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六話 レナートからの情報

――数日前


 卒業式が間近になった日、俺はレナートと会う約束を取りつけた。しばらく燻っていた暗い感情が少し晴れてきたからだ。これもヴァレンス教官との修練で心も鍛えられたことが大きい。


「やあ、少し待たせてしまったかな」


 指定された教室で待っていると静かに扉が開き、レナートが爽やかに登場する。

 やはり何をやっても華があるな。


「いえ、今来たところです」

「それは良かった」


 にこりと微笑み、優雅に椅子に座る。ただ椅子に座るという動作だけでも、気品に溢れ、出自の良さが分かる。

 そう。彼は貴族なのだ。大半の貴族なら平民が長時間待っていても当然と捉えるのに、彼はそうしない。だからこそ、今日この場があるのだ。


「今日私を呼び出したのは君の能力に関することでいいの、かな?」

 以前のこともあり、少し遠慮気味に問われる。

「その通りです。半年ほど前に自分の能力についての有益な情報があると仰っていましたので、心が成長し余裕ができた今、改めてお聞かせください」

「最初からそのつもりだよ。あのときは不確かな推測に過ぎない情報だったのだけれど、今では知人から得た確かな情報を元に導き出したものだから多少は信用できると思うよ。そして、君にとってかなり重要なものだろう」

 確たる自信を持って応える。

「……重要ですか」


 話の流れが俺の予想と大分違った。口ぶりから俺の知らない俺の能力に関する何かを知っているようだ。予想では、起こりうる最大でも鑑定眼――相手の能力を識別できる魔眼――の能力者に俺の能力を鑑定してもらうことができる程度だと思っていた。程度というと言葉は悪いが、鑑定眼を使っても俺は自分の能力がどういうものか知っているのでほぼ意味がない。だからあまり期待していなかったのだが、良い意味で裏切られそうだ。


「そう、君の人生を変える程に大きく関わるだろうね」

 レナートにそこまで言われると期待してしまう。

「ノット君は、生まれつき目や耳が不自由で魔術や魔法でも治せない人たちがいるのを知っているかい? エキラウとも呼ばれているけど」

「はい。自分と同じ、本来人間が使える筈の器官が一つ全く機能しないという特殊型の能力のことです」

 話を脱線させないで欲しいと思いつつも真面目に応える。

「そう。そして、彼らは一生そのままというのが常識だった」

「……だった? まさか、いるんですか?」

 興奮のあまり、椅子から立ち上がり、身分を弁えずに大声を出す。

「そのまさかさ。さらに驚きなのはそれが最近のことだということだよ。……取り敢えず、座ろうか」


 胸ぐらを掴み掛かる勢いで接近してしまっていた。落ち着いて椅子に座る。


「それで、誰がどうやったんですか?」

「まあまあ、急かさなくても順番に話すよ。その人物はセトリヴァン王国の騎士、ランディ・ミレット。元々視力が皆無の盲目騎士だったらしいんだけど、あるときから姿を消し、戻ってきたときには彼の瞳は光を映し、さらに収奪眼と呼ばれる特殊な魔眼を手に入れていた」

「……収奪眼」

 初めて耳にする魔眼の名前だ。

「知らないのも無理はないだろうね。私も聞いたとき初めて知ったからね。何でも魔力眼の能力に加えて相手の視覚を奪うことができる能力らしい」

 とんでもない能力じゃないか。

「ですが、なぜ急に全く別の能力を手に入れたのですか?」

「それについては、確かな情報と噂を元に推測すると導き出せる。先程、彼はあるとき消えてしばらくして戻ったと言っただろう? そのとき、セトリヴァン王国内の君と同じ類いの能力者、エキラウの人達が全員消えたんだよ。そしてランディ以外誰一人現在も行方が知れていない。さらに、セトリヴァン王国は能力についての酷い実験をして成功した、という噂がある。そして、生き残ったランディは実験されたであろう人たちの中で唯一高い戦闘能力を持つ人間だった。これらから答えを導き出すと、おそらく生と死を彷徨うような戦いをする、または繰り返すことによって手に入れたと考えられる。拷問のような手段で死ぬ寸前にするだけで良いなら戦闘能力を持ってなくても成立するからね」


 衝撃だった。

 そして高揚感が昂って、脈動が速くなる。

 歓喜のあまり、手が震える。

 俺はさっきの条件に当てはまる。

 俺にもチャンスがあったんだ。

 今までの努力は無駄じゃなかったんだ。

 俺はこれからの人生、のうのうと生きていくのが怖かった。

 一生叶えられない夢を追い続けることが怖かった。

 けれど、叶う可能性があるのだ。

 それだけで十分だ。


「自信満々に言っておいてなんだけど、推測の域を出ないよ」

「いえ、少しでも希望があるなら推測でも何でも良いです」

「そうかい。……あと、今思いついたけれど、死ぬ可能性が高ければ高いほど開花する可能性が高いかもしれない」

「つまり、死が近ければ近いほど良いと……」

 なにか砕けた欠片がぴたりとはまった気がした。

「これも推測に過ぎないけどね。けれど、この推測が合っていて君が成功するのを願っているよ」

「貴重な情報を教えて下さりありがとうございました。正直、最初はそんなに期待していなかったです」

「随分と正直に言うね」

「いえ、それほどまでに価値のある有益な情報でした。隠したままでは落ち着かないです」

「そうかい。それは良かった。――頑張った甲斐があったよ」

 最後は声が小さくて聞こえなかった。

「……? もう日が暮れますね」

 言い直さないので聞き返しはせず、窓を見ると日が沈むところだった。

「忙しいところすみませんでした。そして、改めてありがとうございました」

「いや、元々私が蒔いた種でもあるから。それに、お礼は生きて魔力を手に入れてからでいいよ」

「はい。いつか普通になってこの恩は返します」

「そういうことでもないんだけどな」


 乾いた笑みを浮かべたレナートに別れを告げ、廊下を歩き出すが、足取りがおぼつかない。先ほどの会話で興奮しすぎて浮遊感に見舞われている。


 このままでは駄目だ。

 地に足をつけろ。


 立ち止まり、深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。


 これからどうするか。従来の予定では、兵士になる筈だった。だが、それは変更しなければならない。

 レナートから得た情報では死を感じるほどの危険な戦闘をする必要がある。しかし、兵士は騎士と比べて、それほど危険な状況にはならない。基本的に勤務や訓練は町の中で行い、強化訓練としてモンスターと戦うことはあるが大勢の仲間と共に戦うため、死ぬことも死の危険を感じることもほぼ無いだろう。

 兵士は、個ではなく集団だ。

 これから俺は個として活動していくことが一番の近道であるため、やはり兵士は無しだな。危険で一人で活動できる職業は一つしかない。

 冒険者だ。

 まあ、無職でいるというのもあるが、金は稼ぎたい。頻繁に怪我をするのは目に見えているので、治療代を稼がなければいけないからな。

 それにしても、冒険者か。母さんと同じ職業だ。望んだ形ではなかったけれど、なんかしっくりくる気がする。


 新しい目標が決まった。

 それも明確な指針だ。

 これまでとは違い、着実に近づくことができる。


 そうして、新たな決意を胸に家路についた

感想・評価ポイント・ブクマ・いいねをいただけると大変嬉しいです。

是非よろしくお願いします。

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