Resistance -Rebornの起士-
あいつら、ついにやりやがった。
あれでも、教師なんだから、良識くらい持っていると思ってたのに。
まさか、あんな手まで使ってくるとは……。
演劇部率いる弱小クラブ連合は、吹奏楽部の卑劣な手段により立候補取り消しとなり、この度の生徒会選挙から完全に除外されてしまったのだった。
否、被選挙権が無くなっただけで、一応、選挙投票権は有るのだが、果たしてそれだけで、いったい何が出来るというのか。
既に立候補は締め切られているため、新たな候補者を擁立することは不可能だ。
今在る候補者の中から、支持する者を選ぶにしても、それに相応しい者も在そうもない。
最早手詰まり状態である。
「あぁぁぁ、悔しいぃぃぃ!
まさか、こんな形で負けるだなんてぇぇ!」
由希の絶叫が響く。
無理もない。オレだって叫び出したい。
幸い、オレ達は直接関わってなかったこともあり、なんの被害もなかったけれど、小藪達親衛隊連中は、あの暴動の中に在たことにより、それなりのペナルティが科せられている。
美咲ちゃんも天堂も、すっかり鬱ぎ込んでいる。
立候補者だった山内に至っては、ただ謝りながら、泣き続けるばかりの有様だ。
「うわぁ〜〜〜ん。
みんな、私達のせいでこんな目にぃ。
ごめんなさい。ごめんなさいぃ〜ぃ。
うわぁ〜〜〜〜ん」
くそっ! 本当に何も出来ることが無いのか。
絶対に思い知らせてやるって、いくら思ってみたところで、何も方法が思いつかない。
学校の生徒という枷が有る以上、どうやったって、出来ることに限界がある。
……学校の生徒?
何故、それが枷になる?
それはオレ達が学校に縛られているからだ。
でも、それは学校に所属する以上、仕方のないことだろう。
……じゃあ、学校に所属しない、いや、籍の無い存在ならどうだ?
ああ、そうだ。それなら何も怯れることは無い。
存在しない者を縛るなんて、出来ようはずもないのだから。
ああ、そうだ。それなら何も怯れることは無い。
存在しない者を咎めるなんて、出来ようはずもないのだから。
なんだ、そうだよ、そうなんだよな。
そうと決まれば、今度こそ、必ず後悔させてやる。
▼
その翌日、オレ達の逆襲が始まった。
早乙女純の登場だ。
とはいっても、決して奴らのような悪行に手を染めたわけではない。
正攻法で、相手のやり方を批難するだけだ。
奴らの演説の真っ正面でな。
「な〜にが努力が正しく認められるだ。
お前らの言う努力ってのは、汚い手段で、弱者を蹂躙し、支配することか?」
だったら、より強き者に、より汚い手段で、より徹底的に蹂躙されたって、当然文句は無いはずだよな?
本当なら、こう続けたいところだが、流石にそれは我慢した。
同じ穴の狢じゃ集まる支持も集まらないからな。
まあ、仕方がない。
「でも、本当にそれで良いのか?
結果が伴う内は良いけど、一度躓けばそれまでだぞ。まさか、延々とそれが続くなんて自惚れたことを考えてるわけじゃないんだろ?」
さて、どんな反応が返ってくるか。
「だから、努力を続けるんじゃないの。
あなただって、そうやって今の成功を掴んだんでしょう。
陸な結果も出せない、怠惰な人達と一緒にしないでっ」
おうおう、覚悟の上ってか?
つまりは、常時、背水の陣ってわけだ。
「馬鹿だろ、お前。
努力を否定するわけじゃねぇけど、結果なんて直ぐに出るもんじゃないだろ。
誰にでも、失敗があってこそ成功があるんだよ。
知らないのか?
