卒業 -そして新たなる日々へ-
3月に入った。
入試も終わり、オレ達もみんな、進学先が無事決まった。否、志望校に合格した奴ばかりじゃないだろうから、無事ってよりも、一応の方が相応しいかもしれないけどな。
ともかく、入試も学年末試験も終わった今では、後は卒業式を待つだけであり、他には何もすることが無い。
……中には、真彦みたいに最後の最後で気を抜いて、追試を受けてるなんて奴も、一部存在するんだけど…。
まあ、そういった奴を除けば、本当に何もすることが無い。残りの授業はそういった奴らの追試か自習に当てられるかで、本当にすることが無いのだ。
出席日数の足りている奴には、登校する意味が殆ど無いんだけど、そこはやはり義務教育、そういうわけにはいかないのだ。
そんなわけで、オレ達は真彦を除いて、暇を持て余していた。
そんな、とある日の授業時間。
当然、その日の授業も自習という名の自由時間だ。各々が好きなことをして過ごしている。
「純くん、何してんの?」
オレに声を掛けてきたのは、美咲ちゃんだった。
で、オレが何をしてるかというと、まあ、いつものように曲作りだ。
「あ、そうだ。美咲ちゃんも天堂も、何か意見が有ったら言ってくれないか?
今回の曲は、そういった内容の曲なんでな」
「あ、やっぱり。
前々から、そんな気がしてたんだけど、やっぱり純が美咲ちゃん達に曲を作ってたのね」
あ、しまった。そういや、由希も居たんだった。
ただ幸いにも、真彦は追試で居ないし、親衛隊連中も離れた場所で集まっていて、それぞれの話に夢中のようで、こっちに気づいた様子もない。
「そんなんじゃねぇよ。
早乙女純に、意見を尋きたいって言われただけだ。そんな立派なもんじゃねぇ」
「ふ〜ん、ま、いいけどね」
なんだ? 怪気に浅然と引き下がったな。
ま、いいか。少なくとも、変に騒がれるよりもマシってもんだ。真彦達じゃ、こうはいかないだろうからな。
「あ、作詞のところに、リトルキッスの名前がある」
歌詞を覗き込んできた、美咲ちゃんの第一声がそれだった。
「だから言っただろ。意見が尋きたいって。
あ、そうだ、御堂玲の名前もここに加えなきゃな」
「へぇ、卒業がテーマの曲なんだ。
それで美咲ちゃん達の意見が尋きたいって理由ね」
「と言うか、それがメインだな。
それをそれっぽく纏めた物が、今回のこの曲になるってわけだ」
やはりこういった物は、他人に用意された物よりも、自分達の体験からきた感情を伝える物の方が良いに決まっている。
「でも、良いのかい? これはリトルキッスの曲なのに僕の意見なんか採り入れても」
確かに天堂の言い分は尤もだ。
「良いんじゃねぇの?
御堂玲とリトルキッスは、半ばセットみたいなもんだろ。同じ学校の同級生だってことも、結構知られいるわけだし、謂わば兄妹みたいなもんだ。
そんなわけだし、なんの不思議も無い、極自然な話だろう?」
ファンの間じゃ、オレ達は盟友としてよく知られているわけだし、双方の連携の証にもなる。
両者にとってwin-winの話なのだから、双方のファンにとっても文句は無いはずだ。
「でも、今からでも間に合うの?
