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崩壊する日常


....あつい

【警告:出血多量】


....でもここで諦めたら、今までの努力が全て

【警告:ダンジョンボスの自己再生が始まります】


....スキルがあれば、スキルさえあれば

【警告:ダンジョンボスの瀕死によるパッシブスキルによって、ボスの全ステータスが上昇しました】


....何を今更、あんな自分の力でもねぇ、貰った物を自分の力だと勘違いして人を見下すクソ雑魚共に....

【警告:ダンジョンボスが赤月の目を発動しました、プレイヤーはボスから逃げるたびに、出血量が増加します】


....ふっ、おまけにボスもスキルを持ってやがるしな。


片方の手で貫かれた脇腹を抑え、もう片方の手で純白に光る刀身をした長剣を、目の前の黒紫色の影で覆われている人物と言うべきか、ダンジョンボスと名付けられた存在に向ける。


*「まさか覚醒者にもなっていないただの人間如きに痛手を負うとは...貴様、名はなんと申す?」


「ずっとムカついてたんだよ....スキルやらシステムやら、色んな恩恵を貰って恵まれてる奴が、まるでそれ自体も自分の実力に換算して傲慢に浸ってる奴がよ....テメェらが何をしたってんだ?システムに強くしてもらっただけだろ?なのになんでそんなに他人を見下せんだ?...あぁ?」


*「聞くに耐えない弱者の言い訳、結局貴様は自身が恵まれていないからといって、恵まれている人間に嫉妬しているだけではないのか?」


「ふっ、ふふはははっ、嫉妬?お前らに?...お前らみたいなダサくて人を見下す存在になるくらいだったら、犬の餌になって死んだ方がマシだろ?...それと」


*「くだらぬ会話はもういい、多少なりとも強きものとして認め、礼儀を重んじてみたがどうやらその必要はなかった様だ、死ね」


キィンッ!


「...うぅ、まぁ...待ってって」


影の翳した手のひらから放出された赤色の先が鋭く尖った棒を片手で弾き、ゆらゆらと傷口を抑えつつ左右に揺れながら、影に歩み寄る。


「話してる途中だろ?」


*「んくっ、体が...」


突如金縛りにあったかの様に、身体を動かさずに僅かに震えている影。


「なんだっけ...あぁそうだ、それと確かに俺はスキルも無ければお前達の恵まれたシステムの中にはいない。どうやら俺はそんなシステムの外にいるらしいっていうか最初からいたらしい。つまりどういう事か...ん?なんだよ、察するのが早いな」


次の瞬間、影の頭部がまるで最初からくっついて居なかったかの様に、ポトンと落ちた。


*「り、がい、、しゃ」


「はぁーあ、使わずに勝つつもりだったけどやっぱ俺はダメダメだな〜」


...


.......


............


ーー『先週から歴史的猛暑日が続いておりますので、皆さんお出かけの際はくれぐれも水分補給をして、熱中症対策を怠らない様に』プツン


「あぁ〜、マジであっついな〜学校行かずにクーラーの効いた部屋で一日中ゲームしてたいな〜」


「あっ!りん!急に消さないでよ!」


朝のニュース番組のお天気コーナーで、いつもと変わらない異常気象の報道に、暑さで頭が痛いのと、これ以上聞く必要性がなくなったと思いテレビを消すと、隣から頭に鳴り響くほどの甲高い声で喚かれ、いやいやテレビを付け直す。


「うっさいな朝から〜、先週と変わらずって言ってただろー?」


「降水確率も見ないと、昨日みたいにずぶ濡れで帰ってくるの嫌だもん!」


「今時天気をテレビで見るやつなんているかってのっ、ちっ」


そういって目の前に置かれた朝食のグラノーラを口に運ぶ。


「いちいちうるさいんだよくそりんっ!」

ドスッ


「いたっ、りのお前っ食べてる最中だからっ、やめっ、ギブギブッ!」


そんな琳の態度に、隣に座っていた妹の莉乃がむかつきのあまり足で琳の頬を踏みつけ、しまいには両足を器用に使い琳の首を締め、足首を高速でタップする。


「ふざけてないで、早くご飯食べ終わったら学校に行きなさい2人とも!」


「はーい」

「げほっげほっ」


そんな2人のいつもと変わらないじゃれあいを台所から宥めるのは、2人の母親である加ヶ野麗美。


それから妹より早めに食事を済ませ、そそくさと学校の準備を終えた後、準備中の妹にゴリラ女と捨て台詞を吐いて、逃げる様に登校した琳。


自転車で駅に向かい、電車で市内にある高校へと向かう。


「今日もギリギリ〜!」


*「おーい!りーん!」


「んー、あ、たけるか、よー!」


そして校舎内にある靴箱で校舎用のスリッパに履き替えていると、背後から元バスケ部の高身長イケメン事、クラスメイトである桐谷健に声をかけられ、2人でいつもの様にふざけ合いながら教室へと向かった。


ガチャ

*「それであたしがね、あっ!りん!髪切ってるー」


*「わーお、しかも一昔前に流行ったセンターパートにしてる〜」


教室に入るなり、クラスメイトで唯一の茶髪のポニーテールでクラスで1番可愛い賀城佑衣にいち早く散髪を気付かれ、その佑衣と話していた学校1のマドンナと称されるかきあげボブ事金崎一花にも気付かれ、浮かれ始める琳。


「どうだたける?これが髪を切った後に得られる主人公感だぜ?よっ!佑衣に一花!」


「お前それ1時間で飽きられるやつだから精々楽しめよ〜」


それからいつもと変わらない授業を過ごせると思っていたが、その日全人類は未曾有の危機に晒された。


きっかけは1つの流れ星だった。


「ん?えぇええええ!!!」


窓際で黒板ではなく、窓の外を見て呆けていた琳の視界に不思議な光景が現れた。


「加ヶ野琳!授業中は静かにしなさい!」


「違うって先生!昼なのに流れ星が...うわ!広がった!!!なんだこれ!!」


「え!!なになに!あたしも見たい!」


琳の口から出た流れ星という言葉に、横に座っていた佑衣が興味津々に琳の背後から窓を覗き、そこから教室内がざわつき始め、授業をしていた先生でさえ一目見ようと窓際に駆け出した。


「え!ホントだすごいすごい!」

「やっば!みんな写真と動画撮っといた方がいいぞ!」


「なぁ、なんか大きくなってきてないか?気の所為?」


たけるの一言に最初から見ていた琳が1番早く反応した。


「確かにデカくなってきてるな...いや、違う、近づいて来ているぞ!」


「ちょっと待ってどういう事!?」


琳の言葉に佑衣が驚いた様子で聞き返すも、返す言葉が見当たらないのか、接近してくる流れ星を見ながら口を結んで、何も言い返さない琳。


「先生!緊急避難の指定場所は!?」


「え、ちょっと待ってくださいね、確か学校の地下だったはずですよ!」


「琳どこ行くの!?」


「避難に決まってんだろ!家くらいの大きい隕石で核爆弾くらいの威力なんだぞ!」


そう言い残して琳は教室を飛び出し、急いで3年の3階校舎から、1年の1階校舎へと猛ダッシュで向かった。


そして1-Cというクラスを見つけ、教室に入り何も言わずに妹の莉乃の手を引っ張り教室内から連れ出す。


「ちょっと琳!痛いってば!」


「いってる場合か!あの流れ星は段々こっちに近づいて来てんだぞ!衝突した場合の事考えて避難するんだよ!」


「えっ...」


突然の状況に言葉を失う莉乃に構わず、走り続け無事に学校の地下へとひと足先に避難した琳と莉乃。


「どうしよクラスのみんながまだ」


「悪いがクラスのみんなの事を考えてる余裕はない、今は悪いけど家族を最優先する」


「そうだママにもこの事!」


「お前を探す途中に電話しようとしたが、隕石のせいかわかんないけど電波がなかった、無事を祈るしかないな」


「まま、ぱぱ...」


目が少し虚ろになる莉乃を見て、琳は交通事故を起こして緊急手術をした際の父親を思い出した。


一昨年不慮の事故に巻き込まれ、後頭部を強く強打した父親はなんとか一命は取り留めたものの、意識は戻らず、今も寂しく病棟で延命治療を受けている。


そんな僅かに肩を震えさせ、今朝見せた明るく元気で強い妹はそこにはなく、今にも泣き出しそうに目に涙を溜める莉乃に、琳は静かに妹を抱き寄せる。


それから数分経つと、校舎内が騒がしくなり、放送で急ぎ地下へと避難する様に避難勧告が始まると、まず最初に琳のクラスメイトが避難所に現れて、そこから遅れて他のクラスが次々と避難してきたその時だった。


ドォンッ!!!!


