純、高校に入学する
バスを降り道沿いに進むと、桜並木の坂道がオレ達を迎えるように見えてくる。
3月半ばに開花を迎えたソメイヨシノや、それに続いて咲き始めた八重桜だ。こちらは4月半ばか下旬くらいまで楽しめることだろう。
天気は快晴、日は暖かい。吹く風はまだ少しばかり冷たいが、反ってそれが心地好く、清涼爽快たる気分なってくる。
暫く歩いていくと漸く目的地が見えてきた。
否、本当は疾っくに見えていた。
先程から見えていた桜並木は、この目的地の外周に植えられた街路樹だったのだから。
私立森越学園高等学校。
これから三年間、オレが通うことになる高校だ。
私立の学校というと大抵、学力低レベルの劣等生が通う学校というイメージが有るが、実際のところは必ずしもそうとは限らない。
学力ハイレベルのエリート達が通う進学校なんかが在るのは有名な話だし、他にも部活に力を入れた有名校も在る。
学力を含むなんだかの技能の向上のため、そこを重視することが出来るというのが、私立の学校の利点というわけだ。
まぁ、大抵その分金も掛かるわけだけど…。
逆に、とにかく金儲け第一主義の営利目的で、生徒の学力を問わない場合だと、結果がどうなるかは言うまでもないだろう。
これが私立の学校が低く評られる原因だ。
ともかく、ようはその学校の運営方針に依って変わるというわけだ。
では、ここ森越学園はというと…。
学力レベルは残念ながらそんなに高くない。
どちらかというと、やや低めかもしれない。
まぁ、今年の入試はちょっとした理由で例外的に競争倍率が高くなったらしいけど、それでも学校としてはそんなに学力偏差値は高くないのだ。
とはいっても、金儲け主義で生徒を無差別に受け入れているというわけじゃない……と思う。
だが、校則は比較的緩い。
バイトは自由だし、車やバイクの免許取得も禁止されていない。それらによる通学は禁止されているけど、それも学校の敷地事情によるものに過ぎない。
だがそれは、どうも生徒達の自立を積極的に促すという方針らしく、学校は社会へ出るための足掛かりということらしい。
要するに、学力よりもそういった活動にこそ力を注ぐべきだという考えのようなのだ。
実際、社会でなんだかの活動をしている者達の支援を謳っているわけで、美咲ちゃんや天堂のタレント活動だって認められているし、他にも最近では、今年卒業した伊藤瑠花なんかがそうだと云う。
もしかするとオレが知らないだけで、他にもそういった奴が在るのかもしれない。
つまり、ここはそういう学校なのだった。
今日は入学式当日。
まずやるべきは玄関口へと向かい、自分のクラスの確認だ。
さて、オレのクラスは何組だろうか。
まあ、出席番号順だろうから、オレの場合は直ぐに判るか…。上の方を探せばいいんだからな。
「うわぁ…、集まってるわねぇ…」
「うん、これがみんな、私達と同じ新入生なんだ…」
「ああ、結構混雑しているね…」
今年も同じ学校に通うことになった美咲ちゃんが、やはり同じ学校に通うことになった由希の言葉に、呆然と頷いている。
あと、序だが天堂もオレ達と一緒である。
確かに三人の言うとおり、玄関口は新入生達が群がっていて、凄い煩擾風りとなっている。
クラスの確認はしたいけど、流石にこの中をってのはなぁ…。
う〜ん、なんとも煩わしい。
「ああっ! 天堂くんっ!」
そんな人混みの中から声が飛んで来た。
そしてその主が現れた。
そいつらはオレ達と同じ中学の同級生だった天堂の追っ掛け、親衛隊の朝日奈と日向だった。
そう言や、こいつらもこの学校受かってたんだっけ。
でも、ふたりとも公立の学校に受かっていたはず…。
「ええ〜? そんなの決まってるじゃない。
天堂くんの通く学校に私達が付いて通かないわけないでしょ」
ああ、そうですか…。
不思議に思って問い掛けてみたいところ、返ってきた答えは、なんともまあ、判断に困る回答だった。
もしかしてオレの方が可怪しいのか?