レコーディングしたりとか、いろいろあるはずなのに」
「別にいいだろ。そもそも、販売目的の曲ってわけじゃないし。
それに、前の『Resistance』みたいな例もあることだし、発表後のレコーディングや販売でも、大丈夫なんじゃないか?」
いや、その場合、関係者の人達がまた、前みたいに死にそうな目に遭うんだろうけど…。まあ、そこは仕事なんだし、諦めてもらうことにしよう。
…うん、大人って大変だ。
▼
仰げば〜、尊し〜♪
我が〜師〜の〜、恩〜♪
とまあ、卒業式は無事終了。
どんな内容かは、まあ世間一般のテンプレどおり。
特に感慨なんて無い。
そんな風に言うと、なんて奴だなんて思われるかもしれないけど、実際、そうなんだから仕方がない。
というのも、オレ達にとってはこれからの方が本番なのだから。
卒業式終了後の自主企画。
オレ達リトルキッスと御堂玲、そしてそのファンを始めとした有志による特別企画。
卒業生、在校生問わず、自由参加の謝恩会。
それこそがオレ達にとっての本当の卒業式だった。
もちろん、学校側にも、生徒会にも了解はもらっている。
それどころか、双方からも出席者…というか参加者が。
参加者といえば、生徒達も、卒業生、在校生の区別なく、大勢が集まってくれている。というか、ほぼ全校生徒なんじゃないだろうか。
謝恩会は、美咲ちゃんのスピーチで始まった。
「みんな、集まってくれてありがとう。
私達は今日でこの学校を卒業します。
今まで、辛いこと、苦しいこと、いろんなことが有りました。
それでも、今日までやってこれたのは、こんな出来の悪い私を、今日まで見捨てずに導いてくれた先生方と、育ててくれた両親、支えてくれた学校のみんな、そして多くのファンの人達、全てはそんな大勢の人達のお陰です。
そのお陰でこれまでの日々、楽しいこと、嬉しいこともたくさんでした。
そんな中で、純ちゃんや御堂くんといった、一緒にがんばれる仲間に出逢えたことも幸せだったと思います。
恐らく私達は、卒業と伴に別々の学校に進むことになるかもしれません。それでも私は、これからも純ちゃんや御堂くんと一緒に、力を合わせて、みんなの期待に応えられるよう、一生懸命にがんばっていきます。
あは…、もう、なんて言って良いのかよく判んなくなっちゃったけど、それでも一言、言わせてください。
みんな、本当にありがとう」
大したもんだ。
これだけのスピーチを、台本無しでって遣って熟けるんだからな。
と、今度はオレの番だ。
恥ずかしい真似は出来ないんだけど、結構ハードルが高いよな…。
「ああ、まずはみんな、オレ達…じゃないや、私達のため、集まってくれてありがとう。
こうしてみんなに、祝って送り出してもらえるなんて、なんていうか面映ゆいていうか、擽いって感じです。
でも、こんなオ…、もうオレでいいか…。ともかく、こんなオレ達には、過ちや失敗も多く、どれだけ大人に近づけたのか判りません。
こんなオレ達だけど、この学校生活では、大勢の人達に恵まれていたと思います。
時に厳しく叱り、正しく導き、優しく見守ってくれた、学校の恩師達。
困ったことがあれば、厭がることなく、相談に乗ってくれた、頼り甲斐のある先輩達。
そして一緒に迷い、悩み、考えてくれた、仲間達。
また、こんな未熟なオレ達を、それでも模範としようとし慕ってくれる後輩達。
そんな人達に囲まれて、今のオレ達が在るんだと、ここに居るみんなに、改めて感謝します。
ありがとうございました」
はは…、こんなんで良かったんだろうか?
正直、いっぱいいっぱいで、よく判んないや…。
そして、続くは天堂のスピーチ。
なんか、やっぱり慣れた感じで…とは、流石の天堂もいかなかったみたいだけど、それでもやっぱり天堂だ。然程の動揺を感じさせない冷静さが窺える。
内容? 悪いけど、よく覚えてない。
こっちはまだ、頭が昂せたままで落ち着きを取り戻しきってはないんだ。
そして、オレ達三人に依る謝辞が終わると、遂に用意した曲の出番だ。
なお、演奏は吹奏楽部の卒業生達だ。
去年、生徒会選挙で対立した間柄だというのに、なんとも嬉しい話であった。
吹奏楽部の新旧両部長曰く、勝負の後はノーサイド。
なんのことはない、吹奏楽部の中にもオレ達のファンが在て、当時から複雑な心境だったらしい。つまり、今回の話は両者の和解の証として、渡りに船というわけだ。
そんなわけで、吹奏楽部の演奏と共に、オレ達の新曲(暫定)がお披露目となった。
ああ、思い起こせば長かったような、短かかったような、いろいろとあった三年間だった。
特に美咲ちゃんと出逢ってからは、人並外れた毎日だった。
だけど、決して悪かったわけじゃない。
むしろ、毎日がより楽しくなったと言える。
今でも、夢でも見てるかのように思う時がある。
だけどもそれでも構わない。
だけどもそれは叶わない。
今日は、卒業式だ。
新たな日々への出発点だ。
さあ、新しい日々が始まる。
漸く、中学生編が終了です。
辛倒かった…。
でも、まだ、作者脳内では続く予定です。
とは、いえ、暫く休みます。
再開日は未定ですが、早目に復帰したいです。
最近、アクセス数の変動が大きいことに気づいてやや、焦っています。
でも、所詮は投稿初心者による初投稿作品。
そこのところご理解ください。
でも、諦めたわけじゃありません。
そのうちにきっと……。
I'll be back again!
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




