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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『転生したら人間やめてました。神様の祝福ってなんですかね?化物と言われてもそれでも私は人間です』

作者: 柳

短編と言うにはかなり短めです。


『こんにちは』


目の前にいる子供に丁寧に挨拶をされた。

だから「こんにちは」と言葉を返したいが、俺はそこで気づく。自分の声が出ないことに。

自分の体が半透明になっており、まるで幽霊のように透けていることがわかる。


『気にしないで、ここでは神以外は声が出せないの。だから、僕の話を聞いて欲しい。時間が無いんだ』


少し焦っているのか子供の姿をした神なるものは、俺に説明を始めた。

ここは転生する者の魂が集められている場所であり、俺は今から転生者に選ばれるようだ。

地球にいた頃の記憶はあるし、これから行く世界の情報も目の前にいる神なるものが渡してくれた。

情報が直接記憶に刻まれるってこんな感覚なのかと体験することが出来たな。常識が塗り替えられそうで少し怖いが、時間がないのだろう。


『君にお願いしたいのは、世界を守って欲しいんだ』


無理だな。俺からはそう素直な感想が出てきた。

世界を守るだなんて勇者のような事は出来ない。自分には守るだなんて行為が出来るほど出来た人間では無い。


『でも君は自分の命をかけて一人の子供を救った』


あれは成り行きでそうなっただけだ。それに俺はどの道死ぬ予定だった。

なら、あぁするのは当たり前のことだ。どうせなら、人の役に立って死にたいと俺は最後に願ったからな。家族もそれを受け入れてくれた。


『君の命を受け継いだ子は君を覚えてないだろうけどね』


別に感謝されたくてやった訳では無い。医者や家族にありがとうと言われたあの言葉だけで俺は救われた。それは嘘ではないし、後悔も無いよ、例えその子が俺を忘れたとして、俺の存在が無かったことになってもね。


『やっぱり君しかいないよ。僕に出来るありったけの力を君にあげる。僕に祝福される最後の人間だ』


おい、何を言っているんだ?


『もう時間が無い。僕はそろそろ行かないといけない。僕は君に期待してるよ』


消えかかっていた俺の体はゆっくりと消えていき、それにともなって意識が薄れていくのを感じた。

この感覚を感じるのは二度目だな。


目をゆっくりと開ける。

見開いたつもりだったが、半分程度しか目が開かない。頑張ってもそれなのだから限界なのだろう。

今見える範囲で考えるしかないな。


「あうあうう~?」(ここはどこだろうか?)


見える限りは家ではない。

俺が触っているのは…土だろうか。


「ううあ」(まじか)


俺…もしかしてだけどさ、捨てられてね?

子供の神なるものになんか言われてたけどさ……この状況が祝福されてるってことか。


「うあぁあー!」(嘘だぁああ!)


赤ん坊に姿が変わっているのはまだわかる。

転生とか言ってたからそうなるんだろうなって予想はしていた。入院中は外に行くことも出来なかったし、よく冒険譚とか異世界系のライトノベルを読んでたからね。

赤ん坊で森に放り出されるなんて………いや良くある展開なのでは?

森の中で捨てられている謎の赤ん坊を拾うのは大抵は凄い人だし、ここで待っていればいいのでは?


「グルルゥ」

「あっ」


えっと、ここで問題DEATH。

目の前には俺を見て涎を垂らしている目の真っ赤な狼のような存在がいます。

さてどうなるでしょうか?


「ワオーン!」

「あう?」(なんだ?)

「「グルル」」

「あ、あうあ?」(な、仲間だと?)


ねぇ、本当に助けてくれるようなすっごい人来るんだよね?

本当に来るよね?祝福されてるんでしょ!?


ガサガサッ!!


「あう!」(来た!)

「グギ?」


…肌が緑色で琥珀色の目で額には小さな角か。

所謂ゴブリン族ってやつか?ええっと、もしかしてだけどあなたが俺のヒーロ?


「グギギ!」


あ、凄い棍棒を持って俺にゆっくり近づいて来てる。

滅茶苦茶怖いっというか舌なめずりしてるのは気の所為だろうか?

生まれて一瞬でこんなにモテモテになるんなんて、神様はいったいどんな祝福をしてくれたんだろうな。


「グル!」

「グギ!?」


俺とゴブリンの間に入ったのは先程の狼だった。

助けてくれた…訳では無いようだ。残りが俺のことを逃げないように見張ってるし。

恐らく群れのボスがアイツなのだろう。それで、獲物をゴブリンに横取りされるのを防いだって感じだろうか。ちっともキュンと来ないぞ?


「グギャギャ!!」

「グルルゥ…ガウ!」


ゴブリンが走って振り下ろした棍棒を狼はステップで避けて体当たりか。


『棍棒術を獲得しました』

「あぁう?」(なんて?)

『体術【身軽】を獲得…スキル獲得に伴い身体能力が向上しました』

「あううあ」(そうじゃなくてさ)


眼の前で起きている俺を巡っての攻防を見ていたらスキルを獲得するってなんだよ。

てかこの世界にスキルってあるのか?


「グルァ!」

「グギャアァァァ!?」


おお!狼が口から炎出したぞ。あれって魔法か?それとも火を吐く狼なのか?


