マルチゲート
『続いてのニュースです。先日都内で発生したゲートブレイクによって、通行人が怪我をする事故が2件相次ぎました。発生したゲートブレイクに対して専門家はーー』
「あっ!パパ消さないでよ〜!」
「呑気にテレビを見ている時間か?」
そう言って朝食が並べられた机を挟んだ目の前でネクタイを緩めながら、男性がテレビ台に設置された時計を指差す。
「んぅ!もうそんな時間!最悪スキルでバレない様に登校すれば!」
7:50を表したデジタル時計を見て、慌てて口の中に朝食のアンパンを突っ込むと、急いで出ていった莉乃に、母親の麗美が呼び止めた。
「ちょっとついでにゴミも捨ててきて!ほら!」
「もぅ〜臭いし匂いうつったら嫌なんだけど〜...はぁ、行ってきますママ、パパ」
「気をつけるんだぞ」
あたふたといつもと変わらない元気に振る舞う娘を見送ると、微笑み麗美とつい1年程前までは植物状態だった雅人。
「それじゃあ俺も行ってくるよ麗美」
「えぇ、気を付けていってらっしゃい」
そんな他愛も無い加ヶ野家のおかしいと感じる日常に、そこにいるべき筈のもう1人の家族である琳は静かに双眼鏡を下ろした。
「会話こそ聞こえないけど、普通の日常生活って感じだな...んー、どこか怪しい点とかないのか?部屋に入れたらいいんだけど、流石に母さんには警戒されてるだろうしな...健からも検査の結果を見せてもらったけど何も異常は見当たらなかった」
E級の昇格試験を合格してから、1週間が経った先日に、琳は健から家族全員の健康診断を称した、記憶に関する精密検査の結果を渡されていた。
加えて父親である雅人が植物人間から元通りになった経緯も聞かされた。
まず雅人が目覚めたのは琳が失踪してから3ヶ月程だった。
琳が遭遇した最初の隕石であるファーストインパクトから半年後に起きたセカンドインパクトと同時に目を覚ましたとのことだった。
当時の状況について担当医が言うには、覚醒によりなんらかの影響によって目が覚めたとして経過観察をしていたとの事で、吉報を聞いて駆けつけた母親の麗美と妹の莉乃の喜びようは想像できない程だったという。
それからは特に問題もなく月に1度の定期検診をする事となった。
そして覚醒者として現在は月に2度ゲートに潜り、それ以外の日はサラリーマンとして働いているとの事だった。
「結局なにも分かった事はない見たいだし当分はダンジョンに潜りながら探るしかないな」
そう言って琳は駅へと向かい、隣町にある建設途中のビルの中へと向かった。
防音シートと仮囲いに囲まれた建設中の4つ星ホテルの中に1日前に現れたゲートとの事で、今朝オンラインで当日のゲートの予約の中からみつけた唯一予約可能だったゲートだが、1つだけ厄介な事があった。
仮囲いのパネルの隙間から建設現場へ入ると、そこには数人の人物が中で待っており、その中には黒のスーツに身を包んだ協会のスタッフが2人居た。
「マルチ用ゲートでのご予約でお間違いなければ、お名前と覚醒者ライセンスの提示を」
そう。今回予約したゲートはマルチ用ゲートと言って1人ではなく複数人で攻略する用のゲートだったのだ。
普通のゲートを潜るとなると
琳の存在に気づくや否や、女性スタッフに声をかけられ、名前とスマートフォンにダウンロードした覚醒者ライセンスアプリを提示し、データの照合が終わると、待機する様に指示された。
そして琳の後に2人が来た後、女性の協会スタッフが大きな声で話し始めた。
「では人数が揃いましたのでコレよりE級ゲートの攻略を皆さんで始めてもらいます。今回皆さんが予約されたのはマルチ用ゲートになりますので、5人以上での参加が必須条件となります。攻略の際に入手したアイテムに関しましてはトラブルのない様、事前にルールを決めていただく様、協会側では責任は取れないのでよろしくお願いします。それとくれぐれもゲート内での違法行為は行わない様に注意して下さい。以上で説明を終えます。本日も皆様のご協力に感謝いたします」
そう言って協会のスタッフは立ち去っていき、すぐさま待機していた中年の目つきの鋭い男性が最初に口を開いた。
「報酬はラストヒットルールで問題ないと思うが、みんなそれで良いか?」
事前に予習していた言葉を聞き琳を含む6人が首を縦に振った。
