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昇格試験


一定のリズムで尻を打ち付ける衝撃に目を覚まし、電車に降りて見知らぬ所から、見慣れた筈だった街並みの変化を楽しみつつ地元の街を歩く。


「体感で言ったら1週間ぶりだけど、なんか凄い変な感じだ」


そう言いつつ家のマンションのオートロックを何故か家にコールするのではなく、人が出てくるタイミングで入っていく。


「母さんもりのも俺が死んだと思ったらなんか会うのが怖くなってきたぞ...2人には何があったかをちゃんと話そう...」


そしていよいよ自分の住んでいる階層でエレベーターが止まり、扉の前にまで立ちインターホンを鳴らした。


扉が開くまで何を言おうか考えようとしたものの、すぐさまハンドル型のドアノブが降ろされ、開いたドアの隙間に体を寄せていった。


「母さん」


「...えっ」


琳の顔を見るなり、目を大きく見開き、少しの時間硬直する。


琳にとって久しぶりではないが、2年という年月が流れていたのは事実としてあり、若干顔のシワが増えた様に見え、少しだけ心が痛む。


「俺だよ、琳だよ!」


「息子って...」


いまだにどういう状況か掴めていない上に、その場で突っ立っているのを見かねて、自分から両手で母親の顔を胸元に抱き寄せる。


変わらないいつも通りすがりに香る匂いと、小さくて大きな存在を感じながら、琳は目一杯抱き終えるとーー


「ん?もしかしてこの2年で息子の顔ーー」


「失礼ですけど、どちら様ですか?」


抱擁がおわると、更に見開いていた目に、忘れられたのかと少しばかり不安を感じながらも、放った言葉を遮られて放たれた言葉に今度は琳の方が硬直した。


「どちら様って...加ヶ野琳、ですけど」


思わずなってしまった琳の敬語に対して、麗美は更に追い討ちをかけた。


「息子って言いましたけど、うちには娘以外は...」


「え?娘さんって加ヶ野莉乃ですよね...」


「...なんでそれを?」


見開いていた麗美の目が、恐怖からきていると莉乃の事を口にした途端、漸く理解ができた琳は、この状況では何を説明をしても意味がないと悟り、抱擁をしておいて間違えたと慌てて説明し、一旦その場を急いで離れた。


(待て待て待て...いきなり帰ってきたのに息子の顔を忘れただけじゃなくて、存在すらしていない認識ってどうなってんだよ!)


それから琳は状況を整理しながらマンションの下で莉乃が帰ってくるの待つ事にした。


(もしかして俺がいなくなったショックとかで、忘れたとか??いやいやそこまでのショックだろうけど、そこまではいかないでしょ流石に)


そんなこんなでただひたすらにマンションの階段で莉乃の帰りを待っていると、エレベーターの方から聞き覚えのある声がしたので、急いでエレベーターへと向かう。


そしてエレベーター出ていった莉乃らしき人物の後ろ姿が見えると同時に、隣にいるスーツを着た中年の男を見て、琳は立ち止まってしまった。


「...えっ、おや..じ?」


植物人間だと診断され、もう2度と寝顔しか見られないと思っていた人物が、今は目の前で買い物袋を持ったまま歩き、莉乃と談笑していた。


本来ここにいるはずがないと思っていた人の登場に驚きのあまり思考が追いつかないものの、何とか当初の目的を思い出し、体は動かないものの、口を開いた。


「あの!」


その一言だけで琳の欲しかった答えが返ってきた。


「ん?はい」


「どうかしましたか?」


「...あ、いえ、人違いでした...すいません」


「はぁ...」


反応と返ってきた言葉を見るなり、聞かずとも忘れられている事が分かっただけでなく、莉乃だけでなく、予想していなかった父親からも忘れられていた事にショックのあまりその場を後にした。


本来であれば死んだと思っていた人物が帰って来れるのは失った人も亡くなったと思われていた方にとってもいい事の筈が、相手に忘れ去られた事で居場所も帰る場所も失っている事に、どうして良いのか分からなくなってしまう。


「なんでだ?忘れられたんだ...」


様々な思考が頭の中を駆け巡る中、最初に口から溢れたのは疑問だった。


「何が原因なんだ...あの変な空間に居た所為か?それとも力を貰った代償なのか...」


結局そこから1時間程マンションの下で考えていたが何も分からず、交通費で余ったお金を使いこの日はホテルで泊まる事にした。



そして次の日の朝ーー



「家族の事は無事だって事が分かったから一先ず考えるのはやめだ、今日は俺が居た痕跡を探しにいく」


そう言って琳が向かった先は、市内にある母校だった。


たった2年で変わった所はないが、唯一の心変わりはあった。


「そうか...俺もう卒業しててみんな居ないのか...」


少し寂しい気持ちもしたが、気持ちを切り替えて受付へと向かう琳。


懐かしさは勿論なく、秋休み明けくらいの感覚で登校するような気持ちの足取りで受付に到着した。


「すいませーん」


「はいはい、どうしましたか?」


「鹿島先生っていらっしゃいますか?僕1年前にここを卒業したのですが、ちょっと相談したい事があって...」


「あぁ鹿島先生!ちょっと待ってね...この訪問者名札を掛けたら校舎の中自由に歩いて良いから、自分で探して貰えるかな?」


「あぁ大丈夫です!」


そう言って首掛けストラップの付いた訪問者と書かれた名札を掛けて、校舎内を歩き始める。


「先ずは職員室だな...」


平日の午前なので、何処にいるのか分からないので、先ずは1番可能性のある職員室から探し始める。


当時から琳の家庭での境遇を知っていた鹿島は、何か相談事があると親身になって相談に乗ってくれる、先生と生徒の境界を超えた兄と弟の様な関係だった2人。


ガラガラッ


「すいませーん...あっ!あのー、鹿島先生を探してるんですけど」


「訪問者の方ですか、鹿島先生は今ーー」


学校で何度かすれ違った事のある名前も知らない先生に、丁度職員室に入って横を取ったので、質問し、丁寧に答えようとしてくれた所で、甲高い声が悲鳴のような声が職員室中に響き渡った。