突如巨大な音と共に、衝撃が避難所全体に走り、加えて地面が縦に大きく揺れた。


そして悲鳴や叫び声が聞こえる中、避難所の1番奥で座っていた莉乃と琳視界が突如、真っ白に染め上がり、薄暗い空間を全て照らした。


「りんっ!」

「大丈夫だ莉乃俺が守ってやる!」


縮こまる莉乃に覆い被さる琳。揺れはさらに大きくなり、今度は衝撃波が発生し、ある生徒は宙に浮かされ、ある生徒は浮かされた体を壁にぶつけられ、莉乃に覆い被さっていた琳も呆気なく宙に飛ばされ、壁に押し付けられ、何故かそこで意識がなくなった。


ーー


「ぶはっ!」


ブゥンッ

バチバチッ


機械の重低音と、電線が剥き出しになってショートしたのか、電流の音が鳴り響く。


そんな中避難所のあかりの点滅で目を照らされ、まるで息を止めて水中から上がった時の息を吸う音を上げながら起きる琳。


体が重いと思ったが、直後にそれが自分の上で倒れている人だと気が付き、そこから瞬時に何が起きたか脳が理解しようとし、即座に目を覚ました琳は、倒れている人間が妹かを確認し、違ったのでそれを退けて起き上がる。


「いっつつ、、背中を強く打ったな...莉乃を探さないと」


誇りまみれズボンをはたき、ポケットに入っていたスマートフォンのライトを付けて、何十人と重なって倒れている人の中から、妹を見つけ始める琳。


「いたいた...くっ、おっもっ!」


莉乃に乗っかっていた生徒達を退かし、まずは脈を恐る恐る触る。


「....よかったぁ!生きてるな!よっしっ!おい莉乃起きろ!」


莉乃の体を揺さぶり、起こそうとするも起きる気配はなく、瞑った目を指で開いてスマホのライトを当てる。


「瞳孔も反応あるし、一旦無事と見て良いだろうな」


そこから琳は一旦莉乃を置いて、避難所の外を確認しに行く事にした。


「うーわ、世紀末かよってくらい荒れ果ててんな」


避難所を出た先の景色に思わず独り言を呟く琳。校舎のガラスは全て割れており、机と椅子などは廊下に飛ばされてる物もあれば、グラウンドに飛ばされているのも幾つかあった。加えて道中に倒れている生徒が何人もいるが、一旦それらを無視して校舎を出て街の様子だけ一目見に行く。


「もっと建物は倒壊して、火事とか起きてるもんだと思ったが、思った以上に被害は少なそうだな」


グラウンドから見た市内の光景はそこまで普段と変わり果てたものではなく、自動販売機が倒れてたり、自転車など道路などにあった物が倒れていたぐらいだった。


そして街も一目見たので、今度は携帯を見るとSNSは勿論の事、ニュース番組では先ほど起きた事だけが取り上げられており、かなり盛り上がっている様に見えた。


「今は取り敢えず、救助を待つしかないのか?交通機関もいつ復旧するかわからないし、今日は学校で泊まらないといけないのか?」


そして琳が目覚めてから数分後に他の生徒も次々と目を覚まし、先生達の指揮のもと各クラスメイトの人数確認がされた。


「琳、俺らのクラスはみんな無事だってよ」


「おぉ、たけるか、、悪りぃなお前残して先に避難して」


「おいおいお前が気に病む事なんかねぇだろ?」


「ん?あぁ...そういってもらえると」


ドスンッ

「そうよ?琳のおかげであたし達が最初に避難できたんだし、むしろ琳には感謝しないとね!」


「佑衣...ありがとうな」


「まぁでも他のクラスは私たちみたいに全員が無事ってわけじゃないけどね」


佑衣の後ろからまくったシャツを下ろしながら、一花が琳の背景に視線を向け暗い一言を放った。


教室のカーテンに覆い被さられた何人かの生徒を取り囲む先生と、その生徒と親しかったのか、大声をあげて泣いてる他の生徒を見て、すぐにまた空気が重くなった。


それから全生徒と先生の無事が確認できると、緊急集会がグラウンドでされ、帰れる生徒は保護者に迎えに来てもらい、帰れない生徒は体育館で一晩過ごすこととなった。


そして琳と莉乃は母親が無事だと知り、迎えに来てもらう事となり、たける、佑衣、一花に別れを告げた後、家へと無事帰宅した。


その日家に着くまでの道のりで琳はSNSで今日起きた出来事の原因詳しく調べた。


すると数多くの現象が各地で発生していた事に気が付いた。


そしてその中でも特に琳の少年心をくすぐった動画があった。


ーーYout⚪︎be動画検索急上昇ランキング


1位:『編集やらせ一切なし!手から火を出してみた』


2位:『筋トレした事ないのに、200kgバーベルを持ち上げてみた』


3位:『裸でエアガンに1000発打たれまくられた』


そして他のSNSのショート動画や、生配信でも次々と自身の体に現れ始めた変化を晒した人達が現れ始めた。


その動画のどれもまるで創作にある様な現象を題材にした内容で、それまでSNS上に上がっていた動画は可愛い子がダンスをしたり、音に合わせて色々やったりするといった内容だったのにも関わらず、1日にして急激に増え始め、しまいにはコメント欄でも似た様な現象をコメントしていたユーザー達もいた。


そして極め付けはニュースでも各地で、次々と人の体に起きる異常現象を取り上げ始め、生放送で華奢な体つきのニュースがフライパンを千切ったりしてみせ、大いに盛り上がりを見せ、この現象が突如飛来した隕石と関係があるものと関連付けた自称専門家の人達もいた。


そして家に着いた琳は、すぐさま家に着くなり台所へと真っ直ぐ向かい、フライパンを持ち上げ両手で押し潰そうとした。


「ぐぬぬぬっ!はぁ...」


しかしフライパンの形は変わらず、元の形状のままで何も変わった様子はなく、ゲーマーだった琳は即座に、身体能力がないという事は、魔法タイプだと考え、部屋に入り瞑想を始めた。


コンコン

「琳?大丈夫?」


「なに?俺は全然大丈夫だから気にしないで、今集中してるから」


「...そう、それじゃあお母さん、パパの様子見てくるね!」


「うん、気を付けてね」


そして邪魔もいなくなった事で、瞑想により集中し、そして体の中で何かが出て来そうな感覚が現れ、徐に叫んだ。


「ファイアーーー!!!」

ブッ


「....」


「まぁ、こういうの発現には個人差とかあるかもじゃん?」


ただただ放屁をしただけの結果に、顔を真っ赤にしてベッドに飛び込む琳。


そして少しすると、莉乃が琳の部屋に入って来て、照れ臭そうにモジモジし始めた。


「ん?どうしたりの?」


「あのね、今日はありがとうねりん、いつもゲームしてばっかでダメダメな兄貴だと思ってたけど、今日はその、かっこよかったよ」


「あぁー、わかったー、今大事な事してるからまた後でー」


「はぁ、せっかく緊張したのに、馬鹿馬鹿し」

ガチャ


それから琳はネットで再び異常現象の情報を集める事にし、発生のトリガーや、条件などを聞いて回った。


そして新にニュースで上がっていた内容をなどと色んな情報を照らし合わせた結果、またも幾つかの情報がわかった。


それは隕石は何処にも墜落しておらず、全て上空で爆散していた事、それと爆散した際に発した光を見た人物は全員距離とは関係なく意識を失った事、そして体内の異常現象が起きた人物は何も光を見て意識を失った人のみだった。


