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妄想の帝国

妄想の帝国 その87 オーサカン・バ〇ハク開幕

作者: 天城冴

チケット最高額に、人手不足に、会場の地盤が危険視され、展示施設の建設も大幅に遅れた上に減少という苦難?見舞われつつ無理やりに開幕したニホン国オーサカンの博覧会。入場者の想定外の少なさに怒れる府知事は…

 地盤が弱すぎて危なさ過ぎ、誰も建設したがらないパビリオンに当初予算よりも十数倍の額に膨れ上がった開催費用、そのうえ学徒動員とまで揶揄された大学生強制労働という問題を抱えた万博開催都市オーサカン。ホントに民主主義国家、第二の都市なのお、といわれつつ、自分たちでやるとごねていた勘違い地域政党オーサカン・メイジの党はニホン国政府にまで金をだせとごねだし、どうにかこうにかして開催にこぎつけた。



「な、なぜだあああ、なぜ、こんなに人気がないんだああああ!」

と、オーサカン府知事に返り咲いたばかりのマツイダ府知事が知事室で叫んでいた。

「あ、あの、みみっちいナゴーヤ万博でさえ、かなり人が入っていたというのに、開幕して一週間、まだ入場者が二桁、こんな理不尽なことがあるかああ」

政界引退するとかいいつつ、前府知事が不人気のあまり落選、実か影の実力者の妻が若年証認知症で公私ともに支えがなくなり不器用な介護者と化したため、理由づけて復帰したアンタのやり方のほうがよほど理不尽、滅茶苦茶だといわれているが、自分の不備、不正義は全く無視するマツイダ府知事。賄賂、口利きを商売にしようとして失敗しても、へこたれない厚顔無恥さで秘書に怒鳴りまくっている。

「そ、その府知事、なにしろ、パビリオンも人員も不足していまして。まだ、入場者が少ないというのに、ゴミ箱がすぐいっぱいになって捨てもしないだの、トイレの清掃がなっていないだの、急遽設営した会場のホテルも風呂が汚い、メシがでない、どこぞの独裁国家のホテルよりひどいわと」

と汗をふきふき言い訳にならない言い訳をのべたてる秘書。メイジの党の一員らしく口だけはまわるらしい。

「なんで、そんなに人がすくないんだ、学生ボランティアはどうした!特に3-4年の奴らは必須単位といたんだから、出ないと卒業ができないはずだ!」

「そ、それが裏目に出まして。そんなんじゃ、勉強できない、卒論かけない、なにより就職活動がろくにできないとのことで、オーサカンの大学から転出する学生が続出しまして。しかも優秀な学生ほど出て行ったそうで、残りはまともに学業で卒業できそうにないからボランティアするといった輩でして」

「つ、つまりカス?学業も仕事もロクにできない奴らがボランティアになっただとおお」

「それは言い過ぎでは…。か、彼らも一生懸命やっているのですが、その、皿を洗ったことも、自分でゴミを捨てたこともない、掃除も女子やら大人しい子に押し付けてサボってましたから、トイレの掃除なんて初めて―という男子学生もおりまして」

「やはりカスじゃないかああ」

「そのう、ニホン国の男子学生は少なからず、特に、その、男尊女卑というか、そういう風潮のところはそうで、オーサカンの一部というか、かなり、それで…」

「お、女でも優秀な」

「女子学生はほぼ逃げ…いえ、他大学に入り直し、転出しました。ナーラ、ワカヤマンなど、かなり多く、そのため隣県のワカヤマンやヒョーゴコなど新しく大学を作ったほどです。とくにヒョーゴコは、その、オーサカン大学の優秀な学生どころか教授まで逃げだすというか、移籍してヒョーゴコ・シンキンキ大学を創設して、すでに偏差値が60を超えたとか」

「なんだと、あそこはドル箱の研究をいっぱいやっていたんだぞ、大型魚の養殖とか!ま、まさか、け、研究成果も持って行ったのか!」

「大学で特許などの権利を持っていたものはそのままですが、研究中のものはすべて。なにしろ、府で助成金を減らしたため、研究費は国やら企業からもらったんだから、府に口出しする権利はないだろうと、裁判でもボロ負けになりそうです」

「そ、それは、わがメイジの党の創設者ハシゲンさんに頼んでもか!」

「そのう、それでコテンパンにやられてますう、だいたい裁判官に“そんな屁理屈は低俗なテレビやネット番組では通じるかもしれませんが、論理的な言説を重んじる裁判では行わないでください”とレッドカードだされまして。しかも“女のくせにい”みたいことを裁判で、言ったとか言わないとかで、さらに裁判官の不興を買いまくって、かなり不利に…」

「な、なんで、余計なことをいってしまうんだ、ハシゲンさん!確かに女に徹底的にバカにされ、やり込められるという大学時代のトラウマとかがあるのかもしれないが(あの大学は老若男女、論理的に相手をやり込めたほうが勝ちという恐ろしいところだったそうだし)。それにしたって、もう落ち目なんだし、少し謙虚に」