「きゃっ!えっ!?嘘でしょ!?」


声のする方を見ると、両手で口元を押さえ込んで、その目を大きく見開いた女性の先生がこちらを見ていた。


「あ、平山先生...」


探していた鹿島先生では無いが、大きい声を上げたのは、当初隕石が降りかかった際に授業をしていた世界史担当の平山先生だった。


目と目が合うなり、真っ直ぐ信じられないような顔で、そろりそろりと口元を塞いだまま擦り寄ると、今度は中年男性の驚く声が職員室中に響き渡った。


「おいっ!お前っ!加ヶ野なのか!?」


「あ、小野田先生...」


声の正体は、体育担当の小野田先生だった。


「お前生きていたんだな!!今まで何処にいたんだ!?」


「あのゲート内でちょっと事故りまして...」


「いやいや!テレビでも言ってたけど、みんなお前が死んだと...」


「なんかすいませんほんと...」


と先生の勢いに押されて、大事な事を忘れていた事を思い出した琳は何拍子か置いた後、口を開いた。


「あれ、もしかして僕の事覚えていますか?」


「当たり前だよ加ヶ野君!ここにいる先生だけじゃなく、仲の良かった佑衣ちゃんもみんな泣いてたんだよ!?」


「そうだぞ!兎に角無事で何よりだ!!」


(そうだよ!!これだよ俺が欲しかった反応は!!)


「それは本当にご心配おかけして申し訳ありません...今日はちょっと鹿島先生に用事があったのと、先生の皆さんに生存報告をしにきました...」


「そうかそうか!鹿島先生なら、さっき朝礼が終わってもうすぐ職員室に戻る頃だから待っときなさい!ははっ、本当に驚いたなこれは...」


それからお世話になっていた色んな先生に声をかけられ、少ししたら鹿島先生とも再会し、驚きのあまり腰を抜かしてしまい、何とか時間を設けてもらい、他の先生や校長までにも気を利かせてもらい、2人談話室へと案内された。


「ぐすっ..親御さんもさぞかし驚いてただろうな...」


「それはもうって言いたい所なんですけど、ちょっとそれを含めて相談したい事が」


琳の真剣というより、悲しそうな眼差しを見るなり、何かを察した元担任の鹿島は、泣くのを一旦押さえて、真っ直ぐソファーに座り直した。


「その様子だと何かあったんだな」


「結論を言うと忘れられてました...莉乃にも母さんにも、それと目を覚ました父さんにも」


「え?親御さんがお前を思い出せなかったのか?」


「と言うより、母さんの言い方だとそもそも存在していなかったかの様な言い方だったんですね?」


「どういう事かさっぱりだな...」


「それが昨日の事で、もしかしたら元々存在していない事になったのかが心配になって学校に来てみたんです」


「そうかそうか...そうとも知らずに情けないところを見せてしまったな...」


「いやいや!めちゃくちゃ嬉しかったです!家族に忘れられたって分かった瞬間、自分の居場所が無くなった気がして凄く寂しかったんですけど、ここに来て先生達に覚えられていた事がめちゃめちゃ心の支えになりました!」


「それなら良かった...居場所がなくなる体験を先生はした事が無いから分からないが、とても辛いんだろうな...」


「これで先生達に忘れられたら危なかったですよ〜、それより本題なんですけど」


「佑衣達に連絡を取りたいのか?」


「はい。今はなんだかアイツらに自分の安否をいち早く伝えたいんです」


「そう言う事だったら、えぇっと...2時間だけ待って貰えるか?」


「ん?良いですけど、どうかしましたか?」


「とりあえず卒業アルバムと、文化祭のDVDを持ってくるから待っててくれ、その間に連絡先を調べておくから」


「はい...分かりました」


突如立ち上がり、慌てた様子で談話室から出ていき、すぐさまノートパソコンと卒業アルバムを手渡され、部屋から出ていった琳。


卒業アルバムを見ると全クラスで行われた1年生から3年生の行事を写した写真があり、そこには一部クラスメイトが写り込んでいるのを見て1人微笑むと同時に懐かしむ。


そして体育祭、文化祭、修学旅行とページは進んで行き、最後は各クラスごとの個性が表れたページがあり、Aクラス、Bクラスと来て琳のいたCクラスのページへと来た。


「ハハッ、懐かしいな、確か初めていつもの4人で祭りに行った時の写真じゃん、あ!これは確か健が猿に絡まれて驚いてる時の!撮ったの絶対一花だなこれは...あー、はいはい、そういえば行ったなこんな所!」


それからアルバムと文化祭の動画を見ながら、高校にいた3年間の思い出を色々と思い返していると、すぐに約束の2時間が経っていた。


それからやることも無いので少し待っていると、慌ただしい足音が聞こえ、何やら鹿島先生の慌てた声が聞こえた。


「ちょっと待て!他の2人は!?」


誰かを抑止している様な喋り方に、誰かがこの部屋に入ろうとしているのがなんとなく分かった琳は、扉に向かいながら誰だと考えていたら、突如目の前の扉が勢いよく開けられた。


バンッ!