ではなぜ自分には何も発現していないのかについて調べたところ、1つのサイトにたどり着いた琳。


「非覚醒者の集い?」


サイトの内容は光を見て気を失った人達で、いまだ体に異常現象が起こっていない人達の掲示板だった。


「意識喪失から数時間経ったが、未だ体に変化なし」


「弟と2人で見て意識を失ったけど、弟だけ覚醒、ワイ無能のままでワロタ」


「意識が未だに戻らない人も今は病院に運ばれてるらしい」


「速報:俺氏起きてから3時間後に覚醒!最初は兄貴のダンベルもって確かめたけど、ダメだったが、今全然指でつまんで持てるレベルにまで来て成長中w」


「これだ!えーっと、発現するまでにタイムラグがあったって事ですか?っと!どうだ?」


そこから直ぐに返信が返された。


「そうそう、だからここにいる奴ら全員ポテンシャルはまだあると思うから諦めんな!俺は今から何処まで自分ができるか確かめてくる!」


「おぉ〜、ありがとうございます!おかげで元気が出ました!」


それからひとまず昼休憩で食べられなかったぐちゃぐちゃのお弁当を貪り、ただひたすらにベッドの上で、その瞬間が来るのを待ち続けた。


そしてそのままベッドの上で意識が遠のいていき、最終的には眠りについてしまった琳。


ビーッビーッビーッビーッ

「うっさ!」


スマホのアラームを画面も見ずに消し、再び眠りにつこうとするも、鳴ったアラームがいつもの優しい鈴の音ではなく、警告音の様な音源だった事に瞬時にベッドから飛び上がる。


「これは登校5分前のアラーム!ちくしょうっ!ご飯も食えずに学校にいかねぇといけなくなったぁあああ!!」

ガチャ!!


「あ、琳」


「どけりの!遅刻だ遅刻!」


扉を開けた先に立っていた莉乃を素早い身のこなしで避け、急いで顔を洗いながら歯も磨き、制服に着替えている途中に莉乃の口から出た言葉に、その場で静止する。


「今なんて?」


「だから、さっき先生から電話があって今週一週間は学校が閉鎖するから、休みだって」


「...あぁあああああ!!!歯も磨いたし顔も洗ったから寝れねぇ!!凄い損した気分だぜちくしょう!」


「それよりさ!今日朝起きたら面白い事が起きたんだ!見ててね!」


休みと知らずに朝早くから起きて損した気分になり、ベッドにうずくまる琳に、莉乃が薄気味悪い笑みを覚えて、両手を広げた。


「いくよー、えいっ!」

ヒュオォォォッ


直後、莉乃の広げた両手から青白い水蒸気の様な物が琳の部屋の中を駆け巡ると、真夏の猛暑日真っ只中のあつい部屋の中が一瞬にして体が震える程に冷たい空間へと変化した。


「....えぇええええええ!!!!まさかの妹が覚醒者にぃぃ!?ちょっと待てよ!てことは俺も!」


そう言って急いでベッドの上に立ち上がり、莉乃と同じく両手を広げ、集中する。


ブリッ

「あ、漏れるとこだったごめん、うんちしてくる」


そしてトイレでも集中し、台所ではフライパンを曲げようとし、家のマンションの近くにあるジャングルジムから飛び降り、考えられるありとあらゆる能力を試すも、全て人並みだった。


それから1日と経ち、2日、3日、そして1週間後ーー


「んぬおぉぉぉぉ!!今日も便意が凄いぜぇええ!!!っておいぃ!!!!」


朝飲んだ牛乳が当たったのか、朝礼中に発生した便意を現在放出中の琳。


あの謎の隕石落下から1週間が経ち、世間は瞬く間に変わっていく中、琳だけが普段と何も変わらない状況にあった。


久しぶりの登校でウキウキしていたものの、同じ制服を着ていた生徒のほぼ全員が空を飛んで登校したり、車ほどの速度で走って登校したり、自分の能力で遊びながら登校したり、学校だけでなく街中、日本中が能力で溢れかえっていた。


教室では琳以外の生徒全員の話題は能力で埋め尽くされ、誰の能力が1番強そうだとか、誰の能力が1番便利だとかで競い合っている中、自分だけがみんなの輪の中に入れないでいた。


ーーそしてしまいには。


「おっ、便秘の覚醒者が戻ってきたぞみんな、あーっはっは!」


非覚醒者を嘲笑する生徒達も如実に現れ始めた。そしてその先頭に立っていたのがクラスでは元々少しヤンチャな部類にいた石丸丈という人物だった。


元々クラス内で弱そうなクラスメイトを見つけては、ちょっかいをかけていた丈に、琳が一度文句を言った事を機に2人の間柄は良好とはいえないものとなっていたのだ。


「おぉ?覚醒する前までは大人しかったくせに、何を今更んむっ」


「いいか琳?お前は勘違いしてるようだが、そもそも俺はお前が気に入らなかったんだよ、なんでバスケの元エースたけるに、クラス1可愛い佑衣、学校のマドンナって言われてる一花達がお前とつるんで、その上偉そうに一軍気取りしてんのが俺には理解ができぇねな」


話の途中で口を抑えられ、直ぐに解こうとするも、丈は元々柔道をやっていた事もあるのに加え、覚醒によって得た身体能力によって、その差はびくとも動かない事が証明していた。


「がぁーっはっは!おいどうした?ほどいてみろよ!」

ガシッ


「なぁ丈、俺の友達がお前に何かしたか?」


そんなびくともしない腕になす術無くしていると、丈の背後から腕を伸ばしたたけるが現れた。


「おいおいたけるぅ、こんなやつ庇ったってお前になんの得もねぇだろ?強い奴が弱い奴を排他するのは自然の摂理だぜぇ?」


「ほぉ、じゃあお前の言うその摂理に従って俺も俺より弱いお前を排他しようかぁ?」


丈の上に添えていた手に健が力を入れると、見るからに苦しそうな表情をし始めた丈はあっけなく琳の口から手を離した。


「ぺっ!くっせぇなお前の手?手でケツ拭いてんのか?」


*「ぶふっ」


「ちっ!覚えてやがれ無能」


「えー!?なんて言いましたぁ?逃げるんですか??」


眉を凹ませながらこの場を後にした丈に、引き続き煽りで追撃するも、振り向きもせずに教室から出ていく。


「琳...大丈夫だった?」

「たけるが来てなかったらどうなってたかわかんないのに、よくもまぁ反抗できるわね」


そんな琳の負けず嫌いな反応に、ため息を吐きながら現れた一花と、心配そうに顔を覗き込んできた佑衣。


「あのやろぉ俺が覚醒してない事をいい事に反抗してきやがったぞ?覚醒したら覚えてろってんだ」


「まぁまぁ、現状はまだ普通の人間なんだから俺のいないとこで無茶だけはすんなよ?カバーしきれねぇからさっ」


「まぁでも残りの学生生活もあんまないし、当分何も起こらないだろ」


「もうあたし達も卒業なんだね〜」


「卒業しても俺は最低限この4人と会えればいいと思ってるけどな」


「俺も琳と同じく、他の奴らとは絡みもないし、幼馴染だっているしな!」


「ちょっ!馴れ馴れしいわよたけるっ!」


実は幼馴染だった健と一花は、誰よりも仲が良く、琳と佑衣は高校からそんな2人の和に入ったのだった。


琳は健と良く席が近かったのと、お互いゲーム好きだと理由で仲良くなり、一花と佑衣はいつも佑衣が他の男子生徒からの絶えない告白で返事に困ってる所をたまたま見かけた一花に助けてもらってから一花に懐いた形で仲良くなり、そして幼馴染同士の健と一花に引き寄せられ、琳と佑衣も自然と仲良くなったのだった。


そんな花を咲かせるほどでもない昔話に花を咲かせていると、授業開始のチャイムが鳴った。


(今日も暇だな〜、大学受験も俺は専門に行くから関係ないし...)


いつものように窓の外を見て、再び惚ける琳はもう一度隕石が落下して覚醒できるようになんて厨二な妄想をしていた。


(結局あの後空中で爆発したって話だもんな〜、そういえば隕石のかけらって結構高値で!グラウンドとかに落ちてないのか?)