『炎魔法【ファイアブレス】を獲得しました』


魔法なのか、異世界って感じがするな。

でもそんな異世界とももう直ぐでお別れかもしれない。ゴブリンと狼の勝負が決まりそうだ。


「グ、グギギャァァァ!!」

「ガウ、グルァ!!」


炎魔法がゴブリンの頭に命中し、頭が吹き飛んだ。

近距離で放てば結構なダメージを与えることができそうだな。魔法か…俺も使えることが出来ればな。


『……スキルの魔力感知を獲得、続きまして魔力操作を獲得しました』


あ、あれ?なんか狼の体の周りに透明な膜があるのが見えるけどあれが魔力なのか?

俺もあんな感じにすれば魔力を使えるのか?う~ん…イメージが大切、イメージが大切。


『スキル、付与魔法を獲得……忠告!魔力のオーバーフローを確認しました。魔力を制御してください』


え?オーバーフロー?俺の方が状況の移り変わりが激しすぎてオーバーフローしそうなんだけど?

魔力がありすぎってことか?


『魔力を制御してください。魔力を制御してください。魔力を制御してくだ…』

「あうあうう!!」(わかってる、わかってるから!!)

「グルル!?」


え?なんか狼たちが逃げ出したんだけど…これってどうすればいいの?

魔力の制御って何だよ。とりあえず抑え込めばいいのか?

魔力を自分の中に押し固めるイメージをする。これで制御が出来ているのか全くわからないが、謎の忠告は聞こえなくなった。


「あうぅ~」(よかったぁ~)


というか色々なことが起こりすぎてちょっと疲れたんだけど。

ひとまず茂みの中に隠れて休もう。あぁ…ダメそう、力が抜けて…意識が。


この状態で目を瞑ったら絶対に意識が飛ぶぞ…って……え?


茂みの中に隠れて休もうかと思っていたのだが、その茂みからはまんまるのボディをした水色の何かが出てきた。いや、見たことはある。主にゲームの中とか漫画の中とかだけど。


「ああうあうあ?」(スライムだと?)


スライムはゆっくりとズリズリとその体を引きずって俺に近づく。赤ん坊の俺にはもう逃げる体力なんか残されていない。運良く狼に食べられることなく逃げれたけど結局は食べられる運命にあったんだろう。

よりによってスライムに食べられるなんて思わなかったけどな。


「あぁ……」(はぁ……)


赤ん坊ながらため息が出る。

スライムは俺の体に触れると覆いかぶさるように上に乗る。

楕円だった体は俺の体を飲み込むように広がっていき、俺の体はひんやりとした感触に包まれる。


冷たい。スライムの体の中ってこんなに冷たいのか。目を開けているけど大丈夫なんだな。

スライムって酸の体を持っていると聞くけど…俺はこれから溶かされるのだろうか。出来れば痛くしないで、一瞬で殺してほしいんだけど……溶かされるってなるとどちらも無理なお願いなんだろうか。


「……う?」(……ん?)


俺は酸によって自分の体が溶かされる激痛を今か今かと待っているのだが、一向にその時間は訪れない。

消化を始めるどころかスライムは俺を取り込んで移動し始めた。どこに向かっているのかは分からないが、そろそろ意識を保つのが限界のようで瞼が重い。そこだけ重力が何倍にもなっているかのように力を入れても閉じようとする。やがて、俺は瞼を閉じてしまい、それ以降目を開けることは叶わなかった。



時間が経過したのだろうか、陽の光によって照らされていた森は薄暗くなっている。

お腹が空いて俺は目を覚ましたのだろう、お腹と背中がくっつきそうな程に空腹を感じている。

だが、俺は大きな声を出すことはあまり出来ない。それをすることすら出来ないくらいに俺は体力を消耗してしまっているようだ。赤ん坊の体は、思ったよりも体力が無いのだな。それとも、あの魔力のオーバーフローに殆どの体力を持っていかれてしまったのだろうか。


俺がスライムの中で景色を眺めているとやがて開けた道に出る。獣道ではない、人工的に整備された道だ。森の中にこんな道がなぜあるのかと疑問に感じたし、スライムはなぜこんな道をわざわざ通っているのかも疑問だった。スライムとは恐らく魔物だ。魔物は多分だけど人間の敵になる存在だと思う。人工的に作られた道を通るメリットはどこにも無いはず…ん?というかこのスライムは何が目的なのだろうか?


俺を食べるつもりは無いとは言えないがかなり薄い線だと思う。とっくに腹の中にいるわけだし。

食べるつもりならいつでも俺は食われるだろう。しかし、スライムは俺を今もどこかに運んでいる。

いったいどこに?


俺のその疑問は数分後に解消された。

道を進むと開けた場所に出る。整備された庭のような場所と木で出来た囲いの柵。

黒を基調とした立派な家…いや屋敷と言うべき物がそこにはあった。


スライムは庭に着くと俺を地面にゆっくりと吐き出した。

そして、吐き出すとキョトンとしている俺の周りをくるくると回りだす。

なぜだろうか?このスライムにすごく心配されている気がする。


スライムの様子を見ながら待っていると家の出入り口が開く。

中から出てきたのは白いシャツを着て、黒いローブをその上から羽織っている若い男だった。

黒髪の男ですごく印象的だったのは貴族的な服ではなく男の瞳だった。

充血しているとは違う、赤い瞳。熟れたトマトのように真っ赤な目は俺の視線を釘付けにした。


「おやおやロキはまた拾い物をしてきたのかい?って…赤ん坊じゃないか」

「うあ?」(だれ?)