「っ!」


「琳っ!!!」


開いた扉から見えたのは、酷い泣き顔を浮かべた佑衣で、琳の顔を見るなり、すぐさま飛びかかる様に琳に抱きついた。


「おっふっ、佑衣!?」


「うわああああああん、どこに行ってたのよ今までぇええええ!!!ばかばかばか!!」


嬉しいのか、悲しいのか、怒っているのか、同時に進行している結衣の感情に、戸惑いながらも余った両手を背中に優しく当てながら、ただただ言われるがまま、やられるがままの態度をとった。


それから5分ほどしてから落ち着きを取り戻し、ヒックヒック言いながらもなんとか話せる状態になった結衣だったが、タイミングが良いのか悪いのか、再び慌てた足音が、それも今度は2人の足音が聞こえた。


(あ、ちょっと待ってほしい...今やっと)


バンッ!

「琳っ!!!本当に生きてるのか!?偽物じゃ無いのか!?」


「本当に琳だ!!ほんっとにあんたは!!」


再び扉を力強く開けたのは健と一花で、佑衣の時と同じく2人も琳に飛びかかった。


「先生っ、2時間待ってほしいっていうのはこれのっ、呼んでくれたんっすかっ...ちょっどさくさに紛れてケツ触ってんの誰だよ!」


柔らかい笑顔で4人の再会を見た先生は、その瞳に涙を浮かべながら、小さく頷いた。


「後は4人でゆっくり話しておきなさい。それをコレを」


そう言って鹿島先生から手渡された一枚の紙をよく見ると卒業証書と書かれた文字が見えた。


「卒業おめでとう」


「...ありがとうございます」


卒業した実感もないまま、不思議な気持ちでその言葉を受け取った後、4人は思い出話に花を咲かせながら、それぞれの卒業後からの近況報告を話してくれた。


まず健は高校を卒業後、当時ゲート攻略の最前線に立っていた東京の攻略組チームに入り、その活躍を認められて、今では国内3位の大手ギルド『クサナギ』のメンバーのチームリーダー格になっており、なんとA級覚醒者との事。


次に一花は大学の進学を考えていたが、健に無理やり勧誘されたという事もあり、渋々攻略組に入る事になり、それからは健と同じくクサナギに入り、現在もギルド内で活躍中との事。そして驚きの健と同じA級覚醒者。


そして結衣は一花に攻略組に誘われたが大学に進学する道を歩み、現在は市内にある大学生で休みの日は小さいギルドのお手伝いをして生活費を賄っているとの事。覚醒者診断は受けておらず、何級に分類されてるのは分からないが、健曰く、一度ギルドの手伝いをしてもらっていた際の活躍を見たところ同じA級の素質はあるとの事。


そしてそれぞれの近況を話終わった後、一花の一言で、楽しい空気は一変して少し物静かな空気と化した。


「ねぇ琳、聞いて良いか分からないんだけど、その2年前のゲート内の失踪ってどういう事だったの?」


「そうだな...みんなには本当の事を言っておかないとだな...」


そう言って琳は2年前、自身の身に起きた出来事を事細かく3人に説明した。


ダンジョンをクリアした後に丈に半殺しにされた挙句、脱出を阻止された事、永遠の暗闇が続く虚無に1人虚しく沈んでいた事、そして彷徨った虚無の中で見つけた化身と呼ばれる存在との邂逅し、その存在のおかげでみんなの元に帰れた事。


体感ではあるものの、それらの出来事が2週間しかなく、それ以外の時間は眠っていた事や、プレイヤーの資格が戻った上に化身君から貰った力の事も全て話した。


「丈...あの人殺しっ」


「許せない...こんな目に遭ったのも全てあのクズの所為だったなんて」


「人を殺しておいて、あんな平気な顔をしてクラスの中に居たって考えると...」


話を聞いた全員の最初の感想はやはり丈にされた仕打ちに対するものだった。健は普段見せない怒りを全面に溢れさせ、一花も同様に怒りを感じ、結衣に至っては悲しそうな表情で言葉を詰まらせていた。


そんな折角の再会なのに淀んでしまった空気をなんとかしないと思い、琳は慌てて口を開いた。


「いや、まぁもう過ぎた話だから良いんだけど、それ以上にきつい事があって...俺家族みんなに忘れられちゃってるんだ!」


「嘘だろ?莉乃ちゃん達にか?」


「うん、昨日帰ったら母さんに忘れられてて、少し待って帰ってきた莉乃にも忘れられてて、そんで何故か親父が莉乃の隣にいて、親父にも忘れられてた...」


そう言いながら、母親に忘れられた際も、妹と父親に忘れられた際も、鹿島先生に話した時と同様に心にハリが刺さった様な痛みを感じながら話していたが、安心し切ったのか、言葉を発し終わったと同時に抑えていた何かが、瞳の中からじんわりと滲んだ後、こぼれ落ちた。


居場所が無くなったと思っていたが、残っていた居場所があった事による安心感に加え、横にいた佑衣が静かに琳を胸に抱き寄せた事で更にこぼれ落ちた物が今度は溢れ始めた。


そして少し時間が経ち、落ち着きを取り戻した後、話の本題に入る。


「まさか今日会えるなんて思っても見なかったよ本当に...それでさちょっと申し訳ないんだけど...」


「言わなくて良いよ琳、助けてほしいんだろ?それくらいどうって事ねぇよ、今や大手ギルドに居る俺と一花の資産凄いんだぞ?」


「こら、そんな事いちいち言わなくていいのよっ、それで琳はこれからどうするの?」


「それなんだけど、住む所もないし、お金もないし、何もないからさー、健!お前の家に居候させてくれないか?少しの時間で良い!ちょっと家族の問題が解決するまで泊めて欲しい!」