隕石の爆発から1週間も経っていたため、破片は全て片付けられている可能性はあるが、未だ回収されずに何処に眠っている可能性も捨てきれない為、グラウンドを凝視する。


そしていつもと変わらないグラウンドの中心辺りの視界がやや歪んでいるように見えた琳。


(ん?なんか陽炎みたいに、あそこの視界だけ揺れてるぞ)


ビシッ

「いてっ!」


「どうした?隕石でもまた見つけたのか?」


「すいやせん...」


先生に頭を軽く小突かれ、注意散漫を注意されたところで一旦考えるのをやめる事にした琳は休み時間がくるその時を待っていた。


「後5秒...4、3、2、1?」

キーンコーンカーンコーン


「よし!あざしたー!」


すぐさま礼をして、真っ直ぐグラウンドへと走り出した琳。


「うわ!みんなでご飯食べないの琳?」


「わりぃ、用事できた!」


「どうした琳のやつ?」


「さー?」


そして徐に走ってたどり着いたグラウンドで、陽炎が見えた位置まで行く。


「すっご、こんな至近距離で陽炎見られるってやっぱとんでもない猛暑日なんだな...」


そして陽炎に触れてみると、自分の腕が揺れてるように見え、興奮し始める琳。


「なんだこれ?陽炎じゃなくて、ここだけ空間が歪んでんのか?」


そう言いつつ、携帯で陽炎の発生条件を検索し始めた瞬間。


ヒューッ


歪んだ空間から風が吹いているのが聞こえ、耳を澄ませて近づく。


カリカリカリッ


すると今度は地面を鋭利な物で引っ掻くような音が聞こえ、地面を見てみるが何もなく、寧ろ一瞬歪んだ空間から耳を離した事で聞こえなくなり、再び耳を近づけると聞こえた。


そしてーー


ブォーンッ


突如口を開いた様に歪んだ空間から黒一色の光を放った縦型の楕円が現れ、耳を近づけた勢いが余ってぶつかると思ったが、ぶつからずに黒い空間へと足を踏み入れた琳。


「えっ!?何だこれ!?」


後ろをみると白い光を放った楕円があり、そこに顔を入れると学校の校舎が見えた。


「もしかして別次元これ!?!?すっげぇえええ!!!」


アニメ、漫画、ゲーム、ありとあらゆる作品を体験してきた琳にとって、瞬時に今起きている事象を当てはめる事が琳は、一気にテンションが上がってしまい、興奮でアドレナリンを脳から放出したままで、別次元へと真っ直ぐ進んで行った。


「あ、そうだ動画撮影しながら行こう!ライトもオンにして胸ぽけに入れとけば!ウッホホー!なんだなんだー?どこに通じてるんだよ一体??異世界か!?異世界なのかい!?」


ライトをつけた瞬間、目の前に広がったのは薄暗い洞窟の様な空間だった。


そしてグラウンドにいた時に聞こえていたカリカリしていた音は更に鮮明に聞こえ、その音が真上からすると思い、胸ポケットを真上照らすと....


「うああああ!!でっけぇ虫!虫なのか!?」


ボウリング玉と同じフォルムで、4枚の羽、そしてわずかにオレンジと黒が交互に混じった黒光りしていた虫の様な生物が嘴の様な物で天井を削っていた。


そんな見たことのない虫を目の当たりにして思わず大きな声で叫んだ琳に、虫が気付き真っ直ぐ琳に飛びかかってきた。


「うああああ!!!気持ち悪りぃ!!!」


虫耐性がゼロの琳にはどうしてもその見た目は受け入れられず、ましてや飛んできたという事だけでも身震いする程の気持ち悪さを感じ、背を向け逃げ始める。


がなぜかここで1つの単語が琳の思考を過った。それは経験値という言葉だった。


逃げる際のパニック状態で色んな思考が目の前の生物を何かに断定しようとしたのか、頭を巡ったのは魔物やモンスターという単語で、それに続いてモンスターと言えば経験値という単語を連想してしまい、足を止めた琳。


そして振り向きざまに初めてやる回し蹴りを放ち、見事虫の側面にクリティカルヒットした。


「ぷぎぃえあ!」


「きもー!!!」


質量が物いうこの世界の物理法則は、見事目の前の生物を蹴飛ばす事に成功し、なんと一撃でその生物は動かなくなってしまった。


「うぅ...今でもこれに一瞬でも触れたって考えただけで身震いがとまんねぇ...」


そして携帯を生物の死体に向けて、本当に倒したかを再度確認したのち、奥へと進む決心をした琳。


「ずっと一本道だな〜、まだまだ先は長そうだけど、楽しいな〜」


そして再びカリカリといった音が聞こえたので、身震いするが大事な初期の経験値だとおもい再び襲いかかってきたところを蹴飛ばして倒す。


「そもそも自分より小さい生き物を力一杯蹴飛ばすって事にすごい罪悪感感じるな」


そんなこんなで歩いていると遂に少しひらけた空間へと出てきた琳。


そして今度はカリカリといった音ではなく、ガリガリといった岩を抉っている様な音に変わっていた。


音の鳴る方へスマホを向けると、先ほどの虫より数倍でかい虫が、壁を徐に掘っていた。


「所々あの小さい奴とは模様とか違うな...って事はボスか!空間も見た感じここで行き止まりの様だし」


そう言って琳は作戦を思いつき、行動に移した。


ドスッ


背中に何かがぶつかった衝撃を感じ、振り向くと光が見え、光に向かって全速力で飛来しようとするとーー


ガシッ


「囮作戦成功っ!」


そう言って琳は背後に飛び乗って、掴んだ羽を全身の力を使って引っこ抜く様に力一杯引きちぎった。


バタン

ドスンッ


勢い余って受け身を取れずに地面に倒れる琳と、4対あった羽が2対なくなった事で落下する虫。


そして前足で立とうとする虫より早く起き上がり、走って勢いをつけて前足を蹴り起き上がらせないようにした後、目の部分と思わしき場所に全力の蹴りを入れる。


それから相手に体勢を立て直す機会を与えず、自分の息が切れるまで力一杯蹴りまくった琳。


バタンッ


そして蹴りを入れる事20数発、遂に動かなくなった虫を見て、カイトも地面に倒れた。


「くはぁあああ!!!しんどっ!マジで武器の一つくらいよこしやがれって話だよったく!」


そして息を整え立ち上がり、携帯を拾ってライトで倒したかを確認し、ピクリとも動かなくなったので、周りの様子を見始める。


すると突然地面が揺れ始め、今にも崩れそうな感じがしたので、急いで走って洞窟からグラウンドに脱出した。


ドスンッ

「あっぶねー!タッチダウンギリギリセーフだっぺー」


崩壊寸前の洞窟に繋がる空間から飛び出して逃げ切れると、瞬く間に黒色に光る楕円の穴が閉じていった。


「え、ちょっと待ってくれ!あれで終わり!?おいおい、何もまだ始まってねぇだろ?」


それから地面に座ったまま穴のあった位置を見続けたが陽炎の様に揺れていた空間も消え、まるで何もなかったかの様に元通りの空間に戻っていた。


そして何故か点と点が繋がったのか、先ほどまで起きた出来事だけでなく、冷静にもう一度今まで起きたら出来事を全て纏めて考えてしまった琳は思わず口から言葉をこぼす。


「隕石が原因で覚醒者が出現、そしてさっき急に現れた別次元に通じる穴、穴の中には今までに見た事がない虫....いよいよゲームと漫画の様な世界になってきてる...」


この先の事を考えれば、世界は破滅に向かうなどとありきたりなストーリー迄も考えてしまった事に、妄想で何度もそう言った世界が来てほしいとは思いつつも、自分の命だけでなく、大事な人達の命まで危険にさられてしまうかもしれないという思考も過り、嬉しくもあるが素直に喜べない。


「本当に危険が迫ってきてるのか?だとしたら一刻も早くこの事を知らせないといけない。今はまだ覚醒者が現れて世界は大きく変わり、浮かれているはいるけど、いずれ来るかもしれない災害に備えていないから、被害は壊滅的になる可能性だってある」


そしれ考える事に集中し過ぎていたせいか、気がつくと校門の前にまで来ていた。


それから学校の荷物はそのまま置きっぱなしで、琳は急足で学校へと向かった。


家につき、まずは真っ先にパソコンを開き、スマートフォンと接続させ、そして今日撮った動画を少し編集して、Yout⚪︎beへと投稿した。


そして動画の最後には自分の考えた憶測や予測、今回の覚醒者の出現に関する見解を述べた。


それから琳は再び全世界の覚醒者と、楕円の穴に付いて色々調査を始めた。


突然の欠席に先生から叱られるも、体調不良を理由にしてなんとか後日の反省文で免れ、気がつくと夕方になっていたので投稿した動画をみると、なんと再生数が20万程を超えていた。


「うおっ!めっちゃ反響あんじゃん!どれどれ?」


からし明太:覚醒者が出た時は流石に嘘だと思っていたけど、これは流石にありえないでしょwwwww


あ:まぁこのダンジョンみたいな動画は置いといて、最後の憶測は結構的を得た話じゃね?