ラストヒットルールというのは、モンスターにトドメを刺した人物が報酬やドロップアイテムを得る権利が与えられるルールであり、ギルドでもない初めて知り合った人物達で構成される攻略パーティには大体がこのルールがスタンダードとされている。
マルチ用ゲートは見ず知らずの人と協力して攻略するゲートなので、事前確認がいくつもあり、それを一通り終えるとようやくゲートに入る事ができるとの事で、先ずは報酬確認、次にロール確認と言って自分のできる役割を各々発表、それから大体の戦いを確認したらゲートの中へと入っていくのだ。
そして今回攻略するメンバーの情報を臨時リーダーを務める事になった桐谷が纏めた。
E級:林道昇太『タンク』
D級:桐谷将『近接アタッカー』
E級:加ヶ野琳『近接アタッカー』
D級:涼宮明美『近距離サポート』
E級:乙髪玲『遠距離アタッカー』
D級:石島浩也『遠距離サポート』
「とまぁ今回はこのメンバーで攻略する事になったので、各々誰がなんの役割かっていうのをちゃんと頭に入れておいてくれ」
それから各々からざっとできる事を軽く発表した後、ゲートの中へと入っていき、ゲート内の様子を見てから作戦を立てる事するとの事で、一同はゲートの中へと足を運んだ。
ピロンッ
【ダンジョン:アノドスの潜む荒野への侵入を確認しました】
(ほぉ〜、初めて見る空の色だな〜)
ゲートに入った最初の感想は雲で8割ほど覆われた紫色に光る薄暗い空だった。
そしてシステムウインドウが表示したダンジョン名通り、地上は凹凸が激しい岩と枯れた木しかない荒野が広がっていた。
「ひとまずモンスターの襲撃はなさそうだし、パーティ申請を送っておく」
ピロンッ
【プレイヤー桐谷将からパーティ申請が来ました。受け取りますか?Yes/No】
目の前に現れたパーティ申請のウィンドウのYesの上に指を置くと、視界に映るパーティメンバーの名前とその下に現在のHPと最大HPが数字で見る事ができた。
(なるほどね、ゲームとまんま似た様なUIだな)
「どうやらパーティを組むのは初めてみたいだね」
「ははっ、流石にじっと見てたらバレましたね」
物珍しそうに視界に映る全員のHPバーや名前を見ていると、ちょうど横にいた石島浩也に声をかけられ、気まずそうな笑みでマルチ用ゲートへの初参戦を打ち明けた琳。
「逆に今まで1人で入ってきたって方が珍しいくらいだよ」
「え?ソロで行く方が珍しいんですか?」
「まぁ1人で行けないことはないけど、大人数の方が安全だし、ゲート内では何が起こるか分からないしね」
「確かに言われてみればそうですね...」
「因みにこれ聞くのマナー違反って事を前提に言っておくんだけどさ、測定器では何級だったの?」
(マナー違反なのに聞くんだな...まぁ別に隠すことじゃないし良いけど)
「F-3でした」
「あっらら〜それは大変だね〜」
「石島さんは何級だったんですか?」
「聞いて驚くなよ〜、俺もF-3だ」
「え!でもさっきの確認ではD級って...」
「すごいだろ〜、でも残念な事にここまでさ」
「残念って、何か壁にぶち当たってるんですか?」
「その様子だとあんまり知らないみたいだからここは先輩が一つ授業をしてやろうか」
そう言い、石島はネット検索でも出なかった覚醒者の能力値上限というものを説明し始めた。
基本各覚醒者には琳のウインドウでも確認できる通りレベルという欄が誰にでもあるのだが、レベルアップ時の成長値はそれぞれ覚醒者の等級によって異なる上に、レベルが上がる毎にもちろん要求される経験値も上がってくる。
ここで石島のいうここまでという言葉の意味を説明された。
それはレベルが上がると言って順調に次の等級に上がれる訳ではないということだった。
次の等級に上がるには勿論挑むダンジョンに合った高いステータスが要求されるのだ。例えばE級のダンジョンだと『レベル20のF級』でようやく攻略でき、D級だと要求レベルは40、C級だと更に倍の80と要求されるレベルが跳ね上がっていくのだ。
それに加え要求される経験値もレベルアップ毎に増えていく為、推薦レベルのモンスターを倒すしかない上に、貰える経験値はかなり微量となっていく為、そういった詰みではないがジレンマに苛まれてる覚醒者が多いとの事。