世間じゃ、お前みたいな夢見がちな奴を中二病って言うんだよ。
って、そう言や中二だったよな、お前」
ははっ。我ながら巧いこと言ったものだ。
「そんなの、何もしない人達の言い訳じゃない。
あなただって、判ってるくせに。
なんでそんな奴らを庇うのよ?」
『奴』ってか? あっさり本性が出てきたな。
ちょっとばかり煽っただけなのに。
「でも、こいつらは、やってるだろ。
お前らのやってることは、そいつらから機会を奪うことだ。違うか?」
「それは、結果を出せない本人が悪いのよっ。
自業自得でしょっ」
ははっ、本当にちょろい。
こうまであっさり挑発に乗ってくるとはな。
「結果、結果っていうけど、結果ってなんだ?
大会かなんかのタイトルを適当にもぎ取ってくりゃいいのか?」
「適当って、そんな簡単に言わないでよっ。
その大会に出るだけでも大変なのにっ」
う〜ん、もう一押し。
「で、成績の方はどうなんだ?
優勝? それとも準優勝?」
「そんなの、そう簡単に穫れるわけないじゃないっ。
判りきったこと言わないでよっ!」
「ふ〜ん、なるほど、努力が足りなかったわけか。
なら、こいつらと大差ないじゃないか。
どの面下げて、偉そうなこと言ってたんだかな」
「そうだ、そうだっ! 早乙女純の言うとおりだ!」
「お前らだって、俺達と変わらないじゃないか!」
おお、ギャラリー達もオレの意見に賛成のようだ。
多分、真面目にがんばりながらも、結果に繋がらなかった部の奴らだろう。
なんにしても、オレにとっては追い風だ。
「あなた達と一緒にしないでっ!
今度こそは、優勝してみせるんだからっ!」
お〜お、こいつってば無理しちゃって。
でも、追撃を緩める気は無いけどな。
「さて、どうだろうな?
そう簡単にいかないとか言ってなかったか?」
「だから、今年の予算委員会で予算を増額してもらって……」
「やっぱりお前、馬鹿だろ。
散々、努力とかなんとか言っといて、結局最後はそこかよ。全く以って支離滅裂だぞ」
うん、馬鹿だこいつ。最後まで話を聞くのもあほくさい。
「まあいいや。でもそれでお前らのいう結果が出なかった場合、どうなるんだろうな。
もしもそうなりゃ、お前らだってあいつらの仲間入りだぞ、きっと。
そん時ゃ、絶対に再起は出来ないだろうな。
だって、その機会を奪うのが、今のお前らのやり方だからな」
「〜〜〜〜〜!」
ははっ、言葉が出てこないみたいだ。
と、なにやら周囲を見渡し始めた。
はっ、何を謀んでいるかは、疾っくにお見通しだっての。
「? ? ?」
ふっ、戸惑ってる、戸惑ってる。
「それまでだ!
選挙妨害は認めない。跟いて来い」
おっ? ここでようやく出て来たか。
この台詞の主は、こいつら吹奏楽部の顧問教師だ。
「やだね。お断わりだ」
誰がおとなしく、跟いてくものか。
「なんだと?
どこのクラスの生徒だ。
厳しく叱りつけてやる」
あほか、この教師。
そんなこと言われて、誰が素直に答えるってんだよ。
それより、そろそろ、このあほ教師も、なんとかしたいところだ。
「それは、あなたの方だ。笛吹先生」
よっしゃあ、きた!
