表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/420

合従連衡って、なんですか? -チームワークが大事です-

 雰囲気で押し切られ、優美達の頼みを()き入れる羽目になったのだが、だからといって「はい、そうですか」と、安易な行動を起こすわけにはいかない。


 吹奏楽部からの立候補者が受ける推薦が、例え顧問教師によるものだとしても、そこにはなんら違反行為は無いのだから。単に良識に反するだけだ。


 そして、この手の行為を正当化する言葉は、古来より多く存在する。


『恋と戦争においてはあらゆる戦術が許される』―― J.フレッチャー & F.ボーモント『恋人の遍歴』より。


 他にも『コロンブスの卵』なんて故事を、敢えて誤った形で使う奴も()る。

 本来の意味は『常識に縛られない奴こそが成功を掴める』って意味だろうけど、前者は『常識』を『良識』に置き換えたもので、誤りによる過ちだ。コロンブスに謝ってほしいものである。


 そういったわけで、禁止されているわけではないのだ。


 だからそれこそ、真彦じゃないけど「だったら自分達も顧問教師から、推薦をもらえばいいじゃん」って話になるだけなのだ。


「でも、美咲ちゃんが言ったように、マニュフェストに公正を掲げようってんなら、美咲ちゃん達が、行き成り表立って行動をするのも不味いんじゃないか?」


 ルール的には問題は無いのだが、こっちの立場的には都合が悪い。

 正当な理由も無しに、特定の人物に対する肩入れをするわけにはいかないのだ。


「なによ、言った(そば)から前言を翻す気?」


 うわぁ…、優美の奴、またしても周りを煽ってやがる。本当、性格悪いよな…。


「なにも、そんなこと言ってないだろ。

 こっちにだって立場や都合があるってことだよ。

 言っただろ。行き成りじゃ不味いって」


「そうなのよねぇ。

 でも、純。引き受けたからには、何か考えが有るんでしょ?」


 由希が仲立ちに入ってくれたようだけど、他人(ひと)任せじゃなくって、自分でも、ちょっとは考えてくれよ、全く。


「悪いけど、()ぇよ、そんなもん。

 とりあえず、山内(やまのうち)達の方で、正攻法でがんばってもらうしかないだろうな」


「まあ、他には思いつかないし、そういうことになるのかな…」


 天堂もオレのフォローに回ってくれるが、優美達は不満そうだ。


「でも、それだとどうすりゃ良いんだ?

 それが出来るくらいなら、こんなことにはなってないだろ?」


 おい、真彦。少しは空気()めよ。


「やっぱり、なんとか顧問を説得してみるしかないのかしらね…」

「でも、それも巧くいかなかったんだろ」


 だから、空気察めよ、真彦。由希のフォローが台無しじゃないか。


「だったら、他の部と協力してみるってのはどうだ?

 合従(がっしょう)連衡(れんこう)くらい知ってるだろ」


「がっしょうれんこう?

 う〜ん、確かにそんな(ふう)に頼まれたら断わり(づら)いかも…」


「いや、美咲ちゃん。多分、()を合わせて拝むわけじゃないから」


 それは『合掌』。多分、脳内で合掌連合って変換されてんだろうなぁ…。

 真彦も、そう思っただろうからのツッコミだろうし。


「え? そうなの?」


 やっぱり、そうだったか……。

 こんなんで入試、大丈夫なのか?


「ははっ、でも一応、話は通じてるみたいだし、このまま話を続けても良いんじゃないかな」


 まあ、天堂の言うとおりだし、この場は良いとするか。


「全く。純が余計なこと言うから、話が中断したじゃない。

 まあ、解り易く言うと、弱者達でも力を合わせれば、強者にも対抗出来るけど、それをしないでいると弱者は強者に取り込まれ、気づいた時には孤立することになるってこと」


 要するに、この故事成語は、『離合集散』という意味で、これは中国の『戦国策』、『史記・孟子(孟珂)伝』における、蘇秦と張儀の逸話によるものである。

 当時の中国は、強国の秦と他の弱小六国からなっていた。

 そんな中、強国・秦に対抗するため、蘇秦は燕の王に残る六国が南北に、『(たて)』に『合』わさる『合従論』を説いた。

 一方、張儀は秦の王に東西に、『(よこ)』の『連』なる『連衡論』を以てそれらに対抗するように説いたのだった。

 そのため、彼らは縦横家と呼ばれている。


「その話だと、余計に不味いんじゃない?

 有力クラブ同士で手を組まれたら、弱小クラブはもう完全にお手上げじゃない」


 なんか、由希の説明は、山内達の不安を余計に掻き立ててしまったようだ。


「確かに、そうなりゃ、殆ど詰みだな」


 またかよ、真彦。


「ちょっと、先程(さっき)から、どういうつもりなのよ、遠藤くんっ」


 あ〜あ、とうとう優美を怒らせちまった。


「だってよ、殆ど無理難題だろ。

 しかも、最初っから他人頼り。

 こっちの迷惑なんかお構いなしだ。

 そんな奴に、なんで気なんか使う必要があるんだよ。

 受験生にとって、内申がどれだけ大事か解ってないから、こんな勝手なこと言えんるだ。

 悪いけど、俺は外れさせてもらうぜ。

 それと、美咲ちゃんも、もう一度よく考え直した方がいいぜ。

 学校が相手となると、最悪、推薦取り消しなんてことも有るかもしんねえからな」


 言いたいだけのことを言ったのか、真彦はその場を去っていってしまったのだった。


 正直に言うと、オレも真彦の意見に賛成だ。

 なにより、こいつらの言い分は、余りにも虫がよすぎだ。


 厳しい話かもしれないけれど、実績を出した者が優遇されたとしても、それは当然の評価であって、それを批難するのは不当だと思う。

 だって、それは自身の努力の結果掴んたものなんだから、他人がとやかく言うものじゃない。


 結果が出ないことが悪いとまでは言わないけれど、それでも、自業自得だろう。

 それを理由に努力で結果を出し奴を否定することは、あってはならないことだ。

 こういうのを、他人の足を引っ張るって言うんじゃないだろうか。


 そんなわけだから、彼らに挑むというのなら、正面から堂々と、真当な手段であるべきではないだろうか?


 他人がなんと思うかは知らないけど、これがオレの正直な気持ちだ。


 ああ、だからこいつらの言うことに、こんなにも不快感を感じたわけか。


 ……とはいえ、約束は約束だし、仕方がないか…。

 自覚が出てきたせいか、なんだか憂鬱になってきた。

 はぁ……。あぁ、気が重い…。

※作中で取り上げた、J.フレッチャー & F.ボーモント『恋人の遍歴』ですが…、すみません。実は、詳しいことは、よく解りませんでした。ただ、その作中台詞として有名なので、取り上げさせてもらいました。要するにはったりです。鵜呑みにしないようお願いします。


※作中の『コロンブスの卵』のコロンブスですが、あの人、本当に褒め称えて良いひとだったのでしょうか? 時代背景から考えると、どうしても穿った見方をしてしまいます。『コロンブスの卵』にしても、作者から見ると『未開の地の蛮族に、良識だなんてこと言う必要なんてねえだろ。圧倒的な力で蹂躪しちまや良いんだよ、バ〜カ』などと嘯いている海賊にしか思えないんですよね。だって、あの時代の欧州人って、「海外貿易の特産品って言えば、やっぱり奴隷だろ」なんて、堂々と言ってたわけだし。日本の鎖国政策も当然ってなりますよね。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