「…可愛らしい。ロキ?この子はどこにいたんだい」


男はスライムに問いかけるように話す。

この男はスライムの言葉でも聞くことが出来るのだろうか。「うんうん」と相槌を打っている。


「そうか、森の中に捨てられていたのか。見た感じではヒューマンの子供ようだね。力強い魔力を体の中から感じる。スキルは………ッ!!」

「うあ?」(なに?)

「これは……酷い。ヒューマンとはここまで愚かな事をするのだろうか。こんな赤ん坊に一体何を成させたかったのだろうか」


抱きかかえられて顔をじっと見つめられている状況なのだが、すごく悔しいような悲しいような表情をしているな。それに今の言葉…え?何?もしかしてだけど俺のスキルを見られた?

いまいち自分でもよくわかってないんだけど、見たら勝手に習得する感じなんだよね。

あ、よく見たらあの目に魔法陣みたいな模様が光ってるけど、何かしてるだろうか?


『スキル鑑定を獲得しました』


あ、鑑定ね。ということは自分のことを調べていたのか。

これって何でも覗けるって感じのスキルなのか?だとしたらプライバシーはあってないようなものだな。

せっかくだから自分の事を鑑定してみようかな…出来る?


すると自分の頭の中に自分の情報が浮かび上がって来た。


=================================================================

名前:NONAME

種族:キメラ

性別:男

=================================================================

スキル

・神瑩             ・炎魔法【ファイアブレス】

・体術【身軽】         ・棍棒術

・魔力感知           ・魔力操作

・付与魔法           ・薬品耐性

・毒耐性            ・麻痺耐性

・睡眠耐性           ・即死耐性

・精神耐性           ・切断耐性

================================================================

【????の祝福】

================================================================


え?こんなにスキルって獲得してたか?

というかこの耐性スキルの数はなんだ?種族もキメラってなってるし……絶対に人間じゃないよな?

転生したら人間やめてたんだが?勝手に人間を卒業されるのは困るんだけど。

てかキメラってなに?聞いたことくらいはあるけど何と合体させられたんだよ……というか赤ん坊の俺に何してんだ。祝福の文字が隠れているんだが?これって仕様か?


「もう大丈夫。君は私が…いや私達が守るから。こんな事をするのはどこの国だろうね?」

「ローネシア帝国じゃないかしら?」

「あぅっ!?」(えっ!?)


後ろから急に現れたのは白いドレスを来た不思議な女性だった。いきなり後ろから声を出されるとビクってなるから止めて欲しい。普通にびっくりした。


「ねぇ、ルム。その子どうするの?」

「育てる」

「はぁ!?あんたが子育てなんて出来るわけないじゃない。自分のことすらままならない癖に」

「だから君にも手伝ってもらいたい。君だけじゃない、他のみんなにも」

「それは命令?」

「いいや、お願いだ」

「そ、じゃあ私は嫌よ。この子はここで殺しておくべきよ」


えぇぇ!?

殺すべきって言われたんだけど。初めて人に面と向かってあなたは殺されるべきなんて言われたな。

というか、危険を回避したと思ったら、また死ぬかもしれない危機に陥っているな。

祝福はどこ?……本当にここにある?


「キメラなんて禁忌に染まった存在は、居るだけで世界に害をもたらすわ」

「だけど、この子には何の罪もない」

「あるわよ。存在自体が罪だもの」

「……」


おいおい、俺の存在自体が害だって言われたぞ。

転生して楽しい人生を過ごすという俺の異世界ライフはどこに消えた?

というかこんなにも歓迎されていない転生なんてあったか?


「あうあう!」(頑張ってくれ!)


俺は男を鼓舞をする。お前が押し切られたら俺が死んじゃうから頑張って眼の前の女性を説得してくれ。

今にも殺されそうなくらい冷たい視線を俺に向けてくるんだけど。


「この子が危険?君はただの赤ん坊に世界を滅ぼす可能性があると?」

「それは…」

「この子は何の罪もない世界に祝福されたただの赤ん坊だ。この世界に生まれた者は等しく星の子であり、神の子だ。それがいかなる生まれであってもね」


俺を優しい目で見る。

笑った顔もイケメンだな。クール系が笑うとこうもグッと心が惹かれるものなのか。

俺はなんとなく適当にあうあうして、その場をどうにかやり過ごしている。女性はため息をつく。


「はぁ、わかったわ。でも、あんたの意見を全部了承するわけじゃない。期限を決めましょ」

「期限?」

「そうね…だいたい10年くらいかしら?その子が成長し、世界を滅ぼす害だと判断したら、私達で殺す」


と、とりあえずは死という危険から脱却したみたいだな。10年は生きれる保証が出来たぞ。


「ルム、それでいいかしら?」

「わかったよ。でもそんな心配はしなくていいと思うけどね」

「はいはい、私は外に用事があるからもう行くわ。他のみんなにもちゃんと説明するのよ」

「分かっているさ」


ルム…それがこの男の名前なのか。育ててくれるみたいだし、親ということになるのか?