「等級の高いモンスターは勝てない上に、少し手こずるレベルのモンスターを倒しても経験値はスズメの涙、仮に等級を上げられたとしても、次にある壁は今まで苦労して登った壁の倍はある。だから基本的には測定された等級より+2等級が限界って言われてるんだ」
「へぇ〜なるほど〜、でもモンスターと戦ってる感じ倒せなくもなさそうですけど、やっぱりそんなに違うもんなんですか?」
「そうだな...例えばー、覚醒する前の自分を思い出して欲しいんだけど、自分と同じ等級のモンスターを同じ体格の人間もしくはそれ以下だとするでしょ?」
「はい」
「ダンジョンの等級が1つ上がると相手は、牛とか馬みたいな草食動物だ。あいつらって自分から人を襲うことってないけど、人より力はあるし、馬の後ろ足の蹴りなんて大の大人を吹き飛ばすし当たりどころが悪ければ死んじゃうよね。でも場合によっては勝てそうではあるでしょ?例えば武器を持っているとかってなると?」
「確かにそうですね、なんとか頑張れば」
「そしてもう一つ上がると次はライオンとかの肉食獣。武器を持っていたとしても勝てるかどうかわからないし、加えて相手が一匹だけじゃない事もある」
「めちゃくちゃわかりやすいですねその例え」
「まぁこれは自分が成長しない前提で話してるから少し実際とは違うけどそんな感じだと理解しやすいと思う。でも」
「でも?もしかして救済措置みたいなのが?」
話の中で一番重要そうなパートに、思わず琳の体も前のめりになっていく。
「そう、それが装備とスキルさ」
「はぁ〜、確かに良いスキルがあればこれらの問題も解消できそうですよね?」
「そう、しかしこれらに関しては運要素、自分がどんなスキルを習得するのかは当の本人もレベルが上がらないとわからない上に、使えるかどうかという話にもなってくる。加えてアイテムもドロップ率は高い等級のゲートの方が良い上にレアアイテムも出やすいから、結局はそれらも運に近い」
「となると...はぁ」
「だよなぁ、ため息が思わず出てくるよなぁ...だって俺なんか遠距離のサポーターだぜ?覚えるスキル全部バフ系統で困ったもんだよほんと」
「因みになんですけど石島さんはレベル上がる毎にどれくらいステータスが伸びてるんですか?」
「俺はVIT、RES、INT、MENを均等に上げてるって感じだ、俺達F級が一回のレベルアップで貰える3〜5ポイントで上げられるステータスなんてたかが知れてるだろ?」
「ははっ、確かにそうですね...頑張りましょお互い」
(3〜5か...そう考えると...うわっ、俺レベル上がらないけど、人道に逸れることするだけでステータスポイントが貰えるって...なかなかチートじゃね?加えて称号によるステータス上昇もあるけど、話に出てこなかったって事は多分石島さんが知らないか、ただ忘れてるかだな)
「あ、そろそろ始まる見たいだね」
石島の目線の先を見ると、今回指揮を取る事になった桐谷将から召集がかかり、近接戦闘が得意な人は1人を残して前に出て、残った1人は後衛のサポートという形で、後衛は臨機応変に前衛のサポートをするといったざっくりとした陣形でゲート内を進む事となった。
ピロンッ
【警告:ダンジョン内のモンスターがプレイヤー達の侵入に気がつきました】
進み始めてから僅か数メートルで出現した警告ウインドウと共に、わずかに地面が揺れている事に気がつき、それがどんどん強くなっていた。
「地面です!早い!丁度林道さんの真下を潜り抜けました!」
先頭を歩く林道とその後ろを歩いていた桐谷と琳の前衛組に警告した乙髪は屈んだ姿勢を取ると同時に両手を地面置く。
そしてそれを横で聞いていた石島は両腕を前に出し、2人の後ろを歩いていた涼宮は2人に近寄り周りを警戒した。
『ロックブラスト』
『ロッツハルト』
ピロンッ
【スキル『ロッツハルト』の効果により、物理抵抗力が上昇しました】
(へぇ〜、貰ったバフの効果も教えてくれんだな)
ズガァンッ
与えられたバフの効果が表示されたと同時に、背後の地面から数本の役2メートル大の岩が地面で身を潜めていたモンスターと共に突き出て空中に放たれた。
「これで全部か?」
「2匹取りこぼしました!私の合図で動いてください涼宮さん!」
「残りは後ろに任せる、前は...」
ガァンッ!