…まあ、こいつらにしたらオレの方が異端しいってことになるんだろうな…。
でも、オレだってこいつら同様に受かった公立を蹴って、美咲ちゃんに追いてこの学校に入ったわけだし、他人のことを摘えないか…。
否、真彦や小藪達は別の学校に通ってるわけだし、やっぱりこいつらの方が特殊しいんだよな…。
おっと、ヤバい。
こいつらのせいで、こっちに注目する奴らが出てき始めた。
ここは一時撤退だ。
なお、オレ達のクラスに就いてだが、こいつらふたりに依ると、4人ともこいつらと同じクラスだと判明した。
なんか誰かのご都合主義みたいに感じるけど、まあ、そこのところはどうでもいいか。
取り敢えず手間は省けたわけで、あんな中に突入する必要もなくなったわけだ。
それでは、教室へと向かうことにしよう。
▼
入学式が終わった。
新入生代表だけど、美咲ちゃんが務めるというわけではなかった。
推薦入学だったし、もしかするとと思ってたんだけど、流石にそういうことはないわけで、オレの心配は杞憂に終わったので、ほっとしている。
否、別に美咲ちゃんに務まらないなんてことはないだろうけど、やっぱりほら…。なんというか…。
で、再び教室へと戻ってきた。
そしてHRの時間となった。
教職員はこれを学級開きと呼ぶらしい。
提出物の回収が行なわれ、担任から生徒に向けての激励の言葉が掛けられる等もした。
そして生徒一人一人の自己紹介などが行なわれたのだが、やはり美咲ちゃんは美咲ちゃんだった。
止せばいいのに、ご丁寧に自分から正体をバラすなんて…。
「えぇ〜っ⁈ やっぱり!」
「じゃあ天堂も、やっぱりあの御堂玲⁈」
当然、天堂もその流れで割を食うことになった。
天堂の場合はプライベートでも名を知られていたから、今さらなところがあるんだけど、これって大丈夫なのか?
あとで事務所から叱られたりしそうな気がして、気が気ではないんだけど、どうするんだよ。
否、でも、然し…。
確か、この学校ってタレントが通うのも珍しくないって話だったよな。
それにこの学校を薦めたのは事務所だったわけだし、これぐらいのことは織り込み済みのはず……。
なにより、正体を隠せとか命われてないし、だったらきっと大丈夫……だよな…。
ま、まあ、中学の時もこれでなんとかなってたわけだし、別に問題無い……うん、そう思うことにしよう。
済んだことをあれこれ言っても仕様がない。
そういえば、千鶴さんとかどうしてるんだろうな。
あと、事務所は違うけど、この学校の先輩だった伊藤瑠花とかどんな感じだったんだろう。
そうだ、よく考えたらこの学校には、鬼塚さん達が在るんだった。
よし、後で訊いてみよう。
※作中に『煩擾』という言葉が出てきますが、意味は『煩わしい程に乱れること』となっています。
『擾』には乱れるという意味の『擾れる』という読み方が有るようです。
他にも『擾ぐ』『擾わしい』という読み方が有り、意味はそれぞれ『騒ぐ』『わずらわしい』となっています。
あと何故か『擾らす』という読み方も有り『馴染ませる』という意味が有ります。
やはり『馴らす』のは『煩わしい』ってことで、今も昔も努力の類は辛いということなのでしょうか…。[Google 参考]
※作中に桜の『ソメイヨシノ』が出てきますが、実はその中に『‘染井吉野’』という品種が在り、微妙に区別されているようです。
作者の頭ではその概要がよく理解出来なかったのですが、恐らく次のようなものだったと思います。
[ソメイヨシノ]
学名 Cerasus ×yedoensis
エドヒガン×オオシマザクラの種間雑種全般。
‘染井吉野’を始め‘衣通姫’や‘咲耶姫’等といった栽培雑種や、様々な天然雑種が存在する。
[‘染井吉野’] (‘ ’で囲んで表記する)
学名 Cerasus ×yedoensis ‘Somei-yoshino’
エドヒガン×オオシマザクラの種間雑種の内の特定の栽培品種。
江戸時代末期につくられたと考えられている。
現在、全国でみられるものは、全てが挿木や接木で殖やされたもので、‘染井吉野’同士では受粉出来ない。
一応調べてはみたのですが、もしかすると間違ったところがあるかもしれないので、気になる方は、申し訳ありませんが自分で調べてみて下さい。
[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