パパ?…ちょっとキツイか。呼べても父さんだな。


「うむ‥」

「え?」


難しいな。ラ行がなかなか上手く発音できない。せっかくだから名前を呼ぼうとしたが、赤ん坊のためか上手く発音が出来ないな。マ行は問題なく出来るようだ。


「あむ…んむ…」

「もしかして僕の名前?」

「あい!」(そう!)

「ふふ、なんでだろうね。今、とても嬉しい気持ちになったよ」


そうか、それなら頑張ったかいがあったな。いつかはちゃんとお礼を言うから待っていてくれよ。

あ、いやそれは少しだけ無理なのか?俺ってこう意識はちゃんとしてるけど普通は無いよな。物心がつくのってもっと後だっけ?

あの時の事を覚えてますなんて言ったら、気持ち悪がられるかもしれないな。

普段から恩返しをすればいいか。


「ここが今日から君の家だ。そして、僕たちは今日から家族だよ。ずっとね」

「あういあ」(よろしく)

「君はまるで会話を理解しているように返事をくれるね」

「あ、あういい?」(な、なんのこと?)

「ふふ、気の所為だよね」


俺とルムが屋敷に入ると白いメイド服を来た女性が立っていた。スラッとしていて背が高く、スタイルも良い、見るからに頭の良さそうな女性だ。


「その赤ん坊がロキ様が拾って来られたものでしょうか?」

「そうみたい。今日から家族になる子だ」

「そうですか。お部屋はどういたしますか?」

「二階の角に空いている部屋があったはず。あそこをこの子の部屋にしようと思ってるよ」

「わかりました。では至急、部屋の準備を進めます」

「うん、この子はそれまで僕の部屋で寝かせてお」

「ぎゅるる~」


あ、俺のお腹の音だな。まぁ、俺が意識を持ってからは何も食べていないからそりゃあお腹が空いているよな。


「…まずはお食事の準備ですね」

「ミルクはあるかな?」

「はい、ですが哺乳瓶がございません。ですので今は煮た芋をすり潰し粥に入れて食べさせてはどうでしょうか」

「うん、君に任せるよ。ロザリは頼りになるからね」

「承知しました。では、料理ができ次第、お部屋に運ぶように伝えます」


俺は空腹を感じながら、ルムの部屋に行く。

階段を上がり、右に曲がって真っ直ぐ歩く。突き当りになると他の部屋の扉と作りと装飾が違う扉があることがわかる。この部屋がルムの部屋なのだろう。


「ここが私の部屋だ。ベッドもあるからここで寝ていてほしい」

「あう」(うい)

「君は本当に賢いね」


そう言うとルムは大きな机の上に広げられたよくわからない器具を片付けていく。

ガラスで出来たビーカーか?まるで理科の実験みたいだな。

俺がじっとその様子を見ていることに気がついたのか、抱きかかえて近くでそれらを見せてくれた。


「これはね、薬を作るのに使う物なんだ」


なるほど薬か。ということはルムはこの世界では医者ということになるのか?それとも薬剤師だろうか。

どちらにせよ、凄い事をしているのだとわかったな。


「魔法の研究もしてるけど、君にはまだ早いかな。…あ、そうだ。君には名前がなかったね」

「あう?」(名前?)

「そうだね……じゃあウェリアスはどうかな?この世界を危機から救った者の名前だ」

『名前:ウェリアス……世界から認められました。個体名 ウェリアス……登録完了』


なんか名前負けしてるよな?

というか存在自体が害だって言われた俺がそんな凄い人の名前を貰っていいのか?

まぁ、名前はカッコイイから文句なんてないぞ?


「うん、無事に世界から認められたみたいだね。今日から君はウェリアスだ」


コンコン


扉がノックされる。恐らく食事が運ばれてきたんだろう。

屋敷を見たときから感じてはいたが、メイドも居るとなると確定だな。この人……貴族だ!

運ばれてきた食事を見るが……うんぶっちゃけると美味しそうには見えない。

まぁ、白い粥のスープに蒸かした芋を細かく切って少し潰してあるだけだしな。だが、それでも俺の涎は止まらない。


ルムがスプーンでスープを俺に食べさせてくれる。

少し恥ずかしいが、背に腹は代えられない。この恥ずかしさを耐えて、俺は生きるぞ!

一口、スープを食べる。……うん、美味しくはない。まずスープの味はかなり薄い。芋は少し塩が効いているけど、それ以外は殆ど味がしない。一瞬自分の味覚を疑った。それほどまで味がしないのだ。


「うぁ」


だが、作って貰った側は文句を言える立場にない。

作って貰ったからには感謝をして食べなければならないのはどの世界でも同じだろう。

病院食のほうが全然美味しいとは絶対に言わないぞ?それは絶対だ。うぅ…白米が恋しいぜ。


なんとか食べ終わり、お腹がいっぱいになると眠くなった。

食べた後に寝ると牛になるという文言があるが…今は関係無いだろう。というかそもそも人では無いんだし、牛になったところでって話だな。


「眠くなったのかい?」

「あうぅぅ」

「そうだね。じゃあ、おやすみウェリアス」


頭を撫でられ、心地よい人の温もりを感じながら俺の意識は眠りへと向かって行った。



眠っていると何かに頬を触られている感触がした。そして、寝る前にされたように優しい力で頭を撫でられているのが理解できた。ルムがまだ撫でているのかと思い、薄く目を開けてみるとそこにはある女性がいた。


先程の屋敷の外で俺を殺すべきだと主張していた女性だった。

驚きと少しの恐怖で息がつまる。


「可愛いわね……私だって本当は殺すなんて言いたくないわよ。でも、しょうがないじゃない、そう言わないとルムはこの子の危険性を意識して育てようとはしなかったし……もし、この子があれを覚えていたら、嫌われちゃうかしらね」


すげぇ寂しそうに喋るな。と言うか、あれって演技だったのか?

