…ええっと、この子、誰だっけ?
遅くなりましたが、前話の続きです。
なお、次回の投稿予定日も未定で、暫くは不定期投稿となりそうです。無理のないペースでの投稿を行ないたいので、すみませんがそれにお付き合いいただけますようお願いいたします。
HRが終わると、その日はもうすることも無いようだったので、周りの奴らが次々と席を立ち始める。
帰宅をしようが、興味の有る部活を見学しに行ったりしようが、それはそれぞれ個人の自由だ。
もちろん、早速クラスメイト達と親睦を図るなんて奴も在る。というか、殆どの奴がそうだった。
男どもは美咲ちゃんに、女子達は天堂の下に群がっていて、その様はまるで砂糖に集る蟻のようだ。
そして獲物を渇る狼のかのように、とにかくふたりに夢中である。
いつの間にか、クラブの勧誘にやって来ていた先輩達が在たんだけど、それには全く誰一人気づいた様子もない。アウトオブ眼中ってやつである。…って、ちょっと表現が古かったかな。確か、昭和か平成の頃の死語だったよな…。
ってか、なんか見ていて可哀そうになってきた。
そんな状況であるが、いつまでもこのままじゃ身動きが出来そうもない。
そんなわけで、適当なところで切り上げさせる。
「ふたりとも、漸々行こうか」
一同が残念そうにしているけど、まあ、同じクラスメイトだし、明日以降も幾らでも話す機会は有るわけなんで、悪いが諦めてもらうとしよう。
「あ、うん。じゃ、みんな、またね」
美咲ちゃんが愛想良く、否、愛敬好く笑顔で手を振りながら別れを告げる。
こんな人見知りしない、無邪気な笑顔が美咲ちゃんの人気の所以だろうな。
誰一人、不満そうな様子も無く、というか嬉しそうに笑顔で応えている奴ばかりだ。
本当に大したもんだよ美咲ちゃん。
…あと、序に天堂も。
まあ、こいつの場合はいつものことだし、もう慣れた。最早お馴染みの光景だ。
教室を出たところで、早速鬼塚さんに連絡を……と思ったんだけど…。
「何言ってんのよ。今日は大抵の生徒は休みでしょ。来てるわけないじゃない」
由希に指摘されて思い出した。
そういえば、入学式の日は上級生達は大抵が休みなんだった。
仕方がない、また今度だな。
「あ〜、良かった。
鬼塚って、あの時の不良でしょう。
悪いけど、そんなのに会いに行こうなんて、正直言って御免だもの」
「うん、流石にああいうのはもうねえ……。
それに、そのお陰で一時期、私達までそんな目で見られてたしね」
朝日奈や日向がそう言うのも無理もないか…。
二年前のあの一件は、校内のヤンキーの抗争は、一般生徒には衝撃的だったことだろう。
増してや、それに捲き込まれた身なら、余計にそう思っても不思議は無い。
でもなぁ…。
「よく言うもんだ。
ふたりとも、序列がどうだって、散々オレのこと調戯ってくれたくせに、どの口が吐戯いているんだか」
結果はといえば、何故か美咲ちゃんが鬼塚さん達の後継者ってことになる始末だ。
否、確かにこいつらの言うとおり、鬼塚さんが指名なんかしたせいなんだけど…。
お陰で、リトルキッスはアイドル番長なんて不名誉な通り名を付けられる羽目に…。
幸い、美咲ちゃんがそんな呼ばれ方をすることは無かったけど、その分、早乙女純がその名で呼ばれることになっていた。
でも、なんでオレだけ…。
否、まあ、早乙女純が敵の大将を討したんだから自業自得なんだけどな…。
そんなことを話しながら校舎を出たところで、彿と誰かが男達に囲まれているのが目に付いた。
どうやら女子生徒のようだ。
「全く、どこにでもああいう手合って在るもんねぇ」
そんなことを言いながら、由希がそいつらに近付いて行く。
お前も他人のこと摘えないだろ、介入する気満々じゃないか。
「悪いけど、今はあなた達なんかに拘っている場合じゃないの。
そこを退いてちょうだい」
なんか、女子生徒の方も随分と凛とした態度だけど状況が判ってるのかよ。
「なんだよ、随分と連れないこと言うじゃないか」
う〜ん、なんてお約束な台詞。
因みに、この『つれない』だけど、本来は『関連を持てない』という意味で『連れない』なんだけど、こいつの脳内じゃ獲物相手の『釣れない』なんだろうな。ガールハントなんていうくらいだし。
「言ったでしょ。
今はあなた達なんかに、煩わされている場合じゃないのよ。
何度も言わせないでちょうだいっ」
それよりも、なんでこの子、こうも強気でいられるんだろな?
