中学事変? -これにて一件落着……なのか?-
「男鹿先輩、もしかして二股掛けですか?
それって最低ですよ」
中学で起きたの問題の解決を、手助けするべく訪れたオレに、依頼者である山内が掛けた言葉がこれだった。
こいつ、如何に相手の誘導に釣られたとはいえ、なんてこと言ってくれやがる。
「うるせーよ、山内。
誰のためにここに来てると思ってるんだよっ」
少しは己の立場ってものを考えろってんだ。
やる気が失せてくるぞ、全く。
「そうよねぇ。
ねえ、純くん、ここらで私一本に決めちゃわない?」
ああ、そうだった。
話が変な方向にズレてったのは、香織ちゃんが相手の誘導に乗ったからだった。
「いい加減にしてくれよ。
これ以上横から引っ掻き回してくるようなら、友人付き合いも考えさせてもらうぞ、本当」
「え⁈ ちょ、わ、解ったわよ」
慌てふためく香織ちゃん。
でも本当かよ?
…って、あれ?
なんか元気が無くなったけど、もしかして塞ぎ込んでる?
う〜ん、ちょっとばかり厳かったかな…。
まあ、宜いか。
そんなに当てになるとは思えないけど、それでも一応、効果有りってことだしな。
これで修まってくれるなら、取り敢えずは可しだ。
「流石にそこまで言うのは、ちょっと言い過ぎじゃないかな」
ここで香織ちゃんのフォローに入ったのは、まあ、やっぱり天堂だった。
まあ、これに関しては、確かにそのとおりだとは思うけど、だからといって、ここでそれを認めるわけにはいかない。
「しょうがないだろ。
今はそんな場合じゃないんだし、俔え不本意でも、こうでも言わなきゃ話が進まないっての」
……あ、香織ちゃんがこっちを見てる。
天堂が余計なこと言わせるから、香織ちゃんが復活したじゃないか。
くそっ、天堂の計算どおりってか?
余計なことをしてくれやがって。
「そうよね。いつまでもこんな馬鹿なことやってる場合じゃないもんね」
オレの言葉に相槌を打ったのは由希だった。
…って、なにを偉そうに言ってんだよ。
お前だってその馬鹿なことに加わってたくせに。
「それでどうなのかな?
お互いにある程度、なんとかならないの?」
美咲ちゃんが、あいつらと山内の双方に問い掛ける。
双方の意見、要望から妥協点を探る、仲裁としては正しい在り方だ。
「無理ですよ。定期的にこの子達を中心にしたイベントを開くなんて。
先輩達の時だって、そんなことしてなかったっていうのに、なんでこの子達のために、そんなことしないといけないのですか」
うん、普通に考えて有り得ない。
こういうのは生徒会行事じゃないからな。
「嘘ですよっ。
文化祭とか卒業式とかで遣ってるじゃないですかっ」
確かに遣ってるな。
でも、それは……。
「それらは生徒会主導の公式行事ではありません。
飽くまで公式行事に基づく生徒側のイベントの一部です」
とまあ、山内の言うとおり、そういうことである。
「え…、えっ…と…」
なんか美咲ちゃんには、よく理解出来ていないみたいだな。
「要するに生徒側の自主的な演し物だな」
解り易く言うとこういうことだ。
実際、文化祭は吹奏楽部の演し物での共演だ。
で、こいつの言う卒業式ってのは、式後の謝恩会のことなんだろうけど、こっちはオレ達主催の自主的な非公式イベントだ。
もちろん、生徒会にも学校側にだって正式に許可を貰っている。
参加は自由だってちゃんと伝えてたし、強制なんて全くしてなかったんだけどなぁ…。
でも結局、生徒は粗全員、加えて教師達の多くが参加してくれて……。
なるほど、恐らくだが、これで勘違いしたんだろうな。知らない奴からすれば、一連の行事みたいに思えるだろうし。
今の話を改めてこいつらに説明する。
それが済んだら、今度はこっちが訊く番だ。
「まあ、仮に生徒会の全面協力が有ったとして、なんでお前らにまでそんなことする必要が有るんだ?」
そう、そこがどうにも疑問だったんだよな。
「そう言えばそうよね」
由希もオレと同意見のようだ。
他の仲間達も同様と次々と頷いている。
「だろ?」
うん、誰が考えてもそうだよな。
「なんだよ、知らないのか?
このふたりはリトルキッスの妹分としてデビューが決まってるアイドルなんだぞ。
つまり、あのふたりの後継者だ。
だったら学校を挙げて支援するのは当然だろ」
ああ、そう言えばなんか、そういう奴らが在るみたいなこと聖さんが言ってたな。
まさかこの学校の生徒だったなんてな…。
「馬鹿言ってんじゃないわよ。
何が後継者で当然よ。
美咲ちゃんはそんなこと、一度も強要したことなんて無いわよ」
ああ、全く以って由希の言うとおりだ。
こいつら、今まで何を見てきてたんだか。
こんな奴らが美咲ちゃんの妹分?
巫山戯るのも大概にしろってんだ。
「ああ全くだ。
こんな馬鹿どもがリトルの妹分?
質の悪い冗談にも程があるってんだ。
抑、この学校で後継者ってんなら、生徒会長の山内だろうが。
それを蔑ろにするような真似して、リトルの面子を潰しておいて、いったいなにが妹分なんだか。
厚顔無恥って言葉も知らないのかよ」
「ちょっと、純くん、幾らなんでも言い過ぎだよ」
「なんで止めるんだよ、美咲ちゃん」
言い過ぎどころか、まだ言い足りないくらいなのに。
「だって、もう十分に解ってもらえたと思うから。
ね、そうでしょ?」
そう言うと、美咲ちゃんはあいつらの方へ向いて、にっこりと笑い掛けた。
「…まあ……、咲さんが、そう言われるのなら……」
そう言いながら片方の少女が相方の様子を窺う。
「…うん、そういうことなら解りました」
まだなにやら不服そうだが、取り敢えずはこちらの言うことを聆き入れてくれる気になったようだ。
「じゃあ、これで解決だね」
「あ、はい、ありがとうございます。
お陰さまで助かりました」
美咲ちゃんの言葉に山内が応える。
でも、これって美咲ちゃんの顔を立ててって感じだからなぁ…。
まあ、問題の仲裁ってのはこんなものなのかもしれない。なにもかもが円満解決ってのは難しいからな…。
こうして問題を解決し(?)、すっかりご満悦になった美咲ちゃんと共に、オレ達はこの場を後にしたのだった。
※作中に『修まる』という言葉が出てきましたので、『おさまる』に就いて調べてみたところ次のようになっていました。
【収まる】きちんと入る、元どおり安定する
【納まる】金品が受け取られる、地位や場所に落ち着く
【治まる】世の中が平穏になる、病状等がよくなる
【修まる】人の態度や行ないがよくなる、知識等を身につける
[Google参考]
言い換えると
【収まる】定まる、入る
【納まる】片付く
【治まる】鎮まる
【修まる】直る、改まる
ってことになるようです。
全体的には『容れられる』ってことのようですね。…って、少し乱暴ですけど。
で、作中の例なら『場』がおさまるで『収』か『治』って感じですが、実はここでは『人』の態度がおさまるで『修』だったりします。
相手が香織なので、純が当てにならないと言っているわけです。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