「ふんっ!」
ドスンッ!
【アノドスLv13】
地面からまるで釣られた魚の様に打ち上げられた、モグラの様な大きくて扁平な前足が特徴的な生き物を、琳は打ち上げられたと同時に飛びかかり、拳で岩肌に守られた横腹に打ち抜き、そのまま地面に倒れたところを足首を掴み取って隣のアノドスに打ち付けた。
「先ずは2匹ーーっ!」
ガガガァン
「ナイス先制だけどタンクより前に出られるカバーキツイよ〜」
琳の背後から飛んできた石礫を体より大きい銅色の盾を構えて全て防いだと同時に小言を放つ林道。
「ありがたいですけど流石に今のは避けれましたよ」
「へぇ〜強いんだね琳君は!」
ガァン!!
こちらを見ながらそう嬉しそうに大きな声で話している林道の背後からは、鋭い爪を立てたモグラが襲いかかっていたが、琳が警戒せずとも大盾を振り返り様にアノドスの左半身に打ち付けて吹き飛ばした。
「ワオ」
「ほかの所も無事片付いたみたいだね」
「皆さん怪我はありませんか?一応初級の回復スキルくらいは使えるので怪我がある場合は教えてください」
そんな涼宮の申し出た心配とは裏腹に、モンスターからの襲撃による怪我人は誰1人として出ておらず、そこから一同は探索を始めた。
歩き始めてから数分、特に手こずったという程の事もなく、乙髪の明かした感知スキルで危機をいち早く報告し、それに対して各々が連携をとって対処するやり方で難なく進んでいく。
「待ってください」
ゲートに入ってから10分程したところで、そろそろボスのいるエリアに到達してもおかしくない状況の中、低い声で先頭を歩く林道にギリギリ聞こえるくらいの声量で乙髪が一同の足を止める。
「この魔力の大きさ...前方から多分ボスが地面を潜って来てます!このままの速度だと3秒ほどで林道さんと衝突します!」
「やっとお出ましかぁ!おっけー!バチこい!」
そういって意気揚々と体よりも大きな盾を地面に向けて落とし、その上に乗り相手の出方を身構えるーー
ドォンッ!!
3拍子程の時間が過ぎると、地面から衝撃が盾を打ちつけ、盾と同時に林道が空中に浮かされ地中で身を潜めていたその者は正体現した。
「防ぐから合図しらら渾身の横槍をよろしく!」
「全力で叩き込むぞ」
「うっす!」
ぱっと見たところ、アノドスと変わらない大きさだが、全身を覆うように生えた岩肌と地中を潜る為に発達させた前足はより硬質で鋭く、雲間から差し込んむ紫光を反射させた。
ピロンッ
【ボスモンスター:ウルアノドスが姿を現しました】
視界に映るウインドウの向こう側で空中に投げ出された林道に向かって地中から前足を地面に叩きつけ飛躍して体当たりを仕掛けようと、20度ほど湾曲した後ろ足を更にくの字に曲げる。
『バッシュ』
宙に投げだされた状態の中、林道は自分と同時に投げ出された頭上の盾を掴み取り、跳躍してきたウルアノドスに向けて叩き込んだ。
ガギィンッ!!!