「そんなこと言わずに、せっかくなんだからそこらで親睦でも深めようぜ」
そう言うと男の一人がその子の腕に手を伸ばした。
「ちょっとっ、放しなさいよっ。
あなた達、誰にこんなことしてるか判ってるのっ!」
おおっ⁈ なんだ?
どこか良いところのお嬢様かなんかか?
「ちょっと、アンタ達。
それぐらいにしときなさいよ、みっともない」
と、ここで愈々介入か。
もう少し様子を見てたかったんだけどな。この子の強気の理由にもちょっとばかり興味が有ったし。
「ああ、そうだね。
嫌がる女の子を無理遣りってのは感心出来ないね。
って、あれ? 香織ちゃん?」
「なんだ? この子、天堂の知り合いか?」
まあ、天堂ならどんな女の子と知り合いだったとしても、不思議ではないか…。
「あっ! あなたはっ!」
うん、やはり天堂の関係者か。
本当、こいつどんだけ女の子に顔が広いんだかな…。
「あ、本当だ。香織ちゃんだ。
そっか、香織ちゃんも同じ学校だったんだ」
え? 美咲ちゃんとも知り合いなわけ?
いったい、どういう知り合いなんだ?
「な、花房咲っ⁈
なんであなたが彼と一緒に居るのよっ!」
花房咲?
ってことは芸能関係の知り合いか…。
もしかすると早乙女純とも面識が有ったりするのか?
まるっきり覚えが無いんだけどな…。
「ああ、彼女とは同じ中学だったからね。
それで僕もと思ってこの学校を選んだんだ」
う〜ん、どこかで逢ったこと有ったっけ?
本当、まるっきり覚えが無いんだけどな…。
「え? 御堂玲?
あなたも彼と知り合いだったんだ」
「「えっ?」」
ちょっと待て。
それじゃ、この子のいう彼って誰のことなんだ?
……周囲を見回すけど、まるっきりそれらしい反応を示す奴はいない。
そんな馬鹿な…。
もう一度見渡してみるけど、やはり変わらない。
「な、なあ、花房咲って、あのリトルキッスの花房咲か?」
「そう言や、なんかそんな話を聞いてことがあるぞ」
「それに、この伸細、御堂玲とか言ってたしな。
それに関しては一緒の女どもからして間違いないだろ」
「てことは、この子は香織とか言ってたし、あの加藤香織か?」
「かもな。会長の事務所の後輩って聞いたことがあるしな」
う〜ん、まさかとは思うけど、オレ?
否、そんなはず無いだろ。
「ねぇ、まさかとは思うけど、アンタ、あの子と知り合いなの?」
由希の質問に、美咲ちゃんと天堂も、顔色を窺うようにオレの方を見つめてくる。
「あのなぁ、あの子とオレと、いったいどこに接点が有るっていうんだよ。全く心当たりが無いっての」
本当、有り得ないはずなんだけどな…。
「えぇ〜、でも純ちゃんとは仲が良いんでしょ。
だったら香織ちゃんともってこともあるんじゃない?」
止してくれよ、美咲ちゃん。
「それは由希達だって同じだろ。
オレの身近な奴くらい、由希達だって知ってるはずだ」
「え〜、でも純ちゃんのことはよく知らないんだけど」
当たり前だ。流石にそれは言えるわけがない。
「それは、そっちが気づいてないだけだろ。
大体、早乙女純がオレ達のことをよく知ってる身近な奴だってのは知ってるだろ。
それに対して、少なくともあの子はオレの身近な人間じゃないってのは確かだ」
「確かにね。
でも彼女の言う『彼』ってのは、まず純くんのことで間違いないんじゃないかな」
おい、天堂。なんでそういうことになるんだよ。
「まあね。長谷川千鶴だったけ。
彼女のこともあるし、どこかで純のことが目に留まったってことかもしれないわね」
由希もなんで納得してんだよ。
確かに千鶴さんの件はあるけど、あれは特例だ。
って、まさか、この子もそうだってのか?
勘弁してくれよ全く…。
否、まだそうと決まったわけじゃない。
でも、それならなんでだ?
「ちっ、このリア充野郎がっ!
ここじゃそんなの通用しないって思い知らせてやるっ!」
なんだ?
