純、後輩アイドルと和解する
「すみませんでしたっ」
事務所に着いて一番、オレに掛けられた声は新人アイドル・フェアリーテイルのレナとミナの謝罪だった。
どうやらオレよりも早く来てから、ずっと待ち構えていたらしい。
「ねえ、純ちゃん、この子達もこうして謝ってるんだし漸々赦してあげたら」
美咲ちゃんのフォローが続いて入る。
「しょうがねえなぁ。
まあ、一応あいつからも話は聞いているからな。
あいつが肯いってんならオレがとやかく言う筋じゃないし、もう縦いや。
それに、美咲ちゃんにそう言われたらな」
そう、実はこいつら数日前、うちの学校まで謝りに
来てたのだ。
しかも、今日みたいに美咲ちゃんを取り込んで。
全く、黠りしてやがる。
その上、人前でってんだから、風聞の悪いことなんてできないし、正体のバレるようなことも言えない。
本当に強かな奴らだ。
まあ、オレの方も漸々矛を納めようと考えてたから受け入れたけど、そうでなけりゃ文句のひとつやふたつ言ってやってたところだ。
ともかく、そんなわけで男鹿純としては和解は成立していたというわけだ。
「とはいえ、一応言っとくけど、お前らこの業界、というか世の中侮過ぎだ。
自分の身の程を解ってない。
何の努力もしてなきゃ結果だって出してねえ。
そのくせ、口先だけは人一倍に達者だ。
そんなんだから『フェアリーテイル』なんて名前を付けられるんだ」
というわけで、その名前に隠された意味をひとつひとつ説明してやった。
というのも、あの時は場所が学校だったからな。
まさか、流石に人前でこんなこと明かすわけにはいかないし。
なんてったって、これからこいつらを売出していかなけりゃならないってのに、マイナスイメージを付けるわけにはいかないからな。
だからこそ、表向きのイメージが悪くない名前を付けたんだし。
「抑、お前らの場合、アピールするべきセールスポイントすら、オレ達からの借り物だ。
未だ何ひとつ、自分達の武器と謂えるものを持っていないし、それを身につけることすらしちゃいない。
なによりも、アイドルなんて人気商売なんだから、他人様に嫌われるようじゃ成り立たない。
お前らはそんなことすら理解できていなかったってわけだな。
まあ、そういう理由で、お前らに謙虚であれって教訓的な理由が有ってのその名前だ」
ふ〜、スッキリした。
やっぱり言いたいことを内に溜め込むのは、精神的に良くないよな。
まあ、こいつらにとっても悪い話じゃないはずだしな。
聊か耳には痛いだろうけど、良薬口に苦しってやつだ、うん。
「うわぁ…。そんな意味が有ったんだ…。
こんなに可愛らしい名前なのに…」
ヤバ、美咲ちゃんが引いてる。
「いやいや、待てよ。
そういう意味合いだけじゃないから。
ちゃんと真当物な意味合いも有るから」
「「えぇ?」」
「当て付けの意味合いだけじゃなかったんですか?」
おい、三人とも、オレのこと何だと思ってんだよ。
「そりゃあ当然だろ。
仮にもアイドルなんだから、変な名前なんか付けるわけないだろう」
「えぇ〜、でも純ちゃん、先程そういう意味だって言ってたじゃない」
美咲ちゃんの台詞にレナとミナのふたりが頷く。
「あのなぁ、裏の意味が有るんだったら、表の意味だって有るに決まってるだろ」
「でも、『フェアリーテイル』って『妖精の尻尾』とか『御伽噺』って意味でしょ?」
美咲ちゃんがオレに問ってくる。
そしてふたりも、疑問だという目でオレを見ている。
「ああそのとおり、『フェアリーテイル』の表の意味は曲と同じで『妖精の尻尾』だ。
でも正確には少し違う。
『tail』は名詞の『尻尾』じゃなくって動詞の『追う』だ。
つまり『Fairytail』は『妖精を追う者』、要するに『夢見る少女』って意味だな。
あと『fairy』の綴りを変えれば『公正を目指す者』とか『美しき乙女』って意味にもなる」
正確には違うけど、まあそこはそれ、多少は無理遣りな解釈も、関係改善のためだしな…。
「そうだったのね。流石は純ちゃん。
私達のお姉様っ」
な、なんだ? お姉様?
なんなんだ、この懐かれかたは?
まさかこいつ、百合とか変な趣味じゃないだろうな?