いや、俺が危険な存在ってことは恐らく本当だから、完全に演技ではないんだろうけどさ。だが、少しだけこの女性の事を誤解していたかもしれない。


「キメラでも人の姿をしている。それに赤ん坊だなんて変な存在もいるものね」


まぁ、転生者だしな。

というか、喉が渇いたな……起きるか。

目をパチっと開けると女性と目が合う。俺が急に起きたように見えた女性は、頭を撫でる手を引っ込める。そして、先程の優しげな視線はなくなっていた。


「10年後が楽しみだわ」

「あういう」(そうだな)

「…………」


指をさされたのでその指を軽く掴んで見た。すると女性の頬は少し緩んだように見えた。

彼女は恐らく俺たちの前では冷たい態度を取ることにしているのだろう。その理由は今はわからないけど、いつか教えてくれると嬉しいな。指を離し、俺はジッと女性を見つめる。


「ずるいわよ。……ルムに起きたって伝えてくるわ。この時間は地下室かしら?」


扉をゆっくりと閉める。

この屋敷は壁がそこまで厚くない。つまり、廊下の物音も聞こえてしまう。

扉を閉めた後に、彼女のご機嫌な鼻歌が聞こえ始めた。


暫くすると薄着を来たルムと……他知らない人が二人も来た。

メガネをして切れ長の目でこちらを見ている男性にパッチリ二重で興味津々という感じで俺を見ている小さな背丈の女性だった。男性の腰には刀のような物があり、女性の腰には短い杖のような物がある。


「ウェリアス、起きたのかい」

「あい」

「ねぇねぇ!この子、今返事をしたよ?もしかして言っていることがわかるのかな!?」

「馬鹿を言うでない。言葉に反応したに過ぎん。しかし、化け物だと思っていたが、存外可愛げのある化け物ではないか。将来が楽しみだ」

「ウェリアス、こっちの男がヤスマサでこっちの彼女がラプラだ」

「赤子に名を申しても仕方がないじゃろうに」

「でも言わないと覚えてもらえないかもよ?」

「………某はヤスマサじゃ。や・す・ま・さだ」


お、おう。急に顔を近づけて来て驚いたが、自分の名前を言っていたのか。

名前を呼んで欲しいみたいだ。


「あすまさ……やすまさ」


お、言えたな。少しだけ辿々しいが、頑張れば言う事が出来るな。


「おぉ!言ったぞ!某の名前を呼んだぞ!」

「ヤスマサ、大きな声出しすぎ。赤ちゃんが驚いちゃうよ?」

「おっと、それはすまない。それにしてもこの子は賢いの、種族的な影響だろうか」

「どうなんだろう。キメラだからってわけじゃないと思うけどな~?この子が頭いいんじゃない?」

「らふら!」


プが言えないな。口が上手く動かない。

少し恥ずかしいし、早く喋れるように…って言葉が通じてるな。


ずっと意識していなかったが、ここが日本ではない…というか地球ではない別の世界だ。

言語が偶然にも同じな事はあり得ないだろう。だとしたら、神様が何かしたのか、それとも仕様なのか。

分からないが考えても答えが出そうにないのでそういうものだとおいておくしか方法がない。

考えられる時にもう一度考えてみるか。


「やーん!この子、可愛いすぎるんですけど!ねぇ?うちの子にしてもいい?いいよね!?」

「駄目だ。この赤子は某の技を受け継ぐ後継者として育てるのだ。お前の側にいてもこの子の悪影響にしかならんだろう」

「なにその言い方?私がいつこの子に悪い影響を与えたのかな?脳まで筋肉な脳筋が側に居るとそれこそこの子に悪い影響が出そうだけどぉ?」

「……糞淫魔が」

「なに?脳筋猿が何か言ってるんだけど?」


俺を間に挟んでの喧嘩は止めて欲しいのだが?