そういや、こいつらのこと忘れてた。
で、こいつら天堂を敵と狙ってきやがったと。
まあ、気持ちは解らないでもないけど、それでも先程までのあれはない。
全く、責めて真彦の爪の垢の幾らかでも、煎じて飲ませて遣りたいくらいだ。
サクサクと男達の攻撃を捌いていく。
流石に天堂にこいつらの相手をさせるわけにはいかないし、由希に相手をさせるのも無しだ。一応こんなのでも女なわけだし、男としての面子も有るしな。
てか、なんだ? 口の割に全然大したことないんだけど…。
「おいおい、入学初日から喧嘩かよ。
全く、お前ら相変わらずだな」
「うげっ、鬼塚に倉敷っ!」
「なんで休みの日に居るんだよっ⁉」
「くそっ、覚えてろよっ!」
何故かオレ達の前に現れた鬼塚さん達を見て、逃げ出していく男ども。
でも、なんで鬼塚さん達が今日ここに?
「ああ、ちょっとな。
入学式の手伝いに駆り出さて、先程終わったところだったんだが、なにやらこっちで騒ぎが起きてるって聞いて、来てみたらお前らだったってわけだ」
なるほど、おそらくはなにかやらかして、そのペナルティってところかな。
全く、この人達こそ相変わらずだ。
「おい、男鹿。お前、何か失礼なこと考えてるだろ。
俺達は純粋に入学式の手伝いのため出て来てるってのに」
「正しくは美咲ちゃんと、あと、お前らの入学を祝いに来たってのが本当で、入学式の手伝いはまあ、その序でだな。
で、俺は倉の奴に付き合わされたってわけだ」
あ、なるほどな。
そういや、倉敷さんって美咲ちゃんの熱烈なファンだったんだよな。
「あ、こら、なにバラしてくれてんだよ。
でも、まあ宜いか。
そういうわけで、美咲ちゃん、入学おめでとう。
もし、これから困ったことが有るようだったら、何でも言って来てくれ。
あ、それと男鹿。お前は変な奴が美咲ちゃんに近づかないよう、よく看ておくようにな」
全く、再会第一声がそれかよ。
本当にこの人も振れないよなぁ。
「じゃ、まずは倉敷さんからだな。
前科が有るの忘れたわけじゃないんだろ?」
実はこの人、中学時代にやらかした過去が有るんだよな。
とはいっても、そこまで悪質なものじゃなかったんだけどな。
「ちょっと待てよ。それってもう時効だろ」
慌てるところをみると、やっぱり未だに気にしているってことか。
だけど、そういうところがこの人の信頼出来るところなんだよな。
まあ、信用ってなると、またちょっと変わってくるんだけど…。
「ちょっと、花房咲。
なんであなたが彼と一緒に居るの?
彼とはどういう関係なのよ⁈」
「へ? 彼?」
「なんだ、そりゃ?
てか、誰だ、この子? 純の知り合いかなにかか?
純、お前、今度は何やらかしたんだ?」
ああ〜…、そうだった。
そういや、この子のこと忘れるところだった。
てか、このまま忘れちゃ駄目かな。
なんか、面倒な予感しかしないんだけど…。
※作中に出てくる『むさぼる』ですが、多分『貪る』が一般的です。
ただ、『渇る』という字もあるようなので、作者的に、より飢えたイメージがあったこの字を使用してみました。
なお『婪る』というのもあったのですが、『林』に『女』って、漢字の由来を考えると、なんかR指定に懸かりそうなイメージが湧いたので、調べることなくに却下にしました。
けど、こんなこと考える作者って、やはり頭の中が、未だに思春期ってことなんでしょうか…。[Google 参考]
※作中に出てくる『そろそろ』ですが『徐々』じゃないのって思った方もいたんじゃないかと思います。
実際、夏目漱石の『吾輩は猫である』なんかでそのようになっているようです。
ただ、尾崎紅葉の『金色夜叉』にも『漸々』があったのでこちらの方を引用してみました。
だって、待たされる身としては『漸く』かって思うでしょうしね。
なお、金色夜叉のそれは、そういう意味とは少し違う気がするのですが、まあそこは気分で。[Google 参考]
※作中に出てくる『彿と』ですが、これは擬音語で、一般的には平仮名か当て字の『不図』の使用がよくみられます。
作者の当てた『彿』には『彿う』『彿か』といった読み方が有ります。意味は『似ている』『仄か』です。
要するに『虚像』とか『幻影』みたいなイメージなんでしょうか?
というわけで、今回は『それっぽい』ものが目に付いたと、そういう意味のつもりです。[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




