと成ったら白虎の力を借りてでも・・』

〖沢山の人を(あや)めてもかい?〗

(五六八さんに見透かされている・・)

〖漣ちゃんに人殺しなんてさせられ無いしそんなの出来っこ無いよ、一緒に過ごしたのはほんの一月(ひとつき)だけどさ、漣ちゃんがどんなに優しい()か分かってるつもりだよ〗


漣にはもう返す言葉が無かった、それからの二人は交わす言葉も無く沈黙のまま先を行く男の後を追い続ける。


・・・・・・


道中は殆どが下りで気付けば深い谷底まで来ていた、目の前にそびえる断崖には縦に大きく裂け目がありずっと奧には小さな光が見える、(通り抜けられるんだ・・)

袋小路ではない事に少し安堵した自分がどこか滑稽に感じた、目指すあの光の先に希望が待ち受けている事は無いはずなのに。

裂け目は大きく馬でも通り抜けられる高さも広さも有り思った程の息苦しさは無かったが薄暗く冷んやりと湿った空気に背筋が【ゾクリッ】とする、苔が()した滑り易い足元に注意しながら先へと歩みを進めるとやがて目の前は一気に明るく成った、夜目に慣れていたのでとても眩しく目を凝らしながら周囲の状況を見渡すとそこは漣が知る "里" とは(おもむ)きが違う、人の賑わいが無く目に入るのは数人の男だけ、女や老人、子供の姿も全く無い、そして先端の尖った太く大きな丸太が外敵からの侵入を拒む様に幾つも並べられ物見櫓(ものみやぐら)も建っている、

(これは里では無く(とりで)なのでは?)と言った様相だった。


〈こっちだ、お(かしら)に会わせる〉

ハッと我に返る、これまで乱暴も拘束もされなかったせいか既に囚われの身である事から逃避していたのかもしれない、しかし現実は生きるも死ぬも彼らの手中にあり漣と五六八の命は風前の灯火の様にか弱く揺らぐ。


里、いゃ隠し砦の奥にその男は居た、一人は男性にしては小柄で細身、歳は四十前後と言った処だろうか? もう一人は背が高いがやはり細身、(あたま)の先から外套(がいとう)を覆い表情は伺い知れないが何故かどこかで会った気がする人物だった・・、案内役の男が〈お頭、女を二人連れてまいりました〉と言うと小柄で細身の男の耳元で何やら説明をしている、

(あの人がお頭なんだ?)

粗暴な大男を想像していただけに、(もしかしたら話の通じる人かもしれない?)

っと淡い期待を漣に(いだ)かせた。


〖ねぇ、この里の(おさ)ってあんたなの?〗()三歩(さんぽ)(あゆ)み寄りながら五六八がそう尋ねると、

〈黙れっ!!〉っと案内役の男が静止を(うなが)すがお頭は意にも介さず、

「構わん、言わせてやれ」


〖ありがとうよ、あんたがここで一番偉いんだろ? お願いがあるから聞いてくれないか?〗

「聞いてはやるが先に言っておく、この里から生きて出た者は一人も居ない、それは例へ仲間であったとしてもだ、抜け忍となったら見付け出し殺す、それが忍びの掟だ」

(話の通じる人では無かった・・)

漣の期待は早くも打ち砕かれる。


〖そうかい、忍びも女郎も似た様もんなんだね、でも無理を承知でお願いするよ・・、あたいは十三の頃から女郎宿で働いてた、今は十九だけど歳の割に男の扱いには慣れているつもりだ、あたいでよければ十人でも二十人でも相手したっていい、煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・・、

でもこの()は、漣ちゃんだけは見逃してやって欲しい・・〗

思わず漣が叫ぶ『五六八さん! 勝手な事を言わないで!!』

〖黙ってな、漣ちゃん・・、お(かしら)さんだっけ? あたいは金で寝る女だ、でもこの()は違う、普通の娘なんだ、あたいが足抜けしたせいで巻き込んじまった、頼むよ・・、どうかこの娘だ・・〗

しかし五六八の言葉を(さえぎ)り「言いたい事はそれだけか? 最初に言ったはずだ、この里から生きて出た者は居ない、お前もそこの(むすめ)もな、例外は無い」

〖そうかい、これだけお願いしても駄目なのか・・〗

「もう少しマシな命乞いかと思ったが女郎もままならねぇ売女(ばいた)が三文芝居を見せやがって、臭くて反吐(へど)が出る」



〖アハハハハハハハハハァーーーーーーーーーーーッ!!!〗っと甲高い笑い声が砦中に狂い咲く。


〖あんたほんとクソだね! あたいのオヤジもクソだったけどあんたよりは大夫マシだよ!! 抵抗も出来ない女相手に威張り腐りやがって!! さぞ愉快だよなっ!!!〗

『五六八さん止めて下さい! 何を言っても無駄です!!』

〖あぁ!! 豚に念仏だが言ってやるよっ!! お前ら男は何時(いつ)だってそうだ! 都合よく女に媚び! 甘え! 甚振(いたぶ)り! 犯す! やる事だけやりゃあ馬のクソでも見る様な目付(めつ)きで女を見下しやがる! そんなに男が偉いのかよ!! てめぇだって女の股から出て来たんだろうが!! 女の乳吸ってデカくなったんじゃねぇのかよ!! クソったれがっ!!!!!!〗