Thony:nice fake


ぽぽぽ:いかにもフェイクって感じ、最後のは流石に漫画の読み過ぎっしょw厨二乙ww


結果は4分の3がフェイク動画だと叩かれ、一部の人間のみが、まともな反応を見せた。


そして1つのコメントに目が留まる。


「おっ、宜しければこの動画について取材させてください?よしっ!とりあえずニュース番組の会社から喰らい付いてきた!」


それからコメントに返信をして、その日の夜に、番組のディレクターと名乗る人物と家の近くにあるカフェで会う事となった。


*「あの〜、もしかして加ヶ野琳さんですか?」


待ち合わせをしていたカフェの前で待っていると、突然40代くらいで整えられていない髭を生やし、眼鏡をかけた壮年の男性に声をかけられ自己紹介をし、その男性も自身がディレクターの小林だと自己紹介をし、2人はカフェの中へと入り、さっそく本題へと入った。


「まず動画なんだけど、これは琳君が今日の昼に撮った動画で間違い無いんだよね?」


「はい、一応動画では虫の死骸や、俺の顔にモザイクをかけてるんですけど、元の動画は俺の携帯に入ってます。もちろん調べてもらえれば加工したか動画かなんて一瞬でわかると思うんですけど」


「なるほど、じゃあその動画を見せてもらってもいいかね?」


そう言って琳はポケットの携帯を取り出し、動画を小林に見せた。


「ふむふむ、確かに見た感じ蹴った後の虫の動きにフェイクの様な感じはしないね、それに制服の汚れも不自然ではないね、わかった取り敢えずこの動画が偽物じゃないって事は信じよう!」


「その言い方だと他にも何か聞きたかったことがある様ですね?」


「そうだね、君の動画を見て気になった事は3つあって、1つ目はこれがフェイクか、そして2つ目はこれが本当だとしたらこの現象はなんなのか、3つ目は君の動画で言った個人の見解だ。質問する項目は多いが、ひとつずつ消化していこう、まずはーー」


それから小林ディレクターとの話は夜中まで続いた。話した内容は主に穴に入った時の詳細な感想や、生き物の感触、そして穴が出現する前の陽炎についてや、この後に起きる可能性がある出来事に対しての懸念に付いてだった。


そして最後に小林ディレクターから今回来た1番の目的とも言える質問をされた。


「よかったら琳君、僕達の朝のニュースに出てきてくれないかな?顔出し等のコンプライアンスは勿論未成年だから保証するしーー」


「はい、やります!そのために動画を投稿したんで!」


「えっ、随分と前向きな返事で嬉しいけど...」


逆に誘った小林の方が驚いた様子で、悔い気味に返答した琳を見ている。


「先ほど話した様に厨二みたいに感じるかもしれませんが、もしこの考えが仮に合っていた場合、全世界は世界大戦より酷い壊滅的なダメージを喰らう事になります。覚醒した人の中には身体能力が優れている人もいれば魔法の様に火を出す人や、竜巻を発生させる人もいます。それは逆に今考えると、それくらいの力がないと倒せない相手がいずれ襲い掛かるからといった考え方もできます。俺が今日倒した虫なんかは比較にならないレベルの虫、いや怪物なんかがいた場合どうするか、今日は穴の中側にいたが、それが穴の外に出た場合はどうなるか、それが3匹だけでなく、数百、数千になった場合どうなるのか?大事なのは備える事だと俺は考えています」


「.....」


ついつい饒舌に張り切って喋った琳に、まるで面を食らったようにポカンと見上げる小林は思わず、両手で拍手した。


「凄いな、本当に高校生か?良くもまぁここまでちゃんと考えられるね!」


「漫画、アニメ、ゲーム大好きなんで!その中で起こった悲劇をモチーフに仮説立てて喋ってるんで、信憑性は低いですが、的は得てるかと思います」


「よし、じゃあ俺も首をかけて、明日の朝のニュースに君が今日話した事を5分喋れる時間をなんとしてでも作ってみせると誓おう!」


「おぉ〜!さすがは小林さん!わかる人はわかってますねぇ!」


「いやいや、君こそ高校生離れしたその知力が僕には羨ましいよ〜」


そしてその日は話を終え、琳は母親に必死に頼み込んで、テレビに出る許可も説得して貰って、後日ニュースで先日話した内容を小林さんでブラッシュアップした内容を話した。


「へぇ〜、あんた昨日休んでたのってこのゲートって言う奴に入ったからなんだって〜?」


「琳ってば凄いよね一花〜動画もめっちゃ再生されてるし、もう有名人だよ!」


「ったく1人で無茶すんなって言った側から訳わかんねぇ事してるじゃねぇか、何がゆるさねぇってこの俺を差し置いてこんな楽しいとこに行ってたことが許せねぇなコンニャロ〜」


ニュースが放送され、午後の授業に登校した琳は、学校を午前中休んでいた理由をいつものメンバーに話し、その動画と昨日投稿した動画を見られる事となった。


「痛い痛い!わかったよたける悪かったってー!一花助けてくれー!お前の彼氏がー!」


「なっ!彼氏じゃないわよそんな奴!たけるそのまま押さえておいて!くらえビリビリー!」


健にヘッドロックされている琳を、一花が電流を流した指先で琳の脇腹を刺し始め、それを見て笑う佑衣。


「はぁ...はぁ...なんやかんやで仲いいじゃねぇかよお前ら....くそ、俺が覚醒したら覚えてやがれっ!」


「でもまぁ琳の推測は私的には結構あり得そうだけど、想像もつかないわね」


「あたしも正直な所琳の言ってる事100%信じたいけど、一花よりの意見かな?」


「俺は琳の言う事なら賛成だな!昨日の動画の内容はちょうどその時間帯に琳も居なかったし、話の辻褄としては合うし、何より覚醒した理由として危機が訪れるからってのは結構しっくり来たし」


「やっぱたけるなんだよな〜!」


肩を組んでお互いに拳を合わせ、友情の深さを目の前の女子2人に見せつける琳と健。


「でも隕石が原因で覚醒した事は事実でしょ?それだったらゲートの出現も隕石の所為なんじゃないの?」


佑衣のふとした疑問に琳が少し考えた後、その問いに対する返答を始める琳。


「まぁその可能性もあり得るだろうな、世界が危機的状況だから、隕石が現れて人類を覚醒に導いた、というより、隕石が巻き起こした謎のエネルギーが別次元と地球を繋げ、加えて覚醒になりうる何かを人類に与えた。どの考えも十分にあり得るけど、今はその原因を突き止めるより、最悪な状況を考えて備えた方がいいと思うんだ。だからお願いだからみんなは絶対なにがあっても生き残る事を優先して考えてくれ」


琳の普段見せない強い意志を受け取った3人は静かに頷いた。


それから琳がニュースで話した見解と、動画はその日から瞬く間に全国だけでなく、全世界へと拡散され、国は来るか分からない災害に対して備える方針や、対策に疑問視をする人達も増えていき、一斉にふわふわした心持ちから風向きは変わった。


そして1ヶ月後、事態が急展開し始めた。


『ニュース速報です。ただいま全国各地で、楕円形の空間が急増し、現在も尚その数を増やし続けているとの事です』


厳しい猛暑日が終わりを迎え、覚醒者の存在に人類が慣れ始めた頃、突如全国各地でゲートが出現し始めた。


そしてゲートはいずれも琳が初めて発見した黒色のゲートではなく、様々な色に光り輝いたゲートだった。


ゲートの出現から1週間後、政府や科学者、企業らなどによりゲートの研究が始まるも、現在進行形で数を増やしているゲートに、警備の数も回る筈がなく、立ち入りを禁止しているものの、腕に自信がある覚醒者や一般の動画配信者が興味本位や面白がってゲートの中へ入っていき、亡き者として帰ってくるといった事件もあった。


