仲直りってどうすりゃいいのよ?
私、秋山麗奈がアイドルを目指したのは、リトルキッスのふたりに憧れたからだった。
特に早乙女純ちゃんは、彼女は私にとって特別な存在だった。
そこら辺の有り溢れた男達に媚を売るような連中と違い、気高く凛々しいその姿は正に女傑。軟弱な男なんて目じゃないくらいに格好良い。
そんな頼りになるお姉さん振りは、私達歳下の女の子にとって真正しく『アイドルの中のアイドル』と謂える存在だ。
ああっ、女神さまっ!
そう、彼女こそが私の崇拝する女神であった。
だから、初顔合わせの日を心の底からに僖しみにしていた。
だというのに…。
「あ、そ」
私達の挨拶に対して、彼女の返した台詞はただこれだけだった。
余りにもの塩対応振りに呆然自失としてしまった。
咲ちゃんがなんとか執り成そうとしてくれたのだけど……。
「そうは言うけど、これから消えてくかもしれない奴のこと、一々相手にしててもしょうがないだろ。
一応、話には聞いてるけど『フェアリーテイル』なんて名付けられてる時点で高が知れてるしな」
彼女の言葉は余りにも余りな、辛辣と謂うか痛烈と謂うか……。
それに『フェアリーテイル』って名前が高が知れてるって言ってたけどどういうこと?
聖さんや咲ちゃんだって良いと言ってくれた名前なのに……。
「あの…、それってどういうことなんですか?」
ミナも疑問に思ったようで、その意味合いに就いて尋ねたんだけど残念ながら教えてもらえなかった。
解らないようじゃその程度だって言って…。
どうやら何らかの意味合いが有るらしい。
恐らくそれが解らない内は、きっと相手にもしてもらえない。
でも、いったいどんな意味が……?
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あれからミナと一緒にいろいろと考えてみた。
いろいろと人に相談してもみた。
事務所の先輩の千鶴さんが言うには『fairytale』とは『御伽噺』って意味だから『現実味の無い妄想』って意味合いなんじゃないかってことだった。
否、もっと深い意味が有るかもしれないとも言う。
確かにこの程度なら、私達でも想像がつく。それだけに、その程度の意味じゃないという意見にも納得がいく。
あいつは性格が悪いから…。
そんなことよりも重大な問題が有った。
そう、私達にとってそれは余りにも絶望的な問題だった。
なんでもふたりの言うには、あのふたり、デキているんだとか……。
もしそれが本当ならば、それこそが、私達が純ちゃんに嫌われた原因に違いない理由で…。
つまりそれって私達、結構…ってか…、かなりヤバいんじゃ……。
「まあ、早いところ謝っておくことね。
あの子、結構粘着濃いから」
さらに千鶴さんからの追撃。
ねえ…、それどっち?
恐らく、ふたりともな気がする……。
ううぅっ……、私、泣いてもいいかな……。
▼
学校でもクラスの子達に尋ねてみた。
親衛隊の子達の意見も聞いていた。
流石に純ちゃんのことは内緒にしてたけど。
だってこれ以上、純ちゃんに嫌われたくないし。
で、その結果だけど、やはり千鶴さんの言ってたような感じだった。
違うのは『fairy』の部分の考察が加わった程度。
可愛らしいけど、悪戯好きが璧に瑕って意味らしい。
でも、私達ってそんな心当たりなんて無いんだけどなぁ…。
もし仮にそうだとしても、世の中にはそんな完璧な人間なんて在るわけが……。
ううん、純ちゃんは例外。だって彼女は神だもの。
だけど女の子って小悪魔っぽいのも魅力としてアリなんじゃないのかな?
親衛隊の子達もそんな風に言ってるし。
でも、純ちゃんはそこが気にいらなかったのかも。
だって、純ちゃんって高潔な完璧主義者なイメージだもの。きっと妹分の私達にも、そういうことを望んでいるのかもしれない。
で、一番の問題はやっぱりあいつ。
いくら純ちゃんに理解してもらえたとしても、あいつをなんとかしないと、結局はどうにもならない。
だってあいつ、純ちゃんはもちろんのこと、咲ちゃんからの信頼も厚いみたいだし。
それになにより、その実力は、少なくともそれなりの曲を簡単に作ってしまうくらいには優れているんだから認めざるを得ない。
責めてあの性格さえ無ければ……。
「ねえレナちゃん、どうすれば良いと思う?」
相方のミナが訊いてくる。
けど、どうしたら良いのかは私だって解らない。
「とにかく、千鶴さんの言うように、まずは謝ってみるしか無いよね」
それでも何もしないよりはマシだし、なにより今のまま慢滞慢滞してたら、本当に純ちゃんに相手にされなくなっちゃいかねないもの。
「でも、どうやって?
多分、まずとか取り敢えずとかじゃ、恐らく納得してくれないよ。少なくとも私達『フェアリーテイル』の名前の由来くらい理解してないと…。
それに先程みたいなこと言ってたって知られたら、それこそ余計に怒られるんじゃない?」
んぬぬぬぬ…………。
「んだぁ~っ!
だったらどうしろって言うのよっ!
先程から他人に訊いてばっかりで、あんたには何か考えは無いの⁉」
なんなのよ、そんなこと判ってるのってに。
「う〜ん。じゃあ、咲さんに頼んでみる?