「あー...その事なんだけど...泊まるのは良いし、お金も全然お前だったらあげても良いくらいなんだけど...」


琳の言葉に突然歯切れの悪い感じで話す健に対して、一花が健の横腹を突いた。


「俺今同棲してるんだ...その、一花と!」


「あぁ同棲してるのか!仲良いもんな〜お前ら〜、でも何で同棲、同棲!?同居じゃなくて!?」


「そう、だから琳が気を遣わないんだったら、私達としては大歓迎だけどね、でももっと良い方法があると思うけど」


そう言って一花は視線を琳から、隣でニコニコしながら一花と健の報告を聞いていた佑衣に向けた。


「えっ!?私っ!?」


「あなた以外に誰が泊められるって言うのよ?それとも琳を1人でホテルに泊まらせるつもり?また何処かに消えてしまったらどうするの?」


集まった目線に、慌てふためきだす佑衣の側に座り、佑衣越しに琳に向かって含み笑いをしながら話し始める一花。


「私もそのー...報告が遅れちゃったんんだけど...実は今、付き合ってる人が...」


「んがっ!」


「えっ!?」


「うそっ!?」


佑衣の口から放たれた衝撃の言葉に、声が漏れる琳に、驚く健と一花、それから話題の矛先は佑衣に向けられた。


「誰誰!?あたしの知ってる人!?年下年上!?大学の人!?」


「大学の同じサークルの先輩で..す」


キャラを忘れ、大声で佑衣を問い詰め、出てきた答えに琳と健は野太い歓声を上げた。


「そ...そんな事より琳の泊まるところでしょ!?結局どうするの?ていうかこれからどうするの?」


「んーまぁまずは泊まれる場所があれば、家族の事を片付けようかなと思ってる、戸籍とか何やらないと何もできないだろ流石に...だから何で忘れられたのかをまずは解明したい所だな」


「それだったらうちのギルドが管理してる病院を紹介できるけど...親御さん達をどう連れて行くかだよな...」


「んー、今適当に思いついたアイデアにはなるけど、無料で健康診断を受けられる!みたいなポスターをウチのポストに入れて、それでギルド管轄の病院まで行かせたところを、健康診断と称した記憶障害の診断をさせるって言うのはどうだ?」


「そんなうまいこと行くかー?」


「無料と割引に引っかからない主婦なんてこの世に存在しないだろ?わかんないけど、取り敢えずできそうではあるか?」


「どうかな...一応上の人に事情を説明聞いてみるけど、どうだろうな?」


「一応上に聞いてみる前に達風さんに相談してみれば?」


ひとまず今後のやるべき事が見え始め、一旦は琳の泊まるところを一花に手配してもらい、健は病院の手配を進めて行く事が決まった。


それから4人は解散し、琳は健に指定されたホテルへと向かった。


「ほぇ〜、でっかいホテルだな〜」


都内に聳え立つ数々のビルの中でも、負けず劣らずの大きさを誇る、都内でも屈指の5つ星ホテルと称されたその外観を見て、改めて健と一花の凄さに感嘆する。


それからフロントで色々手続きをし、部屋へと案内される。


そして部屋の中に入って間もない段階でドアのノック音が聞こえ出てみると、大小様々なダンボールが積まれた荷台を運んでいた従業員がそこに立っていた。


「こちら健様からお預かりしておりました荷物で、加ヶ野様がいらした際にお渡しして欲しいと、お願いされていたものです」


そう言って従業員は一枚の紙切れを琳に渡すと、丁寧に腰を曲げて、何処に行ってしまった。


【ひとまず必需品を用意したから使ってくれ!費用は出世払いでいいから、取り敢えず今は何も考えるな!】


そして積まれた段ボールを全て開封して行くと、中には洋服やお菓子などが大量に入っており、スマートフォンとノートパソコンも中に入っていた。


「やば...こんなにももらっていいのか本当に?」


それから琳はスマートフォンとパソコンを立ち上げ、全ての初期設定を終わらせると、すぐさま情報収集を始めた。


そして気がつくと日も暮れ、その日の午後は全て情報収集に集中し、次の日の朝ーー


「マップだとこの位置に...あぁ、あれか!」


地図アプリで目的地を確認しながら、たどり着いた先は覚醒者協会の東京支部だった。


(茨城支部とは違ってなんか映画館見たいな中だな)


昨日調べた協会の情報によると、まず日本に現れているゲートの大半は協会で管理されており、覚醒者の大半は協会でゲート攻略の予約を行なっているとの事だった。


「ゲートのご予約ですね!かしこまりました!ではまず協会を初めてご利用頂くにあたりまして、まず適正レベルのゲートを推奨する為に、能力測定とこちらの基本情報のご記入のご協力をお願いしておりますので、あちらの4番ゲートにお並びください!」


フロントの男性スタッフに案内された4番ゲートに進んでいくと、リビング程の広さの部屋に案内され、中には大きなモニターと黒く派手な装飾をされた1メートル大の台の様な物があった。