そこから更に2月が経過した頃、ゲートの出現から3ヶ月弱が経ち、未だ進展がないゲートの解明について、遂に琳が予想していた事態が始まった。


『ただいま全国各地のゲートから、謎の生物が続々と出現し、人々を襲い始めているとの事です!皆さんは外出を控え、自衛隊の救助を....』


突然原稿を読むのを辞めたアナウンサーが耳を押さえつけ、青ざめた表情で突然席を立ち何処かへと走り出した。


そして映像はそのまま流され続け、少しするとカメラに体長2メートル程の筋骨隆々で赤い皮膚の巨人がカメラに映っているスタジオを破壊し始め、最後はカメラの前に立っている姿が映され、放送はそこで止まった。


ハッ

「母さん!莉乃!」


カメラの映像と突然起こった現象に、脳が追いつかずにいたが、我に返り家にいる母親と妹の名前を大きな声で叫ぶ。


そんな琳の大きな声に反応した2人は突然の状況を呑み込めず、急いで車で父親のいる病院へと向かった。


そして車で向かう道中ーー


「莉乃、俺が教えた通りの事はできてるから、まずは冷静になるんだ。いいか?」


「う、うん、大丈夫」


「今から想像を絶する体験をすると思うけど、全部映画だと思ってやれば緊張は少し和らぐはず、家の中で覚醒しているのはお前の母さんだけだけど、母さんは運転があるから道中襲われたら俺達を守れるのはお前だけだ、俺もできる限りのサポートはするから頼んだぞ!」


「わかった!」


「よし!流石莉乃だ、ではまず初めに!」

キキーッ!!

ドォンッ!!


突如ハンドルを90度に切られ、車が止まった直後、ハンドルを切る前にいた位置に瓦礫が倒れてきた。


急いで窓を開け、身を乗り出して辺りを見渡すと道沿いに建てられたビルの上に乗る、口が異様にデカい鳥の様な生き物が、ビルを噛み砕き、噛み砕いた破片をこちらに飛ばしてきていた。


「母さん!そのまま飛ばして!莉乃!大壁1つ!」


「うん!」


琳の指示通り、莉乃は両手を窓から出し、氷の壁を生成し、飛んできた瓦礫の破片を防いだ。


「母さん!車の天井破って良い!?」


「去年買ったばかりの中古車だけど...良いわよ!この際だからなんでも任せるわ!」


「莉乃、天井を綺麗にくり抜いてくれ」


「任せて!」


そう言って莉乃は両手を天井に向け、勢いよく氷の玉を放ち、車に天井に大きな穴を開けた。


「さっきの鳥が来てる!撃ち落としてやれ!」


「えいやー!」


ドドドドドドッ


マシンガンの様に飛来してくる無数の氷の矢に対し、飛んできた鳥の化け物は口に含んだ瓦礫を飛ばす事で相殺し、素早く車の右側にいた位置から左側に回ってきた。


「キィエエエッ!」


「突進だ!氷柱準備!」


「準備完了!」


「今だ!」

ドスンッ!!


突進してきた鳥の化け物に対し、上空に生成した3メートル大の氷柱をタイミングよくぶつける事に成功する。


「倒れた!よし、固定してやれ!」


「えいっ!」


そしてそのまま倒れた鳥の体と地面を氷で固め動きを封じ、なんとか危機は回避した。


それから道中いくつかの化け物に遭遇するも、琳の的確な指示と、莉乃のコンビネーションで全て退け、なんとか病院へと辿り着いた一同は、少し気を重くした。


「病院の頂上に見えるあれ...」


「あぁ、間違いなくゲートだ、父さんの病棟まで急ぐぞ!」


「待っててねあなた...」


ヘリポートの位置に見える茶色に光るゲートから、1体の何かが出てきたのが見え、急いで病院の中へと入る。


父親が延命治療を受けている病室は3階、普段ならエレベーターを使っていくものの、電気が通っているか定かじゃない為、1番正確なルートを進んで向かおうとするも、院内は大パニック状態。


大勢の人間が、あちこちに動き回る中、肉体強化で覚醒した母親を先頭に、人を掻き分けてもらい、3階へと到着したところーー


パタッパタッ


まるで濡れたフィンで地面を歩いている様な音が聞こえ、すぐさま身構えるとフラミンゴの様な細長い足と胴体に、鋭い嘴を4つに分けて開いた生き物が目の前に現れた。


「キィィィィ」


そして琳達を見るなり、威嚇をする様に大きく目を見開き、鋭い歯の生えた口を更に大きく4つに開いた。


「気持ち悪いっ!」

ガァンッ!!


そんな威嚇を者ともせず、家から持ち出したフライパンで、目の前の鳥の顔面を大きく横に振り払うと、鈍い金属音と共に、細長い足がガクッと崩れて落ちた。


「わお、凄いねママ」


「やだ、あまりに気持ち悪くてはたいちゃったけど大丈夫かしら?」


「いやそれで良いんだよ母さん...ちょっと恐ろしいけどまぁ...うん」


そして廊下へと出ると、先ほどと同じ見た目をした怪物が5匹程ウロウロしており、1匹が琳達に気がつくと甲高い大声をあげて仲間に知らせた。


「任せて!」


廊下全体を凍らせ、細い足を固定した後、麗美が5匹全てをフライパンでノックアウトさせるというなんともシュールな絵面に少し、緊張がほぐれる琳。


そしてやっとの事で父親がいる病室へと到着し、中に入る。


「あぁ、よかった!」


「パパの様子は大丈夫みたいね」


「取り敢えず父さんの無事は確認できたし...」


「どうする?ずっとここにいて父さんを守るくらいなら問題はないと思うけど」


莉乃の言葉に琳は、頷きながらも少し考える。


「なぁ、あのゲートの中入らないか?」


「え?ダメよ!父さんをおいて行くなんてできないし、中は危ないからダメよ!」


そんな琳の言葉を真っ先に反対したのは母親の麗美だった。


「危険なのはわかってるけど、母さん?俺は一回ゲートの中に入って帰ってきたから分かるんだけど、あのゲートの中の敵を全員倒さないとずっとゲートから化け物が出てくる事になる。そうなったら父さんはずっと危険だし、今は辛うじて病院に電気が通ってるけどそれが止まったら父さんは...だから誰かが止めないと」


「でも貴方達2人を無くしたらママはもう...」


「大丈夫だよ、絶対に帰ってくるって約束するし、何かあったらすぐに逃げてくるからさ」


「ママ、パパが昔から口うるさくあたし達に誰かがやってくれるんだったら、怠けてて良いけど、自分でやるしかなくなった時はやるしかないんだって言ってたでしょ?まさに今がその時なんだと思うの、だからさ」


「莉乃、、分かったわ、その代わり危なくなったらすぐに逃げてくる事、お兄ちゃんは覚醒してないからちゃんとあなたが守るのよ莉乃!琳も万が一の事がない様に気をつけなさい」


莉乃の言葉に少し諦めにも似た表情で、説得を諦めた麗美は、2人を見送る事にした。


そして琳と莉乃は道中の鳥を1匹残さず倒し、ようやく屋上のゲートの前まで到着した。


「良いか莉乃、この中に入ったらもしかすると出られない可能性もあるから気を引き締めるんだ」


「....う、うん」


「それともし俺の身に何かあったら迷わずーー」

「やめて、そんな事考えたくない...」


「...行こうか」


土色に光るゲートに同時に足を入れる2人。


空気が変わり、土臭い匂いが鼻を通る。


そして目の前に光が差し込み、目を瞑り、次に目を開くと目の前にはジャングルの様な密林が広がっていた。


「俺が最初に行った洞窟とはまた異質だな...どうした莉乃?」


「あ、ううんなんでもない、本当に他の場所と通じてるなんてね...」


ひとまず前に進もうとしたが、何やら俯いていたまま動かないでいた莉乃に声をかける。


「取り敢えず焦らず慎重に前に進もう、それと莉乃、剣って作れたりするか?」


「ちょっと待ってね...はい、これで良い?」


琳のリクエストに、莉乃が両手を前に出し、瞬く間に氷の長剣を作り出した。


「おぉー、これは良いな!重さもちょうど良いし、冷た過ぎる訳でもない!」


自分の装備も整え、いよいよ本格的に密林の中を歩き始める2人。


そして歩く事数分、病院でみたのと同じ鳥が10数体一箇所に止まっていた。


「待て、今はまだ気づかれていないから、一気に奇襲を仕掛けて倒すぞ、壁を落とす形で頼む」


「分かったわ」


そう言って莉乃は木陰から鳥が密集している上空に、横に倒した壁を作り、そのまま落とした。


「1匹逃して気づかれた!」


「大丈夫!俺が前に出るから後ろから隙を見て氷柱で突き刺すんだ!」


取り逃がした1匹に木陰に隠れていた莉乃が見つかると、琳は即座に茂みから姿を出し、鳥の行く手を阻む。


「かかってこいよ鳥」


そんな琳の挑発に応える様に嘴を4つに広げ、真っ直ぐ走ってくるも、琳は剣を青眼に構え、開いた口に突き刺した。


「んうっ!おらぁ!」


グンッ!