…否、お姉様って……確かにお姉様だな…。
こいつら、オレ達の妹分とか言ってたし…。
よく見りゃレナだけでなく、ミナまでキラキラした目でオレのことを見つめてきてるし…。
それにしても、お姉様…、お姉様かぁ……。
こいつら結局どう転んでも、鬱陶しいことには変わりないんだな。
まあ、啀み合うよりは余程マシだけど…。
▼
その後、山内から届いたメールによると、あのふたり、それなりに大人しくなったらしい。
まあ、飽くまで“それなりに”だけどな。
それでも学校は落着きを取り戻し、山内も漸く胸の痞えが下りたと喜んでいたようだ。
そして数日が経ち、GWがやって来た。
で、その第一日目。
「ちょっと、冗談でしょ?
もしかして、まだあの時のこと根に持ってたんですか?」
レナがオレに疑惑の声を掛けてきた。
ミナも同様に疑いの目でオレを見つめている。
「あの…、JUNさん、流石にこれは少しばかり厳しいんじゃないでしょうか」
そしてもうひとり、このふたりに同調して意見を述べたのは、この度こいつらフェアリーテイルのマネージャーと就った小森という女性だった。
恐らく、大学を出たばかりといった感じの二十代前半くらいの歳と思われる。
そのせいか、少しばかり頼りなさそうな感じなんだけど、大丈夫か?
こいつら結構、手が焼けるからなぁ…。
というわけで、今のオレはプロデューサー(仮)のJUNとして、こいつらのGWの計画を決めている。
「そうでしょ、やっぱりこれって厳過ぎですよね」
今度はミナが附いて言う。
でもこれってそんなに言う程か?
まずは5kmのランニングだけど、時間にして高々40分かそこらだろう。
そこから、各種の筋トレ。これも時間にして一時間ってところだ。
この程度ならば、だいたい午前中には終わるはず。
オレも由希の奴に付き合わされて、毎日のようにさせられてたことがあったからな。
当時小学生だったオレにできたんだ、中学生のこいつらならば十分余裕で熟すだろう。
で、それらが終わればそこから通常のレッスンだ。
とはいえ、振り付けとかそういうのは、基本的に全て専門家任せだ。オレじゃその辺はよく解らないからな…。
そんなわけで、オレの関わったのは体力作りくらいのもんだ。やっぱり何をするにも体が一番の基本であり資本だからな。
と、そんなことを説明したのだけど、やはり不信で不満らしい。
「ふ〜ん、つまりその程度ってことか。
よくこんなので、リトルの妹分なんて名乗ろうなんて思ったもんだ。
あのふたりなら、まずこの程度じゃ凹垂れないはずなんだけどなぁ…。
うん、リトルの妹分ってのは取り消しだな」
「ちょっと、やらないなんて一言も言ってないでしょ。やるわよ。やりゃ良いんでしょ」
「そうよ。あのふたりの妹分として、こんなことで弱音を吐くなんてできないわよ」
レナとミナのふたりが前言を翻す。
どうやら『リトルキッスの妹分』ってのに余程の思い入れが有るらしい。
「だったらまあ、これからGWの間、確りとがんばるんだな。
じゃ、そんなわけで小森さん、手の掛かる奴らですけど、こいつらのこと宜しくお願いします」
こいつらの体力と根性を鍛えるスケジュールを決めたところで、オレもプロデューサーらしい仕事をしないとな。
早速、聖さんに相談だ。
さて、どうやってこいつらをデビューさせてやろうか…。
※作中の『肯し』は当て字です。『肯』の意味は肯定。他に『骨つき肉』なんて意味も有りますが語源は『肉のついた骨』。『肯えて』『肯く』とも読むところから、『敢えて頷く』といった『利は少ないけど理で受け入れる』的な意味と思われます。[Google 参考]
※作中の『黠り』は当て字です。
『黠』の意味は悪賢い。『黠しい』『黠い』『黠い』の読み方が有ります。[Google参考]
※作中でランニングについて述べていますが、それについて少しだけ調べてみました。
【ジョギング】
運動強度の低さ、負担の少なさが特徴であるため、健康増進やウォーミングアップに適しています。初心者は8〜10分/kmペースで3kmから?
【ランニング】
運動強度が高く、ハード。体づくり等のために行われます。目標は6分/kmペースで5km?
因みに女子5000mの世界記録は14分11秒15。市民マラソンの5kmの女子平均タイムは30分50秒だそうです。
[Google 参考]
作中では5kmを40分でとジョギングレベルとなっており、どちらかといえば甘めの初心者レベルです。
※作中の『凹垂れる』は当て字です。
調べてみたところ、他に『褌垂れる』『兵児垂れる』なんてのも有りました。
ただ、『褌』や『兵児(帯)』が『垂れる』で『へこたれる』ってのがよく理解できなかったので、素直に解り易く『凹む』を採用しました。[Google 参考]
『引き籠もる』のイメージで『閉戸』と創作で当てるのもアリかと思ったんですが、やはり『凹む』が一番解り易いですしね。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




