春植えざれば秋実らず -棚牡丹チートは漫画だけ-
重大なミス発見。美咲がJUNの正体を知らないことになってました。そんな理由で一部修正を入れさせてもらいました。すみません。[2023/04/25]
「ちょっと、なんであんたがここに居るのよ⁈」
そう叫んだのは、この前中学校で会った、あの生意気なふたりの少女達の内の一人だった。
「おや? 面識が有ったのかい?
確かにふたりとも、君と同じ学校の後輩に当たるわけだけど、でもふたりは新学期からの転入だろう?」
説明しよう。
現在は土曜日の午後。
場所は、オレ達の所属する星プロ事務所の会議室。
今日はこいつらの強っての希望とやらで、ソングライターのJUNとしてこいつらに会うことになったのだった。
当然、早乙女純であるオレが一緒というわけにはいかないので、今日は早乙女純は都合により休みである。
「はあ? 勝手に他人を呼び付けておいて、何をわけ解らないこと言ってんだよ」
そんな理由で、こいつらとの望まぬ顔合わせに臨む羽目になったわけなのだが、開口一番がこれって、相変わらずの無礼振りだよな。
オレ、帰っちゃ駄目かな…。
「あんたなんか呼んでないわよっ。
抑、私達とJUNさんとの顔合わせの場になんであんたが居るのよっ」
「そうよ、咲さんはともかく、なんであんたが居るのか、理由が解らないのはこっちの方よっ」
何故オレがここに居るのかって、そんなの決まってるだろうに、察しが悪いというかなんというか、なんとも馬鹿な奴らだよな、こいつら。
「鈍い奴らだな、オレがJUN本人って言ってんだよ」
仕方がないので、改めて判然と名乗ってやることにする。
「「ええ〜〜〜っ⁈」」
ふたりが驚きの声を上げる。
いや、だからなんでだよ?
……否、そんなに可怪しくもないのか?
こいつら、今まで散々オレのこと扱き下ろしてくれてたんだしな。
「ちょっと、冗談ですよね? 聖さん」
「冗談だと言ってくださいよっ」
あ〜、やっぱりな。
信じられないってより、信じたくないってやつだな。
「君達、いったい何をやらかしたんだい?」
聖さんがふたりに尋ねているけど、本当は薄々解ってるんじゃないかな。
織部さんなんて、呆れたように額を押さえているし。
「でも嘘でしょ? 私達とそんなに歳が変わらないんですよ?」
ははは、このふたり、未だに信じられないのか、随分と狼狽えてやがる。
「否、本当だよ。彼がライターのJUNくんだ」
あ、聖さんの肯定にがっくりきてる…のか?
「それで、前にも言ってたリトルキッスの後輩ってのがこの子達なんだけど、この子達強っての希望でね、君にこの子達の面倒を看てほしいんだ」
ふたりを他所に、聖さんがオレに言う。
ああ〜、やっぱりそういうことか。
オレをプロデューサー見習いにしたのって、そういう思惑が有ってのことだったのか…。
「厭ですよ。お断わりします。
抑、オレじゃ力不足ですよ。
こいつらだってそう言ってるでしょう。
なのでこいつらは聖さんにお任せします。
オレはリトルだけにしておいてください」
こんな厄介者の面倒なんて冗談じゃないってんだ。
「ええ〜、純くんなら大丈夫だよ。
私達や千鶴さんの曲でも実績も有るんだし」
無茶を言うなよ、美咲ちゃん。
「そんな風に言っても無理なものは無理だって。
美咲ちゃんだってこの間、見てただろう。
こいつら、他力本願で、まだ何も為してもないし、成せてもねえ。
そのくせ非望だけは一人前の、ろくでなしどもだ。
否、他人に難癖を付けるのも一人前か?
そんな奴らの面倒なんて、荷が勝ち過ぎてやってられないっての」
全く、こんな美咲ちゃんとは正反対な奴らが、妹分を騙ってるだなんて、痴構しいにも程があるってんだ。
「ほう、本当にそれで良いのか?
まさか君が、こんな子達に侮られたままで、好しとするとは思わなかったな」
くっ…!
流石は織部さん、オレの壺をよく知ってやがる。
全く、正に思う壺だな。
解ってる。解ってるんだけど……。
「解りましたよ。
聖さんと織部さん、ふたりの顔を立てて引き受けますよ。
但し、期待しないでくださいよ。
所詮こいつらじゃ、結果も高が知れてるんだから」
はぁ……、結局こういうことになるのか…。
「ねえ、ところで純くん、ヒボウってどういう意味?」
あらっ。
今回はこれで終わりのはずだったのに…。
そういや美咲ちゃんって、そういう子だった。
「非ざる望みと書いて非望。
要するに分不相応な望みって意味だ。
つまり、棚牡丹チートは有り得ないってことだな」
うん、我ながら解り易く説明出来たと思う。
「へぇ〜、そうなんだ」
うん、解ってもらえたみたいだな。
……恐らくだけど。
とまあ、美咲ちゃんの疑問に答えたところで、余談はこれくらいにしておこう。
はぁ……、久々に締まらない終わり方かよ…。
というわけで次回に続く。
※作中にある『強っての』という言葉ですが、その語源は『道理を断って(まで)の』の『断って』からきているそうです。
ただ『強って』は当て字であるためか『強つ』というのは無さそうでした。
代わりに『強』には『強い』『強い』『強いる』『強める』『強か』『強ち』等、多くの読み方が有り、それぞれ意味が微妙に違いが有るようです。[Google 参考]
小学校低学年で習う漢字だからと馬鹿には出来ない難しさが有りますね。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