鋭い爪と幾度となくアノドスの攻撃に耐えぬいた堅牢な盾がぶつかり合い、激しい火花を撒き散らすと、体格の差をステータスで上回る林道がもう一段階力を込めてウルアノドスの巨大な体を地面に叩き飛ばした。
「ごめん!防いだというより叩き飛ばしちゃった!」
そんな想定とは違った林道の合図を真下で聞いていた琳と桐谷は、20メートル程離れた地点に落ちてきたウルアノドスにむかって走り出す。
「わざわざそっちに行く手間が省けた、むしろありがたい!」
ダンッ
『バーニングストライク』
琳の横を走っていた桐谷の足元から炎が舞い上がると、大きく跳躍し、落下の勢いと共に炎を纏った豪脚をウルアノドスの頭に打ちつける。
そして少し遅れたタイミングで琳もウルアノドスの腹部に目掛け、渾身の蹴り上げをお見舞いし、2メートル程のウルアノドスを体を宙に浮かせた。
「そこ!」
『マジックスティング』
琳が蹴飛ばした際、ウルアノドスを覆っていた岩肌の一部が砕け散り、それを見た乙髪は寸分の狂いなく、魔法で生成した青い光をその砕けて露になった皮膚目掛けて深く突き刺した。
「もう一段階ブーストをかけます!これで畳み掛けてください!」
『付与:巨人の腕』
ピロンッ
【スキル「巨人の腕」の効果により、腕力のみ一時的に20%上昇しました】
1メートル台の魔法の針が突き刺さったまま、地中に逃げ込もうと、両手を地面に向けて伸ばすが、着地予定の場所には籠手を両手に嵌め込んでいた涼宮が腰を落として待っていた。
『ライジングシュート』
回転しながら上昇し、180度開いた脚から繰り出される蹴り上げに、再び宙に浮かせられるウルアノドスの左右から2つの人影が飛んでくる。
『バーニングフルストライク』
「せいやぁ!」
最初に見せた炎を纏った蹴りに更に燃え上がる火力で渾身の拳をウルアノドスの横腹に打ち付け、琳もタイミングを合わせて反対側から拳を打ち付けた。
「キュイイィィッ...」
バタン
桐谷と琳の挟み撃ちに初めて苦しみの声を上げ、力なく地面に落ちるウルアノドス。
ピロンッ
【ボスモンスター:ウルアノドスの討伐に成功】
【ラストヒット:桐谷将】
(おぉ〜丁寧にラストヒットが誰か説明してくれる...あの人の後に俺が攻撃したんだけど、迫り合いの時に死んだって感じか)
「俺のラストヒットか、みんなお疲れ」
「「「お疲れ様です〜」」」
「いや〜琳くんお疲れ〜」
「石島さんお疲れ様です」
「いい動きだったね、初めての連携プレイじゃないくらいにいい動きだったよ!」
「皆さんのサポートがあったからですよ、、、」
「ん?あー、もしかしてラストヒットについて考えてた?」
「ははっ、石島さんにはなんでも見通されますね」
ラストヒットを取れなかった琳の作り笑いに顔を覗かせて瞬時に悟った石島の言葉に、観念した表情で更に苦い笑みを浮かべる琳。
そんな哀愁を漂わせていた琳の背中を感じてか、背後から桐谷が近づいて、琳の肩を叩いた。
「お疲れ、最後の攻撃見事だった、ラストヒットは俺だったが、あれはお前の攻撃もあっての物だった、ラストヒット報酬でもらったこの報酬だが、俺1人でもらうのは少し気持ち悪い、選べ」
「え?」
突然の言葉に驚き、返事をする間も無く目の前にシステムウインドウが出現する。
ピロンッ
『プレイヤー『桐谷将』から報酬の分配を提案されました。
以下の2つから報酬を選んで下さい
報酬1:中級セレクトボックス
報酬2:ブラックボックス』
「へぇ〜中級セレボが出たんですね!」
「嘘?運がいいですね桐谷さん」
「レアなんですか?」
