中学事変? -うるせーやつら-
放課後、オレは美咲ちゃん達と共に、嘗て通っていた中学へと来ていた。
否、嘗てなんて言うと少し大袈裟か、ほんの僅か一月前に卒業するまでは、毎日通っていたんだし。
で、そんなオレ達が今更ここになんの用かと言えば…。
「あ、花村先輩。それに天堂先輩に武藤先輩も」
美咲ちゃんを始めとするオレ達に声を掛けてきたのは、現生徒会長の山内だった。
てか、おい、オレ達は無視かよ。
せっかく態々来てやったってのに。
あと、朝日奈と日向も一緒だ。
「すみません、突然お呼び立てに応じ、態々お越しいただいて」
そう、オレ達がここに来たのは、こいつに呼び出されたからだった。
「ううん、そんな、気にしなくてもいいよ。
それよりも、私に相談って何が起ったの?」
「ええ、実は……」
美咲ちゃんの問い掛けに、山内は何が起ったかを話し始めた。
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「私達を呼び出したってことは、漸く私達の要求に応えてくれる気になったってことですね、会長」
生徒会室で待ち受けていたオレ達の前に現れた問題児達の第一声がこれだった。
「いいえ、そのことに就いては既に何度も断わっているはずです。
今回あなた達に来てもらったのは、そのことを受け入れてもらうためです」
へぇ、随分と凛とした態度で応えるじゃないか。
流石は生徒会長ってところかな。
まあ、オレ達が後ろに控えているからってのも有るのかもしれないけど。
そう言やこいつ、小心者なくせに結構気が強いんだった。
まあ、解らないでもないけど、いつまでも他力本願じゃそのうち困ることになるぞ。そういう奴ってのは、大概いつまで経っても自信が付かないからな。
「なんでですかっ。
生徒会ってのは生徒の意見に依って成り立つものでしょう。
それを会長の権力で否定しようなんて横暴ですっ。
生徒の主権の侵害ですっ!
民主主義への挑戦ですっ!
そんな暴政は許されませんっ!!」
なるほど、これは厄介だ。
こういう口の長つ奴ってのは正論曲がい理屈で第三者を惑わすからなぁ…。
下手に屁理屈なんて否定しようものなら、それこそ相手の言い分を認めたことになりかねない。
つまり、こちらもそれらしい正論を以って、相手を完膚無きまでに打ち負かし、第三者をも納得させなければならないわけだ。
道理で泣き付いてくるわけだ。
とはいえ情けねえ、仮にも先輩だろうに。
「そうだそうだっ、生徒会は横暴だっ!」
「俺達生徒の意見を無視するなっ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて…」
仕込かどうかは知らないけど、同調者たちによる数の圧力に山内の奴、押されているし…。
「おい、お前ら、なに無理言って会長を困らせてんだよ。生徒会にだって出来ることと出来ないことが有るんだぞ。我儘ばかり言ってんじゃねえよ」
まあ、漸々オレ達の出番かな。呼ばれておいて、何もしないってわけにはいかないし。
「ちょっと、何よ、あんた。いったい何様のつもりで横から口出ししてんのよ」
オレに噛み付いてきたのは、先程山内を破り込めた口の長つ女子生徒だった。
多分、こいつが聴いていたリーダー格の一人だろう。
「先輩様だよ。
お前ら問題児が生徒会に迷惑掛けてるせいで、こうして相談を受ける羽目になったって理由だ」
さて、一応挑発気味に応えてみたけど、どう出てくるかな。
「先輩ってことは、もう学校の部外者ってことですよね。
悪いですけど、これは学校内の問題ですので、口を挟まないでもらえませんか」
応じてきたのは、今の子の隣に居た女子生徒だった。
どうやら、この二人が山内の言っていた問題児ってことで間違い無さそうだ。
確かにオレ達は、こいつの言うとおり、最早外部の人間である。
そんなオレ達が何故校内に、というか生徒会室に居るのかと言うと、生徒会長である山内の呼び出しを学校側も認めていたからだ。
どうやら生徒会だけでなく、学校側もこいつらには手を焼かされているらしい。
「へぇ〜。随分と侮たこと言ってくれると思わねえか? なぁ、美咲ちゃん」
オレの台詞に問題児達の背後が騒めく。
「な⁈ 花房先輩に天堂先輩っ⁈」
「なんでこのふたりが、ここで出てくるんだよ?」
「然もよく見りゃ、こいつら親衛隊幹部だ」
は? こいつら気づいてなかったのか?
判ってて生意気言ってたんじゃなかったのかよ?
