表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/420

厄介事は、やっぱり優美とやってくる

 9月となり、二学期に入った。

 9月と言えば、三年生から二年生へと、いろいろなものが引き継がれる時期だ。

 とはいっても、生徒会に入ってるわけでなく、部活でも、殆ど名前だけの幽霊部員であるオレ達には、全く関係のない話なんだけどな。


 否、去年は鬼塚さん達のせいで一悶着有ったんだっけ。

 けど、流石に今年はそんな事はないだろう。

 なんたって、その後を継いだのが、アイドルのリトルキッスだったのだから。

 それにより、うちの学校の不良生徒(ヤンキー)達も、今じゃすっかり更生し、アイドル親衛隊気取りだ。

 学校側も、厄介事がひとつ、労することなく解決したと喜んでいたくらいだし。

 それだけに、オレ達が卒業することで、また以前のように戻るんじゃないかと、心配する声もあるらしい。

 けど、知るか、そんなこと。そこまで面倒みきれるものか。

 それは本来、学校側の仕事だ。


 と、まあ、こんな状態である。

 そう、オレ達には全く関係のない話なのである。

 全く関係のない話……のはずだったんだけど……。



「ちょっと、優美、どうしたのよ?」


 クラスメイトの優美が、二年生らしき生徒ふたりを連れてオレ達の前に現れた。


 この時点でもう、悪い予感しかしない。

 今までこの女が関わると、(ろく)な目に()っていないのだ。

 特に、一昨年の文化祭の件は、未だにオレの黒歴史として記憶の中に残っている。

 それに修学旅行では、大勢の前で女装を晒す羽目になったし。

 如何に早乙女純で女装に慣れているといっても、女性として女の格好をするのと、男としての女装じゃ、当然抵抗感が違ってくる。

 責めてもの救いと言えば、鬼塚さんの時みたいに、勘違いした男どもが言い寄って来ないってことくらいだ。

 流石にそんな変態は()やしないだろうしな。

 ……というか、在ないでほしい。


「実は、この度の生徒会役員選挙に協力してほしいの」


 当然のことだが、三年の優美が会長に立候補するわけではない。立候補するのは、優美の連れてきた二人のうちどちらかということだろう。


「立候補するのはこの子なんだけど」


 案の定で、その片方の女子生徒がそうだった。


「演劇部の山内(やまのうち)千代です。よろしくお願いします」


 意外だ。

 もう片方は男子だったので、こっちの方がそうだと思ってたんだけどなぁ。


 因みに、男子の方の名は、金田正美といって、演劇部の新部長なのだとか。ついでだが、優美の弟であるらしい。


 いや、これって、役割が逆じゃないの?

 男尊女卑とかそういうつもりじゃないんだけど、やっぱりこういうところは男子であるべきじゃ……。

 やっぱり、これって男尊女卑になるのか?

 できれば男子としての甲斐性をみせてほしいって、そう思っただけなんだけど……。


「え? そっちの子じゃないの?」


 オレの疑問は由希によって代弁された。

 考えることは同じだったようだ。


「あ、そこはやっぱり、美少女で男の子に(あつ)まってもらうのが、票を集めるのには一番でしょ」


 おいおい、それを自分で言うか?

 しかも、そこは普通『鍾まる』じゃなくて『集まる』だろ。言葉通りに色気で惑わす気満々か?

 途方(とんで)もない奴だな。やはり優美の後輩(つれ)ってことか…。


「まあ、確かにそこはそうだろうな」


 真彦は納得したようだけど、それと生徒会業務を(こな)せるかどうかは別の話だろ。生徒会はアイドルファンクラブじゃないんだ。


「それはそうだけど、そうも言ってられない事情があるのよ」


 オレの疑問に応えたのは優美だった。

 そして、優美はその事情とやらについて話し始めた。


 その内容はというと、次のようになる。


 まずこの度の話は、吹奏楽部の予算問題に始まる。

 近年、実績を伸ばしている吹奏楽部が、さらなるステップアップを図るため、楽器の新調を欲したのが切っ掛けだ。

 当然それには金が掛かる。増して高価な物ならなおさらだ。


 と、ここまでなら、とかく問題はなかったのだが、ここで生徒会役員選挙が絡んでくる。

 要するに、ここに自分達の息の掛かった 人物を送り込み、自分達に有利な予算配分を勝ち獲ろうというわけだ。


 こういったことはよくある話で、多分、どこの部でもやっていることだと思う。

 実際、今こいつらがしようとしているのがいい例だ。

 なので、オレ達が特に肩入れする理由も無い。


「悪いけど、こっちはそれどころじゃないんだ。

 美咲ちゃんだって、今は大事な時期なんだ。

 そっちの事情なんかに構ってなんかいられないんだよ。

 自分達のことぐらい自分達でやってくれ」


 全く、迷惑な話だ。

 そもそも、オレ達はこれから卒業していく身だし、その後のことなど関係の無い話だ。

 何よりそんな義理も無い。

 そんなことに貴重な時間を使えるものか。


「うん、悪いけど、今回は協力出来ないね」


 天堂もオレの意見に賛成のようだ。

 しかし、こいつが女性からの頼みを、こうもはっきりと断わるなんて珍しい。


「そもそも、そんな、君達だけを特別扱いしたら、他の子達に対して不公平だ。

 そういうわけなんで諦めてくれないかな」


 なるほど、筋が通っている。

 選挙なんてものは公平に行なわれるべきものだ。


「うん、悪いけど、それだけじゃ駄目ね。

 何より、アタシ達を納得させるだけのものを提示出来ていないでしょ。

 まずは、誰もが納得出来るマニュフェストを用意するべきね。

 それが出来てから出直してきて」


 おおっ⁈ まさかの由希のバッサリだ。

 こいつなら、もしかしてと思っていたけど、優美との友情よりも、大義の方を優先したか。

 う〜ん、やっぱりこいつは漢だ。


 いや、誉めてるんだから、そんなに睨まないでほしい。ってか、由希(こいつ)ってば、本当に読心術が有るんじゃないか?


 オレに加えて天堂と、特に由希が断わったことにより、気不味そうだった美咲ちゃんが、今度は混乱気味になっている。この中で一番の当事者なんだから、もう少し(しっか)りしてほしいところだ。


「不公平なんかじゃありませんっ!」


 そんな反論をしてきたのは、向こう側の当事者である山内千代だった。

 それにしても、随分と興奮しているようだ。

 つまり、それだけのことあるってことか。


 そうか、それなら、何が不公平じゃないのか聴かせてもらおうじゃないか。

※作中の『(あつ)まる』ですが、心情などが集まるという意味で、熟語には次のようなものがあります。

[鍾情]惚れ込むこと。溺愛すること。

[鍾愛](子供などを)非常にかわいがること。

 どちらも愛情を『(あつ)める』という意味で『鍾』はそういう場面で使われるようです。まあ、普通は『集まる』『集める』でいいんですけどね。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