登場したのは、オレ達のクラスの副担任、そして三年学年主任でもある、我らが坂本良柔先生だ。
「坂本先生、それはいったい、どういうことですか⁈」
笛吹と呼ばれた吹奏楽部顧問教師は、事態がまるで把握出来ていないようだ。
いや、この場に居る殆どの者が、理解出来ていないようだ。
「それはあなたが、一番よく知っているんじゃないですかね。笛吹先生」
こうして笛吹は、坂本先生に連れて行かれたのだった。
そして、吹奏楽部の連中はというと……。
うん、未だに茫然自失中だ。
まあ、当然といえば当然か。
まさか、顧問教師が連れて行かれるなんて、思いもしなかっただろうからな。
「さて、これにて一件落着だな」
……と思っていたのだけど…。
「ちょっと、純ちゃんっ。
これ、いったいどういうこと⁈
どうして坂本先生が、笛吹先生を連れてったの⁈」
ああ、これだけギャラリーが集まれば、その中に美咲ちゃん達が在ても可怪しくもないか。
よく見れば山内や、他の演劇部の連中も在る。
これなら、説明も一度で済むし、面倒が無くて良いな。
「ああ、この度の騒動のことを知ってな。
それで坂本良柔先生に、ご助力を願ったってわけさ」
「えぇっ⁈ まさか?
だって、学校側は吹奏楽部を支持してはずじゃ…」
まあ、山内の疑問も当然だ。
他の奴らも同様に頷いている。
「誰も彼もが、そうとは限らないってことだ。
増してや、かの英雄、坂本龍馬直柔の子孫だぞ。そんな人がこんな非道を黙って看過すわけないだろ」
「いや、それは本人の自称だろ」
如何にも真彦の言うとおりで、真偽の程は不明である。
「ああ、そういうわけね。
それにしても、よくそんなので、こっちの味方に属いてくれたものね」
どうやら由希は、これである程度、何があったか理解してくれたようだ。
後は、優美あたりが、なんとかってところか。
「えぇ? どういうこと、由希ちゃん?」
うん、美咲ちゃんの反応は、まあ、お約束ってところだな。
でも、大まかなことは伝わってたと思ったんだけどなぁ…。
「つまり、坂本先生を煽て揚げて味方にしたってこと。あの先生の下の名前は、龍馬の諱に因んだものだって話だし、そこのところから衝込んで唆したってところじゃないかしら」
要するに、そういうわけである。
「まあな。
でも、元々、気にはしてたみたいだぞ。
そうじゃなきゃ、相手にもしてもらえなかっただろうからな。
何よりも、あいつらは、最後のところで過った。
それが一番の理由だな。
学校側としても、看過するわけにはいかないだろうから、恐らく奴らもこれで終わりだ」
もしも、庇い立てするようなら、学校側にも責任を科らせてやるだけだ。
とはいえ、そんな馬鹿な行為はしないだろうけどな。
「そう、これで肚の内も納まるわ。
どうしても、ヤラれっ放しってのは、気にいらなかったのよね。これで漸く晴々するわ」
まあ、そうかもしれないけれど、オレはそれだけで終わらせるつもりは到底ない。
「なんだ? 随分と、らしくもないことを言うじゃないか。
本当にそれだけで良いのか?」
「え? どういうこと?」
本当に全く、由希らしくない。
このまま、痛み分けで良いってのかよ。
「決まってんだろ。
そもそも何のために、こんなこと始めたんだよ。
そうだろ、山内」
「え? え?」
オレに声を掛けられた山内だが、なんだよ、その混乱振りは。
他の奴らにしても、オレが何を言いたいのか、理解出来ずにいるようで、ただ狼狽えるばかりだし。
「全く、呆れた奴だな。
つまり、ここからはこっちの反撃だってことだ。
ほら、いつまでも呆けてないで、演説の準備だ」
「えぇ⁈ でも私、立候補を取り消されてるんですよ」
「関係ないだろ。そんなの無効だ。
てか、それを取り戻すための演説だ。
支持さえ集まりゃ、学校側だって無視するわけにはいかないだろ」
まさか、無効票だらけの中での当選なんて、そんな馬鹿なことにはならないはずだ。
恐らく、再選挙ってところだろう。
だが、狙うのは、そうなる前の立候補取り消しの取り消しだ。