否、判ってなかったんだろうなぁ…。
判ってたんなら、ふたりのファンで存りながら、こんな態度をとることなんて出来るわけないもんなぁ…。
「卑怯だぞ会長っ。ここでこのふたりに頼るだなんて」
こいつらの中の一人が山内を罵る。
けど、阿呆じゃないか。
そんなことすら考えてなかったとは。
こいつが新入生でもない限り、山内とオレ達の関係は判っていただろうにな。
そして、美咲ちゃんを始めとするオレ達卒業生が、山内達生徒会のことを在校生達に託したということを。
なのにこいつらは、オレ達の信頼を裏切ったわけだから、オレ達が出てくることも有るだろうと、どうして考えなかったのか…。
「うん、こいつら、どう考えても阿呆だ。
そうでなきゃ、喧嘩を売ってきてるかだな」
「ふ〜ん。
なぁ〜んだ、思っていた程あなた達リトルキッスって大したことなかったのね。
後輩達すら陸に躾が出来ないどころか、逆に叛かれる始末だし」
オレの考察を受け、この台詞を発したのは香織ちゃんだった。
いや、連れて来る気は無かった。
全く、これっぽっちも無かった。
でも、行き先も用件も知られてる状況で後を窃然り跟けて来られるくらいなら…そう、実際に跟けて来ようとしてたんだよなぁ…。
とまあ、そんな理由で、それなら責めて目の届く範囲でと、渋々ながら同行を認めたのだった。
「ちょっと待ってよ、なんでそういうことになるのよっ!
私達にはそんな、咲さん達に喧嘩を売るなんて、そんな気は毛頭無いんだからっ、そんな風に変なこと言わないでよっ!」
そんな香織ちゃんとオレの台詞に、こいつら慌てふためきだした。
「そうよっ! 人聞きの悪いこと言わないでよっ!
誤解されたらどうしてくれるのよっ!
って、咲さん、私達、そんな気は全然、全く有りませんっ! お願いです、信じてくださいっ!」
で、ここで漸く美咲ちゃんへの弁解か。
でも、そう簡単にはいかせないって。
「そうか? 言ってることと遣ってることが、随分と食い違ってるみたいだけどな」
「何も知らないくせに横から余計な口出ししないでっ!」
「そうだぜ。
それよりも先輩、あんた先程から好き勝手言ってくれてるけど、そこに居るのってアイドルの加藤香織だろう。
仮にも最下位とはいえ、親衛隊幹部のあんたが、なんで他のアイドルとそんなに親しくしてるんだよ。
そっちこそ背信行為じゃねえかよ裏切り者」
おおっ⁈ この野郎、話を逸らしにきやがった。
「へぇ、純くんってこの子達の親衛隊なんか遣ってたんだ。
でも幾ら友人だからってそこまでしなくてもいいのに、純くんってば義理堅いのねぇ。
でも、嫌になったらいつでも私のところに鞍替えしてくれて構わないから、その時は歓迎するわ」
ちょっと、香織ちゃん、止めてくれよ。
ただでさえ面倒な奴ら相手にしてるってのに。
「なによあんた、他人に散々と文句言っといて自分こそ裏切り者じゃないの」
ほら、せっかくだったのに持ち直したじゃないかよ。
「なんだよ裏切り者って、オレが誰と友人になろうとそんなの関係無いだろ。
つまらないことで話を逸らしてんじゃねえよ」
「あら、そこは誰と付き合おうとって言ってくれても良いのに、もう純くんったら」
ああっ、くそっ、やっぱり言うと思った。
「今、真面目な話をしてんだ、そういうの止めてくれないか」
だから香織ちゃん、そう残念そうな顔をするんじゃないって。お陰で少しも話が前に進まないじゃないかよ。
これだから連れて来たくなかったんだ。
「ほら、やっぱり裏切り者じゃない。
咲さんからもなんとか言ってくださいよ」
「え? う〜ん……」
ちょっと、美咲ちゃん、なんでそこで黙り込むんだよ。オレが何をしたってんだよ。
「まあ、これは仕方がないよね」
「自業自得」
「ちょっと、純、優柔不断は女の子に嫌われるわよ」
おい、朝日奈に日向、それに由希も、今頃になって可怪しな存在感出してんじゃねえよ。
「男鹿先輩、もしかして二股掛けですか?
それって最低ですよ」
「うるせーよ、山内。
誰のためにここに来てると思ってるんだよっ」
選りに選ってお前もかよ。
少しは立場ってものを考えろっての。
全く、話が陸に進みやしない。
あ〜、もういいや。
話はもう、次回だ、次回。
※作中に『曲がい』という言葉が出てきますが、一般的に正しいのは『紛い』です。
但し、作中では正論を『曲解』してくるということでこのように当てております。ご注意下さい。
※作中の『窃然り』は当て字です。
Googleで調べてみたところ『窃』『隠密』の例が有りました。また『こそこそ』を調べてみると『狐鼠狐鼠』『密密』『窃窃』が有りました。
今回は女性の行動なので『『狐』はともかく『鼠』は可哀そうだと『狐鼠り』を除外、残るは『密』と『窃』なのですが、その行動がなんとなく疚しいイメージなので、同じ疚しいイメージの『窃む』の『窃』を採用しました。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