抑『フェアリーテイル』の意味にしたって、結局は名付けた本人にしか解らないんだし、だったらそれとなく咲さんに探ってもらうくらいしか思い浮かばないんだけど」
…………確かにそのとおりだけど、でも、私達のことなんかで咲ちゃんを煩わせるだなんて……。
「……はぁ…。結局、それくらいしか無いのね…。
なんか自分が情けないわ……」
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咲ちゃんは私達なんかのお願いを快く引き受けてくれた。
ああ、なんて慈悲深い人なんだろう。
やはり、リトルキッスのふたりは女神だ。
純ちゃんは正義と勇気の女神。
そして咲ちゃんは慈愛と祝福の女神。
そして女神からの連絡が届いた。
ミナへの電話連絡だ。
これで漸くこの苦悩から解放される。
そして祝福が齎される。
ねえ、ミナ、どうだったの?
ねえ、早く応えなさいよっ。
結果は今一つ、残念なものだった。
結局のところ名前の意味は訊き出せなかったらしい。
そう言えば世間に正体を隠しているんだったわよね。それじゃあ学校で話なんて訊けるわけなんてないわよね。咲ちゃんってば、よくこんな無理を引き受けてくれたものだわ。
それでも無意味というわけではなかった。
何故ならば重要なことを聞けたからだ。
咲ちゃんが云うには、あいつ…いや、彼は私達の名前の由来がどうとかを余り気にしていないらしい。
そして、重要なのは私達がこれからどうがんばっていくのかだと言っていたとか。
これは私達のことを赦してくれたということか?
否、恐らく単に私達のことになどに、興味が無いだけなのかもしれない。
それとも、やはり大人の対応ということなのか?
別にそんなことどうでも構わないか。
彼の言うように、私達は私達に出来ることを出来るだけがんばっていくだけだ。
もし、それで見返してやることが出来るのなら、なおのこと良しだ。
そうすればきっと純ちゃんだって、私達のことを認めてくれるはず。
なんだか彼の掌の上で踊らされているような気もしないではない。
そう思うとなんだか悔しいけど、それでもこれ以上啀み合うよりはマシだと思う。
よし、私達も大人になろう。
それこそが私達に出来ることの第一歩。
さあ、やるわよ。
…まずはミナと話し合わなきゃ。
※作中に『僖しみ』という言葉が出てきましたので、『たのしむ』という言葉についてGoogleを参考に考えてみました。
なお、普通使うのは上の二つか『娯しむ』までのようです。
【楽しむ】
受動的な場面に使う。でも、大抵の場合はこれを使えばOK。
語源は神楽等の祈願祭事。転じて祭等を楽しむこと。『楽器』というのは、元は『祭事の道具』という意味だったらしいです。
『楽』には他に『楽む』『楽でる』等といった読み方があります。
【愉しむ】
能動的場面に使う。つまり自分から楽しみにいくこと。
苦楽は自分の気持ち次第ってことらしいです。
【娯しむ】
遊ぶ。戯れる。慰む……つまり女遊び。
『女』を『呉れ』りゃ楽しいって、やはり言葉を作るのは男だからってことですかね…。
因みに『娯』は『虞』と同音、つまりあの虞美人の『虞』は名前ではなく『遊女』の意味だった?
【嬉しむ】
女と仲良くして喜ぶこと。
『女』を横に侍らせて『喜ぶ』って、やはり男というやつは…。
でも、最近は『女性』が『喜ぶ』のが『嬉しい』っていう意味もあるのでマシなのか…?
『嬉』には他に『嬉しい』『嬉ぶ』等の読み方があります。
【僖しむ】
慶事を喜ぶこと。
『僖』には他に『僖ぶ』という読み方があります。
【懌しむ】
心のわだかまりの解けるて喜ぶこと。
漢字の成り立ちについては触れない方が吉。きっと、せっかくの気分が台無しになります。
【佚しむ】
休みを愉しむこと。サボる?
『人』が『失せる』で『佚』なのであまり良い意味ではなさそうです。
『佚』には『佚れる(逃れる)』『隠れる』『ゆるめる』の意味があるため、お忍びで抜け出すなんて意味も。どこの将軍様だよっ。
【熙しむ】
権力等を喜ぶこと?
『熙』は光が行き渡るの意味。
【豈しむ、愷しむ】
勝利を喜ぶこと。
多分、勝利よりも兵士らの帰還を喜ぶといった意味かも……というかそうであってほしいところです。『愷』には『愷らぐ』『なごやかな』なんて意味があるので。
でも『豈』の文字の形を見ると、戦利品を担いで喜んでるように見えてなんだか嫌です。
因みに『豈』は勝鬨、凱旋音楽の意味。
【宴しむ】
宴会を愉しむ。
【酣しむ】
酒を味わう。酒が甘いから?
【槃しむ】
周遊する。
『槃』には『槃る』『槃』等の読み方があります。
変な意味じゃなかったんですね。
【聊しむ】
つかの間の平穏を僖しむ?
もしくは、援軍を喜ぶ?
『聊』は話し合うの意味で、『聊る』『聊か』等の読み方があります。
……つまり些か頼りないってこと?
→作中の『璧に傷』を『璧に瑕』に修正しました。『瑕』というのは『玉のキズ』って意味で『傷』は人等の痣等の『内傷』のこと。因みに『創』は切りキズ等の『外傷』、『疵』は物事の『欠点』に使われるそうです。[Google 参考] [2023/04/17]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