グシャッ


剣が嘴の中で勢いが止まるが、もう一歩足を前に踏み出し、そのまま全身の力を使って押し出すと、見事喉を貫通し、首から刀身が顕になった。


「よし、、なんとか俺でも倒せるから、このまま進もう」


それからなんの変化もなく、ただただ密林の中で立ち塞がる鳥達を1匹ずつ倒していき、やがて見るからにボス部屋のような、木々も一切生えていない土と草だけが生えた円形の広場を見つけた。


「あ、琳あそこに広場みたいなのが!」


「ストップ莉乃!間違いなく見るからにボスの部屋だ...今はまだ姿が見えてないけど、近づいたら絶対に現れるから、そうだなひとまず俺が1人で中に入るから、俺の合図で一斉にどんな攻撃でもいいから畳み掛けるんだ。いいな?」


そんな広場に近づこうとする莉乃を片手で制し、一旦木陰で隠れるよう指示した後、呼吸を整え、長剣を片手に昼場の中へと単身で入っていく琳。


...


......


モゴ


広場に入ってから数秒経った頃、広場の真ん中で待機していた琳は足裏から何かが、小さくうちつけてくる感覚を感じ、急いでその場から離れるとーー


モゴモゴモゴ


土を被りながら、3つの長い首が現れ、首の先にはこれまで戦ってきた鳥達と同じ鋭い無数の小さい牙を生やした嘴だけがあり、出てきたばかりのその3本の嘴はまっすぐ琳へと首を伸ばしてきた。


(動きは早いけど全然見える)


それぞれタイミングをずらしてまっすぐ伸びてきた3本の嘴を横跳びで躱わし、伸び切ってきた最後の首を、斬り上げる。


ズシュッ

「っ!思ったより肉が厚い...」


イメージではスパンと斬り落とすつもりで放った斬り上げは、虚しくも直径40cm程ある首の半分も到達しないうちに剣の勢いが止まってしまい、首を持ち上げられる前に剣を引き抜きぬいて、体勢を立て直す。


そして今度は2本の首をしならせ、全力で同時に首を琳を挟む様に2本振り下ろした。


「やば....どっちに逃げたら...前しか!」


左右からは首が迫ってきていたので、やむを得ず前方に走り出し、叩きつけてきた首を回避するが、上から影が迫ってくるのが見え、咄嗟の判断で迎える形で剣を突き上げる。


キィンッ!

ザスッ!!


目を閉じながら、衝撃が来るのを待っていたが、いつまで経ってもこず、少し冷えた空気が頬に当たったのを感じ、まさかと思い目を開けると、一本の大きい氷柱が琳の背後から、最後に振り下ろされた首を貫いていた。


(ナイスアシスト莉乃!)


莉乃の潜伏がバレたかバレてないかはさておき、残り2本の指が梨乃の氷によって、地面に固定されてる間に、真っ直ぐ走り出し、地面から出てきている付け根の部分に向かって、腰を入れて剣を力強く振り払った。


ザシュッ!!

「もういっちょ!」


ズパッ!!

「よし!斬れたっ!」


3本の首を全て斬り落とすと、すぐに距離を置いて出方を伺っていると。


ズルンッ!


(付け根が潜った!て事は穴の下に本体が...どこから出てくる...)


(様子見だったか....大丈夫だ、一応簡単に倒せるなんて思って...なかった...様子見!?)


様子見という言葉に一瞬引っかかり、嫌な予感を感じた琳は、慌てて莉乃方を振り向き、走り出すと同時に叫んだ。


「莉乃!!狙いはお前だ!!上に飛べ!!」


「え?」


状況を把握しきれていない莉乃は、琳の言った言葉を一瞬理解できずにいたが、咄嗟に聞こえた指示通りに動こうと、地面に氷を生成し、自分自身を押し上げ、そのままの勢いで4メートル程上空へと飛んだ。


モゴモゴモゴッ

ドパァンッ!!

「グルルルルルゥア!!!」


すると飛んだ莉乃を追いかけるように、地面からおよそ4メートル大で球体型の生き物が体積の半分程もある口を大きく開けながら飛んだ。


がしかし飛ぶのが遅かったと言うより、琳に奇襲が気づかれてしまったせいで、莉乃との距離は縮まらず、莉乃より早めに地面にへと着地した。


ググググッ

「させるか!」


ザスッ!


地面に着地した巨大な生き物は、そのまま2回目のジャンプをするかのように、姿勢を低くし勢いをつけようとした所で琳が間に合い、横から剣を突き刺した。


ブゥンッ!!

パキィッ!

「ぅぐっ!」


突き刺した途端、巨大生物が勢いづくのをやめるのをみると、剣を急いで引き抜き走り去ろうとした時、横から物凄い勢いで飛んでくる何かを見て、咄嗟に剣でガードしたが氷でできた剣の防御力は容易に破壊され、しならせた攻撃は脇腹を打ち抜いた。


ヒュウゥウウウウッ

ドスンッ!!!!


そんな琳に標的を向けた一瞬の隙に、莉乃は巨大生物の頭上に大きな氷塊を生成し、勢い良く巨大生物の頭上に落とした。


「琳!大丈夫!?」


「ゴホッゴホッ!大丈夫だ...後一発くらいは耐えられると思うから、さっきの感じでアイツの隙を見て攻撃してくれ...」


「わかったわ!」


倒せたかどうかもわからないまま、巻き起こった土埃が止むと、落とした氷塊の下には巨大生物がいなかった。


「下だ!張り巡らせろ!」


「ふんぬぬぬっ!」


ピキピキピキッ


琳の指示通り、莉乃は自分を中心に、半径5メートル程の地面を全て氷漬けにした。


「見た感じあの丸っこくてデカい頭らしき物を支えているのは触手のような蔓だから、地上に上がってきたらそいつの近くの足場を凍らせて、滑らせるのと同時に、潜らせないようにしてくれ...くるぞ!」


細かい指示をした後、地面が揺れ始め、次の瞬間に、2人の背後10数メートル先の地面から現れ、大きな口を開いて真っ直ぐ蔓をうねらせ地面を口で抉りながら猛スピードで近づいてきた。


「あれだと足元に作ったところで...」


「とりあえず口にどデカいのをぶち込んでやれ!」


両手を頭上にかざし、迫ってくる生物と同じ大きさの氷塊を生成して口元にぶつける。


ガリガリガリッ!!


ぶつけた氷塊は見事命中したものの、勢いを止めただけで、当の本体はただひたすらに口を動かして氷塊を噛み砕き始める。


「相性が悪いのか、それとも弱点があるのかのどっちだな...よし!」


そう言って何か閃いたかの様に、莉乃に耳打ちする。


そして少し経つと、氷塊を全て噛み砕いた生き物は再び前進をするが、目の前にいたはずの人間が1人消えている事に気が付き、足を止めようとしたが足元に違和感を感じる。


ツルッツルッ


あらかじめ生成された氷の地面に、蔓を滑らせながら抵抗もできずただひたすら前に進むしかなくなったので、口を開いてそのまま喰らいつくそうとする。


そして目の鼻の先まで近づいた瞬間、一気に喰らい付いた。


がしかし口の中に入った感触などはなく、顔を持ち上げようとしたその時だった。


「今だ莉乃!」


「凍っちゃえ!!」


パキパキパキッ!!


