純、アニメの収録スタジオを訪れる
数日後、学校が終わったオレは、とある場所に在るアニメ製作会社の収録スタジオを訪れていた。
フェアリーテイルのオープニング曲や、リトルキッスのエンディング曲、そしてこの前に作った挿入曲の納品のためである。
ただ……。
「ええっと、この子、監督の知り合いの子かなんかですか?」
「新人の子……にしては若過ぎだよな」
「うん、そういった話は聞いてないしねぇ」
まあ、やっぱりこうなるよな。
オレみたいな未成年がこんな所に来れば、見学か何かと思われるのが普通だし。
「ああ、彼はうちの楽曲を担当してくれてるJUNくんだ。
今日は曲ができたってことで、それを届けにきてくれたんだ。
あっ、一応このことは極秘ってことになってるんで、オフレコで頼む」
監督さんがスタッフの人達にオレのことを紹介する。
「え? 今、なんて言いました?
確か、楽曲を担当とか聞こえたんですけど…」
だが、スタッフの内のひとりが耳を疑い、監督に確認を取るべく訊ねてきた。
「ああ、聞いたとおりだ。
彼があの、リトルキッスの楽曲提供者の『JUN』だ」
監督が彼の疑問に応える。
「「ええぇ~⁈」」
一同が驚きの声を上げた。
「冗談でしょ? だってこの子、どうみても未成年ですよ?」
そしてやはり、先程の彼は未だに納得がいかないようだった。
「馬鹿っ、失礼なことを言うんじゃないっ。
仕事に年齢は関係ないだろうがっ。
せっかく無理を言って仕事を引き受けてもらったというのに、機嫌を損ねたらどうする気だっ」
監督さんが慌てて彼らを叱りつける。
でも、そんな風に言われたらな…。
「構いませんよ。確かにオレは未成年ですし。
それに無理を言ってんのはこっちもですよ。
本来ならリトルキッスだけだったところを、フェアリーテイルを使ってもらってますし」
いつも思うけど、大人って大抵強かだよな。
今回にしたって、こっちの無理を聆いてもらった代わりに、向こうも黠り他の仕事を宛がってくれてるし…。
「ははっ、そう言ってもらえると助かるね。
まあ、これからも宜しく頼むよ」
本当に、確りしてる。
こうして確認してくるくらいに。
「ええ、こちらこそ。
とは言っても、オレってまだ学生ですし、大したことはできないですけど、無理の無い程度で確りとやらせていただきます」
一応考えて応えたつもりだけど、どうなんだろうな。
正直こういう腹の内の探り合いって、未だに苦手なんだよな…。
「じゃあ、早速確認させてもらおう。
せっかくだからその間、彼らのリハーサルでも悠然見学していくと宜い」
と、そういうわけでメモリーを渡したオレは、このスタジオを見学させてもらうこととなったのだった。
「それじゃあ、まず自己紹介から」
そう言うと彼らは、ひとりひとり名前とその役の紹介をしてくれた。
中には結構有名な…というか、皆そういう声優さんのようだった。
でも、オレってそういうのには疎いんだよなぁ……。
美咲ちゃんなんかだと、こういうのが好きみたいだから、きっと興奮し捲くるんだろうけど。
つまり、監督の言っていたリハーサルってのは、アフレコのリハーサルのことだったらしい。
暫くしたところで、実際の収録が始まった。
うん、美咲ちゃんが居なくて良かった。
否、連れて来る予定は全く無いんだけど。
というのも、収録中は一切の、しかも些細なレベルの物音さえも絶対厳禁なのだから。
こんな状況に美咲ちゃんなんて、絶対に興奮し巻くって、何かやらかすに違いないだろうからな…。
増してやこの前のことで、その信用は一気に暴落、否、墜落中だ。
それにしても…………、すっごい緊張する……。
物音厳禁って、本っ当に緊張する……。
いや、それくらいのことは解っているんだけどな。
でも、オレ達の曲のレコーディングは、ここまで厳しくはないからな…。
まあ、オレ達みたいなのは稀らしいんだけど。
とはいえ、他所のレコーディングってのが、こんなに大変なんだとはな…。
収録が終わったのは午後8時前。
あれから3時間近く経ってたようだ。
流石に漸々お暇しないとな。
そんなことを考えてたところ、監督がオレの所へとやって来た。
「お疲れ様。収録の感想はどうだったかい?」
「ええ、見てるだけなのに凄く緊張しました。
皆の真剣さがオレの元まで伝わってくるかのようでした」
監督からの質問に、オレは素直にこう答えた。
いや、本当に凄いとしか謂いようがない。
少なくとも、オレには他に答えるべき言葉が思い当たらない。
「ははは、お褒めに与り光栄だね」
ただ、監督はオレの言葉を社交辞令とでも思ったのか、愛想笑いと共にこんな言葉で応えてきた。
う〜ん、これって本音なんだけどなぁ…。
「ああ、それと受け取った曲だけど、どれも素晴らしいものばかりだったよ。
お陰でこの作品も、随分と良いものになりそうだ」
監督の評価だけれど、結構高そうな感じだな。
多少腹黒い感じの人だけど、それでもこの言葉には嘘が有るような感じはしない。
つまり、オレの仕事は、ひとまず無事に果たせたというわけだ。
あとは彼らを信じるだけ。
きっと良いものができ上がるだろう。
よし、オレも負けてられない。
さあ、明日からもがんばるか。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