側で桐谷の提案を見ていた林道が羨ましそうな表情を浮かべて口にした中級セレボという言葉に、少し離れた位置にいた涼宮が駆けつけ、他のメンバーも集まってきた中で、琳は隣の石島に聞く。
「中級セレクトボックス、略して中級セレボって言われてるんだけど、セレクトボックスには中級以外に下級、上級とあるんだけど、その中の真ん中のセレクトボックス。今回僕らが挑んだE級ゲートからはかなり低い確率で得られるラストアタック報酬の中でもかなりレアアイテムなんだ。そして肝心の中に何が入ってるかというと、アイテム、武器、スキルブック、強化素材があって、ボックスを開けるとさっき言った中からランダムで3種類のアイテムが表示されて、その内の1つを選択して得られるっていうアイテムだね」
「へぇ〜、何が当たりなんですか?」
「まぁ人にもよるけど一般の相場では武器とスキルブックが1番、その次にアイテム、それから強化素材の順番さ」
「このブラックボックスはなんですか?」
もう一つの報酬を聞くと石島は苦虫を噛み潰したような表情で嫌悪感を露わにしながら琳に説明する。
「僕たち不遇覚醒者にはほぼメリットのないアイテムだと思えばいいさ、中身はさっきのセレボより更に種類の多いアイテムの中から一つだけアイテムをくれるのさ」
「え、聞いた感じさっきのより良さそうな...」
「まぁ確かにそう聞こえはいいけども、含まれるアイテムの中には虫の死骸だったり、使えない使用済みのポーション、F級ゲート内のモンスターの体の一部だったりと意味のわからない物まで入ってるし、1番の当たりも今まで俺が見てきた全プレイヤーの中でもたった2人しかいない」
「なるほど〜中級セレボの方が中身がしっかりしてるし当たりの確率はブラックボックスより幾分かましって事ですね!」
「そうそう、だから2択だけどほぼ一択みたいなもんさ」
「じゃあ桐谷さん、ブラックボックス下さい」
ピロンッ
『報酬2:ブラックボックスを選択しました』
「そうそうブラックボックス、死骸とか意味わかんないものも出るけど、やっぱり男は1発賭ける時は賭けないっておぉい!聞いてた?先輩のアドバイス?何選んじゃってるのさ!」
「っ!本当にそれでよかったのか...?」
石島、桐谷を含む全メンバーが琳の選択に驚きを隠せない中、当の本人は嬉々とした表情でブラックボックスをインベントリの中から現実世界に取り出した。
「確かに安そうで黒塗りのダンボールで作られたような簡易な箱ですね」
ピロンッ
『ブラックボックスを使用しますか? はい/いいえ』
手のひらサイズに収まった正方形の箱を揺らしてみたり、中身の重さを測ろうとするも空箱の様な重さしかなく、怪しそうにジッと見つめていると、目の前にウィンドウ画面が表示され、躊躇なくはいを選ぶ琳。
突如微かに振動し、蓋から白い光を漏らし始める黒い箱。
「早く早く」
「ハズレは多いけどやっぱドキドキするよな」
琳よりも箱の中身が気になっている他のメンバーの声に、琳もワクワクしながら蓋を開けるとーー
「ん?何これ?ブラックオークションの招待状?」
黒色の紙に銀色のインクで描かれた見たことのない模様の様な文字の様な物を凝視しているとウィンドウが現れ、そこに書かれていた文字を読み上げた琳。
「おぉ〜オークションの招待状か〜」
「いやぁ、でもブラックオークションだよ?これがコールドオークションだったらね〜」
「石島さん、当たりですか!?」
「ん〜まぁ半々って感じかな〜、ブラックオークションっていうのは毎月1回開催されるオークションの闇市バージョンみたいな物で、扱ってる品はガラクタや物好きが好きそうな品や、希少だけど用途の無い物が多いが、ごくたまに半端じゃない物も混じっている事から、ブラックボックスに謎られて、ブラックオークションって名前が付けられているのさ」