「あ、能力測定ですね、まずはこちらのタブレットに個人情報をご記入ください〜」


そう言って女性スタッフに渡されたタブレットに住所、氏名、年齢を記入した後、台の前まで案内され、手を置くように言われ、言われた通りに手を置く。


「それでは測定を始めますので、測定器から手を離さないようにしてくださいね〜」


すると真っ黒だった測定器が、突如琳の置いている手から青色に光だし、それから光が徐々に下へと流れていくと、測定終了の合図がされ、目の前のモニターを見るとーー


【F-3】


「エフスリー?」


「F級ですね...ではこのまま受付の方にお戻りください」


淡々と言われたF級の言葉、ネットで見た等級付けはS〜Fで勿論Fが最下級だが、何故かショックを受ける事は無かった。


そして再び受付へと戻ると、少し残念そうな面持ちでこちらを見ていた受付の人に、ただただ気まずそうににっこりするしかなかった。


「今回はとても残念な結果にーー」


「その、ネットで見たんですけど、F級だからずっとF級のゲートにしか入れないってことでは無いですよね?昇格試験みたいな物もあるって聞いたんですけど...」


意味もない同情をしてくれた受付員の話を遮り、琳は気になっていた事を受付員に聞くと、慌てた様子で琳の言葉を肯定した。


「では早速なんですけど、昇格試験の予約をお願いします。あっ!後一応聞くんですけど、飛び級昇格は可能ですか?」


「飛び級に関しましては、プレイヤー様の安全を考慮した上で、できない仕様となっております...」


「んー、まぁそうですね...じゃあ早速E級の昇格試験の予約をお願いします!できればければ早いほど良いです!」


「少々確認の方を...あっ、丁度今本日の昇格試験に空きができましたが、いかがーー」


「それで!!」


「...予約しました!因みにE級への昇格試験なので、ゲートレベルはE級となります。ではコレより1時間後と急ではありますけど、よろしいですか?」


「勿論です!場所はどこですか?」


「世田谷にあります、青ガメ公園というところです」


「昇格試験にあたっての注意事項は何かありますか?」


「身の危険を感じた際には、直ぐに引き上げるか、ゲート前の係員から支給される非常装置を押してください」


「わかりました!ありがとうございます!」


こうして淡々と進んだ昇格試験に、上機嫌になりながら昇格試験の場所へと向かう。


携帯のマップアプリを頼りに、見慣れない住宅街を歩いていると、黒のセダンが何台も止まっている場所が見えた。


そして徐々に近づくにつれ、マップに示された場所がセダンの止まっている場所だとわかり、そのまま歩いていると、立ち入り禁止の黄色いテープがあちこちに巻かれていた。


(名前の通り青い亀の銅像がある...って事はやっぱここか〜)


青い亀の銅像の背後に見えたゲートとその周辺で何かを話し合っているスーツ姿の2人組を見て、すぐさまテープを跨いで中へ入り声をかけた。


「あのー、昇格試験に来たんですけど、場所はここであってますか?」


「おっ、来たみたいだよ!君がF級覚醒者の...」


「加ヶ野琳です!」


「加ヶ野くんね!僕は鬼嶋で、こっちのいかつい坊主が矢野原です!」


「矢野原っす」


スーツの格好した、七三分けの塩顔の鬼嶋と呼ばれる男性が丁寧に挨拶し、その後ろでボソボソと小さい声で挨拶をするホワイトブロンドの坊主頭が印象的な矢野原も挨拶を重ねる。


「加ヶ野君は一応年齢が未成年だから、一応僕たち協会の人間がゲート内に同行するルールになってるからよろしくね!基本的にゲートの攻略は加ヶ野君1人に任せるから、その辺は任せるよ!それとこれも渡しておくね」


そう言って鬼嶋は手に持っていた棒状で先に赤いボタンのついた何かを渡した。渡された物になんなのかを問おうとしようとする前に、鬼嶋は危険を知らせるボタンだと説明し、電源を入れて押すと、直ちに2人に信号が送られ、すぐに助けに入ってくれるとの事だった。


それからゲート内での注意を幾つか聞き、1時間と言う時間制限を設けられた中、試験開始の時間が迫ってきた。


「よしっ!準備できました!」


「よし、じゃあ行こうか」

「うす」


ゲートの前で軽い準備運動を済ませ、琳を先頭にゲートの中へと入っていく。


ピロンッ

【ダンジョン:ソルベの花畑への侵入を確認しました】


薄暗い空間を歩き続けた先に広がったのは、見渡す限りの花畑だった。


黄色、青、赤、緑、白、橙色、ピンクといった艶やかな色に、見ているだけで目が疲れる様な景色に心奪われていると、琳の背後に立っている鬼嶋が袖を捲り、顕になったスマートウォッチをぽちぽち押しばがら、試験開始の合図を口しにする。


「それでは今から1時間、ご武運を祈ります」


こうして試験が開始されたが、琳は真っ先に地面へと座り、システムウインドウを開いた。


=====================


『加ヶ野 琳』

◼︎非覚醒者


◼︎Lv:1

◼︎Exp:1043


◼︎HP:153/153

◼︎MP:0/0


⚫︎STR:10(+15)25

⚫︎VIT:10 (+15)25

⚫︎RES:10 (+15)25

⚫︎DEX:10 (+15)25

⚫︎AGI:10 (+15)25

⚫︎INT:10 (+15)25

⚫︎MEN:10 (+15)25

⚫︎LUK:10 (+15)25

⚫︎KRM:16


▼スキル

《六識》


▼称号

《業にみそめられし者》


=====================


「あれから忙しくてステータス確認するの忘れてたけど...レベル上がんねーじゃねーかー!!」


ピロンッ


何も変わっていないレベルとステータスを見て大きく天に向かって叫んだ途端、琳の声に呼応するかに様にシステムウィンドウが画面の中央に現れた。


【特殊ステータス『KRM』により、溜まったKRMはそのまま他のステータスに付与する事が可能です】


「んーーー!許す!...てか何それ、強くない?」


そう言って琳はステータス画面の1番下にある『KRM』の文字を指で押した。


ピロンッ

【KRM:人道の外を歩み、業を犯した者に課されるペナルティポイント。


*犯した業によって、得られるポイントに変化あり。

*一度犯した業によって得られたポイントは再度獲得不可能。】


「んー、要するに悪い事したらたまるポイントなのか?て事は悪い事すれば強くなっていくのか...それに一回やった悪いことは2回目は無効か...うん、喜んでいいのかダメのかわからん!」