自分のことを棚に上げて党の創始者をこきおろすマツイダ府知事。同じ穴のムジナだろうというのが秘書他の大多数の心の声だが。

「失礼ながら、あの方の辞書に謙虚とかいう言葉はありません。で、話を元に戻しますと、とにかく使える人間が少なくて」

「し、しかし、パビリオン自体が少ないのなら、何とかならないのか。掃除とか少なくて済むだろう」

「その、パビリオンのメンテナンスにも人手が割かれていまして。突貫で、しかも最少人数でつくったせいか、壁が崩れかけたとか、ハリが外れかけとか」

「そ、それじゃ、違法建築じゃないか!施工会社はどうした!」

「その行方知れずのところが多くありまして。そもそも、その知事のお知り合いの方も及び腰で参加する方が少なく、なんとか頼み込んで、紹介してもらったところなんですが。その共産ニッポンとかレイワンとかの野党や政府与党ジコウ党からも、新会社でろくな決算書も申告書もだしていない、建設業に必要な許可書もあいまい、そんな怪しげなところで大丈夫か、とさんざ質問されて、それでも前府知事が大丈夫だ、万博成功のために不可欠と頼んだところなんですが」

「だ、だって、仕方がないだろう。わがメイジの党の前代表のバーバに言って、政府、特にジコウ党にナントカしろっていっても、急に衰えたメイジの党と組んでもねえ、それより伝統あるうちに入ればとかいわれて、懐柔されちまってうやむやになったし。もう国から予算も分捕れませんよ、あれだけ俺らがやりたいとか言っただろといわれて、これ以上言うと関東地方でさらに人気が落ちますとか泣き言いうし。知り合い業者たちからは“マツイダさん、いくらなんでもグラグラのあの埋め立て地にあんな奇抜な建物を建てろってのは勘弁してくれ”といわれまくったんだ、オヤジからの付き合いがある業者でさえ、逃げちまったから。なんとかみつけた業者だったんだんぞ」

「その、ほぼ他の会社が逃げ出すよう工事を引き受けるというのはかなり危ないところだと思いますが。とにかく、入場者から苦情が出てまして、安全にかかわるので、掃除中でも受付中でもすぐに駆け付けろということになりまして。専門の作業員は建設中のパビリオンを完成させるのに必死ですし」

「そ、それでも、客の安全が大事だろう。第一、会場は不潔、パビリオンもアブナイとかいわれてSNSで拡散されたら、ますます入場者が少なくなる。一時的にでも修理を手伝えといえば」

「それが、その作業員が主にスリランカとかインドネシアの出身者で、困っているから手伝ってほしいといってもなかなか伝わらないんです…。ベトナムやフィリピンなら少しは英語も通じたのかもしれませんが。第一英語が話せるボランティア少なくて」

「作業員がほとんど外国人で言葉が通じないだと。し、しかも英語がはなせない学生なんて、国際的イベントなのになんでだあ」

きちんと時間をかけて計画を練ったり、お金をかけていなかったからです、馬鹿にしていたナゴーヤの知事みたいにちゃんとやっていてくれれば、だいたい前のバーバ代表だって逃げ出したし、という言葉をぐっと飲みこみ、窮状だけを訴える秘書。

「ですから、優秀な学生はあまりおりませんし、マトモに作業員も集められませんし…」

と泣きそうになっている秘書。さすがにこれ以上責め立てても仕方がないとようやく悟ったマツイダ府知事、とんでもないことを言い出した。

「わかった、バーチャルも解放だ!パビリオンやらの展示物、展示予定物をネットのページに上げるんだ!もちろん閲覧は有料だ、安くはするが」

「あの、直接に来る入場料も過去の万博と比べて最高額ということで、ネットでのアクセス料金を安くするとしても」

「だから、内容をもりもりにすればいいだろ、どうせ彫刻とか展示物とかバーチャルとか電子保存とかにしても、実際に見てるやつとたいして変わらんだろ」

「オーサカン市で放置していた彫刻と同じ理屈を言われるんですか…。それ、かなり批判されたんですけど」

「いいから、さっさとやれ、少しでも損をとりもどすんだああ」

それぐらいなら中止にしときゃよかったのに、まるでア〇な投資家モドキという感想は胸に秘め、秘書は急いで府知事室を出た。


 かくて、オーサカン・バーチャル万博がネットに登場した。しかし実際のパビリオンより、派手に誇張しすぎて、カジノ誘致のためのプロモーションかと間違われ、実際に動かして楽しむ展示物も芸人が適当に動かしたため面白さ、良さが激減。しかも放映に関する権利を曖昧にしたままアップしたため、ネット上に無断で加工された動画がいくつも挙げられる羽目になった。世界一〇ナ博覧会、オーサカン・〇カハクなどとタイトル付けされた動画はあっという間に拡散され、史上最悪の博覧会開催都市、開催したために財政破綻し人口激減、経済も低迷して政令指定都市から外され底辺に落ちぶれた府市として、オーサカンの知名度を世界にとどろかせることになった。


歴史に学び、時には引く勇気をもてといわれますが、プライド優先、大言壮語を吐いてそれを無理やりに現実に近づけようという荒唐無稽なことをやりたがる中高年男性には馬の耳に念仏なんでしょうか。成人のホモサピエンスらしく、謙虚に理性的決断をしていただきたいものですが。

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