「へぇ〜、これ説明聞きながら使って見たんですけど、明日開催なんですね!それに開催1時間前から使用できて、使ったら目の前にゲートって...」
「そうそう、一応特殊エリアらしくてモンスターとかは出てこないし、オークションが終わればプレイヤーは強制的に元いた位置に戻される仕組みさ」
「はぁ〜勉強になります!ありがとうございます石島さん、めちゃくちゃお世話になりました!」
「君みたいな優秀な若者の役に立てるなら、いつでも遠慮なくね!ついでによかったらうちのギルドにーー」
それから石島のギルド加入勧誘をなんとかはぐらかして回避した後、パーティーは解散し、琳はホテルへと戻った。
「くぅ〜、疲れた〜、やっぱ疲れた体にはスポーツドリンクだぜ〜」
初めてのマルチゲートで気を使いながら動いていた事もあってか、妙に体の疲れを感じながら、日課であったお風呂上がりにスポーツドリンクを喉に流し込み、本日の成果を確認する琳。
=====================
『加ヶ野 琳』
◼︎非覚醒者
◼︎Lv:1
◼︎Exp:3622
◼︎HP:153/153
◼︎MP:0/0
⚫︎STR:22(+15)37
⚫︎VIT:10 (+15)25
⚫︎RES:10 (+15)25
⚫︎DEX:10 (+15)25
⚫︎AGI:30 (+15)45
⚫︎INT:10 (+15)25
⚫︎MEN:10 (+15)25
⚫︎LUK:10 (+15)25
⚫︎KRM:4
▼スキル
《六識》
▼称号
《業にみそめられし者》
=====================
「え〜たったの4しか上がってないのか〜やっぱ人が見てると極悪非道な事もできないから全然スキルポイント上げられねぇや」
ヴーッ
「ん?あっ、佑衣からだ」
『佑衣:琳明日何してるの?』
『Rin:今日マルチゲートのブラックボックスでブラックオークションのチケットゲットしたから、明日行ってくる!』
『佑衣:え!?ブラックオークションのチケット!?ビギナーズラックだ絶対!』
『佑衣:連れて行ってよ〜!』
『Rin:連れて行くって無理でしょ〜、同伴とかできんの?』
『佑衣:一応パーティー組めば1人までなら連れて行けるんだ〜』
『Rin:マジか!じゃあたけるに連絡してみるか!教えてくれてありがとう!』
『佑衣:最低ー!魔法でぶっ飛ばすわよ〜』
『Rin:佑衣からそんな覚醒者ジョークが聞けるなんて、びっくりだぜ...まぁ冗談はこの辺にしておいて、明日一緒に行くか?』
『佑衣:行きたーい!』
『Rin:じゃあ佑衣には美味しい焼肉を奢ってもらおうかな!タダでは同伴させねぇぞ!?』
『佑衣:wwwww相変わらず面白さは変わんないね琳は』
『佑衣:いいよ!明日はあたしの奢りで焼肉に行こー!!』
『Rin:うぇーい!レッツゴートゥーニクヤキ〜!じゃあ明日東京支部で待ち合わせとかどう?』
『佑衣:いいね!丁度そこの近くにある新しくできたカフェのアイスラテ美味しいらしいから買ってからいこ!』
『Rin:了解ー!じゃあまた明日!』
『佑衣:うん!じゃあね〜』
『Rin:あ!そういえば佑衣から連絡してきたけど、何か用事があったのか??』
『佑衣:あ〜、明日教えるね!』
『Rin:気にさせて俺の睡眠を妨げようたって、俺は寝れるぜぇい?』
『佑衣:そういえば琳って寝る速度めちゃくちゃ早かったよねwww』
それから再び他愛もない会話を何回か続けて行くうちに眠気に襲われ、キリの良いところで今度こそメールを終わらせ、明日急遽佑衣と2人でブラックオークションに参加する事となった。