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魔法少女はいつまで夢を見せるか?

 5月下旬、オレ達リトルキッスとフェアリーテイルのふたり組に、聖さんから朗報が齎された。


「この度、君達の新曲がこの夏からの新番組『魔法少女マジカルリリー』のテーマ曲に採用されることに決定した」


「「ええぇ〜?!」」


 フェアリーテイルのふたりが驚きの声を上げる。

 デビュー曲が、いきなりTVアニメのテーマ曲とあれば、それも無理の無い話であろう。

 それに対して美咲ちゃんは普通に喜びの声。

 ま、これが初めてってわけじゃないからな。

 とはいえ喜んでるのは間違えなく確かだ。

 この子、こういうの大好きだから。


「そ、それ、本当なんですか?」


 ミナが信じられないとばかりに、聖さんに訊き直す。


「ああ、本当だ。

 君達フェアリーテイルがオープニング曲、リトルキッスがエンディング曲担当だ」


「ええぇ〜⁈ 嘘っ? 本当に?」


 ミナが口元を抑え、呆然と立ち尽くす。


「なんで私達がリトルキッスを差し置いて……?」


 レナは理由を聖さんに問い掛けている。

 まあ、普通に考えりゃ()り得ないよな、いきなり新人に主題歌なんて。

 増してや、有力アイドルを抑えてとなれば余計にだ。

 どうやら、その辺を疑問に思うくらいには、身の程を弁えるようになったらしい。


「まあ、君達のがんばりが認められたってことだね。

 とはいえこれで慢心すること無く、これからもがんばっていってほしい」


 聖さんがレナの疑問に答えるけど、まあ、言うまでもなく半分は建前だ。

 実際には、聖さんのコネとオレの曲作りの実績、そしてリトルキッスとの抱き合わせという、力業と謂うか裏業と謂うべきか、そんな非常手段的な方法で強引に()じ込んだというわけだ。

 とはいえ、建前の方も間違いじゃない。

 幾らなんでも、駄目なものを無理遣りだと、あとでその分信用を失いかねないので、そんなわけにはいかないのだ。

 つまり、それなりに実力を付けてきているってことだ。

 まあ、聖さんじゃないけど、調子に乗られても困るので言わないけどな。


「ええ、そうですね。

 ふたりの努力の成果ですね。

 ふたりとも、これからもこの調子でがんばりましょう」 

「おめでとう、ふたりとも」


 マネージャーの小森さんが励ましの言葉を掛け、美咲ちゃんが祝福する。


「まあ、オレ達を差し置いてオープニングを務めるんだ、恥を掻かないよう精々、精誠を尽くすんだな」


 オレも一応声を掛けるけど、ここはやはり、褒めるよりも奮励を促すことにした。


「ねえ、純ちゃん、精誠ってなに?」


 …って、せっかく格好良く決めたと思ったのに……。


「精誠ってのは、誠実とか真心っていう意味。

 つまり、余計なことを考えて、せっかくの成果を無駄にするなってこと」


 美咲ちゃんに説明していて気づいたけど、意味が通じてないってことは……、否、話の流れ的に解らないってこともないか…。少なくとも講釈垂れのレナくらいは理解できてるだろうしな。


「解りました!

 おふたりの名を穢さないよう精一杯がんばります!」

「微力ながらも全力を尽くします!」


「え、そんな、名を穢すなんて…」


 美咲ちゃんがレナとミナのふたりの意気込みに困惑する。

 まあ、そうだろうな。

 こいつらのモチベーションって、ちょっと可怪しいから。

 だって、オレ達のこと『お姉様』なんて謂ってたし。なんかアブノーマルな()が有りそうで怖い。


 ……ヤバっ、怖気がしてきた。


 と、ともかく、こいつらがやる気になってんだから、取り敢えずは()いことにしよう…。


          ▼


「へぇ〜、純くんもそういうの読むんだ」


 昼休憩、いつものようにうちのクラスにやって来ていた香織ちゃんが、食後に漫画を読み始めたオレに言った。


「確かにな。日頃から格好つけて硬そうな本ばかり読んでる純にしては珍しいよな」


 河合が香織ちゃんに同意したようなことを言うけど、決してそんなことはない。

 どちらかといえば、時代小説やミステリー等、娯楽向けの本が多いし、ファンタジーだって読んだりもする。まあ、恋愛ものはちょっと気恥ずかしくて苦手だけど…。

 もちろん、活字だらけの小説だけでなく、漫画だって読んだりもする。この数年、美咲ちゃんに勧められ……、否、薦められて読むようになったものも少なくないし、仕事絡みで読み始めたものもある。

 まあ、漫画かラノベかアレな本か、その手のものしか読まないだろう河合からすれば、そんな風に見えるのだろう。


「『魔法少女マジカルリリー』?