それから表示されているステータスの後ろに『+』ボタンがあるのが見え、琳は溜まっていたステータスをSTRとAGIに均等に分けて全て振り分けた。


「やっぱ速さと力でしょ!」


そして振り分けたステータスを確かめるため、少し走ったりすると、驚くほど速度が上がっている事に、思わず声を上げる。


「はっや!おぉ!パンチの速度もプロボクサー以上だぜ!」


「一応試験なのに凄く楽しそうだね」

「うす」


そんな琳のはしゃぐ姿を見て、ダンジョンの雰囲気もあってか、和やかな気持ちになる鬼嶋と矢野原。


ピロンッ

【警告:ダンジョン内モンスターがプレイヤーの侵入に気がつきました】


警告してきたシステムウインドウに対し、直ぐに周りを警戒すると、地面から耳障りな羽音を鳴らしながら、3匹の蜂と蚊を混ぜた様な見た目のモンスターが現れた。


【モスビー Lv8】


「地面から出て来たって事は...」


足元の花が咲いているのその下をよく見ると、網目の様に枝がびっしりと生えていた。


ブゥンッ


そんな屈んで地面を見ていた琳に、モスビーは躊躇なく鋭い口元に生えた針を突き立て、襲いかかるーー


ガシッ

「ふんっ!」


ベシャッ


片手で握られた針で勢いを止められ、こちらも躊躇なく、必死に羽根を羽ばたかせ逃げようとするモスビーを地面に叩き潰した。


そんな琳の一撃に艶やかな色味の花達は一瞬にして真っ赤に染まり上がり、たったそれだけの動作で力の差を感じたのか、別々の角度から襲いかかって来ていた2匹のモスビーは勢いを止め、向かう方向を変えた。


「分かれて逃げるなんて賢いなぁ〜ふんっ!」


既に絶命し、ぐったりとなっている手元のモスビーを逃げた1匹に投げ当てると、別方向に飛んで逃げているもう1匹のモスビーに追いつき、羽根をむしりとった。


「うわ〜、武器がないのかな?倒し方が原始的で残酷だねぇ〜」

「やばいっす」


そんな琳の戦い方を感嘆の声を上げて驚く鬼嶋と矢野原。


それから羽根をむしった後に叩きつけてモスビーを倒した後、勘を頼りに鬼嶋達のいる出口とは逆方向にある小さな丘へ向かい始める。


小さな丘を登り終えると目の前には何もなく、驚く光景が広がっていた。


「うわ〜すっげぇ〜、コレってもしかして、全部が木の枝?」


丘の先に想像していた花畑はなく、数メートル先や、上下左右にそれは円形エリアとして点々と存在し、そのエリアの下を見ると、3重程に重なって捻れた太い木の枝が支えており、遥か下の方で1つに繋がっていた。


ピロンッ

【モスビーの放つフェロモンが他のモスビーによって察知されました】


そんな警告ウィンドウが表示された次の瞬間、目に見えた円形エリアから、無数の影が飛び立ち、一斉に琳のいるエリアへと分厚い羽根音を重ね合わながら向かってきた。


そして瞬く間に上下左右、全方位をモスビーの大群に包囲され、1匹ずつではなく、一斉に大群で押し寄せて来た。


(正面で見えてる限りでも20匹いるぞ!)


どの方向を見ても、美しい花畑よりモスビーが視界を占める割合の多いのを、琳は咄嗟に来た道の方角を勘で向いて、力いっぱい地面を蹴り、走り始めた。


ブシュッ!


勢いよく走った衝撃で、目の前にいたモスビーは吹き飛んだものの、鋭い嘴は肩の1箇所、太ももの2箇所にモスビーごと突き刺さっていた。


しかしそんな刺さっているモスビーの嘴を退くことなく、痛みを堪えてながらひたすら突き進むと、モスビーの包囲を抜け出した。


(いた!)


塞がれた視界が晴れた琳が真っ先に見たのは、数十メートル離れた場所で、こちらを見ていた鬼嶋と矢野原だった。


見つけた瞬間に、2人から少し右にズレた位置に向かって走り出し、2人を通り過ぎると、鬼嶋達を対角線にする。


「え?なんかこっち向かってきてないか、矢野原君!?」


「そうっすね、どうしましょ」


方向を変え、こちらに向かって飛んで来ているモスビーの大群に、一瞬ゲートの外に出ようとしたが、それだとゲートを通じてモスビー達が街に放たれてしまうので、やむ追えず2人はインベントリに手を伸ばした。


「まんまとあの子にやられたね〜コレは」

「くるっす」


「ここは僕1人で大丈夫だよ矢野原君」


そう言って鬼嶋は七三に分けた髪が散らないように手で優しく片手で抑えながら、インベントリから1本の長い槍を取り出した。


「へぇ〜、あの人槍使いなんだな〜」


まるで他人事の様に、モスビーのヘイトを向けた相手に対し、ゲートの後ろから覗き込む琳。


琳が直接体験した最初の隕石、ファーストインパクトによって覚醒した『ファースト』ではなく、その後に落ちた2つ目の隕石によるセカンドインパクトによって覚醒した『セカンド』という部類に入る鬼嶋真。


何故この最初の隕石と2つ目の隕石によって誕生した覚醒者の名前を分けていたか。それは近年の研究成果によると、ファーストインパクトで現れた第一次覚醒者とセカンドインパクトで新たに誕生した第二次覚醒者と呼ばれる者達とで違いがあったからだ。


第一次覚醒者のファーストはステータス、スキル、身体能力が優れており、それに比べ第二次覚醒者のセカンドはスキルの質が高く、スキルによってその強さが左右される。


そんな鬼嶋はセカンドインパクトで手に入れたスキルの中でも一際珍しいとされている、職業を定められたスキル、通称ジョブスキルと呼ば『ブリッツランサー』を発動した。


湯煙の様に全身から溢れ始めた真紅のオーラに、持っていた槍が呼応する様にその銀色の槍身を赤く光らせるとーー


バババババババッ


1匹2匹と数える隙などない程に、次々と目の前のモスビーの大群をものの数秒で数を半分にまで突き減らしてしまう鬼嶋。


「コレくらいでいいでしょう!」


そんなほぼ一瞬で群れの半分を壊滅させられた事に、モスビーの軍団は目の前の槍を握る人物は一旦無視をし、その奥に隠れていた琳に再び標的を定めた。


「勝てないってわかった途端俺の方に来るのかよ...ははっ!」


舐められている事に笑っている琳に向かって、低空飛行で飛んできていた1匹のモスビーが琳の太ももに鋭い口を突き立てたその瞬間ーー


グシャッ!