……まあ、その後のことについては、こいつら次第なんだけどな。
「さて、それじゃオレ達もやるとするか」
オレは美咲ちゃん達を呼び寄せた。
さあ、準備していたあれの出番だ。
晴れの日もあれば、雨の日もある
光があれば、闇もある
儘ならぬことが多くあるけど
それでも君が教えてくれた
Resistance
ひとりひとりでは、小さな力に過ぎなくても
Resistance
そう、力あわせれば
どんなものにでも、立ち向かえるはずさ
さあ、立ち上がれ
校内にオレ達の歌が拡がる。
リトルキッスの新曲(暫定)『Resistance』
オレが今回の選挙のために作った曲。
これがオレ達の切り札だ。
周囲から人が集まって来る。
計算どおりだ。
そして逾々、山内の出番だ。
とりあえずのお膳立ては調えた。
これでもう、オレ達に出来ることは無い。
後はこいつら次第だ。
▼
さて、その後がどうなったかと言うと…。
まず、山内だが、学校側も生徒達の声を無視出来なかったせいか、その立候補取り消しは取り消しになった。
そしてそのまま当選し、生徒会長に就任した。
まあ、学校側に圧力を掛けられるくらいの人数だ、当選するのも当然だろう。
次に吹奏楽。彼らについてだが、その扱いは穏便に済まされることとなった。
顧問教師の笛吹に対しては、厳重注意に終わったみたいだし、部員達についてもお咎め無し。
暴動に加担した生徒達との関係を、証明出来る証拠が出てこなかったからということらしい。
そして、暴動とは言ったけど、実際には暴力行為は認められず、怪我人も在なかったため、彼らについても注意だけ。
要するに、学校側は今回の件を無かったことに…とはいかなくとも、表沙汰にならないようにしたかったようだ。
そして、今回の一件の重要点、クラブ予算についてだが、各クラブを交えた話し合いにて、それぞれ妥協のいくものとなったらしい。
まあ、演劇部を始めとしたクラブに若干の増額があったなんて話も聞くけど…。
最後にオレ達について。
まず、不名誉な汚名を被った小藪達、親衛隊だが、その名誉は回復された。というよりも、一躍その名声を挙げたらしい。
次にオレ達、リトルキッスだが、やはり織部さんから雷を喰らった。
ただ、新曲『Resistance』については、怪我の功名扱いで、暫定から正式なものと認められることに。
その代わり、その分の緊急収録が必要となったわけだが…。まあ、それも仕方がない。学校内限定とはいえ、人前で発表してしまったわけだしな。
そして、美咲ちゃんはというと……。
「元気出しなよ、美咲ちゃん。
がんばれば、きっと大丈夫だから…」
「ああ、そのとおりだ、美咲ちゃん。
今までだって、そうやって結果をだしできたじゃないか」
「うん、そうだね。成績だって、ちゃんと上がってきているんだしね」
美咲ちゃんに何があったかと言うと………。
やはり、学校教師相手に一戦やらかしたのが悪かったのか、学校推薦の話がヤバいことになっているらしい。
「ごめんなさい、美咲ちゃん。
お詫びといってはなんだけど、受験勉強は私も付き合うから」
優美が懸命に謝っているけど、美咲ちゃんの落胆は収まらないようだ。
…うん、気の毒ではあるけど、それを承知の上だったはずなんだけどなぁ…。
結局、今回の優美の被害者は、美咲ちゃんだったというわけだ。
まあ、教師相手にあれだけの啖呵を切れたんだ。きっとなんとか出来るはず。
がんばれ美咲ちゃん。
オレは信じているぞ。
※サブタイトルに含まれる『起士』は作者による造語です。……そのつもりでした。でも台湾だとチーズを意味する言葉らしいです。なんでも音を当てたもので『起士(qǐ shì)』または『起司(qǐ sī)』ともいうらしいです。う〜ん、『起士』か…、チーズのくせになんか名前がかっこいい。あと『爆乳起司』なんていう、チーズと肉の炒め物が存在するらしいです。(笑) [Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