 なに? 男鹿ってこういうのが好きだったの?

 日頃から散々格好付けておいて、その正体が隠れオタクとは。

 二次元が嫁じゃ、幾ら香織ちゃんががんばっても、相手にしてもらえないわけだ。

 ぷははははっ! あ〜、腹(いて)ぇ」


「違うっての。

 人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよ。

 単に、美咲ちゃん達の関わる漫画だから読んでみようと思っただけで他意はねえよ」


 河合の台詞をオレは即座に否定した。

 この周りには、こっちの様子を覗ってる奴らが居るんだ、否定しなけりゃ肯定と俔做(みな)されかねない。変な噂を発信(たて)られたくはないからな。


「うん、私達がエンディング曲で、フェアリーテイルがオープニング曲を歌うことになったの」


 美咲ちゃんがオレの発言を補うように、皆へと説明をする。


「な、なんですって⁉

 なんであんな(ぽっ)と出の新人がいきなり起用されるのよ⁈」


 まあ、香織ちゃんの疑問は当然だな。

 どう考えても異例の大抜擢だし。


「まあ、その分がんばったってことなんだろうね。

 香織ちゃんと一緒ってわけだ」


 天堂がフェアリーテイルのフォローに入る。

 というか、普通に努力の結果と認めてるんだろうな。

 てか、香織ちゃんと一緒って何が?


「うん、そうだね。

 香織ちゃんも『月霊天使エンジェルムーン』の主題歌『ムーンライトロマンス』でデビューだったもんね」


 ああ、そういうことだったのか。

 美咲ちゃんの説明で納得がいった。

 てことは、香織ちゃんも事務所のゴリ押しでデビューしたってことか…。

 否、それはないか。

 事務所の信用に関わるわけだし、実力を伴わない奴がそんなことで起用されるわけがないよな。

 実際、今じゃトップアイドルのひとりだし。

 しかも、熱愛宣言した上(この状況)でそれを維持してるってんだから、どう考えても理解不能。

 つまり、それだけの実力者ってことだ。


「それで柄にもなく純がそんなの読んでるってわけね。

 とはいえ、魔法少女ねえ…。

 うん、パス。どうでも()いわ。

 アタシ、そういうの興味無いから」


 由希が半眼でオレを見る。

 所謂ジト目とか謂うやつだ。

 だけど、そんな軽蔑するような視線だけれど、興味無いってのは、まず嘘だな。

 大体、本当にそうならそんなこと一々主張する必要なんて無いんだし。


「えぇ〜、そんなこと言わずに由希ちゃんも読んで()ようよ〜。きっと面白いと思うから〜」


 ああ、これはアレだ。

 興味無い()りしてるけど、本当は気になって仕方がないってことか。

 つまり美咲ちゃんを口実(ダシ)にしようってわけだ。

 素直じゃねえな。

 しかし、この歳で魔法少女か。

 ……うん、似合わないな。


「ま、まあ、美咲ちゃんがそんなに薦めるんなら、考えてみようかしらね…」


 あ、堕ちた。

 じゃないな、計画どおりってか。

 河合じゃないけど、これが隠れオタクか。

 二次元が嫁とか言ってないだろうな…。

 否、女だから、婿?

 それとも同性嗜好(別方面)性癖(趣味)

 …気持ち悪ぅ。



 まあともかく、男女関係無しに(?)需要というか人気の有るだろう作品だってことは解った。

 これならあとは、番組の制作陣とオレ達次第ってことか。

 さて、どこまでいけるか知らないけどやってみるか。

※作中に『俔做みなす』という言葉が出てきますが、正しくは『看做す』、一般的には『みなす』と平仮名表記します。なお『做』は『作』の俗字で『行なう』を意味します。

『見做す』の意味は『仮定』。

 但し、法令用語の場合、反論を許さない強制力があるらしいです。

 古くは『見届ける』『世話して育てる』といった意味も有ったようです。[Google 参考]

 作中では『仮定(俔)』の『強行(做)』なので『俔做す』としました。


※作中の『ぽっと出』は『突然に物事が現れる』という意味の当て字です。

 一般的な『ぽっと出』は『田舎者』という意味です。[Google 参考]

 その語源はいろいろですが、作者としては地方の土地の出身で『方土出』かと思うのですがどうでしょうか?

 まあ、どちらの意味にしても『場に不適切』という意味合いなんですけどね。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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