『・・・、もうよして下さい、五六八さん・・』

〖うんざりだ・・、男も、この世の中も・・・・、殺せよ・・、てめぇなんざクソ野郎の(なぐさ)み者に成るなら死んだ方がマシさ・・・〗

そう言い終えると五六八はゆっくりとお頭の元に行き【ペッ】と唾を吐き掛ける、だがそれはお頭の足元に落ちるだけだ。


「今の啖呵(たんか)はなかなかだったぞ、甚振(いたぶ)ってから殺すつもりが気が変わった、その度胸に免じてこの場で楽にしてやる」

『えっ・・・、(どう言う事?)』


お頭は腰の刀を放り投げ案内役だった男に、

「おい、これでその女の首を()ねろ、苦しませるんじゃねぇぞ、一太刀で落とすんだ、いいな」

〈御意・・〉


五六八は全てを悟りそして全てを諦めた、(みず)から前屈みに(ひざまず)くとそっと振り返り(かす)かに震える漣の瞳を見据へ、

〖ごめんね漣ちゃん、守るだなんて嘘吐いて、あたい最期(さいご)まで何もしてやれなかった・・〗


男は刀を抜き上段の構えを取る、五六八は微動だにせずそれからは二度と漣と目を合わせる事も無い。


『いゃ、やめて・・、お願い、殺さないで・・・』


()れっ」


男の刀は五六八のうなじを目掛け一直線に振り下ろされる、それはか細い首を胴から切り離すには充分なものだった、【ゴトッ】と鈍い音が響かせ五六八の頭は地に()ちる・・・・、


漣の指先から全身に至るまで凍りつく様に血の気が引き狂気が理性を瓦解(がかい)させた、



『いやあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』



絶叫がこだまする中で白虎の刃が開く、後ろ手に縛っていた縄を断ち切ると首を()ねた男に歩み寄る、男は蛇に睨まれた蛙の如く直立不動のまま立ち尽くしていたが、

【シャァァーーーーーーーーーン!】

白虎の刃が大きく弧を描くと男の頭は(まり)の様に地を跳ね首からは大量の鮮血が噴き上がる、それは血の雨と成って降り(そそ)ぎ大地を赤く染めた。


「なっ、何なんだ・・お前は・・・・」

恐れ戦慄(おのの)くお頭の元へ白虎は近付いて行く、何処(どこ)からか手裏剣やクナイが飛び交い【ガッ!、カァ!】と胸の蒔絵に突き刺さるが白虎はその歩みを止める事はない、目前で天高く振り上げた刃を一気に振り下ろす! お頭は脇差(わきざし)を抜き防ごうとするが刃はそれを(もろ)ともせず脇差を砕きお頭の額を割った!!

「ぐぅわぁぁぁぁぁぁーーーーー・・・・」


『あぁぁぁ・・、いっ・、五六八さん・・・・・』

漣の心は完全に壊れていた、怒り、憎しみ、恐怖、悲しみ、様々な感情が津波の様に押し寄せ抑えられない、ただ五六八の命を無下に奪ったお頭を許せずひたすらに (殺してやる! 死ね!!) っとだけ念じていたのだ、漣の念に同調するかの様に白虎は既に絶命し動かなくなったお頭に向かい幾度も刃を叩き突ける!!

・・・っが、


【ダァァーーーン!! 】

   【ダァァーーーン!! 】

      【ダァァァーーーーン!!】


何発かの銃声が轟くと同時に白虎の腕や足、そして頭が飛びようやくその動きを止めた。


辺りはさながら戦場(いくさば)の惨状と化していた、頭が転がる二つの遺体、もはや人の形を成さ無いお頭と呼ばれた男、そしてバラバラに破壊された白虎の残骸・・、

その光景を()の当たりにし漣の意識は徐々に薄らいで行く、もはや立って居る事もままならず膝から崩れ落ちると世界は暗闇に包まれた・・・・・・、



この作品を書く上で大まかなストーリーの流れや登場人物の設定をまとめたプロットを作りましたがそこから最も大きく変更をしたのがこの話で非業の死を遂げる五六ハでした。

当初の設定では五六ハは武家の一人娘で幼馴染の許嫁とは相思相愛、祝言を間近に控えた幸せの最中で人買いに拐われ女郎宿に売られてしまう、しかし許嫁に逢いたい一心で宿を抜け出し漣と出会うと言うものでした。(その後の流れは概ね本編に近いのと別パターンも)


しかし育ちの良い武家の娘と割と品の良い漣のキャラクターが被り二人の掛け合いが「何かつまらないな」と感じ真逆の設定、娘を売るロクでも無い親元で育った不遇の五六八が生まれたのです。

結果的によりキャラクターが際立ち漣と五六八の絡みは楽しく筆も進んだ様に思います(下ネタもOKですし)。


劇中の五六ハは体を売る以外はした事が無い、それしか自分に価値を見出せない極めて自己肯定感の低い人物です、しかし漣と出会った事で、漣と過ごした僅か一月の間だけは自分らしく自由に生きられた、そして初めて未来に希望を持つ事が許された矢先に命を落とす事になります。

最期は想定していたシナリオとは言えやはり辛く「苦しませるんじゃねぇぞ」は私の心の声がそのまま出たのかもしれません。


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