「二人共、ウェリアスが怖がるから止めてほしいな」

「ほら、ヤスマサが突っかかってくるから怒られちゃったじゃん」

「それはお主も同じことだ。某のせいにするではない」

「はぁ…」


どうやらこの二人はあまり仲が良くないのかもしれない。

ルムも苦労しているのだな。

というか、ここは本当にどこなのだろうか。いや、家の中なのはわかりきっているのだが、そもそもどうしてこんな森の中に大きな屋敷を構えているのかも気になる。


「ルムよ、その子はこれからどのように育てていくのだ?」

「とりあえずは、言葉を教えようかな。後は、この子が学びたいようにすればいいと思うんだ」

「ようは決まってないことでしょ~?」

「い、いや、そんなことはないよ。大きくなったらブルネの学園に通わせてあげるのもいいかなぁって」

「学園…この大陸の学び舎か。うむ……そのような学び舎よりもここで教えたほうがよりウェリアスのためになると思うのだが?」

「この子には、人間として生きてほしいんだ。僕たちのような逸脱者ではなく、少なくとも彼らに寄り添えるような存在になって欲しい」


優しげな口調だが、ルムの顔はどこか寂しげな表情をしてた。

それを聞いたヤスマサとラプラは複雑そうな顔をする。


「某はルムの考えは理解出来ない。なぜ、あのような者共に力を貸すのか」

「それに関してはラプラも同意見かな。この子をあんな奴らの道具にするのは嫌なんだけど?」

「それは私も嫌だよ。だから、これは私の勝手な望みだし、この子に強要することも無いよ。でも、いつかは協力して手を取り合える関係になれることを私は夢見ているんだ」

「あの天使族が聞いたらどう思うかな?」

「鳥肌が立つどころでは収まらんだろう。あの者はこの子を一刻も早く消したがっていたからな」


あの女性のことか。別に消したがっている訳ではなさそうだけど、彼女のには彼女なりの理由がありそうだった。それをこの二人は知らないのだろう。そして、あの女性も知られないようにしているのかもしれない。これは、秘密にしていた方が良さげではあるな。


「まぁ、今はこの子の成長をみんなで見守ろう」

「そうだな」

「うん!ラプラもお世話するからね」


それから俺は3人とメイドに大切に育てられた。体の方はすくすくと成長していき、9年の月日があっという間に流れていった。


「これってどういう魔法なの?」

「えっと、これは幻覚魔法だよ。こんな感じで分身を作ったり、視界に靄をかけたり出来る魔法だね」


ラプラとの魔法の勉強は楽しい時間だった。

俺が魔法について聞けば彼女は実践してそれを見せてくれる。そして、見せてくれるということは、俺は学ぶことが出来るということだ。


『スキル幻覚魔法を獲得しました。ユニークスキル【叡智】に魔法が新たに追加されます』


はい、ということで俺の怪物化は更に現在進行形で進みまくっている。

この数年で大陸や国の文化なども勉強した。スキルについても教えてもらったけど、俺はその中でも外れ値であることが理解出来た。

ず、スキルとは努力や才能が可視化したものであるというのが通説らしい。だから、スキルを一つ獲得するためには、多くの時間をかけてそのことに集中して取り組む必要があるみたいだ。

対して俺は違う。スキルを見ただけで獲得することが出来る。はっきり言えばチートである。

スキルを獲得出来たからと言っていきなり使えるかと言われれば別だ。最初は全く出来ない。俺は、スキルとして様々な物を手に入れたが、基礎がなっていないせいか、まだ魔法を使うことすらままならない。


俺の現在のステータスはとんでもない。スキルだけ見れば化け物だ。だが、その殆どを使いこなせていない状態だ。まぁ、豚に真珠って言葉があるように宝の持ち腐れってこと。


「今日はこの後、ヤスマサと剣の修業?」

「ううん、今日は弓だって」

「そうなんだ。怪我しないように頑張ってね?それとネアルには、何かされてない?」

「大丈夫だよ?」


ネアルとは天使族の女性のことで、俺を消したがっているあの女性のことだ。

この数年間、彼女は夜にたまに俺の部屋に入っては俺を撫でて出ていくことが多かった。朝や昼に見かけても何も言われないし、俺が挨拶しても無視だ。彼女なりに頑張って冷たく接しているのだろう。理由は分かっている。彼女の地位が問題だった。彼女はどうやら天使族の巫女と呼ばれる地位にいるようだ。その巫女は神の信託を受ける存在で、その地位から俺の存在を認めるわけにはいかなかったらしい。今でも外に時々出かけているのは仕事をするためらしい。どうしてこの家に住んでいるのかは、知らない。それよりもその仕事で溜まったストレスの発散なのか寝ている俺を撫でたり、横で添い寝したりしてくるのはどうなのかと思う。ヤスマサとの訓練で気配がするとどうも目が覚めるようになってから、寝たふりをするのが少し苦しくなった。