上から迫り来る思い衝撃に、抵抗する暇もなく身体地面に押し潰された。


それから返り血の滴る何かを持ち上げて、今度は目の前から飛んできたモスビーに対して、振りかぶる琳を見て、鬼嶋と矢野原は目を見開いた。


「あれって...木の枝?」

「...うす」


琳の丁度真下に生えていた捻れた枝の様は綺麗にちぎられ、そのちぎった部分で次々と目の前をモスビーの大軍を薙ぎ払っていく。


鬼嶋の様な洗礼され、鍛錬によって磨かれた華麗な突きとは反対に、琳の振り回す太い木の枝は、ただただ力任せに振り回されているものの、その勢いは体を少し当たりどころが悪かっただけでも一瞬で絶命するほどの威力だった。


そして大群だったモスビーは徐々に数が減っていき、気がつくと両手で数えられるレベルの数にまで減らしたところで、手を止める琳。


「言葉が通じるか分かんないけど、今すぐ逃げるんだったら見逃してあげるけどどうする?」


先ほどまで暴れていたのに、突如手を止め何かを喋っているその相手に、モスビー達も意味は分からないが、攻撃してこないのであれば絶好のチャンスとばかり、本日2回目の逃亡を図ったモスビー達。


「おやおや、逃げちゃったけど大丈夫かな?」


そんな一連の動きを見ていた鬼嶋達は、首を傾げていると、次の瞬間何やらシステムウィンドウをいじった直後、その場から消え去ったかの様に、一瞬で手前で逃げていたモスビーに走って追いついた琳。


ズシャッ


容赦なく脳天に枝を深くめり込ませ一瞬にして倒すと、次の標的に移動して同様に倒していく。


「なんかさっきより動きが速くなってきてない?あれ本当にF級なのかな?」

「わかんないっす」


「へっへへ!コレぐらい悪者っぽく振る舞えばポイントも増えそうだな!」


そして何体かは仕留め損なったものの、取り敢えず倒せるだけ倒し、どれくらいポイントが増えたか確認するとーー


=====================


『加ヶ野 琳』

◼︎非覚醒者


◼︎Lv:1

◼︎Exp:1043


◼︎HP:153/153

◼︎MP:0/0


⚫︎STR:18(+15)33

⚫︎VIT:10 (+15)25

⚫︎RES:10 (+15)25

⚫︎DEX:10 (+15)25

⚫︎AGI:21 (+15)36

⚫︎INT:10 (+15)25

⚫︎MEN:10 (+15)25

⚫︎LUK:10 (+15)25

⚫︎KRM:6


▼スキル

《六識》


▼称号

《業にみそめられし者》


=====================


モスビーに逃げる隙を与えた際に、AGIに振り分けた3ポイント分を合わせて、ゲートに入ってから現在合計9ポイント増えたステータスポイントを見て、ニヤケが止まらない琳は、再びAGIに全ポイントを振り分けた。


(帰ってきて最初に入ったゲートのモンスターが低くてLv14だったから、攻撃力は一旦足りてると思うから置いといて、今はひたすら速度に全振りしようか!)


ステータスポイントの振り分けを終え、経過時間が気になり携帯を見るとゲートに入ってからおよそ10分ほどしか経ってないので、ひとまず辺りを散策する事にした。


枝で形成された花畑を1つ1つ見ていきながら、隠し報酬クエスト等の見落としがないかを確認した後、上から感じる嫌な気配の方へと登っていく。


それからある程度の位置まで登ると、風が強くなり始め、天候も少しばかりか曇りがかってきてる。


そしていよいよ頂点の1つ手前の花畑まで来ると、上を見上げる。


「あれは...花か?にしてもデカすぎだろ」


頂点に咲いた一輪の花に対して呟きながら


咲いたかなり大きな一輪の花が見えると、下の枝に向かって跳躍で飛びつき、よじ登る。


「んしょっ!」


みっしりと隙間が無いほどに生え揃っている枝を強引に引きちぎり、穴を開けてそこから這い上がる。


下から見れた時は花の様に見えたものの、いざ上がると、今までの花畑より2倍ほど広く、円形の縁にのみ花が咲いており、それ以外は全て枝が剥き出しになっていた。


今のところ嫌な気配だけのみが続いており、ボスの様なモンスターは見えない為、足元に生えてる枝を幾つか引きちぎっていると、突如雨が降り出した。


「えぇ〜、ダンジョンの中でも雨が降るのかよ〜、傘持ってないんだよな〜、せっかくの服がー」


そして雨が降ったと同時、濡れた服をつまみながら、眉を顰めて空を見上げた瞬間、それは姿を見せた。


ブォンッ!!


横に吹いていた突風が突如軌道を変えて、頭上から琳の体を押しつぶす様に降りかかり、引き裂かれた雨空の隙間から、4対の翼を大きく広げて降りてきたのは、鷲の様な生き物だった。


ピロンッ

【ボスモンスター:ニンバシラが姿を現しました】


見た目は所々紫色に発光している箇所のある鷲そのものと同じ特徴だが、体格がおよそ昔父親に連れられた動物園で見た世界最大の猛禽類である体長1メートルのオウギワシより4倍ほど大きいものだった。


ブゥンッ

ザスッ

「キエェーーッ!!」


しかしそんな大きさに驚く事なく、翼目掛けて先の尖った枝を一本投げ、それを躱した先にもう一本投げて見事2枚ある左翼の内1枚を突き刺した。


「雨に当たるほど不愉快な物はないから、すぐ退場してもらうーー」

ブォンッ!!