瞬時に口元と顔を地面の氷と接合され、一瞬にして身動きが封じられた生き物は、ひたすら足元の蔓を力強く畝らせたが、なんの意味もなかった。


そして顕になった後頭部に強大な氷柱をぶつけて頭を貫通させると足元の蔓の動きが止まった。


「倒せたか?」


「た...ぶん倒せたんじゃない?あのね」


「どうした?」


「ダンジョンクリアって文字が目の前に表示されてるんだけど、これって琳にも見えてるの?」


「...え?何処に?幻覚か?」


「いや違うの、、ずっとここに入ってきた瞬間から、急に出てくる様になり始めたの」


「...なにーーーーー!?なんだそれ!?そこにはなんて書いてあるんだ!?ここら辺か?ここら辺に書いてあるのか!?」


「えっと目の前のちょっと離れたところに文字があるんだけど、なんかね操作もできるみたいで、自分のステータスみたいなのも確認できるみたい」


「えええええええ!!!!良いなぁー!めちゃくちゃいいな!!莉乃のは何て書いてるんだ?」


「とりあえずまずは此処から出たほうが良いみたい、まもなくダンジョンが崩壊を開始するだって!」


「なぬ、それは急がないとだな!」


「その前にボスの体内には特殊な核があって、希少だから取っといた方が良いんだって!」


「なるほど!採取をしろと!」


そう言って莉乃に生成してもらった短剣で、琳は目の前のプレデヴァインと判明したモンスターを解体すると、赤黒く僅かに発光している核の様な丸い玉だけでなく、素材と判明したプレデヴァインの体の一部を手に入れ、急足でダンジョンを後にした。


ーーブォンッ

「んしょ!」

「よいしょ!」


「ひとまず母さん達の無事を確認するのが先だ、でもこの量の荷物...」


「ちょっと待ってね...えっと、これかな?あ、声に出しても使えるんだね、インベントリ!」


突如目の前の空間を指でなぞり始めながら、ぶつぶつ独り言を言い始めた莉乃は、琳が持っていたプレデヴァインの素材に手をかざすと、莉乃の手の中へと吸い込まれていった。


「うわうわうわー、ゲーム用語言い出したらいよいよゲームだぞこれ...今ので莉乃のインベントリに素材が入ったんだろ?」


「そうそう、素材の名前とレア度とか、あとは素材についての簡単な説明とか」


「ほうほう、じゃあこれは?」


そう言って琳はプレデヴァインの核をポケットから取り出し、莉乃の手のひらに乗せた。


「プレデヴァインの魔導核?装備に該当モンスターの主要スキルを埋め込む事ができる強化素材で、一回切りのアイテムだって!」


「装備か...なるほどな、て事は武器や防具もいずれ出てくると...」


「凄いよね〜、なんだかあんな激しい戦いをして勝った後だと自分が覚醒者になった使命感みたいなの感じちゃうな〜」


「おい、絶対に俺が居ないとこで勝手にダンジョンに潜るなよ」


「どうせ心配っていうより、1人で楽しんで欲しくないんでしょー」


「ちっ、バレたか...」


それからそうこうしていると、ゲートが消失していき、2人は真っ直ぐ父親の居る病室へと向かった。


そして2人の無事を確認した後、麗美は琳と莉乃にここで泊まるよう提案し、2人もそれに賛成し、誰も居ない別の病室で今夜は寝泊まりする事となった。


「なぁ莉乃、さっき言ってたウィンドウ..じゃなくて操作画面?アレについて詳しく教えてくれないか?」


病室を一旦後にしようと歩いて行く莉乃を引き止めて先ほど言っていたステータスウィンドウについて詳しく説明を聞いた。


「なるほど、つまり確認できるのは上から順に自分のステータス、スキル、装備、鍵付きのタブ2つを挟んでインベントリ、業績だな?」


「そうそう、あ!その最後の業績なんだけど、2人でゲートを出た後に幾つかもらったよ!」


「お!もしかして初めてのダンジョンクリアとかそういうのか?」


「えーっとね、まず上から【ダンジョン初攻略】【氷の使い手】【氷の魔術師】【造形師】【11人目の攻略者】【単独攻略】だって!」


「なんだよそれ!すげぇな!氷の魔術師だってよ!俺の妹が氷の魔術師かぁ!めちゃくちゃカッケェーーー!!」


「えっへへ、なんか照れるけど悪い気持ちはしないね...」


「それに11人目の攻略者って事は11番目にダンジョンを終わらせたって事なのか?」


「それもね、さっきゲートを出た後にね、【おめでとうございます。あなたは11人目のダンジョン攻略者になります】って出てきてその後に業績が出てきて、そしてさらに!」


「更に!?」


「ダンジョンを100位以内に攻略した者にのみ与えられる名前は、えとー、『11人目の攻略者へのプレゼント』です!」


そう言って莉乃はインベントリの中から、金色の紐で締められた、大きな黒い箱取り出した。


「うぉおおおお!!!これはすげぇぞ!11人目の攻略者だから絶対尋常じゃない何かが入ってるに違いねぇ!早速開けるんだぁ!」


「なんだなんだお客さん?そんなにこれの中身が見たいのかい?」


病棟の廊下にあるベンチで、正座して目をキラキラさせてる琳に対し、莉乃は卑しげな笑みで返す。


それからもったいぶるそぶりを見せつつ、いよいよ莉乃が箱を結ぶ紐を解くとーー


ボンッ!


「きゃっ!」


「なんだっ!」


箱を開けた途端に、ピンクの煙と共に箱が四散し、驚く莉乃に対し、中身を確認しようと煙へと向かう琳。


「ちょっと急に何よ〜」


「なんだこれぇ!!」


琳の声に莉乃がそちらに目をやると、箱が置いてあった地面には沢山の物が落ちており、一つ一つ莉乃が確認しながら、ポップアップしている画面を読んでいく。


『下級魔術師のローブ』

『下級魔術師の帽子』

『下級魔術師の両手杖』

『魔力増加ペンダント』

『魔鉱石(各5属性)』×10

『下級ポーション』×10

『下級魔力ポーション』×10


「だって!なんかいっぱいもらったけどいいのかな?」


「うわー、絶頂のスタートダッシュじゃんー、装備も一式あって、回復薬までも丁寧に...」


「それと私自分のスキルも何があるのか分かったの!」


「お!氷魔法で完結してると思ってたけど、違うのか!」


「えーっとね!『中級氷魔法』『マナ吸収』『無詠唱氷魔法』『氷上の白姫』『看破』」


「待て待てめちゃくちゃあるじゃねーかよ、マナ吸収までついてんのか?んで無詠唱って本来詠唱しなきゃいけないのかよ...それに氷上の白姫ってなんだよ、いつからお姫様になったんだよ」


「マナ吸収は倒した敵からマナを吸収したり、待機中のマナを素早く体に取り込む事ができるみたい!無詠唱氷魔法はその名前の通り氷属性の魔法のみ無詠唱で発動する事ができて、氷上の白姫は氷の上にいると速度増加と、生成した後の氷魔法を変形させられる事ができるみたい!んでんでこの看破は自分と同等もしくはそれ以下の相手のステータスを覗けるみたい!」


莉乃のあからさまに強すぎるスキルの説明を聞いていると、途中で現実逃避したくなるレベルで劣等感に苛まされそうになるも、最後のスキル説明を聞いた後、食い気味になる琳。


「マジ!?早速使ってみてくれよ俺に看破を!」


「分かった分かったって、それじゃあ見るよ〜」


そう言って莉乃は琳を凝視し始めると、何やら首を傾げ始める莉乃に、琳は居ても立っても居られず、結果を聞いた。


「んーーーー、なんかね、凄い事になってるんだけど...こんなに?」


「なんだよなんだよ!もしかしてスキルめっちゃあるのか!?それともまだ覚醒してないから潜在スキル的なやつ!?」


「って言うより...これは...ペナルティ見たいな書き方かな〜?琳...あんた何したのよ」


そんな苦笑いを浮かべる莉乃の表情に琳の顔が強張り、ペナルティと言われた内容を全て読み上げてもらった。


【反則行為によりプレイヤーには以下のペナルティが発生しています】

・装備アイテムの装備禁止(残り30日)

・クエスト攻略報酬の受け取り禁止(残り30日)

・鍛冶屋、錬金屋、道具屋、オークション、アイテム交換、ステータスウィンドウの使用禁止(残り30日)

・覚醒資格剥奪


「.....え?」


なぜか視界に左右から暗闇が迫り、膝から崩れ落ちてそのまま意識を失った琳。

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