「本当に?」

「本当に大丈夫だよ?どうして?」

「ううん、何でもないの。でもネアルは、ウェリアスちゃんに時々冷たい対応をするでしょ?」

「うん。でもそれは機嫌が悪かったからじゃない?そういう時もあるよ」

「ラプラ、ウェリアスちゃんが大人過ぎて泣きそう」

「え?なんで泣きそうなの?大丈夫?」

「うん、大丈夫。そろそろ、ヤスマサの所に行かないとね。頑張ってね」

「わかった!」


俺は部屋を出て庭に出る。

庭には剣を素振りしているヤスマサがいる。


「師匠!来ましたよ~」

「よし、ではまずはいつもの訓練から始める」

「はい!」


ヤスマサを師匠呼びしているのは、ヤスマサがそう呼んで欲しいと言ってきたからだ。

まぁ、剣のど素人に手ほどきをしてくれるのだからそう呼ぶのがいいのか。師匠と呼ばれたヤスマサはすごく嬉しそうだったのを覚えている。


そんなヤスマサ師匠との訓練の始まりはストレッチから始まる。これには俺も少し驚いた。

何でも師匠の故郷で取り入れられている訓練の方法らしく、これをすることによって怪我の防止になると言われているようだ。まさか、同じような文化があるとは思わなかった。


「では、剣を取りなさい」

「あれ?今日は弓じゃないの?」

「まずは剣の調子を見極める。それから弓に入る」

「わかった。……手加減してよ?」

「手加減など、愛弟子には無用」

「えぇ……」

「では、参る!」


そう言うと俺と師匠との模擬戦が始まった。

師匠の剣はとにかく速い。構えから剣を振る動作が淀みなく、綺麗な剣だ。ルムが言っていたが、ヤスマサは世界でも有名な剣士に勝ったことがあるらしい。俺は、凄いとその時素直に思い、言葉が出た。それを聞いた本人は相手が弱かっただけだと言っていたが、照れ隠しだとルムは俺にこっそり教えてくれた。


「壱の剣【鱗雲】」

「……壱の剣【鱗雲】!」


師匠の技に同じ技で返す。【鱗雲】は、小さな斬撃を相手に飛ばす技である。これを習得するのに1年以上もかかって俺は挫折しそうになった。師匠が言うには一年で技を修めるのは凄いことらしいが、それでも一年以上も同じ技を繰り返し練習するのは辛かった。


「構えから技を出すのが遅い。弐の剣【凍雲】」

「はい!弐の剣【凍雲】!」


【凍雲】は、刺突の構えから放たれる技だ。初代が放ったこの技は、空気を凍らしたことがあるらしくこの名前になったようだ。師匠の技でも冷気が出る程度であり、空気を凍らすなんて御業は出来ない。


「…いい感じだ。次、参の剣【雷雲】」

「参の剣【雷雲】!」


上から真っ直ぐ剣を振り下ろす技である。ただ振り下ろすのではなく、一瞬で振り下ろす。

ようは、滅茶苦茶に速い唐竹である。異常なのはその速さだ。この技の時、師匠の剣は見えなくなる。

ではどうしてそれに技を合わせることが出来ているのかというと勘だ。ここらへんだろうかという勘でなんとかしているという状況だ。

俺と師匠の剣が振り下ろす途中でぶつかり、甲高い音が庭に鳴り響く。


「見事…基礎の3つはなんとか形になったようだ」

「ありがとうございました」

「うむ…では今から弓の修行に入るぞ。ついて参れ」


俺はその後、弓をもらい夕方までその修業に明け暮れた。

これがいつもの俺の日常であり、3年間も同じ生活を送っている。夕食は家族揃ってみんなで食べる。

その時に、今日の修行はどうだったや魔法がどうだとかの話をする。

ルムは俺の話を聞くと嬉しそうに聞いてくれるので、いつもついつい沢山話してしまう。

しかし、今日はそうもいかなかった。ルムが話を切り出す。


「ウェリアス、今日は君の10歳の誕生日だ」

「え?あ、そっか。今日で10歳なんだ」

「おめでとう~!ウェリアスちゃんがこんなに育ってくれてラプラも嬉しいよ」

「うむ、某も愛弟子の成長は嬉しいものだ」

「……おめでとう」

「それで…ここからは真剣な話だよ」


そう言うと、ルムは俺をいつもとは違う真剣な顔で見る。

ルムがそう切り出すと他の3人も真剣な表情に変わる。ルムが合図をすることで側にいたメイドたちが部屋を出ていく。ラプラまでもが真面目な顔をしていることに驚いたが、一体何が…あ。