地面を蹴り5メートル程の高さに離れたニンバシラの足元の位置まで一瞬で距離を詰め、枝を振り払うが、負傷した翼を羽ばたかせて発生させた突風に、地面へと押し戻される。


「ふんっ!...もういっちょ!」


今度は手に持っていた1本の枝を投げつけ、その後を追うように別の角度から再び跳躍して、背中を狙う。


ブォンッ!!


しかし結果は同じく翼から発生した風によっ今度は地面に吹き飛ばされた。


「くっ..飛ぶのは流石にずりぃだろ...どうしたもんかな〜」


そう言って思考を巡らせ、1つの案を思いつくと、残った最後の1本の枝を拾い上げて、琳は真後ろへと走り出し、頂上から飛び降りていった。


(どうだ?)

バサンッ!


空中で後ろを振り向いて確認すると、翼を折りたたんで追ってきていたニンバシラが、振り向いてきた琳を見て、再び翼を大きく広げて空中で停滞した。


(背中を向けている間だけ攻撃してくるって事ね...だったら)


ひとまず花畑に着地し、もう一度次の花畑へと飛び降り、今度は背中を露わにしたまま飛び降りていく。


それからそのまま警戒心をゼロに飛び降りていくこと3回目で、ニンバシラは空中にいる琳の背中を両足の爪を服に通し器用に掴んだ。


「ヒットォ!攻撃してきた瞬間を狙ったけど、まさか掴んでくれるなんて!」


掴まれた背中に手を回して、逆にニンバシラの足首を掴み、逆上がりをする要領でお腹に力を入れて、足を振り上げる。


するとニンバシラの足の下にいた所から、服が引きちぎれたものの、ニンバシラの足の上で逆立ちをする事に成功する。


「キイエェェェ!!!


そんな掴んだ筈の獲物が自分の爪から逃げ出した事に慌てたのか、琳を振り落とす為に暴れながら飛び回り始めた。


「掴んだのはそっちだから離すなよっ!」


両足を掴んでいるニンバシラの片足に絡めて体を固定し、そこから平衡感覚を崩されながらも徐々に体勢を変えてニンバシラの背中まで辿り着く。


「へへっここまできたらもう俺の勝ちだよ」


周りの花畑の位置を確認すると琳は徐にに背中に生えている2対4枚の翼を根っこから力づくで引きちぎり、背中を足場にして近くの花畑に飛びかかった。


ドサッ!!


「ふぅ...これでもう飛べねぇだろ!」


落ちていくニンバシラを見下ろし、向こうも運良く花畑に着地するのを確認すると、飛び降りた。


ドサッ!


「後は倒すだけだな」

ピロンッ


何とか立とうと必死に体を揺さぶって立ち上がるニンバシラに止めを刺そうと一歩踏み出すと、システムウィンドウが現れた。


【ニンバシラの体力が10%を下回りました、スキルーー】

グッ!


「どうせっ...死ぬ間際の強化とかだろ...させねぇよ!」


目の前に現れたポップアップを無視し、翼の付け根が発光しているニンバシラの背後に急いで周り込み、首をヘッドロックし力を入れる。


1度目2度目と極限に力を入れたが、それだけで首の骨を折る事は叶わず、3度目で両足で首より下の位置をロックし、頭部を引きちぎるつもりで引っ張る。


「んんぐぐぐぐっ!っしゃい!!」


しかし致命傷を与える事は不可能だったので、一度力を緩め、瞬間的に力を入れると何かが外れた振動が手に伝わり、次の瞬間暴れていたニンバシラがぐったりとその場で倒れた。


ピロンッ

【ボスモンスター:ニンバシラの討伐に成功】


「ふぅ...飛行スキル、攻めて遠距離用スキルとか貰えないのかね...」


ピロンッ

【1時間後にダンジョンが崩壊します、プレイヤーは速やかにダンジョン内から離脱してください】


いつの間にか止んでいた雨にぐったりとその場に座り少し休憩していると、雨雲の中から日差しが差し込み辺り一体を再び照らし出した。


「そういえば雨が止んだ瞬間を見るの初めてだな。神秘的だな〜」


ポケットの中に忍ばせていたスマホを取り出し、大の字で寝そべりながら、目の前に映る景色を写真に収めると、満足した笑みを浮かべ立ち上がる。


「お疲れ様でした〜、まさかあんな野ばn..ゴホンッ、素手でボスを倒しちゃうなんてね〜」

「おめでとうございますっす」


「ふぅ、すいません巻き添えにしちゃって!怪我とか大丈夫でしたか!?」


「あれくらい大したことじゃないよ〜、はいこれ!」


そう言って鬼嶋は胸の内ポケットに腕を伸ばし、中から緑色に透き通った光り輝く3cm大の丸い石を手渡した。


「これはー...合格証明的なやつですか?」


「一応僕からも報告をしないとだけど、そんな感じ!魔晶石って言ってD級以上のゲート内で採取できるちょっとだけ貴重な石からできた加工石でこれを協会のフロントスタッフに渡せば昇格手続きができるから無くさないようにね!」


「おぉ〜やった〜!じゃあ僕はもう帰っていいって事ですか?」


「どうぞ!お疲れ様!」

「お疲れ様っす」


こうして琳はE級ダンジョンを無事攻略し終え、協会へと報告に戻った。


*「E級の昇格試験か...どうやら脅威にはなり得ないだろうな」


駅へと歩く琳を数百メートル離れた位置から凝視していた人影は、そう言い残し静かにその場消えていった。


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