美咲ちゃん、人気があるのも良し悪し
新学期。
転校生がやってきた。
隣のクラスにやってきた。
美咲ちゃんだ。
やはり女の転校生ってのは誰しも気になるようで、しかもそれが美少女ってこともあり、うちのクラスでも噂に、というか大騒ぎに(当然だが主に男ども)なっていた。
「はぁ〜、流石は美咲ちゃん。転校初日だってのにもうこんな騒ぎになっちゃって」
「ははっ、まあ当然だろ。なんてったってアイドルだぜ」
「そうよね。でもそのことをみんなが知ったら、それこそすごいことになりそう」
確かにデビューすればそうなるだろう。ただしそれはヒットすればの話だ。今の段階じゃ、ただのアイドルなみにすぎない。
「って、なんだか心配になってきたわ。ねぇ、アタシ達も様子を見にいってみない?」
美咲ちゃんのクラスを覗いて見ると、やはり人集りができていた。もちろんその中心は美咲ちゃんだ。
周囲には、男子だけでなく、女子も結構混じっている。転校生が珍しいのだろう。
とはいえやはり、話し掛けるのは多くが男子達。
そこに一人の男子がやってきた。
後ろに大勢の女の子達を連れて。
「やぁ、美咲ちゃん。僕は天堂玲。もし判らないことや、困ったことがあったら是非とも相談してくれ」
そいつはそう言うと、爽やかな笑顔を浮かべた。
「うげぇ、て、天堂」
真彦を狼狽えさせたこの男は、スラリとした長身の美男子だった。
真彦の話によると、この男、この周辺じゃ知らない女性はいない程の有名人で、『美童天堂』なんて呼ばれているらしく、また、幾つものファンクラブを抱えているとか、すでに幾つもの芸能事務所からスカウトの声が掛かっているとかの噂があるってことらしい。
そして、美咲ちゃんの反応は、
「…ぷっ……、くふふふふっ。嘘っ、信じらんない」
えっ? どういうこと?
「まさかこんな、どっかの漫画から出て来たような子が現実にいたなんてっ」
「「ぎゃははははは〜」」
なるほど、確かにその通りだ。クサい、あまりにクサ過ぎるのだ。正直、久しぶりに本気で笑った。
当然、それはオレだけでなく、真彦をはじめ周囲の男子全員が腹を抱えての大爆笑だ。
それには由希や(隠す気もなく大爆笑)、何人かの女子達も(こちらは顔を伏せ、必死で堪えるかのように?)含まれていた。
これじゃ、流石の『美童天堂』も形無しだ。
こうして美咲ちゃんは、男子達からの圧倒的人気を得たのだった。
▼
美咲ちゃんの人気は同学年に留まらなかった。
ただそれは災いし、厄介事を呼び寄せることになってしまった。
ある日、柄の悪い奴らがやって来て、美咲ちゃんを連れていこうとしたのだ。
当然、そんなことを許すオレ達じゃない。
「なんだお前らは、関係ない奴は引っ込んでろ」
そう言って、美咲ちゃんに手を伸ばそうするヤンキーA。
オレはすかさずその腕をとり、背中の後ろへと捻り上げた。
「な、お前ら、やる気か!」
ヤンキーBが威嚇するように怒鳴ってくるけど、こいつ状況が判っているのか?
ここに来たヤンキーは二人。
その片方は現在オレによって無効化されている状況だ。
それに対してこちらは、美咲ちゃんを除いて、オレ、真彦、由希の3人。
どちらが優勢かは明らかだ。
「どうする?」
「そうだな、後々面倒だし話をつけにいこっか」
「ま、やっぱりそういうことになるわな」
「え? ちょっと、どういうこと?」
余裕の会話をするオレ達に、不安そうに疑問を告げる美咲ちゃん。
「聞いての通り。この二人に任せときゃ大丈夫だよ。美咲ちゃんも由希のことは知ってるだろ」
そう、由希は空手道場のひとり娘で、段こそないけどかなりの実力者なのだ。
ちなみに、オレ達兄弟も非公式にだが、そこである程度のことを習っていたりする。(オレの場合、由希に無理矢理付き合わされたのだが)
てか、真彦、お前他人任せかよ。
ま、そんなことよりだ。
「ま、そういうわけでだ、親玉のところへ案内してもらおうか」
「ナメてんのか、お前ら!」
「いいから、さっさと案内しなさいよっ」
「ちっ、じゃあ、ついて来やがれ」
睨みつける由希に怖じ気づいたのか、ヤンキー共はこちらに従う気になったようだ。
「それなら、僕もついていかせてもらうよ」
そう言ってきたのは、意外にも天堂だった。
「え、なんで天堂くんが?」
美咲ちゃんの問い掛けに、
「そりゃないよ美咲ちゃん。
君は僕のクラスメイトにして大事な友人だ。
だったら当然のことじゃないか。
それに僕は、女の子のピンチに平然と知らんぷりを決め込むような、そんな人間じゃないつもりだ」
「止めといたほうがいいわよ天堂くん。せっかくの綺麗な顔にキズがついても知らないわよ」
「そんなに危険なら余計に放っとけないよ。
君みたいな可愛らしい女の子を、ギズモノにするわけにはいかないでしょ。
もしそれで怪我したとしても、それなら名誉の勲章だ。決して後悔することじゃない」
おぉっ! マジか⁈
すげぇなこいつ。
こんなクサい台詞本気で言っている。
まさかの裏表ナシ、真性の好男子だ。
そういうことなら問題ない。
この面子で殴り込みだ!
いったんここで中休みします。
第8話はまだ途中なのでこのままもう少し書き足す予定です。
→予定変更しました。続きは第9話からとなります。