俺はこの時に気づいたのだ。今から10年前にある約束をしたことに。

それは、俺が今まで生きてこられた約束でもある。そうか、あれから10年が経過していたのか。

俺のスキルは殆どを偽造というスキルで隠しているけど……恐らく見破られているのだろう。

約束の内容は今でも覚えている。俺が世界に危険を及ぼす存在になれば殺すというものだった。ルムたちはそれに同意した。


「今から10年前の話だね。ウェリアス、君はロキによって森の中から拾われてきたんだよ」

「…森ですか」

「そう。本当はウェリアス、君は僕の子供ではないんだ」

「……知っています」

「え?」


俺のスキルは恐らくバレている。こんな化け物を放って置くほどネアルは甘くはないだろう。

それに、ルムもそれに同意したということはそういうことだ。

俺は今から死ぬのだろうか。殺されるのだろうか。……嫌だなぁ。


そう考えると不思議と涙が出てきた。

どうして俺が殺されなければならないのかという悔しさに悲しさ。みんなともっと楽しく暮らしたかったという寂しさ。もっとこうしておけばよかったという後悔。

あの時、俺が地球で生きているときには無かった生というものへの執着が今ここに来て芽生えたのだ。


「え?ど、どうして泣いている。そんなに親がいないことがショックだったかい?た、確かに」

「おい、どういうことだ。これではお通夜ではないか」

「ねぇ、もっと遠回しに言うべきじゃないってラプラは言ったよね!?」

「いえ、親は父上で良かったです。師匠はヤスマサで魔法の先生はラプラで良かった。でも…今日でお別れってなると寂しくて‥…いえ、すみません。もう泣きません」


俺がそう言うと4人は不思議そうな顔をする。首を傾げている。


「な、何を言っているんだい?お別れ?」

「実は俺には10年前の記憶は今でも残っているんです」


そう言うとネアルとルムはハッとした顔をする。


「10年前にした約束…俺は自分の力についてよく理解しているつもりです。それに俺の存在についても本を読みましたか理解してます」


バッとルムがラプラに顔を向ける。ラプラはブンブンと顔を横に振る。

恐らくキメラに関しての本は隠していたのだろう。まぁ、見つけにくかったのは確かだったし、一冊、一冊がそれぞれ別の場所に置かれているとは思わなかった。


「……俺は生きていることが神の禁忌に触れている。その全てが禁忌に染まった生命体であると書かれていました。…だから……俺は」


おかしいな。10年前はなんとも思って無かった。寧ろ10年も生きれると喜んだくらいだ。

俺は生まれてから死ぬまでずっと病院だったからそれだけでもとても楽しかったのか。だが、人間は欲深い生き物で、俺はまだ生きていたいと思ってしまう。


生まれ変わる前には神に世界を救って欲しいなんて言われたけど、俺には無理だよ。

それにこんな優しい人達が居るんだから大丈夫じゃないかな。俺がいなくても平気だと思うよ。


俺が震えながら何かを言おうとすると、ネアルが急に席を立つ。そして、俺の方に近づき勢いよく俺のことを抱きしめた。

急なことで驚き、体が固まる。だが、抱きしめたネアルがすすり泣きをしているのが理解できた。そして、小さく何かをつぶやいている。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


それは、恐らく俺に対しての謝罪だろう。

彼女は時々、寝ている俺に謝る。「あの時はごめんなさい」と。今でも彼女は心のなかで後悔しているのだろう。だが、10年も前のことだ。子供の俺が覚えているわけもないと思っていた矢先に俺がまさかのカミングアウトだ。彼女には衝撃だっただろう。そして、自分がしたことの残酷さに気づく。

殺されると知り、その約束をした存在と同じ屋根の下で暮らしていたのだ。正気の沙汰ではない。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい…だから」


俺はそんな彼女の優しさを知っている。それはこの数年で嫌というほど分かっている。

だから俺は。


「大丈夫。ネアルが本当は優しいって知っているから」

「え?なんでそんなこと」

「だって夜に遊びに来てるじゃん」


そう言うと顔が赤くなる。まぁ、寝ているフリをしているからバレているなんて思わないよな。

口が何か言いたげに開いているけど、言葉は出て来ない。


「ちゃんと寝てるよ?でも流石に朝になれば起きてる時もあるから……」

「うぅ…」

「だから、そんなに謝らなくて平気だよ。俺は、十分にネアルの優しさを知ってるから」

「違う、違うの!ウェリアスは生きていていいのよ!だから、お別れなんて言わないで」

「で、でも…そうすれば世界が」

「関係ないもん。ウェエリアスが世界を滅ぼすなんてありえないって私達が一番知ってるから大丈夫だもん」


いやだもんって普段からは考えられない口調なんだけど。

というかもしかしてだけど殺されないかんじ?


「いや、父上が真剣な話って言うからてっきり俺…」

「育てた我が子同然の子をこの手で消す?あはは、無理無理。私にそんな覚悟なんて無いよ」

「そんな事をするならば某が止めよう」

「ラプラも勿論だけど止めるよ?」

「じゃ、じゃあ何の話しだったんだ?」

「あぁ…みんなでこの家から街に引っ越さないかって話しだったんだよ」


…何だよ。これじゃあ、せっかく出来た殺される覚悟も塵になっちまうよ。

俺は安心して、体の緊張が崩れ椅子にもたれかかる。ずっとネアルがくっついたまま離れない。


「あの~……そろそろ」

「嫌!」

「うぇ!?でも食事もあるし」

「……じゃあ、もう二度と自分が生きてちゃ駄目なんて思わないで」

「約束する」


そう言うとネアルはゆっくりと俺の事を離してくれた。

ネアルの顔は涙に濡れ、目は少し赤く充血していた。顔もまだほのかに赤い。

恥ずかしそうに目をこする。


「ネアル?」

「……ママって呼んでもいいのよ?」

「は?」

「ちょっと待った!その話にはラプラちゃんも混ぜてもらおうかな!?」

「ちッ」

「舌打ち!?」

「あはは…喧嘩は程々にね」

「この家の主はおぬじゃろうに、全くもっと威厳を出さんか」


ルムが手を軽く二回叩くと扉からメイドが入って来る。

中にはハンカチで目元を付ている人たちが居るけど……もしかして立ち聞きしてた?


「いいえ、少しゴミが目に、うぅ…」

「聞いてたよね?」

「いえ、私どもは食事の準備をしていましたので」


そんなこんなで俺の異世界での人生はまだまだ続くみたいだ。

まぁ、10年で終わることがなくて安心したし、みんなには俺の早とちりで不安にさせてしまった。

ネアルとも楽しい生活を送れるといいな。


こんな化け物でも家族に恵まれて俺は幸せです。

読んでいただきありがとうございました。気ままに書いた短めの一章です。

結構テンプレ的な感じで書きましたが…つまらないと感じたら申し訳ねぇ。すいません。

続きが気になる。書け!早く書け!手を動かせ!という方がいましたら感想や評価(下の星)をポチッと押していただき、評価をしてくれるとありがたいです。

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